第5話 ダンジョンの郵便屋さん。

ヘリオスのダンジョンは最下層の地下30階層まであり、入り口の1階層から20階層まで5階層ごとにちょっとした休憩場所のような集落がある。

20階層から先は地下城があり、モンスターも強力で大型種族も住み着き、危険なので集落は無い。全くの無法地帯だ。


四つの集落には宿もあれば飲食店やアイテム、ポーション、武器、などいろいろと揃える店もあり魔法の力で昼間の様な明るさが一日中続く。でも、夜はあるんだ。そう、白夜のように。

川もあれば森もある。ちょっとした湖、温泉なんかもある。

その集落にはモンスターが入れない様に魔力で結界が張ってあるけど、時折り集落に入り込もうとするモンスターがいるもんで、ヘリオス城からそういうモンスターを退治する為に自衛兵が派遣され、集落の安全と平和が守られているんだ。



で、突然だけど、

俺は今、モンスターに囲まれている。


「お前、金、持ってイル。な?

肉もアルだろう?置いていく?」


ゴブリン3匹。


「おいおい?待ってくれよ?俺はその先の10階層の「ルーク」にこの手紙と荷物を届けなきゃなんねーんだ。

お前達が欲しいものはもってねーよ?」


ダンジョンの四つの集落にはそれぞれ名前がある。5階層からビショップ、ルーク、クイーン、キング。

チェスみたいだろ?


その「ルーク」の入り口とは目と鼻の先でゴブリン3匹に囲まれた。


「そうか?なら、そのニモツ俺たちが届けてヤル」


「マジか⁉︎そりゃ助かるーっ!!ってわけいかねーわな?

俺は郵便屋さんだぜ?

悪いけど通してくれよ?お客さん待ってんだよ?」と、カブのエンジンを空ぶかしする。


「知らンッッッ!!俺たちによこセッッッ!!」


俺を囲んでるゴブリンが一斉に襲いかかる!!

同時にアクセルターンで3匹のゴブリンを薙ぎ倒す。


「ふっふっふっ さて、ショータイムの始まりだぜ?」ニヤリ


不適な笑みを浮かべながら、カブから降りて腰に下げている剣を抜く。最近、本格的な冒険が無いからこういうシチュエーションに飢えてんだ。


「キ、キサマーっっっ!!覚悟しろヨ!!」ゴブリンのリーダーが叫ぶのと同時に2匹のゴブリンの剣が俺に襲いかかる。


スピード勝負だ!!

上半身の動きだけで2匹のゴブリンの剣捌きをかわす。


「天国に行けるか…」


ゴブリンのリーダーに向かって一直線!!


「地獄に行くか…」


ゴブリンリーダーの頭上に真っ直ぐに剣が振り落ろされる!!


「神様に祈りなッッッ!!」


「ひ、ひいいいいいいいッッッ!!!!」


ゴンッ!!


ビビって目を手で覆うゴブリンリーダーの頭頂部を剣の握り手の先で叩く。


泡を吹いて気絶するゴブリンリーダー


振り向きざまに手下ゴブリンの頬を剣の腹で引っ叩く!!


「ギャビーッッッ!!」


崩れ落ちる手下ゴブリン。


残った手下ゴブリンに剣先を向けて

「心配すんな?俺は弱い奴は殺しはしねーよ。 ほら、さっさとノビてる奴らを連れて帰れ!!」


大慌てで残った1匹が伸びてる2匹を抱えて逃げる。


「まっったく!仕事の邪魔すんじゃねーよ!!」と、剣をクルンと手元で回すと鞘に戻した。俺のクセなんだ。


郵便屋さんが剣を持っていて良いのか⁉︎だって?


モンスターや盗賊に襲われる事もあるからね。万が一に備えて持っているのさ。

君たち読者諸君の郵便屋さんだって明治時代は配達中に襲いかかってくる盗賊や動物から身を守る為に拳銃を所持していたっていうじゃないか?

それと同じ事さ。


ま、襲う相手が悪かったけどね?


え?俺が強くて驚いた!だって⁉︎

俺はこう見えても宮廷剣士にスカウトされた事もある腕前だぜ?

あの程度のモンスターは相手にもならないよ。


じゃあ、なんで宮廷剣士にならなかったのか?


やめろ、聞くな、うう…涙が出てくる。


ちょっと嫌な事を思い出しながら、10階層の集落エリア「ルーク」の入り口に入ると自衛兵が入場券の提示を求めてくる。

「相変わらず見事な剣捌きだなリオン。

あんな、雑魚殺しちまえばいいのに。」


「俺は弱い者いじめは嫌いなの」

そう言いながらルークの通行書を見せる。


「あんたらも冷たいよなあ。俺が不良ゴブリンに絡まれてるの見えてたくせに、助けにも来やしねえ」


「ハハハ リオンなら大丈夫だろ?

今日も配達御苦労さん。

リオン、何度も言うが、その通行証は配達用の通行パスだからな?ダンジョンをそのまま進んで冒険なんてセコイまねするなよ?」


「そんな事するかよ!それよりさっさと通してくれ。早く終わらせて一杯やりたい」


自衛兵が手を上げると集落の入り口を守っている兵達が道を開けた。


開けた広場を中心に様々な店や宿、そこで働いてる人達の村もある。


スーパーカブで配達を始めると、異世界の乗り物に住人達や冒険者達の注目の的だ。


「サーラさん、荷物だよ。ここの配達証にサイン書いてよ」


「ありがとうリオン。今度そのカブに乗せてよ?」と色っぽくサインを書いてくれる子もいれば、


「サインがいるのかい?相変わらずお前さんは堅いな!」と文句を言う人もいる。

「悪いね。トム爺がうるさいんだよ」

「あの堅物の下で働くのも楽じゃねーなリオン。はっはっはっは!!」


次から次へとカブを走らせ配達を進める。

「この荷物を頼めるかの?」

「このサイズだと450ブールだけど、良いかい?」

「いつもありがとのお」


預かった荷物をおにぎりBOXに入れて、次の家に向かう。


「おう、リオン。手紙いつもありがとな!それにしても、そのカブって乗り物はいつ見ても不思議な乗り物だな?

馬とどっちが良い?」と興味津々のオヤジさんもいる。


「馬も良いけど、カブの方が俺は好きだな。この音とスピードに俺は惚れ込んでんだ」


「郵便屋さん!!お手紙ある?お手紙ちょうだい!!」とせがんでくる小さな男の子。

「おーっ…今日は無いから、また今度な!」と、カバンの中を探すフリして子供の相手をする。


店から店、家から家に、カブを走らせて配達をしていく。



カブを走らせてると気がつくと子供達が笑顔でカブの周りに集まって一緒に走り回る。


「ハハハハ!!危ないって!!離れろよー」

「キャハハハハ!!」子供達の笑顔と笑い声が続いてくる。


俺は冒険者だ。賞金の高いモンスターを倒して最強の剣士の称号も手に入れる。ダンジョンの隠された財宝もだ。こんな事をしてる場合じゃない。



でも、手紙を受け取った時のみんなの笑顔を見るのは好きなんだ。

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