第17話 矯正~性癖は蒼いうちに打て
「今使ってるオ◯ホ、全部提出しなさい」
「はぁ!?」
て、提出って……
「ど、どうするつもりだ……?」
まさか、没収するつもりじゃ?
「心配しなくても、捨てたりしないわよ。まぁ、しばらくはお預けにしてもらうけど」
意味がわからないっ!
「な、何故に??」
すると、柚は得意げな表情で腕を組んで、
「楓の歳上嗜好の原因はズバリ、普段使ってるオ◯ホにあると思うのよ。だから、もっと若い年齢に替えることで、あんたの性癖も矯正できるんじゃないかと思って」
そんなわけあるかっ!
いや、そもそも俺の歳上趣味は確定なのか?
「いくらなんでも……それは、あまりに一方てき──」
「そう思って、代わりにそれ買ってあげたんじゃないの。流石に全部取り上げたりしたら可愛そうだし?」
いや、そういうことじゃなくてね?
「……その、トンデモ理論の信憑性のほうが気になるんだが……」
「他に原因無いじゃない」
俺の疑問に対し、柚はきっぱりと言い放つ。
こいつは意地でも俺を歳上趣味ということにしたいらしい。その上で、更にそれを矯正したいらしいのだ。
……つまり、どういうことだってばよ??
「いや、だから……俺が歳上趣味っていう前提からしておかしいんだよ。そんなの証明のしようが……」
「だーかーらー! わざわざ若い娘のモデルを選んだんじゃない。あんたが歳上趣味じゃないなら、それで問題なく解消できるはずよね?」
ぐ……、そういうことか。
でもなぁ、所詮はオ◯ホだしな。そんなものの設定年齢を論じられても……。
だが、そんな俺の懊悩を放っておいて、柚は持ってきたトートバッグからノートを取り出した。
「いい? 記録ノートも作っておいたから。……これに、使った日付と時間を書いて。あと終わるまでにかかった時間と使った回数もね。忘れずに記入するのよ?」
「なんでっ!?」
柚はそう言って、ノートを俺に押し付けてきた。表紙には、『射◯管理・記録ノート 渡辺楓』と銘打ってある。
ページを捲ると、ご丁寧に線が引いてあり1ヶ月分のマス目がきちんと区切られている。……これに、毎回記入するのか?
「ちょ、ちょっとまて……! いくらなんでも、こりゃあんまりじゃないか?」
何故、こんなプライベートゾーンの最右翼的な部分をさらけ出さなきゃならんのだ。
「断るッ! 俺は断じて拒否するぞ、こんなの!」
俺は、断固とした態度で反論した。
「だーめ、許さない」
「何が許さないだ!? そんなもん俺の一存でなんとでもなる! 断ると言ったら断るんだっ!」
「今、直さなかったら、楓ずっと歳上趣味のままで一生過ごすことになるのよ? どうするの!? 将来70歳とか80歳のおばあちゃんでなきゃ興奮できない身体になったら?」
いやそのりくつはおかしい。
「大丈夫だって! 年齢相応にその辺はバランスが取れていくもんなんだよ。俺も40過ぎたら絶対歳下趣味になってるはずだ!」
「そっちのほうが信用できないわよ! どこにそんな都合の良い性癖があるっていうの!? ロリ好きは一生ロリ好きのままなのよ!?」
なんて理不尽な物言いだ……!
世の中にとっては、ロリータ趣味の方が都合がいいというのか?
「と、とにかく! だめだ……。これだけは受け入れられないよ」
俺は、今度こそ確固たる信念を込めて、柚に拒絶の意思を伝えた。
だが、それを聞いた柚は急に、目に鋭い光を湛えて表情に冷たさを滲ませた。
「……もぅ、せっかく穏便に済ませてあげようと思ってたのに」
そう言った柚は、ゆらりと身体を反らせ俺を上から見下ろすような姿勢を取った。
「な、なんだ……。どうするつもりだ?」
不意に俺の背筋に、冷たいものが流れた気がした。
「あたしの言う通りにできないなら……こないだの、お姉ちゃんとの淫行ね。あれ……パパにばらしちゃうから」
「ぱっ……!?」
ひ、卑怯な!!
俺が、柚のパパ苦手なの知っててそんな事を……!
「い~のっかな~? パパにばれたら、きっと楓のお父さんにも話が行っちゃうと思うなぁ……そんでもって、こんなの買ってることも一緒にバレたりして───」
柚は、悪の女幹部のような勝ち誇った悪い顔で俺にそう宣告した。
くそぅっ!
なんて卑劣なやつなんだ……!!
俺の弱点をことごとく突いてきやがって……!!!
「ぐぬぬぬぬ………」
俺は、拳を握りしめながらも諦めざるを得ないと察する。
……今は雌伏の時を受け入れるほか無いのだろう。
「さ、手荒なことはしたくないわ。言われたものを出しなさい?」
台詞まで女幹部みたいなことを……。
だが、それでも俺は躊躇した。
如何に命令とはいえ、使用済み(ちゃんと洗ってはあるが)のオ◯ホを差し出すというのは……羞恥心が先に立ってしまう。
だが、俺が視線を泳がせているのを察すると、柚は……。
「場所はわかってるんだから。そこのクローゼットの奥の箱の中でしょ? 早く出して」
「!!??」
な、なんで……それを?
「ふふ~ん♪ あたしには頼もしい協力者が居るのよ」
あ……
さっき、階下で母さんと話してたのは……そのことだったのか!?
俺は、がっくりと肩を落とす。
だめだ、内通者が居るんじゃ俺に勝ち目はない。
母親にしっかりバレていたこともショックだったが、もはやそれさえも些細な問題のような気がしていた。
俺は、完全に諦観に満たされて、クローゼットを開けその奥に隠しておいたオ◯ホを取り出した。……全部で3つだ。
綺麗なタオルに包まれた、オ◯ホをテーブルの上に広げて並べる。
「これで全部?」
俺は、力なく頷く。
柚は、そんな俺の様子を尻目に、ひとつひとつ吟味してく。
……まるで、拳銃摘発のガサ入れのようだ。
俺は、正座してその様子を眺めていた。
すると、柚はそのうちの一つを持ち上げ、くんくんと匂いを確認していた。
……こういうのって、女の子なら絶対気持ち悪いと思うんだけど、なんで平気なんだコイツは? おまけに、全部使用済みだぞそれ……もちろん、毎回ちゃんときれいに洗ってはあるが。
「……あー、これのことかぁ、油っぽい匂いって」
ん?
「油っぽい?」
「独特の匂いあるよね、コレって」
慣れてきたからあまり気にならなかったが、そういえば少し薬品っぽい油のような感じの匂いがするかもしれない。
すると柚は、先程届いていた通販の箱の中を覗き込んで、何やら探り始めた。
「あ、あった。これこれ」
見ると、柚は白くて丸い
俺の疑問が湧くよりも早く、柚はその缶の包装フィルムを剥がして蓋を開けていた。
「洗うのは、ちゃんとしてるみたいだけど……」
そう言って柚は、缶(シ○カロール・デオ)に付属のパフを取り出し、おしろいのような粉を乗せてオ◯ホにぱたぱたとはたいて白い粉を纏わり付かせた。
辺りにミルクっぽい、いい匂いが漂い始める。
「こうしておくと、雑菌が増えないし匂いも防げるんだって」
「へー……」
知らなかったなぁ、洗って拭いて乾かしておけばいいのかと思ってたよ。
「それから……」
すると柚は再び段ボール箱から何かを取り出した。
……まだ何か準備していたのか。
再び包装を破って取り出したそれは、白くて細い棒。長さは20cmくらいだろうか。
「これをこうして……」
柚は、俺の眼の前でいきなりオ◯ホの穴に、ずぼっと、その白い棒を突き立てた。
「ひっ……!?」
あまりに無造作に差し込まれたので、俺は思わず腰が引けるほど驚いてしまった。
「これは珪藻土スティックよ。こうすると、中の湿気が乾いてカビの繁殖を抑えられるんだってさ」
……まさか、女の子からオ◯ホの正しい取り扱い方を教わることになるとは。
「……ずいぶん、熱心に知識を仕入れてたんだな」
俺は、少し呆れながらも柚の事前学習の深さに、素直に感心していた。
そういえばこいつ、学力は俺と同じくらいのくせに、飲み込みはやたらと早いんだよな。本気出したら、もっと上の学校も狙えたんじゃないのかな……?
「そりゃね、せっかく買うんだし長く使ってほしいし。間違った扱いしてたら長持ちしないでしょう?」
柚の口ぶりからも、真面目に情報を仕入れていたことが窺える。
更に柚は、
「使い方はわかる? 手に持って使う他に、床に固定して───」
「い、いや……ちょ、ちょっと待て! ストップ───!」
流石にもう限界だ。
いくら真面目に話されても、それ以上は俺の精神が持たない。
………………
その後、他の全てのオ◯ホも処置を終えて、それを再びタオルでくるんだあと、柚は一つずつ丁寧にトートバッグへと仕舞い込んだ。
あぁ……やっぱり没収されるんだ。
さようなら、愛しのマイホールたちよ……。
「じゃあ、今日からはこっちね」
そう言って、新品の『リアライズ17』を俺の前に、ずいっ、と押し出して寄越す。
「ちゃんと教えた通り、綺麗にして保管するのよ、分かった?」
「……はい」
「記録も、ちゃんと付けてね」
「…………」
……やっぱり記録しないとダメなのか?
「返事は?」
「……………ハイ」
嗚呼、どうなってしまうんだ俺の日常は─────
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