第13話







 店長とデザイナーさんの話によると、アラクネ種が紡いだ糸で織った布はスパイダーシルクと言って、絹のように光沢があるのに肌触りも柔らかくて丈夫。


 日光に当てても変色しない。


 だから高級品だと思っていたけど、ヴァナヘルム王国では庶民の普段着にも使われている布なのですって。


 日本で言えば、ナイロンやポリエステルといった化学繊維で作った衣類って感じなのかな?


 但し、ミドガルズ王国ではアラクネの糸で織ったスパイダーシルクは王侯貴族しか身に着ける事が出来ない高級品扱いだけど。


 地球では生糸一キログラムを作るのに五キログラムの蚕の繭が必要な事と絹になるまでの過程が多いので高級品だと伝えると、二人はとても驚いていたわ。


 日本とヴァナヘルム王国


 販売員としての仕事をこなしつつ互いに知っている事を話している内に店長とさんとニックさんと親しくなった私はフェルゴヴェールさんが何者なのかを尋ねたの。


 フェルゴヴェールさんはヴァンパイアだと教えてくれたわ。


(あれ?もしかして、ヴァンパイアの弱点を突けば日本に帰れる?)


 ヴァンパイアって・・・・・・あれよね?


 闇の帝王でどこか耽美な雰囲気、夜になれば美女の生き血を啜り眷属にする、霧になったり狼や蝙蝠といった動物に変身出来るチートなのに鏡に映らない・水・日光・ニンニク・十字架・聖書・銀の武器が弱点という、強いんだか弱いんだか分からない魔物よね?


 それを二人に言ったら笑われたわ。



 日本というか地球のヴァンパイアはそうなのね


 アーズガルドのヴァンパイアは水とか日光など物ともしないわ


 太陽の光が弱点だったらフェルゴヴェール様はナツキちゃんを店まで送れないし、銀で作ったアクセサリーを身に着ける事なんて出来ないわよ


 ランチタイムになればいつも通っている食堂の料理人の一人はヴァンパイアだけど、彼はニンニクを使った料理を普通に作る事も食べる事も、異性と結婚して子供を作る事だって出来るんだから!


 共通しているのは血を吸うところだけね



 言われてみれば!


 確かにフェルゴヴェールさんは銀で作った指輪やピアスを普段から身に着けている。


 私が職場に向かうのは朝でその時のフェルゴヴェールさんは普通に太陽の下を歩いているし、昨日の夕食の後に出てきたガーリックのラスクを食べていたし、水も飲んでいるし手を洗っているところを見た事があるわね。


 えっ?


 何?


 フェルゴヴェールさんって弱点のないヴァンパイアじゃない!


 フェルゴヴェールさんがヴァンパイアと聞いた時に十字架や聖水で脅して送還術に関する事を聞こうと思ったのだけど、はっきり言って無理ね。


 あれと戦えと言われたら・・・・・・百パーセントの確率で私の方が死ぬわ!!!


(・・・・・・・・・・・・諦めてヴァナヘルム王国で生きて行くしかないのかしら?)


 色んな事を考えながら仕事をしているうちに気が付けば帰る時間になっていたの。










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