第12話 体の動かし方は、掴まなきゃいけない時まで追い込めば良い By魔法人格
綾人がミリャンから看病されてから数日後、傷ついた体は完全と言って良いほどに治っていた。再生能力がバグっているのか、と思ってしまったが、多分『人智の叡智』パワーなのだろう。身体能力とかが常時強化されているみたいだから、再生能力は妥当かもしれん。
能力の力って怖いなぁ。認識改変って言うか、精神改変もされているみたいだし。
「まあ、今はそんなこと考えんでもいっか。今から始まるのはモンスター退治だし。アルティナや綾人から出された課題は肉体。魔法と肉体の並行の近道は、体の動かし方を覚えること」
それなら魔法を縛ったモンスター退治をすれば良いよな、という簡単なお話である。その話をすれば、綾人とアルティナからは引かれてしまった。結構な出来の作戦だとは思うんだけどな。
あの時のことを脳内で再生をしていれば、歩いていた身に魔法が襲いかかる。上空からの一直線攻撃であったため、容易に避けることは可能だ。
この精度、中々に高められたものだな。魔力の色から見て、ゴブリンか?ゴブリンは魔力を生まれながら多く持っている魔力生物だと言うのに、俺の自然魔力感知には一切引っ掛からなかった。隠蔽している様子がないのを見るに、ただ俺の自然魔力感知がザルなだけか。これ、新たな課題だな。
「グガ!」
*ゴブリン拳闘士が三匹現れたぞ!
これじゃあゴブリン拳闘士sじゃねえか。拳闘士って名前のゴブリンだから、武術に心得があるだろうし。いや、肉体の動かし方を確かめる為だったら、こっちの方が大丈夫なのかも。
そんな余計な思考を重ねていると、いつまでも止まっている俺に我慢が切れたのか、ゴブリン拳闘士sは襲いかかってきた。三方向からの攻撃に二つまでは対応できたのだが、もう一つの打撃は反応できていなかった。腹部に打撃が突き刺さる。
いったいなぁ…!どんな威力をしてんだよ。初めてこんな痛みをもらった。急所を的確に抉るような鋭い一撃。さすが拳闘士なんて名前がつくゴブリンと言ったところか。あんな猪よりも、強い。
その事実に冷や汗をダラダラと流しつつ、飛んでくる拳を見極める。色々な方向からの拳を捉えることはできても、全部避けたり受け止めることはできない。やばいな、見極めることができない。
アルティナとか、綾人なら見極めれる。けれど、俺はできない。今放たれている連続の攻撃は、俺が完璧に理解できる範囲を超えてしまっているから。その事実についつい目を背けたくなってしまうが、現実の攻撃は遠慮なく向かってくる。
顔に、腹部に、脇腹に、背中に。それらは、殺意を十二分に感じ取れる攻撃だった。魔法による再生を使用しているのに、ダメージは容易に追いつき、追い越している。血反吐を吐きつつ、向かってくる攻撃に対して冷静に対処する。
今の俺の経験と実力では、瞬間のみで見極めることなんて不可能だ。だから、徐々に、一歩ずつ。打撃によって発生した痛みの経験を使用して、着実に段階を進める。
顔に向かってくる拳が一つ。それに対して、俺が反応した行動は、一手目に左手で攻撃を弾く。そして、二手目として、使わなかった右手を拳として、攻撃を繰り出す。ようやく見えた隙を突いた初めての攻撃らしい攻撃。
拳が、腹部に突き刺さる。
「やっと見えたぜ、俺の戦い方が。血反吐を吐くほどに身を傷つけて、更なるステージに登る。それが、俺だ」
ゴブリン拳闘士sとの長くて短い戦いで掴んだこと。俺は色々な意味でボロボロになりながら戦うのが性に合ってる。
更にもう一つ、俺は肉弾戦のみは向いてねえ。努力とかで何とかできる範囲内を超えている。そっちはどちらかと言えば綾人向きで、俺の方は魔法を織り交ぜた魔法格闘だ。
「ははは!興が乗ってきた!全力の魔法格闘で相手をしてやる。初めてだからな。ここまで気が乗ったのは」
自分でも、今の状態が正常じゃないって分かっている。それ程までに心が船に乗ったかのように浮き、気分が高揚している。こんなことしたら、意識の裏で自分の武器の改良をしている綾人に怒られるのは承知の上だ。
今の俺は、俺にすら止められない。だから、思う存分楽しむことにした。左手を前に出し、右手を拳状にして奥に構える。闘志タップリのガチガチ戦闘体勢。俺が元々持ちえる圧か魔力か。どちらか分からないが、ゴブリン拳闘士sは一歩引く。
その一歩を狙わないなんて、思わないで欲しいところだ。常時放出魔力を魔法陣に注入し、脚に強化魔法を何重も施した後、地面を走り抜ける。背景に豪音が鳴ったが、気にする対象ではない。今はただ、目の前のゴブリン達にしか視線は、注目は向かない。
周りが闇に見えているかのように。見えているのはゴブリン拳闘士sしかない言っているかの如く。
超速な速度、そして先程感じた攻撃を真似た急所を的確に抉る攻撃を持ち合わせた一撃。鈍く、重く、貫くかのような一撃を、お見舞いする。
「グガダァ!?」
「グガガ!?」
「ガガ!」
吹き飛ばされたゴブリン拳闘士の一匹に、心配するそうな声をかけるゴブリン拳闘士達。
やっぱり、心配するよな。仲間が吹き飛ばされたら、心配で走ってでも行くか。あぁ、何と予想通りの結果か。
敵に背後を見せるなんて、馬鹿の所業だ。狩ってくださいなんて言っているようなもの。しかし、我はそれを許そう。
その思いに免じて。美しく、儚く……弱者が群れる故の弱き感情に免じてな。感謝をするが良い。我が慈悲深き王という事実に。
「言うなれば、覚醒の時か。今の我は、少々手強いぞ?」
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☆作者一言メモ
晴人に不穏な気配が……!?
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