第15話 大盗賊?ライラック!!

気がつくと俺達は一定の間隔で盗賊達に囲まれた。


ヘリオスダンジョンの盗賊はモンスターよりもタチが悪い。


大体10階層付近に根城を持ち、冒険初心者パーティを見ると金目の物を奪い取る。上級冒険者には見向きもしない。

だが、冒険から帰還する上級冒険者は別だ。


大体の冒険者は帰還路につく時は疲労感でいっぱいだ。

命からがら引き上げる者。

上級モンスターの素材を山ほど持ってクタクタになって帰る者。

会心の冒険を経て意気揚々と引き上げる者。


皆、10階層辺りまで戻るとあと少しで地上に戻れる油断が生じる。

その隙を狙って盗賊達はお宝満載のパーティを襲い、パーティが命懸けで手に入れた物を奪い取るのだ。

な?タチ悪いだろ?


いつだったか、俺たちパーティに現れた盗賊をフルボッコにした覚えがある。


ガチャン!!


広間のステージがライトアップされて一人の男が映し出された!!


「レディース!!ア〜ンド、ジェントルマン!!♪」

「今宵は私、大盗賊ライラックの素敵なショーにィ〜ッ♪… ようこそっっ!!」


とライトの真ん中には七三分けの背の低い痩せっぽちのローブを羽織ったみすぼらしい男が立っている。


ん?


なんか見た事あるぞ?


あ!!この前みんなでフルボッコにした盗賊だ!!


「お前がダンジョンに来るのをず〜…っと!! 

待ってたぜ??

リオンッッッ!!」


「そりゃどうも?

俺は待ってないけどな?

なんだ?この前の仕返しか?」


「ふっふっふっ…


そぉのぉ〜とおーりっだっっ!!!!」


かー。相変わらずクセが強いなライラックの野郎。


「お前らにコケにされてから〜…

ず〜…っと!!

仕返しする事しか考えてねえっっ!!」


「もっと他に考えた方が良いぞ?

経済とか財テクとか。」


「将来の事とか?」とアローラ。


「お!それ大事だよな。

よし!!ライラック!!みんなでお前の将来を考えてやろう!!」


「ふむ!モゴッモゴッモゴモゴモゴォォオ!!」


「アーッッッ!?ナルシス!!何食べてんのよ!?

そのアップルパイ明日のオヤツなのにーっっ!!」


「モゴ? モゴッモゴモゴォォオ?」


「吐け!!このバカナルシスっっ!!」

と、アップルパイを口に頬張ってるナルシスの首を掴みガクガクと振るアローラ。

「モゴモゴぉぉぉーッッッ!?」

オイオイほどほどにな?死んじゃうから!


「うるせーッッッ!!」


唐突にライラックの叫び声が広間に響く。

「ふざけんのもいい加減にしろよ!?

この前、俺達に食らわせた仕打ち…

忘れちゃあいねえよなあ!?

絶対タダじゃおかねえ!!」


「ん?仕打ち?… ん?」


あれ?なんだっけ?

俺、何かそんなに恨み買う様な事したっけ?


「忘れたのか?お前ら…?」


「お?おおう?おお!?忘れてねえよ?」


ヒソヒソ(なんだっけ?アローラ?)

ヒソヒソ(顔にヒゲ書いたやつ?)

ヒソヒソ(そんな事であんなに怒るか?)

ヒソヒソ(じゃあ、ズボン脱がしてパンツ一枚にした?)

ヒソヒソ(え?そんな事したっけ?)

ヒソヒソ(逆さはりつけ?とか?)

ヒソヒソ(そんな酷い事するかよ!?)


「本当に忘れたのか?…」

ブルブルと震えるライラック。


「俺達の顔にヒゲを書いてパンツ一枚で逆さはりつけにしたんだよーっっっ!!!!」腕を大きく振り回して怒るライラック。

 

「全部してたーっっっ!!!!!!」

目を丸くした驚愕の俺たち。

スマン!!ライラック!!忘れていた!!


「わ、悪かった。ライラック?忘れてたわけじゃないんだ。ただ、俺の心からすり抜けたって言うか…」


「忘れてんじゃねーかっっっ!!!!」

当然怒るわな。


「しかし、こんなにモゴモゴをモゴできまい?何かの間違いではモゴモゴモゴモゴ…か?」


「食うか弁明するかどっちかにせいや!!このボケが!!!!」

あちゃ。ますますライラックの傷ついたハートに火をつけたよナルシス。


「お前らがはりつけにしたのは俺様と俺の直近の手下10人。」と、気を取り直してライラックがさらに続ける。

「そして、リオン?

ふふふ。その他にお前に昔から恨みを持ってる盗賊が集まったのさ」

「いわばぁ? リオンに恨みを持ってる連合軍だぁぁっっ!!!!!!」と、大きな花火を打ち上げた様にライラックが叫ぶ!


「あんた、いったいどんだけ恨み買ってんのよ…?」とやや引き気味のアローラ。

「いや、俺もこんなに恨み買ってるとは思わねーよ。

逆に傷ついたわ…」と、ちょっとしょぼくれた。いや、マジで。


「こんだけの人数に恨みを買うとは、お前は一体どこで何をしとるんじゃ?」

トム爺も呆れ顔だ。

「ホント、リオンといると飽きないねえ♪ケケケ」ギャルは楽しんでる。


ドスーンッッッ!!


いきなり大きな斧が振り下ろされ俺たちの会話を遮る。


俺の目の前にはクマの様な大男がその斧を持ち上げて見下ろしてきた。

「おい!!ライラック!!

いつまでくっちゃべってんだ!?

もう、俺は我慢できねえぞ!

リオン?覚悟は良いだろうな?」

と野太い声で俺をニヤリと睨む。


「おいっ!!

誰も手を出すなッッッ!!

コイツとは俺がサシでやる!!!!」


こいつも見た事あるな?

賭博場で俺にイカサマを見抜かれて胴元の親分さんに怒られてたヤツだ。


「殺せ!リオンを殺せ!!」と、盗賊連合軍が騒ぎ出す!


「リオンッッッ!!

賭博場じゃあ世話になったな?

お陰で俺は親分にコテンパンにされてよ〜

あのシマから外されちまった!!

一からやり直しだ…」


「良いじゃねーか?

人間いつでもやり直せるもんだぜ?

あ〜… お前はクマか?クマの場合はどうなんだろ?」


ブチッ


ん?なんか切れた音がしたぞ?


「ぶっ殺すッッッ!!」

 

カアァァァァーンッッッ!!!!


突如、甲高い音が鳴り響く!!


「にひっ♪」


フライパンとオタマを持ったギャルがイタズラっぽく笑っていた。


どうやら戦いのゴングが鳴ったようだ。

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