第15話 魅了の魔道具の弱点と愛の逃避行の終わり
マスク型魔道具、シュヴァルツ・ラベンダーを装着したリト、本来言葉を喋れなくなり、魔法詠唱やスキルの発動をさせなくする為の物をリトは安全に呼吸をする為の道具として使っている。これでファランとデリンジャーの魔法で肺をやられないように使う。僕ら危険魔道具取扱者には考えもつかない使い方をする。
炎を避けるわけでもなく、目眩しがわりに炎の中を突っ込んでいくリト、僕は兵法はあまり明るくないけど、こんな自分を犠牲にした戦い方は知らない。
慌てふためている冒険者達の中からまさかリトが飛び込んでくるとは思わなかったんだろう。
「デリジャー離れて!」
リトはデリンジャーを狙った……違う。狙ったと見せかけてリトの狙いは、口元が笑った。
狙いはファランだ。リトはデリンジャーを見ていない。魔法に対しても腕輪型の魔道具で無効化できるからアリエル程じゃない魔女のデリンジャーは敵じゃないんだろう。僕の言いつけ通り、ファランを……
「狙いは俺か……」
ギン! と金属の音が鳴る。リトの強襲の一撃をファランは腰の剣で受け止めた。闇の魔神剣を使っているリトはソードマンクラスの能力を持っているのに……あれを完全にいなせたのは剣聖の弟子だったアルコスくらいだ。そんなファランは魔法だけでなく、剣の戦闘術まで高いのか……
「…………」
「君は、あの時の……何故君が……」
「ファラン、魔道具協会の魔道具人間。聞いたことがある」
デリンジャーが喋った。デリンジャーはヴィーナス・トラップで魅了されているんじゃない……だとすれば……リトが奪われる。ファランは攻めあぐねているリトに向けてヴィーナス・トラップを向ける。僕はこのパターン、予測していなかった。
でも……サリエラ先輩は……予測していたんだ。
「リトぉおお!」
「少女よ。僕の愛の奴隷となれ!」
リトは目を瞑り、懐からドブネズミを取り出すとそれをファランに向けた。これはファランも予測できなかったんだろう。
「やられた……」
ぱちりとリトは緋色の瞳をファランに向けると、「アルケー、ネズミ」と言って僕に向かってドブネズミを放り投げる。僕はそれを鍵付きの箱に入れる。それを見せてリトに親指をあげた。
「んっ!」
リトも僕を見ずに親指を立てる。サリエラ先輩は中級魔道具ヴィーナス・トラップの長所であり弱点を教えてくれた。対象一に対して、あらゆる生物、魔物であればレッサーデモンクラスまで魅了する事ができたと聞いている。そう、人間以外もなんでも魅了できる。よって、魅了される前に別の対象にすり替えてしまえば、ヴィーナス・トラップは完全にただの指輪になる。
サリエラ先輩は魅了避けに言う事の聞く小動物をどうにか用意しようとした。しかしそれは無用の心配だったんだ。
リトが偶然ジュデッカの食糧庫を荒らすドブネズミを捕まえた。気性の激しいドブネズミをリトが見つめると静かにドブネズミは言う事を聞いた。リトはドブネズミを見ながらずっと涎を垂らしていたから捕食者を前に本能が従順になる事で生存戦略を選んだのだろう。
「このドブネズミ、ファランに魅了されているのに……大人しい」
理性を奪う魔道具を本能を押さえつけるリトが上回ったとでも言うんだろうか……そして、魔法という手段をほとんど奪われたファランとデリンジャー、魔道具での魅了という切り札もない。そんな二人をリトはじっと見つめている。
「唯一、少女をなんとかできそうなのは俺の剣技だけだが……次はデリンジャーを狙ってるのか……」
「私は構わない。盾にだってなってみせる! だから……」
二人の会話に合わせてリトは袖から様々な刃物を取り出した。冒険者でもアサシンでもない。ただ相手を殺す事だけに特化した戦い方、サリエラ先輩はリトのあらゆる物を利用する殺し方をこう言った。
ジェノサイドアーツと……
「ダメだデリンジャー、この子は100人の冒険者を凌駕する……君を守って俺が犠牲になっても、君が俺の盾になって俺を守ってもどっちも殺される」
「だったらどうすれば……」
二人は示し合わせたように頷くと「「ファイアーボール!」」手を繋ぎ、魔法力を共有してこの状況で通常のファイアーボールをゼロ距離でリトに放った。
「あぁああああ!」
僕は……全くリトを心配していない自分がいた。ファランの悲鳴、リトはゼロ距離ファイアーボールをノワール・ガーベラで無効化し、同時に闇の魔神剣をファランの肩に投げ刺した。
「ファラン! よくも……よくも魔道具人間っ! 殺してやる……」
「デリンジャーにはリトは殺せない。なぜなら弱いから」
魔法はリトには通じない。そしてリトは一番の脅威であったファランの剣技を奪った。これはボードゲームでいえばチェックメイトだ。僕はもうリトの行動原理を理解しているつもりだ。まず腕力でファランに劣るデリンジャーを殺し、その後にファランを確実に殺して終わりだ。
だけど、僕はリトに不必要な殺しはさせたくない。
「テロリストファラン、デリンジャー! ここまでだ! 僕らは君達の持つヴィーナス・トラップを回収にきた。それを大人しく渡してくれれば命までば奪いません。投降してください」
僕の言葉を聞いてデリンジャーが僕を睨みつける。ヴィーナス・トラップは一度取り付けると、死ぬまで外す事ができない魔道具なんだ。だから、それを取り外そうとすると、方法は一つしかない。
「カンタービレの少年、君は死ぬか? それとも後で死ぬかという中々酷い事を言う。命乞いをする側として提案をするのは甚だしい話だが……今、魔道具を渡せば見逃してはくれないだろうか? 俺とデリンジャーにはどうしてもやらねばならない事がある。砂漠の国、ランバラが国民の反乱で王族貴族が粛清された話は聞いた事があるだろう? 俺は、その国の時期王だった。デリンジャーは王宮お抱えの魔女……平和な国を地獄に変えたのは突如現れた冒険者……ユナ。ランバラを苦しめていた砂の魔物を滅ぼした英雄だった……が、奴は砂の魔物を長きに渡り滅ぼせなかった王侯貴族達の無力さを国民達に語り憎悪を助長させ、革命を起こした。気がつけばユナは国から姿を消し、今もどこかで暗黒を振り撒いている。奴だけは俺たちが殺さねばならない。だから、それまで命を貸して欲しい」
ユナ……転生教団のバックにたいのは冒険者だったのか……リトはいつでも殺せるという状況で「アルケー、どうするの? 殺すの? 生かすの?」僕は……サリエラ先輩なら……いや……
「ファラン、そしてデリンジャー。君達は殺しすぎた」
デリンジャーの目の色が変わる。そしてファランの方は覚悟を決めたらしい。僕はこれから多くの命をリトと共に奪う事になるだろう。妹を救う為、僕は魔道を歩くと決めたんだ。
「だが僕には関係のはない話だ」
「「!!!!」」
「君たちの命を保証する。逃げるルートもジュデッカが用意しよう。その代わり、僕らにもそのユナの情報を流してくれないか? 多分、これからも僕たち魔道具協会にユナは関わってくる。ユナについて僕らは何も知らない。誰よりも何よりも早く僕に報告すると約束できる?」
僕の言葉を聞いて驚きの表情を浮かべるファランとデリンジャー。ファランは肩に突き刺さった闇の魔神剣を抜こうとして……やめた。代わりにリトに……
「指を切ってもらえるか?」
僕をチラリとみるリト、僕は頷いて、「切ってあげて」と答えると「分かった」と鋏を取り出してファランの指を躊躇なく切った。「ううっ!」「ファラン!」大丈夫だという表情を向けるファラン、リトを睨みつけるデリンジャー。そしてリトは僕に向かってファランの指を投げる。僕はファランの指から魔道具。ヴィーナス・トラップを外す。
「リト、ファランを連れてきて、止血をする」
「分かった。来て」
「死ぬ程痛い、できれば早くしてほしい」
僕の元にファランを連れてきたリト、今にもデリンジャーはリトと僕に噛みつきそうだけど、僕はヴィーナス・トラップを外したファランの指を傷口に合わせて、アリエルの声が残された魔道具を使った。
カチっ!
『オール・ヒーリング』
うまく出来るか分からなかったけど、ファランの指は綺麗にくっついた。それにファランは驚きながら何度か指を動かした。
「こりゃ凄いな……ハハ……指を捨てる覚悟だったんだがな。死ぬ気で約束は守らないとな……」
「サリエラ先輩にこれから相談します。一緒に来てください。ちなみにリトには魔法は通じません。ここから離れてオリハルコンの影響を受けないからって変な気は起こさないでくださいね」
ファランはともかく、魔女のデリンジャーは何をしでかすか分からない。せっかくユナの情報源が手に入るハズなのに、死なせたくは僕もなかった。変装をさせて、ジュデッカに向かう。ファランとデリンジャーは既にこの国を出たという情報を流して貰えばいいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます