銃と魔法の二重人格者(デュアルニスタ)

鋼音 鉄

第1話 いきなり異世界に飛ばされるのはマジふざけんな By両人格

「うーむ、ここどこなんだろ」

「それも気になるが、お前は誰だ!」

「え?お前誰!?」

「問うならば、己からしろと教わらなかったのか。親に」

「教わった!」


一人演劇のように見えるが、確実に俺の体内に存在している人格からそう言葉にされ、頷く。いやー、本当にな。他人にして欲しい事があるのなら自分で行動するべき。天津あまつ家の家訓とし、俺のモットーとしているのに忘れていた。


失敗をしたな、と感じつつ、俺の説明を始める。


俺の名前は天津綾人あやと。2004年の九月12日に生まれ、丁度今日は20歳の誕生日だ。生まれた場所は草庵市の歌草病院だ。俺は赤子の頃だから覚えていないが、家族から聞いた話では激しく泣いたのではなく、静かに、穏やかに泣いたそうだぞ。赤子はもっと泣くものなのでは、と驚いたそうな。


「んな細かい話聞いてないんだよ!普通名前と好きな能力だろうが!」

「いや、え、は?能力?俺特にそんなの無いし」

「あるだるぉぉ!?火の魔法とか、水の魔法とか」

「いやー、俺オカルト系じゃなくてミリタリー派なんだよな」

「戦争じゃいゴラー!」

「それはこっちのセリフじゃいボケィ!」


ーーー


俺以外の人格、晴人との喧嘩で分かった事が一つある。どちらも宿っている肉体は同じなのだから、喧嘩をしてもダメージが来るのは、両方だという事に。


うん、ハッキリ言って俺アホだな。


「喧嘩も終えた事だし、確認大会と行こうか」

「確認大会って何だよ……。まあ良いか。今わかっているのは、俺と綾人は一つの肉体に存在している二重人格だ」

「そだねー。意思一つで切り替え可能だから、便利なのか不便なのか分からないけど」

「あともう一つ。俺達には能力がある」


晴人が、自慢気にそう語る。喧嘩している最中にあちらが語っていたのだが、晴人なラノベを読み漁っているらしく、ラノベ主人公のような展開が嬉しいのだろう。


俺からしてみれば、オカルト系の能力など、全くもって嬉しく無いが。


「おいおい、なに落ち込んでんだよ。綾人にだって朗報のニュースがあるんだぜ?」


嬉々として語る晴人に、つい疑問が浮かんでしまう。喧嘩をする発端にもなった事でもある事実。俺がミリタリーオタクというもの。


銃や軍が扱う者でなければ、俺にとって朗報足り得ない。晴人が言うように、俺に価値はあるのか。少々疑心暗鬼になっていれば、晴人が突如主導権を奪い、後退する。


ちょいちょい、一体何だって言う、の……マジかよ。焦りと緊張と驚愕の視線の先にある者は毛が赤黒く染まった熊。


毛並みも異常だが、更に異常なのは身体の大きさ。50メートルはある巨大な巨体。信じたく無かったが、今認識をした。


どうやら、本当に異世界への転移をしたようだ。もしここが日本で、この熊が未確認生物だったらワンチャン笑う。いや、笑う暇ないわ。


「綾人!頼む。アイツの毛皮は魔法耐性が存分に積まれている。俺のスキル【魔導の叡智】では敵いそうに無い。幸い、物理は行けるみたいだから」

「は、ちょ!?」


熊の前脚による一振りが、降ろされる。


日本に居た時より増大している身体能力を利用して避けるが、内心冷や冷やだ。熊の前脚が地面を叩いた事によって、クレーターができているから。


それに加え、身体能力が上がっても武人や軍人の心得が無い俺がまともに体を動かせる訳無い。今避けれたのはただのマグレだ。


「って、あれ?日本に居た時よりも上手く動かせる。何と言うべきか。体を理解している?」

『言ったろ?綾人にもスキルがあるって。お前のスキルは【人智の叡智】。お前の好きなミリタリーだぜ』

「それは嬉しいんだけど、脳内で話されると気持ち悪い」

『おい!』


毒を吐いている自覚はあるが、本当に思った事なので致し方ない。


晴人の支援もありつつ、スキル【人智の叡智】を使用して銃を作り上げる。まだまだ練度は低く、弱い。


だから、現代兵器のような強大なものは作り出せない。


「なるほど、リボルバーか。晴人、援護よろしく!」

『ああ!任せろ!』


跳躍したままの状態で、構える。今回のリボルバーは六発入り。一発しか弾が無い状況では無いのは救いだな。とは言っても、六発でも辛いから慎重に撃たなければならないから辛いものは辛いのだが。


晴人の情報だと、この熊は魔法に強くて物理に弱い。なら、今俺が狙うべき部位は脳!それで死ぬかは未知の生物なので、結果は分からない。だが、試す価値は十二分にある。


熊の巨手が振るわれる瞬間、違う。熊が地面を操作する瞬間、違う。違う、違う違う違う違う。


「見えた、正解が。隙を見せてくれて助かるよ」


リボルバーの軌道。それが俺の脳内に線として浮かぶ。青白い線が見え、効率的に、合理的に脳へと当たる手段が。


なるほど、魔法も捨てたもんじゃないんだな。魔法がラノベとやらで使われるのも納得ができる。まあ、現代兵器や近代兵器には劣ってしまうが。


スキル【人智の叡智】で作り上げる瞬間、魔力とやらを使用するせいで、その魔力を含んだ弾丸が、放たれる。さすが銃弾と言ったところか、非常に速度が高く、威力が高い。物理に弱いと言っても、ある程度はある防御を突き抜けて脳を貫通した。


「はは、刻んだか、その体に。人類が数万年の歴史を掛けて歩んだ軌跡を」


____

☆作者一言コメ


リボルバーの六発、良いですよね

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る