第8話 Are you ready? 前編。
朝起きると、理由も分からず涙が出ている。
何か大切な何かを忘れている気がする。
なんだろう?
鏡を覗くと、思い出した…
アローラに殴られてポッコリ腫れて、その痛みで涙が出ているんだ…
クソッ!!
結局、あのクラブ騒動の後に逃げきれずにアローラの鉄拳制裁が俺の左頬に当たり、大きく腫れ上がったのだ。
もう、三日も経つのにようやく腫れが引き始めたところだ。あのゴリラ女め!!
とりあえずシャワーを浴びてその後に絆創膏を貼って頬の腫れを誤魔化すか。
******
シャワーの後、髭を剃りやや短めの茶髪を整える。まあ、いつもの無造作ヘアだ。
いよいよ今日はダンジョン最下層への出発の日だ。
朝メシ食って、着替える。
俺はガッシリした鎧は好きじゃない。いつも薄い鎧、ライトメールを愛用している。俺の剣技はスピードが命だからゴテゴテした装備だと、逆に命に関わるのだ。
でも、このライトメールは教会で「神の加護」という魔法を掛けてもらってるから、強力な防御力を持っている。値段は高くついたが、命には変えられない。あとは、ガントレットとブーツ。これも薄皮だが、ライトメールと同様に「神の加護」が付いている。
武器は親父から引き継いでいる長剣。名のある剣の様だが、剣の名前が擦れて読めない。刃こぼれ一つ無く、ものすごく切れる。冒険に欠かせない俺の相棒だ。
おっと、忘れちゃいけない。俺のとっておきがある。
これも親父ゆずりのアイテム。冒険の時には必ず持って行く。
バサァッっとひるがえし肩に掛ける。
俺のアーティファクト
「風切りのマント」だ。
俺達の世界にはアイテムも2種類ある。
魔法が掛かった「マジックアイテム」
これは魔力が無くなるとただの装備に成り下がる。
もう一つは「アーティファクト」
言い伝えでは古代に神様が「神々の戦」の時に作られたマジックアイテムで魔力が切れる事なく、とてつもない効果があるアイテムだ。
「風切りのマント」には何度も窮地を助けてもらった。俺の冒険には欠かせないアイテムだ。
食料、ポーション、アイテムの類はトム爺が用意してくれてる。
自分の装備を整えたら出発準備OKだ。
親父の建てた一軒家を俺は守っている。小さな素朴な家なんだけど、俺の城さ。部屋を見渡し、次にこの家に戻る時はいつだろう?
おっと、忘れるところだった。
親父とお袋の肖像画に挨拶をしなくちゃ。
「じゃあ親父、お袋、行ってくるよ」
********
「トム爺の郵便屋さん」に着くとみんな揃っていた。
「リオン!!やはりお前の冒険者の姿は美しい!!」と騎士の甲冑に身を包んだナルシスが出迎えた。
「ナルシス。お前もそのナイトメールが1番似合うぜ!!」と、ナルシスの胸を軽く拳の裏側で叩く。
「フッ、当然だ!!」と顔を上げながら額に手を当てるいつものドヤ顔だ。
「ふん!冒険に出る前にケガをするのは如何にもお前らしいの。」と、奥の部屋から俺の頬の絆創膏を見ながらトム爺が出てきた。
「アローラに言ってくれよ!」
「ふん!気を緩め過ぎじゃ!そんなんじゃ最下層まで辿り着けんぞ!!」
いきなり説教かよ⁉︎
クソッ!あのアバズレゴリラ女め!
「…今度はホントに殺すよ?…」
ボソッと俺の真後ろででアローラが呟いた。
「うわああぁぁぁッッッ!!ゴメンなさい!!!!!!」と思わずナルシスの後ろに隠れた!!
「フン!!」と用意してある荷物の方に向かうアローラ。
本当に俺の心を読めてんじゃないだろうな⁉︎ 怖いわホントに!!
アローラは冒険の時はいつものワンピースじゃなくて、胸元が少し見えるデザインのノースリーブのハイネックにショートパンツ。それにローブを着る。肩に掛かるブロンドは後ろ髪をクルンとアップにまとめてある。
その、うなじと長い足に世の中の男どもは騙されるのだ。本当は男好きのアバズ…やめておこう。今度は本当に命の危険を感じる。
ワンピースじゃなくてショートパンツにするのは動きやすいって理由らしい。如何にも武闘派魔法使いのアローラらしい考えだ。
「オッスー!リオン!!キャハハハ!!なになに⁉︎まだアロっちにボコられたとこ治んないの?ほんとウケるんですけど⁉︎」と満面の笑みでギャルが寄ってきた。
「相変わらず今からダンジョン行くのか?って格好だな⁉︎ギャル!」
「なになに?ウチの格好そんなにカワイイ?」と目をキラキラしながら聞いてくる。
動き回るとパンツが見えそうになる程短いスカートに、ブラウスにブレザーを着こなしたギャルはクルンと体を回転し、ふわふわのカールの掛かった茶髪をなびかせる。
背中にはショッキングピンクのポーチ兼用の弓と矢を入れた矢筒を掛けている。
そう、ギャルは弓矢の達人だ。彼女の右に出る弓使いは俺は知らない。
「どんな耳してんだよ⁉︎
それと、もっと長いスカート履けよ?見えるぞ!!」
「あ!おじーちゃん!!なになに?そんな重い荷物持ってー!ウチが手伝うし!」と、トム爺の方に駆け寄る。
「年寄り扱いするな!小娘が!!」
俺の話し聞いちゃいねえ!!
まあ、良いか。なんだかんだと年寄りを労る気持ちを持つ優しい心を持つのがギャルの良いところでもある。
そのトム爺は作業のしやすい上下のツナギの上にローブを纏いドワーフのトム爺からみるとかなり大きいリュックを背負っている。
このリュックがトム爺に欠かせないアイテムだ。
ドワーフの技術で作られた革製のリュックの中は不思議とかなりの量のアイテムや食料を詰め込む事ができる。一度持たせてもらった事があるけど、結構軽いんだよこれ。一体どんな仕掛けになってるのだろう?ドワーフの細工技術はこういう所にも活かされているんだ。
「ん。ニンジャはどこだ?」と見渡すと同時に
シュッ!!スタッ!!と、降り立ち腕を組んで俺の背後に立つニンジャ。
「うわああーッッッ!!!!!!ビックリした!!!!やめて!!それ、ホントに!!」
うんうんと頷くと シュッ!!とまたどこかに消える。
「ほんと、ニンニンはリオンの事好きだねー。ホントウケるわー キャハハ!」とギャルは大笑い。周りの仲間たちも大ウケだ。
ギャルがいると途端に周りの空気が明るくなる。これもギャルのスキルだろう。
ギャルはあだ名を付けるのが得意だ。
ナルシスは「ナルたん」
アローラは「アロっち」
ニンジャは「ニンニン」
トム爺は「おじいちゃん」これはトム爺は年寄り扱いされるから嫌がっているが、実は満更でもない。おじいちゃんと孫の様な関係を気に入ってるみたいだ。声には出さないけどね。
で、俺はリオン。 あだ名が無い…
気になって前に聞いた事がある。
「えー?リオンはリオンじゃん?」
で、終わった。
なんか寂しいんですけど〜っっっ!!
と、心の声が泣いてるとトム爺の号令が掛かった。
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