第4章 クールでドジな女子高生探偵⁉

1小波「結局プレゼントは買ったのか?」

【お知らせ】


 第4章ヒロイン、江藤えとう小波こなみのイメージイラストです⬇️

https://kakuyomu.jp/users/jumonji_naname/news/16818093086584039162


 それでは本編をどうぞm(_ _)m




♢♢♢♢♢




「うーむ」


 おじさんは悩んでいた。手に取った商品をめつすがめつする。


 おもちゃ屋と雑貨屋が一緒になったような店。女の子が好みそうなカラフルな小物の中で、スーツにサングラスのおじさんは浮いていた。


「あいつはよく髪を爆発させてるからな」


 手にしたのはくしだった。実験で二つ結びをアフロのようにする妹――小田おだ三実みみへの贈り物を選んでいた。


 実は『ゲンキナール』が元凶だったとも知らず、ソファーへ押し倒してしまったことに自責の念を感じているらしい。仲直りのきっかけになればと考えたようだ。


「……ちょっと子供っぽいかな」


 ピンクのくしには、三実の好きな豚がデザインされていた。


「もう高校生だもんな。こっちの落ち着いたのにするか」


 棚に戻して、別のシックなくしを取る。


「でもあいつは背も小っちゃいし、やっぱりこっちか」


 なかなか決まらなかった。何度も取ったり戻したりしている。その時だった。


「!」


 不意に、何者かに手を掴まれた。


「な、何だ⁉」


 うろたえるおじさんに、謎の人物が語りかける。


「何だとは、こちらのセリフだ」


 少女の声だが、堂々と落ち着き払っている。物怖じしない態度が表れていた。


「大人しく観念したらどうだ」

「はあ? 何のことだ⁉」


 意味が分からないおじさんは、相手の正体を把握しようと努める。ブレザーの制服を着た女子高生らしかった。


「とぼけるな! さっきからゴソゴソやっていたのを、僕はずっと見ていたぞ」


 その頭には、シャーロック・ホームズのような帽子が載っていた。


「貴様が例の万引き犯だな?」

「ま、万引き?」


 動きを制されながらも、おじさんは抵抗する。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はただ、妹へのプレゼントを選んでただけだ!」


 しかし、少女は取り合わなかった。


「万引き犯はみんなそう言うんだ!」

「いや言わないよ! 万引き犯はみんな妹持ちなのかよ!」

「言い訳は警察にするんだな」

「だ、誰が警察の世話になんか――」


 体をねじって拘束から逃れる。


「なるもんかっ!」


 相手の姿を正面から認めた。


 意志の強そうなキリッとした瞳。通った鼻筋にかかる黒縁のメガネが、理知的な印象を重ねた。


「しらを切るつもりか。ええい、まどろっこしい!」


 女子高生はおじさんに飛びかかった。


「うわっ⁉ 何するんだ⁉」


 おじさんのジャケットを無理矢理ぎ取った。


「このスーツの中に隠しているんだろう。僕の推理がそう告げている!」

「お、おいおい。人の物を勝手に」

「万引き犯に言われたくはない!」


 バッサバッサと払うと、ハンカチやポケットティッシュなどがポロポロ落ちてくる。


「むむ、おかしいな。カラクタばかりじゃないか」

「ガラクタって言うな。さあもう分かっただろ? 返してくれ」

「さてはズボンのポケットだな?」

「あっ、コラ!」


 おじさんのポケットに手を突っ込んだ。が、店の品物は出てこない。


「はっ! そうか、読めたぞ――」


 コテリン! と何かひらめいたようだ。


「このズボンの中だ!」


 おじさんの股間をビシッと指差した。


「な、何言い出すんだよ⁉」

「疑ってみると、なるほど少し膨らんでいるじゃないか」


 顔を近づけてガン見する。


「だ、だって、そこは……」


 股間を凝視されて、おじさんは乙女のように恥じらった。はっきりしないその反応に、彼女はますます確信を強くする。


「そこは? どうした、言えないのか?」

「い、言えるわけないだろ! 女の子に」

「いいさ、白日の下に晒してやる!」


 ベルトをカチャカチャといじり出した。たまらず悲鳴を上げるおじさん。


「イヤーっ! 女子高生に襲われるーっ! おっ、お巡りさーん!」


 いつの間にかおじさんの方が警察を呼んでいた。


「おい暴れるな! 悪いようにはしないからじっとしていろ!」

「これがじっとしてられるか!」


 ズボンどころか、このままではパンツまで下ろされそうな勢いだった。わいせつ物を陳列してしまわないうちに、なんとか説得を試みる。


「そもそも万引きって、店出てから押さえるもんじゃないのか⁉ 商品取っても、レジ通せばただの客だろ!」

「あ」


 もっともな指摘に、少女はベルトにかけた手を止めた。


「な、なんと。僕としたことが、うっかり見落としていた!」


 自分のしている行為に、今更になって赤くなる。


「はっ⁉ ぼ、僕ともあろうものが、なんてハレンチな!」


 慌てて立ち上がると、スーツの上を返して謝罪した。


「も、申し訳ない! どうやら、少々暴走してしまったようだ」


 受け取ったジャケットを羽織るおじさん。


「まあ、間に合ってよかった。こっちも、もっと早く指摘すればよかったな」


 ほっとひと安心したところで、改めて女の子の姿を確認した。


 鹿撃ち帽と呼ばれる、チェック柄の入った探偵の帽子。髪は肩までのミディアムヘアーだ。


 ブレザータイプの制服は、青いジャケットに黄色いボタン。リボンの代わりに、襟で赤い蝶ネクタイを留めている。おそらく、学校指定のものではないだろう。


 下はグレーのスカート。足元には、なぜかスケートボードが置かれていた。


「申し遅れた。僕は江藤えとう小波こなみ。探偵部だ」


 差し出された手をとって、おじさんは握手を交わした。


「俺はおじさんだ」


 聞き慣れない言葉に興味が湧いた。


「『探偵部』って?」

「なんと! 僕ときたら、まだそのことも言っていなかったじゃないか」


 自分自身に恥じ入る小波。


「すまないが、少し自己紹介してもいいだろうか」

「もちろん。どうぞ」


 一時はどうなることかと思ったが、彼女の礼儀正しい面を見て気を許した。


「では」


 が、この後すぐにおじさんは、その判断は誤りだったと気づかされることになる。小波は自身の顔に向けて、ピッと親指を立ててみせた。


「僕は女子高生探偵、江藤小な……。おっと、BGMを忘れていた」

「び、BGM?」

「ちょっと待ってくれ」


 スマホを取り出すと、慣れた手つきでツイツイと操作する。突然音楽が再生された。


『ジュルルン! ジュルルン! ジュルルン! ドッ ドッ ドッ ドッ!……』


 見た目は子供、頭脳は大人な名探偵を思わせるタイトルメロディーが、爆音で鳴り出した。わけの分からない展開に、おじさんはビクッと震えた。


「これでよし。では改めまして!」


 再び親指を立てる小波に、謎の恐怖心を抱いた。


(な、何だ⁉ この子はいったい、何を始める気なんだ⁉)

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