第14話 モンスターより厄介な者

再出発してから小一時間。


5階層の「ビショップ」のお客さんに手紙の配達後、昼食を食べて今日の宿がある10階層の「ルーク」に向かって走りだす。


バウンッ!!


少し盛り上がった路面を軽くジャンプする赤い二人乗りのクロスカブ。


「飛ばすよー!しっかり捕まっててねギャル!!」

「いっけ!いっけェェーッッ!!キャハハハ!!!!」


先頭を走るアローラとギャルは爆買いの件が嘘みたいにすっかりご機嫌だ。

やはり、仲間の笑い声は聞いていても楽しい。フフフ。


しかし、見晴らしの良い草原をゴーグルを付けてスーパーカブで走っていると、ここが本当にダンジョンの中なのか外なのかわからなくなってくるなあ。


「魔法の力でこのダンジョンが作られたって言うけどさ。

いつ来てもダンジョンの中とは思えねーよな?」


「やはり噂通り、このダンジョンの各階層は別の場所と繋がってるのかもしれんな?」とナルシス。


「確かに。ダンジョンテーマパークとして、昔に時のヘリオス王が山を地下に掘り進めて各階層ごとにいろんな外の景色を取り合わせて作ったそうじゃが、魔法で異空間と繋げる事に成功したのかもの?」トム爺が答える。


「魔法ってホント便利だなあオイ!?」

今度ジョブチェンジ真剣に考えよう。

と、ダンジョン内の「草原エリア」をゆる〜く気持ち良く4台のカブで走る。


直接太陽が当たってる訳ではないのだが、それに近い温もりや光線が周りを照らしている。

どっかの景色の良い場所を断片的に繋ぎ合わせて非現実的な空間を味合わせてくれる。

時のヘリオス王はこれを自身の権力として世間に知らしめた。

今ではモンスターの巣になっているが、それも冒険者のテーマパークとして考えると時を超えて旧ヘリオス王が成し遂げた事業は成功したのかもしれない。


すれ違ったり、通り越していく他の冒険者達に屈託のない笑顔で手を振るアローラとギャル。

冒険者達も笑顔で手を振ったり、異世界の乗り物にビビる人もいたり、2人にデレデレする奴らもいる。

カップル達のデートコースとしても利用されている「草原エリア」はのどかで好きだな。


「草原エリア」を通り過ぎると洞窟の入り口がある。

薄暗い洞窟内を走ると岩肌が露出して少し味気ないが、コンサートホールの様な広い空間が出てくる。

作られた当時は楽団や歌い手のコンサートや演劇などが行われていたのかステージもある。

座席は無いからオールスタンディングスタイルか椅子を並べて楽しんでいたのだろう。


この大広場は「草原エリア」と違って陽の光は入ってこない。


その代わり、天井や壁にはヒカリゴケやオオホタル、ヒカリクラゲ等の成分を調合した塗料が塗られ、陽の光とはまた違った幻想的な明るさがある。

この塗料は他のダンジョン内の各部屋や洞窟にも塗られてる所が多々あり、比較的タイマツに頼らなくても良いのがヘリオスダンジョンの特徴でもあるんだ。


冒険者達はここを小休憩の間として使う者もいる。


「トム爺。ちょっと休憩しないか?小腹が減ったよ」


「オヤツ!?オヤツ!さんっせーいっ♪」ギャルのその言葉にみんな大爆笑だ。


「そうじゃな。わしも少し疲れた。少し休憩して10階層の宿に向かうとするか」


広間の端にカブを停めて、ちょっとしたティーブレイクを挟む事にした。


「うまい!!なんとエクセレントなタルトだ!!」

アローラが用意していた木イチゴのタルトにナルシスは大興奮だ!

そう、意外とナルシスは甘い物に目が無い。

「でしょ?フィンセントの木イチゴタルトだからね?味わって食べてよねえ〜♪」と満面の笑みでかぶりつくアローラ。

「しあわせ〜♡」


「ふむ。確かにこれはイケるの。どれ、もう一つ」

「おじいちゃん、ウチが取ってあげるよ〜♪」とトム爺の分のタルトを取ろうとするギャル。

「すまんな」と微笑むトム爺。

この二人見てるとほんとの祖父と孫に見えるな。


でも、確かに美味いタルトだ。今度店に行ってみよう。


しかし、みんなとお茶をしながら俺は何か違和感を感じている。

ナルシスを見ると指に付いたクリームを舐めながらコクリと頷く。

ナルシスも何か気づいたみたいだ。


その違和感とは?

そう、人がいないんだ。


「なあ?なんで誰もいないんだ?

いつもならこの広間はもっと他の冒険者達がいて俺たちみたいに休憩とかしていてもおかしくないのに?」と、みんなに疑問を投げかけてみる。


「そうねえ?いつもなら少なくても3つ4つのパーティがいてもおかしくないよねモゴッモゴッ…」とタルトを頬張りながらアローラ。



ジャリ…


「ウチらの貸し切りジャン!?ヤバくね!?もっと盛り上がろうよ!!ウェーイ!!♪」とギャルは立ち上がってタルトを口に咥えたまま腕を縦に振って踊り出す。


ジャリ…

ジャリ…と、薄暗くてよく見えないが広間の出入り口から微かに聞こえてくる足音が増えてきた。


「リオン」


「ああ、お客さんみたいだなナルシス」


俺とナルシスは立ち上がって剣を抜く。


俺たちを取り囲む様に30人以上はいそうだな。


モンスターより厄介な者。


盗賊だ。

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