第4話  異世界のスーパーカブ

俺達が配達で乗っているスーパーカブの事をトム爺に聞いてみると予想もしていなかった10年前の地震の話が始まった。

忘れるわけが無い。あの地震の時に俺の親父は行方不明になっちまった。


「あの地震以来各地で不思議な現象が起き出した。

いつもの様に畑に行って野菜を収穫していたら何やら見た事も無いものが土の中から出てきた…

それがあの乗り物じゃ。」


「あの地震以来、他の街や村でもその手の話を聞く様になったよな。この世の物とは思えない物が掘り出される事があるって」


「フッ…まるで異世界に繋がってるみたいではないか?」


「なにそれ?冗談…やめてよ」と、ちょっとビビりながらアローラが聞く。


「いつもでは無いが、時折得体の知れない物がわしの畑から出てくる。ナルシスが言うように異世界とやらと繋がってるのかもしれんな」


ゴクッ…とビールを飲む音が響く。


「何台かよく似た乗り物が掘り起こされたので納屋に入れておく事にした。馬車で手紙や荷物を運ぶのも良いが、あのカブは小回りも聞いて何より速いからのお。荷物が入る大きなおにぎり型の箱も付いておるのでわしの店で使う事にしたんじゃよ。」


「なんでカブって名前なんだ?」


「カブ畑から掘り起こした物じゃからのカブと名づけた」

ガクッと来た…じゃあ、カボチャ畑ならスーパーカボチャだったのか?


「なんでスーパーが付いたのよ?」


「後ろに付いておるオニギリ型の箱の中に、収穫した野菜が大量に入るもんで、すごいカブという意味でスーパーカブと名づけたのじゃ」


「あははははは…」苦笑だ。

俺もアローラもそのネーミングセンスに呆れて物が言えない、が…


「なんという美しいネーミングセンス!!さすがトム爺!!」となぜかナルシスは大絶賛だ。

「分かってくれるか?ナルシスッ!!」


あーあ。ガブガブとビール飲んで、なんか盛り上がってるよこの2人。


「それにしても、よく動いたよな?そんな土の中から出てきた物。そんな得体の知らない機械にも蘇生魔法が効くのか?」とテーブルに並ぶ料理を頬張りながら聞いてみる。


「蘇生魔法では無くその機械の時間を戻したんじゃ。

逆行魔法で、カブが動いていた"時“にカブを戻した」


「魔法すげ—ッッッ!!そんな事できるのかよ⁉︎

俺も魔法使いになれば良かった!!」


「ほーっほっほっほ♪もっと褒めても良いのよ♪」となぜかドヤ顔のアローラ。

別にアローラが治したわけじゃないのに…

「なんか言ったッッッ?」

「いえ!!何も!!」


「なんか、騒がしいと思ったらあんた達かい?」と、店の奥から少しふっくらした中年の女性が出てきた。

この店の主人スーダンだ。


「お〜 スーダン。頼まれていたスパイスが届いたんで持ってきたのじゃ」とトム爺がカバンから小さな包箱を取り出した。

どうやらトム爺は酒を飲みがてら荷物を届けに来た様だ。仕事熱心な事だ。


「ありがとねトム爺。当店自慢のスパイスを切らしたら大変だからね。

それは、そうとナルシス!!

あんた、目立ちすぎるから変装とかしたらどうだい⁉︎あんたがいるだけでお店は大騒ぎだよ」


「フッ美しきは罪…これも俺が生まれ持った宿命というやつか?」と、左手を胸に当て、右手を額に当てた。


「あーっっっ!!」と、急にアローラが叫ぶもんで料理が喉に詰まりそうになった。ゲホッ

「もう、こんな時間⁉︎ 今日はルーニーがうちに来る日だった!!

リオンあたし、もう帰るね!!」


「なんだ?新しい男か?」


「正確に言うと新しく増えたのよ♡」と口に手を当て、ニンマリと微笑むとそそくさとテーブルを後にした。

とんだアバズレだ。


やれやれと、ビールを口にすると

「おや?リオンじゃないか?アローラは男のとこかい?私達と飲み直さない?」

と、別のテーブルのエルフのシーラやハーフウルフの女の子達から声が掛かる。


「よう、シーラ。良いね。今夜はもう少し飲みたいんだ。アバズレがいない間に盛りあがろう!!」


「アハハハッッッ!!アバズレって!!アローラが聞くと怒るよ!!アハハハハ!!」


「構うもんか〜。あいつが男癖が悪いのはホントの事だもんよ!」

「フッ、恋多き女…それも美しい!!そして美しい今宵の酒と君達に乾杯だ!!」


「キャーッッッ!!ナルシス様〜ッッッ!!♡♡♡」


「こら!!女達を煽るな!!店を出禁にするぞ!!」とスーダンが怒る。


「スーダンのかまど亭」はいつものように賑やかにそして華やかに冒険者達の疲れを癒す。まるでこれから起こる冒険の前夜祭の様に夜が更けていった。

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