第27話 ゲーム大会もガチ





「それっではーあ! 生徒会企画新年第一弾――ゲーム大会をここに開幕しまーす!」




 たった一人の宣言と共に僕の周りで巻き上がる歓声。否、これは恐らく僕の周りだけではない。今日だけは校内の大半が似たような状況に陥っている。



 ちなみに、僕の周りはと言うと……………………



「狙うは優勝よ、灯!」

「足手纏いにならないように頑張るね!」

「よっしゃー、頑張るぜい!」



 このように、葵木、舞代、愁斗の三人がしっかり高いモチベーションで大会に臨んでいる。冷静に周囲を見渡している風の僕もまた、今日という日を楽しみにしていた。



 なぜかって? そんなの決まってる。

 今日は生徒会企画のゲーム大会が一日執り行われる日だからだ。








 時は遡って約一週間前。当然ながらこの日は学校で、僕たち生徒はそれぞれの昼休みを楽しんでいた。



『お昼休み中失礼します! 生徒会からイベントのお知らせをしまーす!

 来週同日。生徒会企画としてゲーム大会を開催します! 詳細は放課後に要項を配布しますのでそちらを確認してくださいね! とは言っても、部門が四つに分かれてるとかそういうのですけど…………

 まぁ、そう言うことなので当日まで楽しみに待っていてくださーい!』



 何が起きたかと言うと、突然生徒会から放送が流れてきたのだ。


 どうやら、生徒会企画としてゲーム大会を行うことの告知らしい。正直、放課後に配られるという企画の詳細が書かれた要項の方は僕も気になった。


 当然、午後の授業は終始そんな調子で終わりを迎え、待ち望んだ放課後が訪れた。


「よーし、じゃあホームルーム始めるぞ…………と言っても今日はプリント配るだけだがなぁ」


 と、独り言を呟きながら入ってくる担任教師にクラスメイト達が群がる。理由は言うまでもなく、配るプリントの存在だろう。


「先生、早くプリント配って!」

「俺手伝います!」


「あっ、あぁ。じゃあ頼む」


 生徒たちの珍しい行動に担任教師は困惑した表情。ただ、言葉通りプリントを配布すると、帰りのホームルームを終了させた。


「じゃあ、今日のホームルームは終わりだ。気を付けて帰れよー」


 担任教師が教室を去ると同時に、クラスメイト達は教室内で騒ぎ立て始める。無論、どうしようもない事態だ。止められないし、止めようとも思わない。



「さて…………と」



 配られたプリント、即ちゲーム大会の要項を開く。


 書いてあったことは大きくまとめて四つだった。


 

一つ、あくまでもこれは学校行事であるため、原則生徒は全員参加すること。

二つ、参加者は四つの部門の中から一つを選択し、部門ごとに競うこと。


三つ、四つの部門はそれぞれ、個人戦アナログ部門、団体戦アナログ部門、個人戦デジタル部門、団体戦デジタル部門となっている。団体戦は四人一組のチームで。


四つ、各部門のゲーム内容については当日まで明記しない。なお、申し込みの締め切りは今週末とすること。



 正直、参加の方が回避出来ないとなると、ここで考えるべきは部門だ。アナログゲームかデジタルゲームかで言えば断固後者だが、内容が分からないというのは控えめに言ってもネックである。


 あとは個人戦か、団体戦かだけど…………



「灯っ、私と組んで団体戦に出ましょ!」

「灯君、一緒に組もうよ!」



 じっくりと考える時間なくして、僕は葵木と舞代から勧誘を受けた。団体戦となるとあと一人必要だが、恐らく愁斗を誘うのだろう。 


「ちなみに、アナログ部門とデジタル部門があるけどどっちに参加するつもりなんだ?」


「一応、愁斗の意見も聞かないとだけど、私と六花はデジタル部門で行こうと思ってるわ」


 葵木はともかく、まさか舞代もデジタル部門希望とは。意外だ。


「それで、どうかな?」

「どうって?」



「私たちと、出てくれる?」



 まぁ二人が折角誘ってくれてるし、個人戦だと心細いからな。断る理由がない。


「あぁ、いいよ」




 


 ということがあり、時刻は戻って現在。


 それぞれの部門ごとにトーナメント方式の戦いは進行していき、団体戦デジタル部門では、ついに僕たちの出番が訪れることとなった。



「それでは試合番号十番! 球技大会大活躍の一年生チーム! 対する相手は…………ゲームは自信あり、三年生ゲーマーチームっ!」



 一回戦、その内容は三本勝負、二本先取の格闘ゲームだった。どうやら回戦ごとに使われるゲームが違うらしく、仮に二回戦に進めたとしても、同じ内容のゲームは出てこないとのことらしい。


 それぞれ、一番手のプレイヤーが席に着き、コントローラーを握る。ちなみにこちらの一番手は葵木である。


 キャラクター選択を終えて、ゲームスタート。


「…………行ける!」


 開始早々、葵木が仕掛ける。スピードを重視した攻撃が相手のキャラクターに直撃、ダメージが入る。


 そこからはもう、完全に葵木の独壇場だった。


 相手の攻撃を難なく見切り、持ち前のスピードと攻撃力で相手の体力ゲージを一気に削り切り、そのまま押し出してあっという間に勝利を収めた。


「やったっ!」


「葵木、ナイスプレー」

「七科ちゃん、凄い!」


 葵木、大晦日に戦った時以上にゲームの腕が上達してはいないだろうか。もう素直に褒める以外にないレベルだぞこれ。


「よし! 次は俺も頑張らないとだな!」


 そんな僕以上に感化されたのか、二番手として戦う愁斗は楽しいそうに席へと移動していく。


「見てろよ、皆! 圧勝してきてやるぜっ!」


 盛大に啖呵を切り、愁斗はノリノリで自らの動かすキャラクターを選択し、画面に視線を集中させた。



 第二ラウンドが始まり、そして、コンボの継続音と共に終わる。



 結果だけで言えば、その試合時間は僅か三十秒だった。そう、三十秒で愁斗は体力ゲージを全て削られて、敗北した。


「ごめん! 負けた!」


 コンボは愚か、立ち回りも特に意識する様子はなく、そもそもボタン配置が分かっていなかったのだろう、終始操作がおぼつかず。いくら愁斗でも流石にそんな状態で勝てるわけがない。失礼だが、これは仕方ない。


「いいよいいよ。まだ状況はイーブンだから…………じゃ行くな」



「灯君、頑張ってね!」

「負けたら承知しないよ!」

「灯、頑張れー」



 三人の応援を受けて、僕は席に着いた。手には汗のヌメヌメとした感触。心拍数はいつもよりも高い気がする。もしかすると、僕は緊張しているのかもしれない。


「よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」


 お互いに挨拶を交わし、キャラクターを選ぶ。正直もう、二年くらい触っていないゲームだからな。自信があるかと言われれば全くない。



 けど、流石に四人でゲームできる機会を一回戦で無駄にしたくはないよな。



「頑張りますか…………」


 そう呟き、感覚と記憶を重ね合わせて、キャラクターを動かす。

 ボタンの配置が見なくても分かる。コマンドの確認などしなくとも、出したいコマンドは些細な指の操作で意図して出せる。どうやら、僕の身体はまだこのゲームのことを覚えてくれていたらしい。



「おいおい、マジかよ灯。滅茶苦茶上手じゃん」



「…………流石だね、灯」



 滑らかな挙動からなるコンボに相手の三年生は対応し切れず、二分近い激闘を越えて、画面に「GAME SET」の文字が表示された。


「勝者、一年生チーム!」


 取り敢えず、一回戦は僕と葵木が二本を先取し、三年生のチームに一年生チームが勝利という結果に終わった。



 まぁ、まだ一回戦だけどね。



 その後、葵木、舞代、微力ながら愁斗の活躍もあってか僕たちは二回戦、三回戦、準決勝、と勝ち上がり、何と決勝まで来てしまった。


「何か既視感があるな……………………」


 場所は第二体育館。一か月前に球技大会があった場所だ。あの時も愁斗と舞代と葵木の活躍で決勝まで進み、そして優勝したのだったか。


 まさか、ゲーム大会でもその舞台に立つことが出来るとは、どうやら僕のチームは大会に対して強いバフを持ったメンバーが揃っているらしい。


「どの部門の優勝候補が絞られているゲーム大会。この団体戦デジタル部門ででも今まさに決勝戦と言ったところです! あっ、実況兼進行は私、放送部部長の持付陽太じつきようたで務めさせていただきます。では早速、選手紹介行ってみよう!」


 ステージのバックスクリーンには今までの戦いのハイライトが映され、時付先輩は変わらず高いテンションで決勝戦に参加する生徒の紹介を進めていく。今丁度、相手チームの紹介が終わったのだが、もう場の盛り上がりは完全に平日の学校を凌駕していた。


「では続いて、一年生チームっ!

 幅広いゲームセンスと持ち前の速攻戦術で敵を圧倒、ここまで大活躍の一番手、葵木七科っ」



 直後、スクリーンに映し出されるのは葵木の映る数々の動画や写真。これには外野、特に男子生徒からの歓声が凄い。



「続いて、その可憐な見た目から想像も付かないリズム感で音ゲー戦で大活躍。普段の静けさと応援のギャップが一部で話題となっております。転校生、舞代六花っ」



 直後に、これまたスクリーン上に映される舞代の写真、笑った顔に、少しだけ不機嫌そうな顔、真顔などバリエーションは様々、周囲からの歓声は葵木のも負けていない。っていうか、ギャップが話題となっているのは僕も知らなかった。



「どんどん行きましょう! 一年生ながら、体育祭、マラソン大会、球技大会では大活躍。今回は何を見せてくれるのか、期待の新入生、柴山愁斗!」



 前二人と同様にバックスクリーン上には多くの愁斗の写真と動画。ただ一つ異なる点があるとすれば、上がっている歓声が男子生徒のものではなく女子生徒のものとなっていることだろう。声量自体はほとんど変わっていないことが愁斗の知名度を顕著に表している。



「そして、最後。ここまでどのゲームにおいても負けなし。仲間に絶対的な安心感を与えてきたチームの切り札。舞代さんと葵木さんとの関係性も噂されております……………………佐倉灯っ!」



 まぁ、選手紹介であるため、僕の番が来るのは当然の流れ。意外だったのはこの場が冷めるかと思いきや、逆に盛り上がったことだろう。ただ、盛り上がり方が前三人と違い、純粋な歓声ではなかったような気もするが。


「会場の盛り上がってきましたねぇ…………じゃ、ここで決勝のゲーム紹介を済ませておきましょうか!」


 ここにきて、やっと決勝戦の題目が発表される。恐らく、普通に何かのゲームであることには間違いないだろう。ただ、そうすると体育館に場所を移動させたのは単なる集客のためだろうか。


「今回、団体戦デジタル部門の決勝は…………」


 実況のためと共に、後方から数名の生徒が何かを運んでいるのが見えた。が、特にそれは気にならず、意識は実況の方へ。


「タワーディフェンスです!」


 瞬間、周囲から一斉に歓声が巻き上がった。

 それにしても最後のタワーディフェンスか。今までの選抜系とは異なり、これに関してはチーム全員の参加が必要になってくる。


「ではルール説明を。

 ルールはいたってシンプル。ランダムでプレイヤーに配布される武器を使い、チームで連携して相手の拠点にあるフラッグを取れば勝ちです。ちな、リスポーンありです! はい説明終わり。プレイヤーの皆さん、ステージへ上っちゃってください!」


 実況の指示に従って、僕たちはステージ上へ。普段は全校集会などで殺風景な体育館が今はパーティーよりも盛り上がった別の場所のように見える。


「…………始まるんだな、決勝」

「そうだね」


 呟くように放った独り言に、舞代が答える。驚いて振り向くと、彼女はにこやかな笑みで僕を見つめた。


「お互い楽しもうね! ゲーム」


 そのにこやかな笑顔がこの前のイルミネーションと重なり、一瞬…………いや数瞬程ドキドキが止まらなくなってしまう。全く、戦いの前だというのに、冷静さに欠けているではないか。


「それでは、スタート画面に行きましょー!」


 席に着いたところで、キャラクターを作成する。しかし、なぜだろう。最初から僕のアバターが自分そっくりで装飾品以外変えられないのだが。


 周囲を見渡したところ、敵味方関係なくそうっぽいのでスルー。僕はそのままゲーム開始を押した。




「灯、絶対勝とうね!」




 ゲーム開始直前、一度下げた僕の左手を握って葵木は活気な笑みを浮かべていた。




 でも、どうしてか、僕は少しだけその笑顔に違和感を感じてしまった。


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