第2話

話はそれたが、つまりは今日、ヘインツは二人が“使えるようになるかも分からない”探索魔法を使えと言っているのだ。

この辺りがヘインツが平民であるのかもしれない。

貴族であれば確実に使えるものから使わせていくし、一般的に使えない人間が多い魔法は教える事がない。わけにはいかないからだ。

しかしヘインツのような平民は「とりあえず試す」人間が多い。ヘインツもそうだったのだろう。

なにせ試して魔法が使えたら、もし希少な魔法が使えるとなれば、将来の選択の幅が広がる。彼らにとって試す事は大切な事。

“そうした出”だから彼は使えるかどうか判断出来なくても使わせてみる、という方法をとっている。もちろん、マチアスの両親の許可をとっているが貴族からすれば「殿下になんてことを!」というところか。

当然迷路に放り込まれた──文字通り、二人は迷路の中に放り込まれている──二人は「使えないかもしれない魔法を使えって……どういうこと?」と目を白黒させながらのスタートとなった。


ここで二人の行動に性格の差がでた。


マチアスは、ヘインツが授業初日二人に渡した初歩の魔術書を何度も読んでいる。

そこにあった簡単な探索魔法を思い出し、こうでもないああでもないと悩みながら放り込まれた場所から移動せず、まずは魔法が使えるかどうかを見極めようという方向でいく。

正直に言って、一日粘っても出来ない可能性の方が大きくある。何年もやってやっと使えるようになるかもしれないのだ。それでもマチアスは「探索魔法で」と言われた手前、今日の今日で習得出来るかどうかも分からないのに、頑張って取り組んでいた。


一方のカナメも同じ魔術書を読んでいたが「使えるかどうか今日の今日でわかるかわからないのに……ひどい。になったらどうするんだろう。お夕飯に間に合わなかったらどうするんだろう?」なんて呟きながら、とりあえず歩き出している。

歩き時々立ち止まり、思い出しながらああでもないこうでもなかったと言ってまた歩く。

二人とも迷路の真逆の位置に放り込まれているので、このままいけば魔法に関係なく動かないマチアスより動いているカナメの方が早くマチアスを見つけられるだろう。


二人を放り込んだヘインツはそんな二人を上空からただ観察中。

騎士も配置されているので問題が起きるとは思っていないが、習いたてでは何があるか予測出来ないのが魔術である。

念には念を、という事だ。

それにヘインツも平民からここまできた自分の魔術の腕に自信がある。配置されている騎士よりも自分の方が“魔術の腕が”上であるのだから、万が一の対応は自分がした方が確実だとの考えもあった。


迷路に入って二時間。

当然二人は探索魔法が使えない状態が続いている。

マチアスはいまだスタート地点から動いていない。

カナメは右に左に動きながらとりあえず、どこにいるか分かっていないマチアスを探して大移動。

三時間が経ってもマチアスは変わりなかったが、カナメに変化が生まれた。

突然すいすいと歩き出したのだ。迷いなくひたすら迷路を歩き続けている。

この変化にヘインツは驚いた。この3時間でカナメが探索魔法を習得したのであれば、これはすごい。

他の魔術に限らず探索魔法も範囲は人によって違うが、三時間で五歳児が使えるようになるなんて

(前代未聞じゃないか?カナメ様は魔術の才能があるのかもしれない……)

上空からヘインツはカナメの動きに注視した。

時々立ち止まりはするものの、その歩みは迷いなく、そして性格にマチアスに近づいている。

食いいるように見ているヘインツの下で、カナメはついにマチアスの元に辿り着いたのだ。


「カナメ!!?どうしてここに?」

「案内してもらった」

「誰にだ!?」

驚くマチアスはカナメの後ろに控えていた護衛騎士に視線をやるが、彼らは首を横に降る。どうやら彼らではない、と頷いたマチアスは首を捻った。

ヘインツは二人から少し距離を離したところに着地すると二人の元に急ぎ、カナメを見て目を見開いてカナメの頭を凝視する。

その異様なヘインツの様子にその場の全員──もちろん護衛騎士は周囲への警戒は怠らずに──が彼を見た。

ヘインツはふらふらとカナメに近づくと

「カ、カナメ様?契約されたんですか?」

と聞くからマチアスもカナメも不思議顔でヘインツを見る。どういう事なのかと、聞きたい顔だ。

「いえ、契約を……」

「けいやく?なんの?そういうは、子供はしちゃだめなんだよ。だからぼくはそういうのとかできないの。おにいさまもまだ大人じゃないから、できないんだよ」

当時はまだ“ぼく”だったカナメのドヤ顔での解答に護衛騎士の一人が思わず微笑ましいと笑いそうになって堪え、片やマチアスも「わたしもまだできない」と真顔で同意している。

ヘインツはカナメの頭を凝視しながら

「いえ、精霊と、契約を、されたのですかと」

「精霊?精霊って自然の中に生きてる精霊?え、ぼくに道を教えてくれたの、精霊だったんだ。幽霊じゃないってほんとう?」

でも契約なんてしてないよ、とこてんと首を傾げ可愛い顔で答えるカナメにヘインツは飛んで──これも文字通り、飛行をした。これは本当に高度な魔術で国内で使えるものは彼を含め数人いるかどうか、である──国王へ報告に行く。

5歳で、しかも本人は自覚なく精霊を契約をしたのだ。万が一カナメの体に負担がかかったら大ごとである。

当然この日は授業どころではなく国王と魔術師団で一番の精霊魔法使い手である第一師団副団長、そしてマチアスと当事者カナメとその父ギャロワ侯爵家当主シルヴェストル・ルメルシエでの話し合いの席がもたれた。


即日の召集である。

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