4リカ「青木シノにここだって言われたんだが」
「おじさん、こんなところで何やって……。あっ」
学校帰りに偶然通りかかったシノは、おじさんと
「ああ、この子は……」
サングラスを取り返すのを中断して、おじさんは寧を紹介しようとする。しかし、どういうわけか、シノはわなわなと震えていた。
「お、おじさん。もしかして……」
寧を指して叫んだ。
「おじさんの隠し子ですか⁉」
「違うっ!」
おじさんはすぐに否定したが、シノの思い込みは止まらなかった。ショックを受けたように頭を抱え込んだ。
「ダメじゃないですかおじさん!
無職であるとの明言は避けたシノ。配慮はありがたかったが、それなら妙な疑惑を持ち出さないでほしかった。
「違うって言ってるだろ⁉ ちょっと落ち着け。状況をよく見るんだ」
シノは辺りを見回す。脇に控えていた
「バット、金髪……。ふ、不良⁉ それに学ラン……。あ、でも」
ある一点に真剣な眼差しを向けた。ぶつぶつと
「……ある。この膨らみ、このライン。間違いない。ほかは細いのに、この双丘は……。くっ、なぜ」
自分のそれと見比べては悔しがるシノに、リカは戸惑いの色を隠せない。
「急に何なんだこのねーちゃんは。なんか目が怖いんだが」
シノは複雑な表情で
「――そうか。そういうことだったんですね? 謎はすべて解けました」
ビシッとリカに指を突きつけた。
「ずいぶん若いようですが、あなたが母親ですね⁉」
「
その否定もやはり、暴走するシノには届いていないようだった。自分の打ち出した説にひとり頷いていた。
「ヤンチャな人は早いって言いますからね。その胸も、授乳のために張ったものだと考えれば納得できます。というか、そうでないと納得いきません」
疑いが晴れるどころか、おじさんとリカは夫婦にされてしまった。それが余程嫌だったのか、初対面のシノに向かってキレていた。
「年齢的に無理があんだろーが! 寧は小4で、オレは高2だぞ!」
リカが寧を産んだとしたら、弱冠7歳で出産したことになる。リカ = 母親説は否定された。
「こ、高2……? 私と同い年……。くっ、なぜ」
それよりも、同学年という方がショックだったようだ。再び胸を凝視していた。
「シノよ、もう分かっただろ? 寧ちゃんは俺の子じゃないよ」
おじさんにも念を押されて、シノは隠し子説を取り下げた。
「隠し子でないなら、じゃあ何なんですか。ま、まさか」
何を思ったのか、半歩ほど後ずさりした。
「そ、そんな。ダメ人間なおじさんでも、守るところは守ると思ってたのに……。見損ないましたよ、おじさん」
「はあ? 何の話だ。あとしれっとダメ人間とか言うな」
「まさか、おじさんがロリコンだったなんて!」
「それも違うっ!」
背の高いシノは、醜いものを見る目でおじさんを見下した。
「それは、あれですか。こんな小さな子でも、ロリコンからしてみれば立派なレディだと。そういう意味ですか」
「そんな
「ハイエースはどこですか。どうせハイエースで来たんでしょう⁉」
「何だよハイエースって! 歩きだよ」
そんなはずはないとハイエースを探すシノに、寧とリカの関係を説明する。
「この二人は姉妹だ。俺はたまたま一緒になっただけだよ」
「姉妹……? と、ということは」
なぜか恐怖におののいた。
「こ、この子だけじゃ飽き足らず、その姉までも毒牙にかけようと……」
おじさんを軽蔑して言い放った。
「姉妹丼で食べようとしましたね⁉」
「なんでそうなるんだ⁉ ハイエースから離れろ!」
「大食いは私の分野だとばかり思っていましたが……。おじさんの方がよっぽど大食いじゃないですか!」
「ああもう、リカからも何か言ってくれ!」
しかし、リカはシノの発言をよく理解していないようだった。小首を傾げて尋ねた。
「なあおっさん。シマイドンって、何のことだ?」
きょとんとした顔で
「し、姉妹丼というのは、だな……」
悩んでいる間に、寧がリカの学ランを引っ張る。
「リカ姉、寧が教えてあげるです。姉妹丼とは」
「ちょ、ちょっと待って寧ちゃん! これ以上話をややこしくしないでくれ!」
抑え込む相手が二人に増えていた。妹の言葉を遮られたリカが不満をこぼす。
「何だよおっさん。寧が教えるってのに、なんで止めんだよ」
「君たち姉妹のことを思ってそうしてるんだよ! 子供が覚える言葉じゃない!」
事態の収拾に努めるおじさんを、シノは冷たい目でなおも追及した。
「何ですか、今更いい人ぶって。ついこの間は、私を妊婦にしたくせに!」
「妙な言い方するな! お前が大食いしただけだろうが!」
シノが言っているのはおそらく、デカ盛りチャレンジ後の一時的に膨らんだお腹のことだと思われる。『まるで妊婦さんだぞ!』とは、その時のおじさんの言葉だ。
「おっさんが、このねーちゃんを妊婦に……?」
事情を知らないリカは、シノとおじさんを交互に見つめる。いい笑顔で親指を立てた。
「やるじゃねーかおっさん。見直したぜ!」
「おい! お前まで変なこと言うな! まともなやつはいないのか⁉」
自分以外の全員に暴走されて、おじさんはもうダメだと思った。
ところが、別の話題に切り替えてくれたのは意外にも、この騒動の主犯であるシノだった。
「あれ?」
リカの姿をよく観察する。今度は局地的にではなく、全身を
「学ランにバットに金髪……。も、もしかして」
突然おじさんの手を掴んだかと思うと、自分の方へグイッと引っ張り寄せた。
「わっ! 何だ急に」
驚くおじさんに、シノは小声で耳打ちした。
『まずいですよおじさん。あの人が誰なのか、知ってて手を出そうとしたんですか?』
リカに悟られまいとするシノの考えは分からなかったが、とりあえずおじさんも声のボリュームを合わせた。
『あの人って、リカのことか? 今日初めて会ったけど。あと手を出そうとはしてないからな』
『そうですね。よく考えたら、おじさんにそんな度胸があるとは思えませんからね』
『いちいち人を傷つけなきゃ喋れんのかお前は!』
『軽口叩いてる場合じゃないですよ。今からでも遅くはありません。すぐにここから逃げるべきです』
シノが何を危惧しているのか、おじさんにはさっぱり分からなかった。
『どういうことだ? リカから逃げろってことか?』
シノは大真面目に頷いた。
『間違いありません。あれだけ特徴的な格好ですから、他人の空似はあり得ません。このあたりじゃ有名ですよ』
どうやらふざけているわけではないらしい。若干緊張しているようでもあった。
(何だ? シノはいったい、何を恐れてるんだ?)
話が見えないおじさんに、そっと
『あの人……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます