第2話 厨二病って昔の自分を見ているようで、なんか恥ずかしいよな By魔法人格

「あむ…んぐっ!化け物熊、普通に美味しいな。いいのか?綾人。綾人が狩ったのに、食べなくて」

『ああ、俺の分も食べてもらって構わないよ。俺は元々少食でね、中々食べれないんだよ。晴人みたいな大食いとは違って』

「普通に酷いと思うんだが。ただ、この巨熊を数分もしないうちに、半分たいらげただけだろ?」

『それを人は大食いと言うんじゃない?』


呆れたように言い放つ綾人に、不満のあらわしとして、唇を尖らせる。確かに俺は他の人よりも食べる量が多いかもしれないが、大食いの人と比べられるのは癪だ。早く食べ、早く胃の中に入れる。


時間制限ありきで食す者とは違い、俺は食事を楽しむ性格だ。そう言われるのは、ちっと苛立ちを感じてしまう。


『悪かった、ごめん。大喰らいなんて言って』

「んぐんぐ…他者から見て、そう思われるのは仕方ないと思ってるからな。別にそこまで謝られることじゃない。ただ、気をつけてほしいだけ」


俺と綾人が和解できそうになった時、ちょっと遠くから_とは言っても、常に魔法で強化をしている俺の耳にはバッチリ聞こえるが_爆発音が聞こえてきた。こちらに飛んでくる魔力から見て、魔法によるものの類だ。


それも、暴走しちゃった系の。発動する土台兼器に入りきらない魔力を注いでしまったんだな。初心者にありがちなミスだ。魔力が大量だと、自然と魔力操作が粗くなる。俺みたいな、転移する前から力の操作を意識してきた訳じゃないもんな。


大変そ。…食い終わったし、巻き込まれる前に去るか。


『おろ?魔法を暴走しちゃった子は助けないの?ファンタジーオタクの晴人なら、現地の人に話を聞くと思ったんだけど』

「魔法暴走をしている奴に期待はしない。だから見て見ぬふりをしようと思ったんだが。助けたいか?」

『うん。俺の、天津家の家訓には出会いを大切にしろってのがあって、誰かに助けたりする出会いは特に』

「ったく…相方の我儘だ。聞いてやるよ。俺と綾人が二重人格を晒すのはリスクがある。それでも、助けるんだよな」

『うん』


ーーー


『猪だ』

「猪だな」


草原を走り抜けるのは猪と少女。猪は十中八九モンスターだろうけど、追いかけられている少女は間違いなく人間だ。


『モンスターって何よ』

「俺が名付けた」

『そゆことね。りょーかい』


そんなくだらない会話を重ねつつ、俺は猪に向かって魔法を放つ。幸い、猪は魔法に強い体質じゃない。ある程度は耐性があるけど、あの熊ほどじゃない。


光線の魔法が猪の前右脚に貫通し、痛みで怯んでいるところ、降りる。猪のモンスターにだけ伝わるよう、魔力の圧を調整しながら。


猪の方は問題ないな。綾人が熊相手にした動きを少しの範囲だけどトレースしているから、体を動かす方は問題ない。魔法も問題なく発動できた。倒すとなったら、苦戦らしい苦戦をしなくても倒せる。少し手こずるかもしれないが。


少女の方は、右手と左目に包帯を巻いており、魔法使いらしくローブを着ていた。うわっ、厨二病かぁ。


『その言い方はないでしょ。顔にも出てるし、失礼だと思うけど?』


俺も昔、こんな感じだったんだよ。ファンタジーに憧れて、自分もそんな物語の主人公みたいに特別な力があると思った。だから腕に包帯とか巻いたりしたし、片目に装着する眼帯を自作したりもした。


今思うと十分にイタかったと思うから、似ているコイツ見てたら黒歴史が掘り起こされるようで…。「俺の暗黒は全てを滅ぼす。世界すらも。使用できないのは、世界が俺を未熟だと言ってるから。自分自身を滅ぼさないように。その意思が詰め込まれた愛があるから使えない」なんて言ってたからなぁ。


「ち、違うぞ!私の実力がこの程度と言うことではなく、封印がされているのだ。私の得意としている闇は、全てを滅ぼしてしまう。それは世界すらも。世界は私を未熟だと言っているから、このままでは自分自身さえも滅ぼしてしまうから。世界に愛という形で抑えられている。その愛と私が適合できさえすれば、私は究極の闇の帝になれる!」


え、え、え。……そうか、分かった。これは虚構なんだ。幻想なんだよ。俺が厨二病だった過去を忌むべき意思が、過去の俺と似たような者を幻想として生み出している。


全く、異世界はファンタジーが過ぎるぜ。そうだよな。元の世界じゃ中々お目にかかれない美少女が(ロリ)が厨二病なわけない。いやー、俺の厨二病の嫌悪感がここまでだとは。まさかのまさかだな。


『現実を見なよ。それをちゃんと認識して、一歩足を歩むことこそが、飲み込むってことだよ』


嫌だ!なんで、厨二病だった過去の自分とほとんど同じ言動をしている奴がいるんだ。神はいないのか?いないからこうなってるんだろうな!


この状況、刻まれる黒歴史を見ているだけじゃないんだ。過去の自分とも自然と重ねてしまうから、普通よりも倍なって羞恥がやってくる。もはやここは羞恥を感じさせるための地獄、羞恥地獄なのではないのか?


異世界と言えども、同じ言動をする厨二病がいてたまるか。


『今ここにいるでしょ。御託はいいから、さっさと猪を片付けちゃいなよ』


ぐぬぬ。他にももっと言いたいことあるけど、綾人が正論過ぎて何も言えない。しょうがない。これは終わった後に話すとしよう。


____

☆作者の一言コメ

厨二少女、イタ可愛いです。癖です。

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