第14話 久しぶりのピンチ、というヤツだ By◾️◾️◾️

「さぁて、それでは行くとするかな。周囲への不安材料は相棒が消してくれた。なら、思う存分戦うとしよう」


そう口にした後、は水刀を構えて振り抜く。全力をこめた一撃ではあるものの、想像通りにクラウンゴブリンには腕を斬り飛ばす程度にしか効いていなかった。


……やはり、魔法と徒手空拳以外の武器は苦手だな。どちらかと言えば、綾人や部下の奴等の方が適任だろう。慣れないことを殺し合いで使うのはやめだ。


その思考が終われば、水刀がピカリと光る。水属性の魔法と魔力が煌びやかに。まるで、これから何か発動すると言っているようなもの。


ということで、喰らってもらおうか。水の魔法で作り上げた水刀による超爆発の水属性の魔法を。


超氷凍竜王・疑似ダハ其の一エクスプロード


一瞬の間、水刀が竜の形になり、魔力が色濃く渦巻く。クラウンゴブリンはその変化に気づき、逃げようとしているが、遅い。


魔力による収縮、膨張を繰り返した水刀は、既に取り返しがつかない程、進んでいた。


が笑った瞬間に水刀もキラリと一瞬だけ光り、爆発した。その爆発は、注入した魔力の格に劣らずの威力であり、森全体を包んでいた。結界が無かったら被害は更に広がっていただろうから、綾人様々と言ったところか。


数分経っても収まらないであろう大爆発を利用し、動き回る。今が最大のチャンスであるから。片腕を斬り飛ばされ、再生する間もなく大爆発が体を襲う。今は体の防御で手一杯なはずであり、再生ができる程器用ではないはずだ。


今取れる最大の有利だ。逆を言えば、ここで討ち取ることができなければ、こちらが死ぬかもしれないということ。だから、何だと言う話なのだが。不利なんてものは、格上と当たれば絶対に衝突する。


そして、何よりも……逆境を乗り越える姿こそ、王と呼ばれるに値する。その姿であるから、人が、民が着いてくるのだ。


最速で攻撃の構えを取り、現時点で可能な最大威力の攻撃を叩き込めるよう、全力で整える。左脚を奥に引き、右手に力をこめたその瞬間、火花が弾けた。


爆発の中、体中を魔力でコーティングをしつつ、攻撃を振るう。初撃として顔に一撃を与え、体の方向性を強制的に変更させる魔法で体勢を変えた後、追撃として脇腹に拳の打撃を打ち込む。


クラウンゴブリンは何とか反撃を繰り出そうとしているが、させない。速度が時間が経つにつれ早くなると言うのなら、はその速度を上回ろう。限界がどうした。許容量が何だと言うのだ!その全てを壊し、潰すのが王だろう……!


ならば、がするべきことは、今ここで限界を乗り越えることだ。力を振り絞るのではない。その先の力を手に握るのだ。


常にトップギアの力を維持したまま、攻撃に転換する。殺意をこめた攻撃を放つ度に鋭く、硬く拳を変化させる。


足りない、足りない足りない足りない…!王の力は疑似でしかなく、冠を冠するモンスターには力が足りない。


「かぁ…!かはっ、かはっ!ごほっ!」


息が荒くなった時、爆発が止む。制限していた再生も、爆発が止まったことで意味がなくなってしまった。


しまった。欠点を軽視し過ぎていた。ここにくる前は能力で打ち消してたから、覚えていなかったんだ。勝敗に関わること……トップギアを維持し過ぎると体が上手く動かなくなることを忘れているなど、はバカか。


クラウンゴブリンは、そんな上手く体を動かせなくなったの体を蹴りで吹き飛ばした。木に打ちつけられてしまったの体を労わることもなく、魔法が放たれる。頭部から血が流れる感覚を背景として、視界に魔法が迫る姿が映る。


綾人……はやはり、お前にはなれないな。武器も上手く扱えるなんてことはない。お前ほど、機転を効かせた戦い方もできる訳じゃない。お前はあの時、自分の命を賭けて民を守ったが、俺にはそれが出来できそうに無い。


自分よりも強い敵と戦い、勝ったお前とは違って、俺は誰にも守れそうにない。悔しいなあ、ごめんなあ。俺、綾人に助けてもらう程、価値は無かったみたいだ。




『一つ言っておいてあげるよ。俺はな、助ける人に価値を見出してはいない。助けたいから助けるにしかならず、決して重荷を背負わせるためじゃない。だから、その重荷を一旦全部捨てろ。そうして欲しくて助けた訳じゃない。多分、お前の世界の俺もそう言ってる』


綾人、何故そんなことを言えるんだ。お前は、俺の世界の綾人をミリを知らんだろう。俺も、別世界の晴人というだけだ。なんの関係もないはずだろう。それなのに、心配をして、声を掛ける。本当に、そっくりだよ。


だからこそ、そうだと納得できる。そうだよ、晴人はこういうことをして欲しくて俺を助けた訳じゃない。助けたいから助けた。何でそんな簡単なことにも気づかないのか。相棒失格だな。


そんな思考を積み重ねつつ、握った右拳に魔法を何百も重ねる。綾人と過ごした日々が脳内に再生され、魔力にもその想いが宿る。俺単体の魔力から、綾人も含めた魔力に。今も支えてくれているようで、心が少し暖まる。


幾数もの感情を抱きながら、拳を振るう。直撃したクラウンゴブリンの魔法は光の粒子となって消え去るが、俺の攻撃はまだ終わっていない。


「あんがとな。俺に、綾人との件を克服する機会をくれて。だから、今はただ、一人の人間として、竜として、感謝をする。そして、さよならだ」


血だらけの体を無理やり引っ張り、クラウンゴブリンの胴体を貫通する。核は消失し、生体反応は完全に消え去っていた。


その事実につい安打の息を吐いてしまうと、体は地面に倒れてしまう。分かっていたことだが、ただのダメージでは済まない。


「さよならだ。……お前にも礼を言っとかなきゃだな。俺はお前のおかげで克服できたんだから」


『感謝するなら、元の世界に帰ってから思う存分しろ。あと、さっさと返せ。晴人の体をいつまでも占領してるんじゃない』


「あ、もしかしたら今後も出てくるかもしれんが、許してくれ」


『はぁ!?』


____

☆作者一言メモ

正解は、並行世界の……綾人を失った晴人でした!好評なら他の章でも登場させるかも。今回の章では、最低でももう一度登場します。

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