□月星歴一五四三年十一月⑲〈夜襲〉
【□タウロ】
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時は夜半過ぎ。
弓張月に少し足りない月は沈み、空は暗い。
街からも、砦の睨みを利かせられる位置に陣取る天幕からも離れた街道側に、タウロ・アウダース、ウィル・ネイト、ノイ・モントが呼ばれた。
それぞれ、口の固い者を二人づつ連れてくるよう言われていた。
タウロが連れてきたのは弓月隊の三席のアーチと四席のカトル。
ウィルが連れてきたのは十六夜隊三席のトレスと五席のセーズ。ノイは新月隊六席のゼクスと五席のペンテを連れてきた。
ペンテとトルスは共に弓の名手と名を馳せている。
それぞれ、アトラスとは顔馴染みである。
アトラスが婚姻前の半年間、月星滞在中に稽古をつけていたのは弓月隊のみではない。請われれば十六夜にも新月隊にも顔を出していた。
指定された場所には、弓月隊の黒衣の隊服を纏ってフードを目深に被った男と、補給部隊の装いのやはりフードを被った男、そして軍部統括のヴェストが待っていた。
ヴェストがいる以上、公式の作戦であるということ。その筈である。
だとしたら、いてはいけない人がいる。
「なんでいるんですか?」
「自分は弓月隊の一隊員ですよ、タウロ副隊長」
黒衣の男は自らの弓月隊の隊服を示す。
「つまり、結局自ら出ちゃうんですね」
タウロが呆れながら囁いた。
「どう、言い訳するんです?」
タウロの問いに、ヴェストは困惑を隠しきれない声で応えた。
「『ブライト』氏が助力してくれるそうだ」
「ハイネ殿は竜護星でしょう?」
「エブル・ブライトがいるから問題無い」
自称隊員を名乗る黒衣の男がもう一人を示した。
だからブライト氏ねぇと、タウロは示された男を見やった。フードから白っぽい髪がはみ出ている。萌葱色の瞳の男が困った様に苦笑していた。
足元には月星の旗が数旒と縄などの物資と大きな網。
ヴェストが作戦を説明する。
「はい?」
作戦を聞いた面々は戸惑いを隠せない。
「竜って戦場で使ってはいけないのでは?」
尋ねたのはウィル・ネイト。黒衣のフード男が答える。
「『戦い』に使っちゃいけないのさ。物資の運搬や負傷者を運ぶのはその限りはではない。竜が嫌がらないなら、是ということだ」
男の口調が普段通りに戻っている。
「竜に乗れるのは、騎乗者ともう一人と聞きましたが?」
「乗るならそうだが、荷として運ぶなら十人程度は問題ないのだそうだ」
ノイの質問に答えたヴェストは苦笑している。人間、自分の想定の幅が振り切れると笑うしかなくなるらしい。
約定の隙間をつく、屁理屈の様な解釈。
タウロは盛大に溜息をつく。
「前王は人を見る目がなかったんだって、今ならよく解りますよ。あんた、絶対弓月隊より新月隊向きだったわ」
「そうですね。前隊長のネウルスさまは自分がやられて嫌だと思うことから奇襲案を練っていましたが、こういうことは考えつきません」
ノイが元上官と比べて唸った。
「提案しておいてなんだが、危険が無い訳じゃない。お前たちならやり遂げるだろうが、心してかかれよ」
黒衣の男はそう言って、エブルに竜を呼ばせた。
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人物紹介はこちら↓
https://kakuyomu.jp/works/16818093076585311687/episodes/16818093079405183440
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