第5話 懊悩~気づいた時、それは悩みとなって形作られる
俺は、注文確定のボタンを押した。
──────────────────
それから二日後────。
渾身の解決手段を講じた後も、相変わらず朝夕の登下校は楓一人だった。
次の日には反応があると思っていた例の贈り物は、届いてるんだかどうなのか。
今朝も、柚の様子は相変わらずだったし。
「はぁ~……」
思わず、ため息が出てしまう。
俺、こんなにナイーヴだったのかな。
近年、感じたことのないほどの自身の落ち込みっぷりに、自分自身が驚いているほどだった。
物心ついた時から、ずっと一緒だった隣に住む幼馴染の女の子。
もちろん、これからもずっと一緒なんてありえないことは、頭ではわかっていた。いずれ別々の道を歩くことになるということも。
その時が、今訪れた
そいういうことなのだろうか。
あまりに、不意に訪れた日常の終わりに、自分自身の気持ちが追いついていないような、そんなふわふわした気持ちだった。
………………………………
「ただいまー……」
俺は、自宅に戻ってきて勝手口の戸を開けた。
「あぁ、おかえり。また、箱届いてるよ~」
帰宅した俺に、毎度の如くアバウトな内容を告げてくる俺の母。
「はぁ、だから……なんだよ箱って……!」
煮詰まった心境も相まって、いつもよりも更に険のある答えをしてしまう俺。
だが、母親はそんな俺の苛立ちも全く意に介さずに……。
「いつもの通販の箱だよ、そこに置いてあるから──」
は?
なんだって──!?
俺は、自分宛に注文なんかしていないぞ。
まさか、また誤配か!?
冗談だろ、これが誤配だとしたらもう一回注文し直さなきゃならないじゃないかよ、ふざけんな!
さらに苛立ちを募らせながら、リビングの俺の椅子の上に置いてある見慣れたロゴの入った段ボール箱を手に取る。いつものより、二回り以上も大きなものだ。
「……だから、ちゃんと確認して受けとれよ、ったく……!」
ぶつくさと文句をいいながら宛名を確認する。
送り状の宛名は『渡辺 楓 様』
あれ? ほんとに俺宛だ。
もしかして、注文の仕方間違えたかな?
が、その宛名の下には普段は見かけない表示がしてあった。
【このお届けものはギフト(贈物)です。 贈り主:渡辺 柚 様】
──────!!
────俺は、箱を抱えて、二階の自室へと駆け上がった。
「はっ、はぁ……!」
呼吸が荒いのが自分でもわかるが、それ以上に高揚感が抑えきれなかった。
自室に飛び込んで、鍵をかけた。
そして、床に座り込んでもう一度、送り状の記載内容を確認する。
間違いない、俺宛だ。
そして、柚がわざわざこれを送ってきたという意味を察する。
「ゆず……!」
俺は辛抱たまらずに、箱の梱包を荒々しく破いていく───。
箱の中身は、ギフトと言いつつ簡素な包み。その中には、俺が柚に送ったものとは別のお菓子のセットが詰め込まれていた。ざっと見ただけでも、俺の好きなチョコパイやハッピーターン、柿の種等。間違いなく俺のために柚が選んでくれたことが感じられるチョイスだった。
そして、申し訳程度に添えられた、二つ折りのメッセージカード。
『楓へ
お菓子ありがとう、うれしかったよ。
この間はごめんね、追い返しちゃって。
今ならちゃんと話せると思う。
届いたら、これ持ってうちに来て。
多分、その日は誰もいないと思うから。 柚より』
「────はぁっ……! ……ゆ……ずっ……!!」
俺は、手紙を握りしめて───思わず、涙をこぼしていた。
知らなかった。
手紙って、貰うとこんなに嬉しいものなんだ。
俺は、すぐに着替えて、
それから、送られてきた開封済みの箱を抱えて、隣の家に向かった。
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