第7話







 私の話を聞いてくれた、玉座に腰を下ろしている眼球の白い部分が黒いヨボヨボの爺さんと後妻と思しき妖艶な黒髪美女(後に夏希は黒髪美女が後妻ではなく最初の奥さんである事を知る)、爺さんの隣に立つ顎が割れているマッチョと凛とした美女が教えてくれたの。


 世界は一つではなく星の数ほど存在している。


 異世界人を召喚するのも送還するのも禁忌である。世界のバランスを崩すからだ。


 大地・大気・大海・太陽・月・水・草木───要するにアーズガルドという世界のエネルギー、つまり星の生命を少しずつ使う事で異世界人を召喚したり送還する事が出来る。


 だがその行為は人為的に瘴気を発生させる。


 人為的な瘴気の発生は極端なまでの天候の乱れに天変地異、そして新たな魔物を生み出す。


 緑豊かな森を砂漠へと、肥沃な土壌を作物が実らない荒地へと変えるだけではなく星の寿命を縮めて行き世界の荒廃を進めると同時に異世界を繋ぐ空間を歪めるからだ。


 ミドガルズ王国は奴隷の命を使う事で自分達が住む世界を犠牲にする事なく異世界人を召喚する術を完成させたと思っているらしいが、先に述べたように彼等による異世界人召喚は世界を繋ぐ空間をより歪なものへと変化させていると同時にミドガルズ王国が作った異世界人の召喚術は欠陥だらけでもあるのだ。


 このままではアーズガルドという世界そのものが寿命ではなく、死の星と化し最終的には爆発へと繋がるらしい。


 だから私を日本に帰す事は出来ないのだと───。


「そ、そんな・・・っ!」


 それってつまり・・・異世界人を元の世界に戻す術はあっても、アーズガルドという世界を守る為に魔王達は送還術を使わないと言っているのよね?


 日本に戻れないだけではなく、両親に職場の仲間、自分と同じ趣味を持つ腐女子仲間、そして恋人・・・というか付き合って半月だから男友達という表現が正しいのかしら?


 その潤一ともう二度と会う事が出来ないという事実に私は心の底から泣いたわ。


「人間の客人よ。我等は貴女を日本に帰す事は出来ませんが、魔国・・・ヴァナヘルム王国で快適に過ごせるように手配いたします」


 イケメンの人狼さんが私を気遣ってくれている事も、異世界人という事で特別待遇してくれている事も分かるけど、私の望みは唯一つ。


 日本に帰る事だけ──・・・。






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