第6話 俺、人嫌いなんだけど By魔法人格
「どーなってんだか」
そう言いながら浮かべるのは二人。一人は先程俺が助けたけど、それ以外は何も関わってないミリャン。もう一人はこの世界に来た時にできた相棒のアヤト。ある程度関わった仲である二人は両方とも過去に暗いのを持っている。
様子から見て、ほぼ確だ。ミリャンはちょっと怪しいけど、アヤトのあの言い方。どう聞いてもそういうことしか思えない。数少ない出会ったヤツが全員過去暗いってどういうことやねん。ミリャンとアヤトの話を聞いた俺の気持ちを考えてくれ。はっ、ダブルパンチやぞ。
重いんだよなー。唐揚げとチキン南蛮と天ぷらとエビフライとステーキを食べ時ぐらいには重いわ。胃もたれしちゃうんだよな、度が過ぎてると。ミリャンはともかく、アヤトはさらっと話し過ぎではなかろうか。
ちゃんと自分の話の重みを理解してくれないと困るんだよ。そんな思考を巡らせつつもため息を吐く。
そのため息で、思い出す。俺が何故、人間嫌いなのかを。互いの言葉が、思考が、行動が理解し合うことができないから。それでも理解しようとして、自分の価値観と相手の価値観をすり合わせて。深く踏み込もうとしたら拒絶されて。
そんなクソみたいな心理戦が嫌いだった。どれだけ親しい幼馴染でも、友達でも。本当に分かり合えるなんてことはなかった。家族でもそう。腹を痛めて産んだ母親ですら、無理だったんだ。だから俺は人を理解するのを辞めたし、人に歩み寄るのを辞めた。積極的に関わろうとすることも。
…なんだけど、綾人は別になる。価値観の差異で苦しむとか、互いに互いを理解することができないとか、そんな悩みをぶち壊して接してくるからだ。気にする暇をくれず、いつの間にか自分の懐に入っている。
いつもならそれすらも嫌悪しているところ。一番不思議なのはそこなんだよなぁ。普段の俺なら気持ち悪いとかのなんて思っているはず、嫌悪の対象となっているはず。けど、俺は心地良いと思っていて、負の感情なんて気味が悪い程度だ。その他なんてなく、自分が自分じゃなくなりそうだから取って付けただけの負の感情。
意味がよく分かんなくて、感情と思考がこんがらがって、全部がハテナになる。胸に広がって
この行動も、思考も、全てが俺の未熟でなっている。この歳までにもなって、成熟していない精神だから、ガキみたいな行動してる。よく分からないってだけでムカムカを抱えて、物に当たっているクソみたいな自分の現実にも嫌悪してしまう。
そんな感情持ってても、思うのはやっぱりよく分からない。どれだけ反省と嫌悪を繰り返しても、俺に待っているのはループ。クソみてぇに最悪な。
「随分と荒れてるじゃないか。無名の魔法使い君」
自分自身でさえ荒れていると認識している俺に話しかけるのは、牡丹色の髪をまっすぐ垂らしており、枝毛が一切ない。女さんは髪のセットが大変と聞くので、随分と理想的な髪型みたいだ。その髪の上から被っているのは紫色のローブ。
ローブに付与されている魔法効果だろうな。見えるようで、見えない。怪しさ全開の顔真っ暗装備ではないけど、顔を見させない装備で他人に話しかけている。その事実だけで怪しさはある。声は警戒心を溶かすような声質であるが、俺を溶かすには足りない。
はは、舐めんなよ。こちとら、魔法とも言ってもいい精神バグらせる意味不明な言葉とか行動相手にイエスマンとなってねえんだ。同じ肉体にいてこれだからな。だからな、俺の精神レベルはお前には関与できない。
「なにがだ。俺に対してなにをするつもりだ。どんな思考を持って近づいた!」
「随分と警戒心が高いじゃないか。それこそが、私が求めてきた魔導の主だ。君に近づいた理由など、因果を決めるためさ。君が未来に生きていられるようの因果。この因果、用意するの大変だったんだよ?君がアヤト君も助けたいって言うから」
意味が分からない。どうして俺も、綾人のことも知ってるんだ。魔導の主、因果、未来での俺の生死、因果を用意するのが大変だった。意味不明な言葉が次々と放たれる。言語は通じる故の恐怖。自分に対しての言葉であるのに、意味が全くと言っていいほどに掴めない。
分かっててやってるのか、これは。それとも、理解できると思って……いや、ないな。瞳や表情から分かる。ハナから期待してないんだ。俺が言葉の真の意味を知ってることなんて。じゃあどうして俺にその話をしたのかって問題になってくるが。
少しは期待していたのかもしれない。だろうねと語っている瞳の奥には、少量の場合寂しさがこもっていた。この言葉の意味を知っていて欲しかった。どうして覚えてくれていないのか。そんな言葉にはしない、心に秘めている言葉。
普段なら、関係ないと突き放しそうな状況。なのに俺は翻弄されて、こんがらがって。逃げれば良いのに、本能が否定している。逃げたら未来に悪影響として押し寄せる、と。一番の理由は多分、泣いちゃうからだ。目の前の魔法使いが。
ここで泣くなんてこと起きないと思う。だから、俺が泣かせたなんて、後ろ指を刺されることもない。でも、でも、でも……ダメだ。俺はその事実にどうしようもなく心が苦しめられる。締め付けられて、泣きそうになる。
本能という割には、浮遊的。魂と呼ばれるべきもの。だからこんなにも締め付けられて、目の前のヤツが泣くことを恐れている。関わりなんてクソもないはずで、初対面。けど、こんなにも思っている。
そんな気持ちに混乱していれば、目の前のは帰ろうとしていた。「じゃあね」と口にして、歩いて離れようとしている。嫌だなんて子供みたいな感情を並べ、体もつられて動いていた。腕を掴んでしまう。
「行くな!」
「へ?」
自分でもなんで言ったのか、分からない。それでも、口にしたチャンスを逃さないように。俺は言葉を紡ぐ。
「お前は、俺と一緒に
「……!ふふ、しょうがないね。捕まってあげようか。僕の名前はアルティナ。よろしく頼むよ、ハルト君」
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☆作者一言メモ
晴人くんのヒロインも登場です!
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