第3話 スーダンのかまど亭
ゴクッゴクッゴクッ!!
「ぷっはーッッッ!!」
「うまい!!うますぎる!!」と、勢いよく俺はビールジョッキをテーブルに置いた。
スーダンのかまど亭は相変わらず賑わっている。女主人スーダンが切り盛りしている100名は入りそうな店の中ではまるで写真選考でもしたかの様な美男美女の給仕係が忙しそうに動き回り、テーブルにはあらゆる種族達が今日の1日の疲れを労いにうまい酒と美味い飯に舌鼓を打っている。
中には今日の冒険の武勇伝を熱く語り、今日の成功と失敗を涙と笑いで語る者もいる。
スーダンのかまど亭は今日も賑やかだ。
その中でも一際目立つ一角が俺の隣のテーブルだ。
「キャーッッッ!!ナルシス様今日も素敵ですーっ!!♡♡♡」
「今日もお疲れ様です!私からのおビール召し上がれ♡♡♡」と、ビールをグラスに注ぎながら目がハートになってる年頃の女の子達が今日も当たり前の様にナルシスに群がっている。
「フッ、君達の美しさにはこの美酒も叶うまい。君達に乾杯だ!」
「キャーッッッッッッッッッ!!♡♡♡」
「な〜にを訳のわからんこと言ってんのよアイツは」と既に酔っ払っているアローラは女の子に囲まれてるナルシスを呆れ顔で見ている。
「全体責任⁉︎元はと言えば扉をぶち壊したアイツのせいじゃないのよ!!やってらんないわよ!!」
「わたしの〜シェリルのわんぴ〜!!」
アローラもいつまで嘆いてんだよ。
「もう、それぐらいにしろよアローラ。酒が不味くなる」
「なんですってえぇぇ⁉︎あたし達がビンボーしてるのは元はと言えばアンタがギャンブルで大負けしたせいでしょーが!!」
「はいーッッッ!!その節はすみませんでしたっ!!」
恐ろしい剣幕にもうタジタジだ!!
そう、前回の冒険の後に軍資金をもう少し増やせないか?とみんなで考えた末にギャンブルで一攫千金を夢見たんだ。
順当に勝っていたんだけど、最後に俺が張った賭けが大外れ!!
なんとか冒険に出るための装備は死守したがほとんどのアイテムを売り払う羽目になった。
しかし、これは俺のせいなのか?みんなもギャンブルで盛り上がってたじゃないかよ?
ダメだ、涙が出てきた。飲もう。
「相変わらず、ナルシスの周りには女子ばかりじゃの」
後ろを振り向くとトム爺が立っていた。
「トム爺も来たんだ」と椅子を差し出す。
ウェイトレスに酒を注文してるトム爺を見ながら酔っ払ったアローラが話し出す。
「ねえ、なんで魔法使っちゃダメなの?」
「ふむ。その話か。
お前たちは何かと魔法に頼りすぎとる。そりゃ確かに魔法は便利じゃ。
じゃが、何かにつけて魔法ばかり使っておると、今まで人の手で行ってきたことが廃れてしまう。魔力も消費する。今回は扉の修理だが、魔法ばかり使っているとその扉を治す職人の技術も廃れていってしまう。便利になればなるほど人は退化してしまうのじゃ。自分の手で賄えるものは自分で補っていく。それが人の道だと思っとる。」
「そりゃあ、わかるけどさ〜。でも、今どき全体責任なんて時代錯誤も良いところだよ」
「今の時代でする事じゃない?今の時代でする事とはなんじゃろ?そんなに今を変えていかないといけないのかの?」
「あーあ、ワンピ欲しかったなあ…」
トム爺には敵わない。
「今日はみなさんお揃いなんですね?」とすんごい柔らかくてホワ〜ンとする笑顔と声でこの店の看板娘セシリーちゃんがこの店の1番人気ローストビーフとソーセージの盛り合わせを持ってきた。
この料理の付け合わせの酢キャベツもまた最高なんだ。
店1番のウェイトレスが店1番の料理を運んでくるなんて最高だと思わないか⁉︎
「あの〜リオンさん…実はちょっとお願いがありまして〜…」と少しモジモジしながら俺に話しかけてきた。俺にだよ?俺に!!その頬を少し赤らめたお顔が天使!!
「あの〜…」
「キャーッッッ!!!!」と天使のセシリーちゃんが言いかけた所でナルシスのテーブルから悲鳴が上がった!!
なんだ⁉︎なんだ⁉︎
「フッ… アベル。首元に少し産毛がはえてるぞ。美しきウエイターならば身だしなみも大切だ」
と、ナルシスが男のウエイターに顎クイをしている。
「す、すみません。ナルシスさん。」と顔を赤らめて視線をそらすアベルくん。
ナルシスは郵便屋さんになる前にこの店でウエイターとして1ヶ月程働いていた事がある。
ナルシスが働いていると若い女の子達がお店に集まりだし大繁盛!なのだが、みんながナルシス目当てにお店に来るもんだから大変だ。
ナルシスはナルシスで女の子達全員に愛想を振るもんだから仕事にもなりゃしない。結果的に雇ってもらえなくなった。
その時の後輩美男子アデル君に壁ドンで顎クイをするもんだから周りの女の子達が悲鳴をあげて大興奮だ。
「ダメ!!見てられない〜!!♡♡♡」
「尊い!!このカップリングは心臓に悪い♡♡♡」と目をハートにしながら大騒動だ。
自分が美しいと思うものは女も男も関係ない。それがナルシスだ。
「ふぇぇぇぇぇ〜ッッッ⁉︎」とその光景を見てセシリーちゃんは顔を真っ赤にして目がぐるぐるだ。
「あの?大丈夫?セシリーちゃん?」
「あの、その、あのその、そのあのがそのあので〜…」
「ま、また今度お話しします〜ッッッ!!」と、お盆を抱きしめながら顔を真っ赤にして走り去ってしまった…
ナルシス、俺はお前の事を親友だと思ってる。お前の破天荒な行動も好きだ。でも、今日は恨むぞ…く〜ッッッ…
「クソッ!」ビールを飲んでソーセージをかぶりつく。
「ところで、トム爺。
前から気になっていたんだが、あのスーパーカブ?あの魔法の乗り物はなんでスーパーカブって名前なんだ?
そもそもあの乗り物はなんなんだ?」
「それは俺も気になっていた。あの乗り物は実にエクセレントで美しい!ぜひ教えてほしいものだ」いつの間にかナルシスがこっちの席に戻っていた。
「10年前の地震の事は覚えておるか?」
10年前の地震。
忘れるわけが無い。あの地震の時に俺の親父は行方不明になっちまった。
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