備忘録的創作論

王子ざくり

第1話 主人公には弱点、ライバルには欠点

「主人公には弱点、ライバルには欠点を与えよ」とは小池一夫先生の有名な言葉ですが、これがどういうことか解釈すると……


主人公:弱点があって勝てないけど、努力で埋め合わせ可能

ライバル:欠点があるので、強いけど、成長に上限がある


ってことだと思ってます。


 弱点は能力が足りない部分で、欠点は資質として欠けてる部分ということです。

 簡単にいうなら、弱点は努力でどうにかなるけど、欠点はどうにもならない。




 で、これを梶原一騎先生原作の『巨人の星』にあてはめたら面白くて。

 主人公の飛雄馬を一言で表すと、こうなるんです。


 飛雄馬:野球の才能はあるけど、体が小さくてプロでは微妙(弱点)

     毒親のせいで野球しか出来ない呪いがかけられてる(欠点)


 弱点と欠点の両方を持ってるんですね。


 もっと詳しくいうと。


 野球の才能はあるけど、体が小さくてプロでは微妙(競技レベルの弱点)

 毒親のせいで野球しか出来ない呪いがかけられてる(人生レベルの欠点)


ということになります。


 巨人の星が面白いのは、飛雄馬が非人道的とさえいえる過酷な努力や身体の酷使をして「体が小さい」という弱点を克服するんですが、その努力を可能にしているのは「野球しか出来ない」という欠点なんですね。


 で、ここらへんで突っ込みが入るかもしれないので言っておくと、作中の飛雄馬は女の子とデートしたりして、野球以外のことにも手をだそうとしてるんですが、結局、野球に戻るしかなくなってしまう。


 何かを人生の軸に据えることは人生において毒にも薬にもなったりするんですが、飛雄馬の悲劇的なところは、その軸が親によって強制された「野球」だったということでしょう。


 だから、呪いなんです。


 多くの野球漫画との違いもここにあって、MAJORなんかも主人公も野球との関係に親との死別が絡んだりもしてるんですが、同世代の野球仲間との交流によって、野球への執着自体は自発的に育まれた陽性のものとして描かれています。


 ここで出た自発的という言葉も重要で、飛雄馬の野球への執着は毒親への精神的依存が核にあります。


 で、飛雄馬は「野球しか出来ない」欠点があるから出来る過酷な努力によって編み出した魔球で「体が小さい」という弱点を補うわけですが、やはり欠点があるゆえに最終的な勝者とはなりえず野球界を去って行くことになります。


 最終回で、飛雄馬は毒親の率いるチームと戦い勝利。毒親とも和解したかのように見えるのですが、やはりそれは「野球しか出来ない」呪いの延長上にあるものであり、呪いが解けるには続編でのプロ野球復帰、脇役として出演する別作品での二度目の引退を待たねばなりません。


 巨人の星の更に面白いところは、主要なライバルに欠点が無いことだったりします。


 花形満:野球の才能があって、家が金持ち

 左門豊作:野球の才能があって、貧乏だけど家族と仲が良い

 伴宙太:野球の才能はないけど家が金持ち


 みんな、左門は貧乏ですけど、プロ野球で稼げば克服できる程度の弱点でしかありません。伴の野球の才能がないというのも、彼の場合は一種の『解説役メガネキャラ』なので、欠点とはいえないでしょう。


 少なくとも全員、人生レベルにおいての欠点の持ち主ではないといえます。


 やはり思うのですが、巨人の星の特質は「野球しか出来ない」という人生レベルの欠点が、競技においてはひっくり返り、武器となっているところでしょう。大リーグボール1号を破るため花形は超人的な努力をするわけですが、これは『『『野球しか出来ない』欠点』を持たないという欠点』を彼が克服したともいえます。


 それともう1人、飛雄馬に「おまえは俺と同じ野球マシーンなんだ! 野球以外は出来ないんだ!」と突き付ける、オズマ。


 彼の場合は、自分自身を「野球マシーン」と自覚して立ち回ることで、欠点を弱点の1要素レベルに弱体化しているのではないでしょうか。



 ところでこの文章を書こうと思ったのは、さっき思い付いたこんなやりとりを書き留めるためです。


俺TUEE系主人公:「ぎゃははは。俺の勝ちだ!」

ライバル:「何故だ!あんなに努力したのに何故勝てない!俺に、何が欠けているというのだ!」

俺TUEE系主人公:「お前に欠けてるもの、それは、お前が俺ではなかったということだ!」


 いずれ各作品で、使えたらよいなと思っています。

 

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備忘録的創作論 王子ざくり @zuzunov

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