第10話 テッドの話②

 悪いな中断しちまって。


 ああ、それで冒険者が骨も残さずいなくなっちまって、また同じような日が続いた。俺はただただ早くサラと同じ場所に行くことだけを考えてた。その瞬間は見てないけど、両親もそこにいることを確信してた。


 自分の順番が近づいてきていることを感じていた。同じ小屋にいた「13」のやつも抵抗してたけど最後には鎖で引きずられていった。連れていくのはいつも大きな泥人形みたいな魔物だった。


 俺はその日ドアが開いたときにやっと楽になれると思った。女神様の元でこれでまた家族みんなで暮らすことができるって。


 でもその期待は半分当たってて、半分裏切られた。


 中に放り込まれたのは新しい餌だった。


 上半身裸で腹に「31」って刻まれたその男は連れてきた魔物に向かってたくさん話かけてた。確か「命ばかりは」とか「故郷に息子が」とかそんなんだったと思う。往生際の悪いそいつが頭にきたのはよく覚えてる。


 泣き喚いて失禁までしたそいつには知能がほとんどない魔物も手を焼いてた。ゾラの言いつけで簡単に殺せなかったんだろうな。ちゃんと献立が決まってたから。ついに泥人形はそいつを小屋の隅に放り投げて、本来の仕事に取り掛かろうとした。そう今日の食事の準備だ。


 やっぱりその日は俺の番だった。


 土人形の手が鎖が引く前に俺は自分から立ち上がってた。俺は目の前で起こったことの意味を考えるのに必死だった。


 土人形の喉から刃が生えていた。一瞬、こいつの新しい武器かと思った。それはぐりぐりと穴を広げるように動いてた。刃を生やしながらも土人形は動いてたけど、それからまた何度も何度も刃が生えた。


 6回目ぐらいでやっと倒れて動かなくなったとき、土人形の後ろに立ってた31の姿が見えた。なんだっけ、そんとき何か……ち、ちいとがどうたらこうたらと言ってたな。意味はよくわかんなかったけど。


 呆然と見ている俺たちを見回した後、31は小屋の扉を何度か叩いた。外にいるやつを呼ぶように。初めの頃、そういうことをするやつもいたから狙いはすぐにわかった。しばらく経って扉が開いた瞬間、31は土人形の口に腕を突っ込んでた。無理やりねじ込んだ腕を何度も動かして、ようやく口から手を抜いたときにはじめて手の先に短剣があることに気がついた。


 そのあたりでゾラも異変に気がついたんだろうな。いつまで経っても自分の食事が届かないんだから。


 ゾラの返答は小屋を吹き飛ばすといったシンプルなものだった。31も俺たちも一緒にごろごろ土の上を転がるハメになったよ。


 ようやく起き上がったときには本当は気を失って夢を見ているのかと思った。そっからのことは今でも夢に見るよ。夢見たいな光景だったから寝てるのか起きてるのかよくわからなくなるんだ。


 ゾラが何か鳥の声をあげると、竜巻が起こったり、雷が落ちたりした。近くで雷が落ちる体験なんかはじめてだったから、あんなに大きな音がするって初めて知った。


 ゾラは空を飛び回り、そのたびに翼に変えた腕で村の家を吹き飛ばした。それで31を攻撃しようとしてた。31はずっと不機嫌な顔をしてた。


 31はゾラのように奇跡のような魔法を使ったりしなかったけど、ゾラの声はどんどん鶏が絞められたときみたいになってた。多分、31が怖かったんじゃないかな。ゾラが巻き起こす奇跡で男は傷ついてたけど足が止まらないんだよ。ずっと。


 ゾラと31の距離がどんどん近づいていった。側から見てると31はただ前に歩いていってるだけにも見えた。ゾラがまた空を飛んで逃げようとしたとき、31はずっと隠し持ってた短剣でその羽を縫いつけた。そのときはじめて31は笑ってたと思う。


 31は少しずつ、ゾラの部位を破壊していった。翼を引きちぎり、足を捻じ曲げ、短剣で肉を削った。ゾラはそのたびに鳥の声をあげてたよ。いよいよゾラの声が聞き取れないほど甲高くなったとき、ゾラは口を大きく開けた。たぶんあの冒険者にかけた毒液だ。


 俺が31に向けて怒鳴ろうとしたとき、スーッと31の両手が伸びてゾラの口を上下に持った。そんで開いた口を財布みたいに閉じちまった。ごく当たり前の動作って感じだった。それから31はゆっくりゾラの頭を持ち直して……そのまま回した。鶏をしめちまったのさ。


 ゾラの顔は恐怖に引き攣ってたよ。腰が抜けちまうほどにさ。ざまぁみやがれだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る