■月星歴一五四三年五月③〈就寝〉

「こちらでお休みください」

 案内された部屋は、居間の奥に寝室が隣接していた。


 灯りは点されていなかったが、カーテンが開け放たれた窓からの月明かりで、家具の配置は把握できた。

 明るい時間で見れば、贅を凝らした調度品だろうことが想像できる。


 アトラスは居間を抜け、寝室に向かい、ぎょっとした。

 部屋の中央に巨大な寝台が一台どんと置かれており、レイナが片側に寄って眠っている。


 月星では婚姻を挙げ、書類に署名済たが、竜護星での手続きは明日、首都に向かってからになる。

 これはどうなのかと躊躇った。

 ここはファルタンの屋敷。否が応でもライの顔がちらつく。

 アトラスは溜息をひとつ落とすと頭を振った。

 今更と割り切り、寝衣に着替えて反対側に潜り込む。


「お話は何だったの?」

 思いがけず、声がした。

「悪い、起こしたか」

「起きてた。いえ、寝てたのかな」

 寝ぼけているらしい。

「ファルタンが後ろ盾になってくれるってさ」

「良かったじゃない」

 レイナが寝返りをうってこちらを向いた。

「高くついたでしょう?」

「支払いは兄持ちだってさ」

「アウルム様が?」

「俺は愛されてるからな」

 嘯くと、忍び笑いが漏れた。

「あの人が恋敵じゃ、適わないなぁ」

 何やら変な事を言っている。やはり寝ぼけているらしい。

 すぐに寝息が聞こえてきた。


「おやすみ」

 夜具をかけ直し、アトラスも目を閉じる。

 疲れているらしい。頭が働かない。

 程なくアトラスも眠りに落ちた。



【人物紹介】

https://kakuyomu.jp/works/16818093076585311687/episodes/16818093078876074057

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