第4章 クールでドジな女子高生探偵⁉
1小波「結局プレゼントは買ったのか?」
【お知らせ】
第4章ヒロイン、
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それでは本編をどうぞm(_ _)m
♢♢♢♢♢
「うーむ」
おじさんは悩んでいた。手に取った商品を
おもちゃ屋と雑貨屋が一緒になったような店。女の子が好みそうなカラフルな小物の中で、スーツにサングラスのおじさんは浮いていた。
「あいつはよく髪を爆発させてるからな」
手にしたのはくしだった。実験で二つ結びをアフロのようにする妹――
実は『ゲンキナール』が元凶だったとも知らず、ソファーへ押し倒してしまったことに自責の念を感じているらしい。仲直りのきっかけになればと考えたようだ。
「……ちょっと子供っぽいかな」
ピンクのくしには、三実の好きな豚がデザインされていた。
「もう高校生だもんな。こっちの落ち着いたのにするか」
棚に戻して、別のシックなくしを取る。
「でもあいつは背も小っちゃいし、やっぱりこっちか」
なかなか決まらなかった。何度も取ったり戻したりしている。その時だった。
「!」
不意に、何者かに手を掴まれた。
「な、何だ⁉」
うろたえるおじさんに、謎の人物が語りかける。
「何だとは、こちらのセリフだ」
少女の声だが、堂々と落ち着き払っている。物怖じしない態度が表れていた。
「大人しく観念したらどうだ」
「はあ? 何のことだ⁉」
意味が分からないおじさんは、相手の正体を把握しようと努める。ブレザーの制服を着た女子高生らしかった。
「とぼけるな! さっきからゴソゴソやっていたのを、僕はずっと見ていたぞ」
その頭には、シャーロック・ホームズのような帽子が載っていた。
「貴様が例の万引き犯だな?」
「ま、万引き?」
動きを制されながらも、おじさんは抵抗する。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はただ、妹へのプレゼントを選んでただけだ!」
しかし、少女は取り合わなかった。
「万引き犯はみんなそう言うんだ!」
「いや言わないよ! 万引き犯はみんな妹持ちなのかよ!」
「言い訳は警察にするんだな」
「だ、誰が警察の世話になんか――」
体をねじって拘束から逃れる。
「なるもんかっ!」
相手の姿を正面から認めた。
意志の強そうなキリッとした瞳。通った鼻筋にかかる黒縁のメガネが、理知的な印象を重ねた。
「しらを切るつもりか。ええい、まどろっこしい!」
女子高生はおじさんに飛びかかった。
「うわっ⁉ 何するんだ⁉」
おじさんのジャケットを無理矢理
「このスーツの中に隠しているんだろう。僕の推理がそう告げている!」
「お、おいおい。人の物を勝手に」
「万引き犯に言われたくはない!」
バッサバッサと払うと、ハンカチやポケットティッシュなどがポロポロ落ちてくる。
「むむ、おかしいな。カラクタばかりじゃないか」
「ガラクタって言うな。さあもう分かっただろ? 返してくれ」
「さてはズボンのポケットだな?」
「あっ、コラ!」
おじさんのポケットに手を突っ込んだ。が、店の品物は出てこない。
「はっ! そうか、読めたぞ――」
コテリン! と何か
「このズボンの中だ!」
おじさんの股間をビシッと指差した。
「な、何言い出すんだよ⁉」
「疑ってみると、なるほど少し膨らんでいるじゃないか」
顔を近づけてガン見する。
「だ、だって、そこは……」
股間を凝視されて、おじさんは乙女のように恥じらった。はっきりしないその反応に、彼女はますます確信を強くする。
「そこは? どうした、言えないのか?」
「い、言えるわけないだろ! 女の子に」
「いいさ、白日の下に晒してやる!」
ベルトをカチャカチャといじり出した。たまらず悲鳴を上げるおじさん。
「イヤーっ! 女子高生に襲われるーっ! おっ、お巡りさーん!」
いつの間にかおじさんの方が警察を呼んでいた。
「おい暴れるな! 悪いようにはしないからじっとしていろ!」
「これがじっとしてられるか!」
ズボンどころか、このままではパンツまで下ろされそうな勢いだった。わいせつ物を陳列してしまわないうちに、なんとか説得を試みる。
「そもそも万引きって、店出てから押さえるもんじゃないのか⁉ 商品取っても、レジ通せばただの客だろ!」
「あ」
もっともな指摘に、少女はベルトにかけた手を止めた。
「な、なんと。僕としたことが、うっかり見落としていた!」
自分のしている行為に、今更になって赤くなる。
「はっ⁉ ぼ、僕ともあろうものが、なんてハレンチな!」
慌てて立ち上がると、スーツの上を返して謝罪した。
「も、申し訳ない! どうやら、少々暴走してしまったようだ」
受け取ったジャケットを羽織るおじさん。
「まあ、間に合ってよかった。こっちも、もっと早く指摘すればよかったな」
ほっとひと安心したところで、改めて女の子の姿を確認した。
鹿撃ち帽と呼ばれる、チェック柄の入った探偵の帽子。髪は肩までのミディアムヘアーだ。
ブレザータイプの制服は、青いジャケットに黄色いボタン。リボンの代わりに、襟で赤い蝶ネクタイを留めている。おそらく、学校指定のものではないだろう。
下はグレーのスカート。足元には、なぜかスケートボードが置かれていた。
「申し遅れた。僕は
差し出された手をとって、おじさんは握手を交わした。
「俺はおじさんだ」
聞き慣れない言葉に興味が湧いた。
「『探偵部』って?」
「なんと! 僕ときたら、まだそのことも言っていなかったじゃないか」
自分自身に恥じ入る小波。
「すまないが、少し自己紹介してもいいだろうか」
「もちろん。どうぞ」
一時はどうなることかと思ったが、彼女の礼儀正しい面を見て気を許した。
「では」
が、この後すぐにおじさんは、その判断は誤りだったと気づかされることになる。小波は自身の顔に向けて、ピッと親指を立ててみせた。
「僕は女子高生探偵、江藤小な……。おっと、BGMを忘れていた」
「び、BGM?」
「ちょっと待ってくれ」
スマホを取り出すと、慣れた手つきでツイツイと操作する。突然音楽が再生された。
『ジュルルン! ジュルルン! ジュルルン! ドッ ドッ ドッ ドッ!……』
見た目は子供、頭脳は大人な名探偵を思わせるタイトルメロディーが、爆音で鳴り出した。わけの分からない展開に、おじさんはビクッと震えた。
「これでよし。では改めまして!」
再び親指を立てる小波に、謎の恐怖心を抱いた。
(な、何だ⁉ この子はいったい、何を始める気なんだ⁉)
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