第13話 裏の人格の裏の本能、中々に面白く、ややこしいだろう? By◾️◾️◾️

「疑似とは言え、覚醒に至らせた褒美だ。初手を譲ってやろう。来い」


先程と比べてしまえば、別人としか言いようがない覇気。王としての圧が、ゴブリン拳闘士たちの身を蝕む。強者弱者などの簡単な話ではない。それで説明できる程、王の秘密は解き明かされてはいないのだから。


「グガ!グガガギャァ!」


森の中から一匹のゴブリンが出現した後、数百にも及ぶゴブリンの集団が続いて出現した。なるほどな、あのゴブリンは統率者か。全部のゴブリンが強化されていることから、扇動系の能力を持ち合わせている。


ゴブリンという一個が強力な種族だからこその脅威か。これならば、小国の一つくらいは潰せるだろう。今のだと、勝てない強敵だな。


「だが、無力だ。を滅ぼしたいと言うのなら、オリジン連中を何万体か持ってくることだな。そうであれば、少しはダメージを与えれるかも知れぬぞ?」


ゴブリン達に瞬間の出来事であろう。襲いかかったと思った瞬間、地面に倒れ伏しているのだから。それも、重傷を持ち合わせて。


さっさと逃げれば見逃してやったものを……。貴様ら低脳は実に愚かよ。


だが、今のは非常に気分が良い。チャンスをくれてやろう。もしかしたら生き残れるかもな。どうする?ゴブリンの魔法使い。


そうして目線を送れば、影に隠れていたゴブリンの魔法使いはブルリと揺れる。それは果たしての恐怖によるものか。それとも、自分しか助かる道しかないことか?


「グギ!グガラァギアガ!」

「ギ……ギラアギャザリザ!」


のベースは人間で設定されているため、ゴブリン語は分からん……が、勘で何となく分かりはする。統率者のゴブリンが説得をしたようだ。先程の貴様らは前菜にも満たないカスであったが、今度の貴様らは主菜となり得るのか。……楽しみだ。


最初の変化は、統率者のゴブリンを中心に引き寄せられ、合体していたこと。二つ目は、魔法使いのゴブリン以外の魔力が全部出された後、四乗程度に強化されたこと。三つ目は、巨大化した体が縮まり、170から180あたりの身長になったこと。


その変化に浮かんだ感情としては、関心だった。秘技なんて、の足元にも及ばないと思っていたが、届くかもしれない。足元程度には。


予想以上の結果に笑みを浮かばせていれば、ゴブリン集合体が打撃を送る。小手調べのため、力を先ほどよりも強めた手のひらで防御をすれば、痛みが届いた。


「そうか、そういうことか。貴様はクラウンに至っているのだな…!」


予想以上であったが、想定内だと思っていた。違っていたのだ。予想以上であり、想定外でもあった。やはり原因は因果となってくるか。厄介なことをしてくれる。


現代にはまだ現れるはずのないクラウン種に舌打ちをしつつ、クラウンゴブリンの体を引き寄せて打撃を与える。顔への攻撃は結構な威力を入れていたはずだが、大きいと言える程のダメージが入ったとは思えない。


それどころか、反撃として頭突きをされ、の方が吹き飛んでしまった。


これはスロースターターなんて戯言をほざく暇がなさそうだ。興が乗ってきたとは言え、の体はまだまだ暖まったとは言えない。しかし、それでもやらなければ、危険なのはの方だ。


己の未だ克服できていない欠点にため息を吐きつつ、体勢を整えて攻撃の構えを取る。得意属性の水魔法を使用し、作り出した水刀を用いて抜刀の形にした後、振る。


水の魔法との親和性。叡智王としての魔法への親和性。その二つを組み合わせたことによって発生した一撃は、強力無比としか言えぬであろう攻撃へと成った。


攻撃をした部位からは勢いよく血が噴き出ており、その過程に通った地面は大きく抉れている。それなのに、与えられているダメージは微々たるものだから、クラウン種の格がわかると言うものだ。


……いや、これは本当にクラウン種だけなのか。クラウン種は確かに強力だ。の因果記憶の中にも、苦しめられたのが幾数か存在している。しかし、そうだとしても異常だ。クラウン種は時間が経てば経つほどに強化される一種の到達点。


だが、逆を言ってしまえば、時間が経たなくては、脅威になり得ない。しかし、今回のクラウン種を見てみれば、成ったばかりだと言うのに、異次元と呼ばれるに値する領域に近づいている。


なるほど、あの連中か。他人に害することに夢中など、恥ずかしくはないのか。


「まあ良い。あの連中の対処は、今のや綾人に任せておくとしよう。まずは貴様の対処からだ。本気の全力で殺しに行かなかった際、生き残ってもらっては困るからな」


久方ぶりの牙を振り回し、敵意と殺意をこめた視線を送る。やはり、今を生きる若人のために力を扱うのは悪い気分ではない。


脳裏に浮かぶのは未来を賭けて死んでいった先人たち。はそこまで行けないであろう。けれど、先人たちの意を受け取り、牙となって守ることはできる。


多数で群れるのは皇帝の矜持に反するのがチクリと来るが、守れぬよりかはマシだ。


「森を荒らしてしまうことはすまぬ。しかし、怨敵になり得る可能性があるコヤツを倒すのでな。許してくれるとありがたい」


『……王となったのに見逃していたのも、クラウン種になるのを止めなかったのも俺の責任だ。だから、許す。尻拭いは俺がやるから、お前は好きに暴れてろ。結界は貼っといてやる。因果を食ったんだ、感謝しながら戦えよ』


「……!そうか、礼を言う。感謝するぞ、綾人」


____

☆作者一言メモ

今の我とは、一体どういうことなのでしょうか。気になるところです

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