第15話 浮気調査って探偵がするもんじゃない? By銃器人格

「来たか!アヤト。ふふふ、礼を言うぞ。これは大事な用件だったんでな。お前が居てくれなければ、私一人で当たるところだった」

「そういうの良いからさ。さっさと言ってくれる?その用件っての、一体なんなの。冒険者ギルドの受付嬢さんから頭下げられたんだけど」

「あ、うん。それはごめん。……話を戻すとだな、大事な用件とはズバリ!…浮気調査だ」

「……帰って良い?」


ーーー


「つまり?この領地を治めている重役が浮気をしているかもしれないから調査をしてきて欲しいと」


けれど、それは冒険者としての位が低い俺とミリャンには頼まないだろう。その事実から考えられる答えとしては、どちらも低級だから切っても心配ないということ。冒険者ギルドのギルド長はミリャンを可愛がっているが、周りはそうでは無い。むしろ、疎ましく思っている。


だからこの依頼だ。魔法を使えない雑魚を完全に切り捨てるための。まあ、それをさせないために俺が側に着いたんだと思う。あの受付嬢ちゃんは数少ないギルド長側の人間。あちら側に有利に動かせるとは思えないし、阻止を遠回しに頼まれてる。


明らかな面倒ごとだけど、面倒くさがってる場合じゃないね。ミリャンのこれからが掛かってるんだ。柄じゃないなんて言って、問題を遠ざけてる場合ではない。友達が困ってる時、手を差し出さない王がどこにいると言うのか。


「良いよ。着いていってあげる。それで?どこに行くの?浮気調査に行くんだ。対象の調査くらい済ませてるんでしょ」

「ああ、とっくに済ませてる。対象のエルドラグーン伯爵が今日行く場所はラドナラ・ラドンだ。もう少しの時間で出発予定であるから、今から急いで向かうぞ!」

「急だなぁ!?もう少し早く言ってよ!」


そんな文句を垂らしながら向かった先は馬車停。浮気調査の対象であるエルドラグーン伯爵は御者と話した後、伯爵家が保有する装飾が激しい__他貴族と比べたらマシな方であるが__馬車に乗り込む。その姿に不自然さはなく、感知を使用しても御者とエルドラグーン伯爵以外に人はいない。


騎士すらもいないのはどうかと思うが、それはエルドラグーン伯爵が実力者だからだろう。何と言うか、浮気するようには見えないんだよね。人を連れていないのはラドナラ・ラドンで出会うからかもしれないけど、行動に躊躇いがない。少し暗い感情が混ざっているのは確か。しかし、秘密を抱えてれば大抵の人はそうなる。


貴族の中では妻を一人しか取らない変人であり、貴族の中で一番の愛妻家とか呼ばれてるし。必要ないと思うんだけど……まあ、依頼だしね。


久しぶりにあれ、やりますか。最近は銃器ばかりの戦いになっちゃったから。本来の俺のやり方はこうなんだけど、ミリタリー系にハマっちゃったからなあ。小細工があんま好きじゃないのも関係してるのかな。それに、銃使わなきゃタイトル詐欺してることになる。


「かぐらちえにめほたなやたのか」


数日の間で狩ったモンスターの因果を使用して、エルドラグーン伯爵が乗っている馬車の周囲に不可視の監視的存在を配置する。詠唱という負荷削減機能を用いても、頭部にズキッとした痛みが襲う。因果を不定期でしか見れないのに、因果術を使った反動かな。まあ、軽めだから大した問題ではないけど。


それでも、少し疲れた。因果術の欠点って、体が未熟だと反動を喰らうもそうだけど、全ての術の使用後に疲労が溜まるってことかな。それがあるから、あんま好きじゃないんだよ。加えて、この体自体が慣れてないからもっと好きじゃなくなりそうだ。


疲労のため息を吐きつつ、馬車の壁にもたれ掛かろうとした時、頭部に柔らかい手のような感触が伝わる。……目の前に広がるミリャンが背を伸ばしている点から、頭を撫でられるのは確定だ。中々無い経験にむず痒さを覚えつつも、確かな糖度を持って接せられる甘さに身を任せてしまう。


撫でられるなんて、親愛を持ってでしか与えられたことなんて無かったけど、友愛も悪く無い。


「よーし、よし。よく頑張ったな。お疲れ様だぞ。流石私の親友だ。最高だよ、アヤト。疲れたのなら、今は休んでおけ。異変が生じたら気づけるのだろう?」

「まあ、そうだけど……今は休みたくないな。けど、ダルイから支えてくれる?」

「あぁ、分かった。お腹空いてないか?空いているのなら、腹を埋まらせる食べ物を用意してあるが」

「ありがと。いただくよ」


あー、美味しい。看病された時にも感じてたけど、ミリャンの料理って美味しいんだよな。保存の魔法なんて使えないのに、時間が経っても依然美味しいなんて。多分だけど、料理技術だけなら魔法使いよりも凄い。王である俺が断言する。


こんな空間、こんな時間が永遠に続けば良いのに。戦闘なんていうクソみたいなことはせず、隣にいれば心地良い者と一緒にいられる。そんな幸せを享受できたら、どんなに良いことか。戦と英雄の因果を持って生まれた俺には無相応な願い。けれど、今この瞬間だけは……。


「大変だ!盗賊が待ち伏せをしていて、襲撃をしに来た!」


キレそう。


____

☆作者一言メモ

今回の最後を飾るのは、幸せな瞬間を邪魔されてブチギレの綾人くんでした。次回もお楽しみに!

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