第11話 シリアスは死んだ! もういない!!
好夫は目の前でゾラとか名乗ってた鶏人間が光の粒子に変わるのを見ていた。
──汚ねぇ花火だ。
それを見つめながら某王子の台詞を思い浮かべるのは好夫のルーティーンになっている。
魔力の過多に存在を左右される魔族はその性質故か死と共に大気中のマナへと還る。はじめてそれをみた好夫は「なんてエコなんだ」と感動したものだ。人間に比べればこいつらのほうがよっぽど地球に優しいかもしれない。まぁ、そんなことどうでもいいけど。
「チートがあれば……」
結局大事なことはそれに落ち着く。好夫は「なんやかんやで村人たちは幸せに暮らしましたチート」のことを思い出していた。魔王討伐の旅の中でよく使ったものだ。
「レイのやつも脳筋だったしな」
頭の中がお花畑でいっぱいの勇者を思い出す。そいつはドラゴンを殴り殺すために生まれてきたと公言していた。好夫はそいつの頭の中を最後まで理解することができなかった。そういえば、あいつ俺がパーティーから追放されるの全然止めなかったな。
「あの……」
好夫が友人の定義について考えはじめたとき、1人の少年が好夫に話しかけた。上着を着ておらず、胸には「15」という傷跡がついている。首にある首輪のような黒い痣が痛々しい。
「ありが……」
「そういうのいいから」
最低なインターセプトだった。
「それよりもさ、あの一人鶏人間コンテストの寝ぐらってどこにある?」
好夫はシリアスさんにもう異世界無双俺TUEEEを邪魔されたくなかった。好夫の最高の異世界ライフでは目の前のシリアスってる少年は一番邪魔だったのだ。
ぽかんと口を開けた少年は気を取り直して、曲がりなりにも命の恩人の好夫の頼みを快く引き受けた。どうやら村の中心部の元々村長が住んでいた屋敷を拠点にしていたらしい。
魔族は財宝を好む。なぜなら古くから存在する宝石や金は魔力を集める特性があるからだ。魔力フェチと言い換えてもいいくらい魔力大好きな魔族は、好んでそれらを貯め込むことがある。
「当たりをひきますように……! 当たりを引きますように……!」
ただし、それには個体差がある。宝石そのものを身体に取り込んでしまう個体や、いっさい興味を持たない個体もいる。
ただでさえ、美味しい仕事を放り出してきた好夫はここで当たりを引かなければ物理的な生命の危機に陥る可能性があった。
最近では夢の中でも好夫に折檻する借金取りは、夢の回数に比例してその凶暴さを増していた。前回の夢では死ぬ一歩手前まで追い詰められた。
次の夢で自分がどうなるのか好夫は想像すらしたくなかった。
これは警告だ。俺の生存本能が「おまえのタイムリミットそろそろだぞ」と言っている。好夫にはまとまった金が必要だった。切実に。本気で。
ここらでまとまった金がいる。頼む……! 頼むぞ……!
──5分後。
村長の家は大きな炎をあげて燃えていた。
「くそチキン野郎おおおおおおおお!!!!!」
小屋には何もなかった。あったのは趣味の悪い糞鳥魔族の餌だけだった。死体が残ってたら今ここで串焼きにしてやったのに。まったくの無駄足だったと好夫が燃える小屋から目を離すとそこでは生き残った村人たちが泣いて抱き合ったりしていた。空を見上げて動かない子どもいる。そっちは精神が保たなかったのだろう。
「嫌だ嫌だ」
ほらやっぱりチートがないと全然楽しくない。異世界シリアス旅なんてどこにも需要はないのだ。好夫は生き残った集団に近寄った。
「おい、ガキんちょ。あ、いや大人もいるか」
数は少ないが成人してそうな村人も何人かいた。とりあえず顔だけでしっかりしてそうな者を選んだ好夫は、ポケットから翠色のブローチを取り出す。
「これをラズ……あーレイライン商会のやつに渡せ。あいつのことだ。どうせすぐに商会の人間がここにくる」
「26」と刻まれた村人の胸元に乱暴にブローチを投げる。
「それを見せりゃ、何とかなるだろ。あ、一応王都から来てる衛兵には見せんなよ」
ラズがさらっといっていた衝撃事実を思い出した。「じゃあな」と言い捨てて歩き出す。途中にあった無人の小屋で見つけた上着を羽織る。安物だがまぁ変態扱いされるよりかはいいだろう。
結局、好夫は一度も振り返らずに村の出て行ったが、その後ろでは生き残った者たちが頭を地面に着くほどに下げて見送っていた。
「ゴミクエストだったなぁ」
大きな街道へ向かう畦道を歩きながら、好夫は今後のことを考えていた。今回の騒動で自分の居場所が割れる可能性は十分あった。それはピンクの悪魔と白い鬼が自分を探しにやってくることを意味している。上着を着たはずの背中がぶるりと震える。畦道の砂利に足をとられながら歩いていると、遠くに広い街道が見えてきた。
「リザルトがカスすぎるよぉ」
魔族がかっぱらった物資はほどんど焼かれていたし、肝心の魔族も悪趣味を拗らせた鳥野郎だったし。あとなんかゲロかけようとしてたしな、最後。まじで汚ねぇ花火だった。とにかく、
「異世界で就職するもんじゃないな」
好夫はそもそもの発端を思い出す。レイライン商会にいた日々を本当に仕事といえるかは甚だ疑問だったが、好夫の中では立派な仕事だった。清々しいまでのニート宣言をして、そして、
「チートがあればなぁ」
街道で寄り合い馬車に乗り込むまで、好夫はずっとそんなことを考えていた。
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