第11話 異性からの看病って、ウマウマイベントな気がする By銃器人格

「アヤト、お前飯食ってないだろ?今からリンゴ剥いて食わせてやる。待ってろ」


そう口にしながらお見舞い品の中からリンゴを取り出したミリャンは、綺麗に剥いていく。美しいナイフの使い方だった。俺もリンゴは剥けるのだけど、あそこまで見惚れる程のリンゴ剥きは見たことがない。


見惚れるリンゴ剥きって何だって自分でも思うけど。


「はい、切り終わったぞ。口開けろ、口を」

「え?あの、ミリャンさん?何をしようとしていらっしゃってるのでしょうか」

「今のアヤトが体を動かすと、さっきみたいな事態になりかねん。だから私が直々に食べさせるんだよ。分かったらさっさと食べろ」


それは恋人カップルがする「あ〜ん」と呼ばれる類のものでは!?羞恥はないのか……ないみたいですね。全部を看病と思っているからか。看病の一環だもんね!そりゃ恥ずかしがらないよな。


この羞恥、我慢して食うしかないと言うのか。無いんだろうな。うぐぐっ、大怪我をした過去の俺、恨むぞ……。


い、いただきます。


「むぐむぐ、んくっ」


おぉ、結構美味いな、このリンゴ。品種改良を繰り返している現代には劣ると思っていたけど、流石魔力があるファンタジー世界。魔力が実の中にも入っているから、自然な甘さを捻り出している。


これなら、全然食べれそうだ。てことで、ミリャン。もっとリンゴを頂戴?視線でねだりながら口を開けているのだが、口には全くリンゴが来ない。疑問に感じてミリャンを凝視すると、あることを発見した。耳が赤くなっている。


ふーん、ホーン、へー。ミリャン、照れてるんだ。振り切ってから人が照れてるのを見ていると余裕ができて可愛いって思うよね。今の俺の状態、あれよ。


「みーりゃーん?看病してくれてるんでしょ?ならもっとリンゴ欲しいなあ」

「うるっさい!食わせてやるから黙ってろ!」

「むぐっ!?」


いきなりリンゴを入れられてしまった。まあ、美味しいから良いんだけど。


全部食べ終わってからミリャンを見れば、怒りに近い視線を向けられてしまう。なんでよぉ。


ーーー


「ごめんね?背中まで拭いてもらって。食べ物を食べささせてもらって、その上で世話をしてもらうなんて。ミリャンには迷惑をかけてばっかりだ。…さっきは友人って言ってたけどさ、こんな情けない奴が友人でいいの?」

「なにを言い出すかと思えば、そんなことか。私はアヤトに救われている。だからその恩に従ってるに過ぎないだよ。つまり、情けないとか気にしなくていい。あともう一つ、お前が情けないなら、私は面倒くさいだぞ?」

「あ、それは知ってる」

「おい!」


ほんと、ミリャンは優しいねえ。俺には勿体もったいないくらいには。自分を責めているのに気づき、それをやわらかい話に戻すのは、中々できることじゃない。


俺がしたのは些細な事のはずなのに、ここまで。……いや、この考え方はダメだね。俺がなにを考えようと、俺がなにを思おうと、ミリャンが感じたことを推し量るなんて、できるわけがない。


だから俺は、この甘さを受け入れよう。


そんな思考をしていた時のことだった。背中にタオルとは違う感触がぶつかった。一瞬何か分からなかったけれど、数秒してか理解が追いつく。これ、ミリャンの頭だよねぇ!?どういう判断がこれで至ったのか…。


色々と混ざる感情を一旦外に出し、冷静な思考で答えを求める。噛み殺したいようなモヤモヤを胸に置きながら。


「アヤトの背中、大きく感じるな。優しくて、暖かくて。包み込まれているようで。不思議な気分になる。この傷だってそう。誰かを守るためにできた傷だろう。アヤトはそんなことないと言うかもしれないが、私は優しいと思う。寄り添うことができるなんて、中々いないさ。そんなアヤトだからこそ、私は恩返しがしたくなった」


羞恥で声が震えている。それでも、今の気持ちを伝えようと、くっ付きながらも言葉にする。


そんな状況に、緊張による汗が出てくる。言葉も上手いようには出てこず、掠れたような声が出てくるのみ。


「なあ、アヤト。私は迷惑か…?」

「そんなわけない」


思うように動けない今、助けてくれるのは非常にありがたい。ただ、理性が問題なだけで。看病をされているだけってのは十二分に分かってる。けど、ここまで異性と急接近だと、心臓がバクバク鳴ってしょうがない。


加えて、信頼を込めた音色ねいろで話しかけている。その信頼が徐々にだけれど、心を蝕み、理性という名の釘を外そうとしてくる。


痛みや怪我で行動が制限されているとは言え、これ以上はまずい。治った後に向ける顔がなくなってしまう。


「あの、ですね。ミリャンさん。言いにくいんですけどね、このままだと非常にまずいことになってしまうんですよ。男としての欲望が暴走してしまうと言いますか。分かっていただけますか?」

「そうか、分かった。もう少し」


不自然に敬語口調となってしまったが、分かってくれたと安堵をしたのも束の間。もう少しの言葉に疑問を覚える暇すらなく、背中から腹部にまで腕を回される。


あー、もう!それがまずいって言ってるでしょうが!もう少しと言われてしまったからには、俺に用意されている選択肢は二つ。理性に従ってミリャンを振り払うか、欲望に従って今のくっつかれている状態を維持するか。


俺が選んだのは……後者。人間は欲望には勝てなかったよ。


____

☆作者一言メモ

アーメン!!

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