第2章 お姉ちゃんは学ランヤンキー⁉

1リカ「オス。……ん? ここでいいんだよな」

【お知らせ】


 シノ再登場後の4話からご好評をいただいております! それまでお付き合いくださればとても嬉しいです! 


 第2章ヒロイン、百衣ももい李花りかのイメージイラストです⬇️

https://kakuyomu.jp/users/jumonji_naname/news/16818093086227190210


 それでは本編をどうぞm(_ _)m




♢♢♢♢♢




「うーん。見つからないなあ」


 夕方。おじさんは土手で探し物をしていた。


 スーツが汚れるのもいとわずに、膝をついて草むらをかき分ける。視界が暗くならないよう、サングラスは額へずらしていた。


「見つからないです」


 一緒にいるのは、小学生の女の子だった。赤いランドセルを背負っている。頭のてっぺんで、髪をちょんまげのようにヘアゴムで留めていた。


「おじさん、もういいです。カメラはあきらめるです」


 どうやらカメラをなくしてしまったようだ。協力してくれたおじさんに、幼いさんかくの口で感謝する。


「探してくれて、どうもありがとうございましたです」


 癖のある丁寧語を使う子だった。一方のおじさんは探す手を止めない。


「けど、大事なものなんだろう?」

「でも、いいしゅみとも言えないですので」

「いい趣味じゃないって、カメラが?」

「はい。ねいの場合は」


 寧というのが、この子の名前らしい。なぜ写真がいい趣味でないのか、おじさんにはよく分からなかった。


「なくさなくても、やめようと思っていたところです」


 言葉ではそう言ったが、女の子は悲しそうだった。おじさんは汚れた手をパンパンと払った。


「いいかい、寧ちゃん」


 小さな肩に手を置く。まっすぐ目を見て言った。


「諦めるなくていいんだ。おじさんと違って、君はまだ間に合う」

「……いいんですか、あきらめなくても」


 幼い子に特有の半目を、寧は大きくした。おじさんは優しく背中を押してやる。


「もちろん。君の趣味は立派なものだよ」

「立派……」

「そうとも。簡単に諦めていたら、こんなおじさんになってしまうんだよ?」

「ええ……」


 思いのほか困惑されて、おじさんはちょっとへこんだ。


「と、とにかく」


 気を取り直して、改めて自己紹介をした。


「君のような若者を救うために、おじさんは反面教師のおじさん――『反面おじさん』をやっているんだ」

「反面、おじさん……」


 繰り返す寧。おじさんは再び地面に膝をついた。


「そう。あ、反面教師っていうのはね。本当の先生じゃなくて……。あれ?」


 草かげに黒光りする何かを発見した。


「もしかして……」


 期待に手を伸ばす――。


「……あった。あったよ寧ちゃん! ほら!」


 喜びつつも、おじさんは大事そうにカメラを掲げた。紐がついていたので、首にかけてやる。宝物を受け取って、寧は黒目がちな瞳を輝かせた。


「わあ……。ありがとうです、おじさん」


 照れくさそうに頬をかくおじさん。ずらしていたサングラスをかけ直した。


「お、おじさんにはこれくらい、どうってことないさ」


 挙げた手のやり場に困って、寧の頭をそっとでた。サクランボがモチーフのヘアゴムに触れると、束ねられたちょんまげがピコッと揺れる。嬉しそうに目を細めていた。


(守りたい、この笑顔――)


 反面おじさんとしての自信を、また一つつけた。その時だった。


「ん?」


 土手の道を、何者かが全力疾走してくる。二人の方へ迫っていた。


「な、何だ? ……学ラン?」


 謎の人物は学ラン姿だった。顔はよく見えないが、手に何か長いものを持っている。


「ば、バットか⁉」


 手にしていたのは金属バットだった。物凄いスピードでどんどん近づいてくる。


「こっちに突っ込んでくるぞ……。何が何だか分からんが、寧ちゃん!」


 事態は飲み込めなかったが、相手の目的が寧だとしたら、彼女だけでもかばうつもりだった。


「おじさんにしっかり抱き着くんだ!」

「?」


 状況を理解したか不明だったが、寧は言われた通りにしがみついた。おじさんは覆うようにして腕を回す。猛ダッシュしてくる相手は声を張り上げた。


「テメー!」


 それを聞いて、おじさんは驚いた。


(え、女の子?)


 乱暴な口調だったが、確かに女子の声だった。学ラン = 男だと思っていただけに混乱した。


 相手の顔が分かる距離になる。表情は怒りに満ちていたが、その顔は綺麗な少女のそれだ。ポニーテールに結われた金髪が左右に揺れる。


 おじさんは相手の胸を見た。学ランの前は開いていて、下に赤いパーカーを着ていた。


(うーん、これは女の子!w)


 走るのに合わせて揺れる膨らみをしっかりと鑑定した。


「笑ってる場合じゃない。寧ちゃんを守らねば!」


 全身を使って寧に覆いかぶさる。それを見て、謎の少女は眉を吊り上げた。本来であれば涼やかであるはずの目は、今や激情の炎に燃えていた。


(来るっ!)


 歯を食いしばって衝撃に備えた。


「オレの妹に何してんだァー!」


 少女はダイナミック・エントリーをかました。おじさんのみをピンポイントに狙った鋭い蹴りだった。

 

 スコーン!


 ボディに受けた勢いのまま、おじさんは勢いよく吹っ飛んだ。少女の的確な狙いもあって、寧はまったくの無傷である。


「ぐ、ぐふぅ……!」


 きり揉みするように宙を舞うおじさん。したたかに地面にスライディングした。


(……ま、間違いない。やっぱり、女の子だ)


 薄れゆく意識の中で、少女の姿を見上げた。


 真っ赤なパーカーの上に、詰め襟の学生服。下も、スカートではなく制服の黒ズボンだった。


 グレた男子のような出で立ちだったが、おじさんを見下ろす顔は美しく整っている。まっすぐな眉毛は、凛とした印象を抱かせた。


 切れ長の目に、赤みがかった瞳。それに同調する赤いピアスが、形のいい耳に輝いている。


 髪の毛は、やや黄色に近い金髪。ポニーテールは直毛気味で、どこか武士を連想させた。


 金属バットを右肩に担いで、いつでも振り下ろせるようにしている。左手では寧を抱き寄せていた。


 少女は地面に倒れ込むおじさんを睨みつけた。


「3秒やる。とっとと失せな、おっさん」


 やはり女の子の声だった。ピクピクと震えながら、おじさんは立ち上がろうとする。


「ね、寧ちゃんを、どうする気だ……」


 蹴りのショックによるものなのか、さっきの少女の叫びをよく理解していなかった。


「そりゃこっちのセリフだ! 妹に襲いかかってただろーが、このロリコン野郎ヤロー!」

「襲いかかってきたのはそっち……。え、妹?」


 戸惑うおじさんの前で、少女は寧の頭にポンと手を置いた。


「こいつ、オレの妹」


 おじさんは目を白黒させた。


「え、え? し、姉妹、なのか?」

「だから、さっきからそう言ってんだろーが」


 寧に確認をうながすと、彼女はこくんと頷いてこう言った。


「寧の姉です。百衣ももい李花りかというです」

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