第13話 赤スパって高いんですか?

「ふぅ……」


勇者へ行ったインタビューを安宿でまとめたソラスは重い息を吐いた。長いまつ毛が切なげに震える。


──生きた心地がしなかった。


ソラスの指はまだ震えていた。特にドラゴンの話をしているときの勇者の目はとにかく恐ろしかった。子どもが遊ぶガラス玉のような目。思い出すとぶるりと今度は背筋に震えが走った。


「地糸好夫」


最も魔王軍の血を流したとされる人間の英雄。『魔王の美姫』ソラスはその情報を求めていた。光の勇者レイに直接会いに行ったのは余りにも危険な橋だったが、人となりは何となく知ることが出来た。あと勇者もやっぱりやばいことも。


「勇者のズッ友……」


実力主義を是とする魔族であるソラスには勇者の言ったズッ友という言葉が今いちピンと来なかった。魔王である父に敬意はあったがそれが愛情と呼ぶのかはわからない。


ソラスは持っていたペンを投げ捨てて、安物のベッドに飛び込む。魔王軍が健在だったころに使っていた寝具とは似ても似つかない。


神話の怪物のように扱われがちな魔族だが、実際は人間と同じような社会を形成している。ソラスのような人型の魔族も多い。もちろん中には社会に染まらないもいたが、生活自体は魔物のような獣の生き方とはまるで違っている。


「……」


本来魔族は女神によって生まれながらに人間へ憎しみをもつようになっている。だが不思議とソラスはそういった感情は薄かった。どちらかといえば、ソラスは好夫が恐かった。


あのドラゴン狂いの勇者はまだいい、まだわかる。女神の尖兵が生まれることはこれまでの歴史でもあったことだし、その強さの理屈もわかる。勇者だけなら魔族は拮抗することができた。


しかし、そこへイレギュラーが現れた。勇者でないにも関わらず恐ろしいまでの女神の加護を持つ男。その強さに理由がないからこそソラスはより恐れた。好夫への対抗策を見つけないことには魔王軍の復興もいつまでたってもはじまらない。


「あ、やば。配信見なきゃ」


慌ててベッドから起きてテレビをつける。テレビは部屋の内装に非常に浮いていたがこれも過去に好夫が『技術格差で俺TUEEEするチート』を使って生みだしたものだ。当の本人はすでに忘れているだろうが、こうした好夫の無節操なチートの産物はこの世に溢れかえっている。


「ミラさんまじ推せる」


配信者に向けて赤スパを投げるソラス。


ブルーライトカット眼鏡をかけて艶やかな髪を無造作にまとめた姿は『魔王の美姫』と呼ばれていた頃とは似ても似つかなかった。

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