セーラー服をはなさないで

海猫ほたる

セーラー服をはなさないで

 私は考古学者。


 主に古代遺跡を研究するのが専門だ。


 といっても、まだまだ駆け出しの新人だ。


 かつて、この場所には〝ニホン〟という文明国家があった。


 ニホンという国の遺跡は面白い。


 二千年前に突如として滅ぶまで、実に多種多様な文化を構築していたのだ。


 あまりに多様すぎて、我々にはまだ殆ど解明できていないのだ。


 今回は、新たに発掘された特級遺物の解明のため、私よりもニホンという国に詳しい専門家に来てもらった。


「先生、今回発掘されたこれ、一体なんなんでしょう。人形のように見えますが……」


「ああ、それは〝ふぃぎゅあ〟というんだ」


「ふぃぎゅあ……」


「そう、かつてこのニホンという国には多くの神様がいてね。この国の人たちは数多の神々を信仰していたと考えられているんだ」


「あ、それは知っています。アマテラスオオミカミとか、ヤマタノオロチとかですよね」


「そう、よく知っているね。人々は神々の像を作って祀り、像に祈りを捧げていたんだよ」


「では、これもその一つなのですか」


「そうだと思うよ。だけど、このふぃぎゅあの形は見た事がないな……」


「先生でも知らない神々がいるんですね」


「たくさんいるよ。特に西暦の二千年頃には新たにたくさんの神々が生まれたと言われているんだ。〝ぶいちゅーばー〟と呼ばれる神々さ」


「ではこのふぃぎゅあは、ぶいちゅーばーの神の一人なのですね」


「そうかもしれないね。ぶいちゅーばーはそれまでの古い神々と違って〝げーむじっきょう〟や〝らいぶ〟を行なって人々の前に降臨していたとされているんだ」


「それは、それまでの神々を讃える祭りや祈祷とは違うんですか?」


「だいたい同じと考えて良いだろうね。だけどぶいちゅーばーは、それまでの神々よりもずっと人々と近しい存在だったみたいだ」


「先生にもすきなぶいちゅーばーはいるのですか?」


「ああ、この時代では好きな神を〝をし〟と呼んで崇める風習があったんだ。わたしの〝をし〟はね……」


「先生の〝をし〟……どんな神なんでしょう」


「わたしのをしは〝かんだもろぼ〟だよ」


「かんだもろぼ……」


「そうだ写真を見せてあげよう。これが、かんだもろぼのふぃぎゅあだよ」


「これは……人型じゃないじゃないですか」


「そうなんだ。この時代には、鋼鉄の神々も多数生まれているんだ。鋼鉄の神々のふぃぎゅあはね、自分で組み立てるんだよ。自ら神像を組み立ててつくり、飾って崇めるんだ」


「んー、私にはちょっと……わかりません」


「そうかい。僕はもしこの時代に生まれていたら、このがんだもろぼの熱狂的な信徒になっていたと思うよ。きっと布教活動も熱心にやっていたと思うんだ」


「それはさぞたのしい布教でしょうね……」


「因みに、かんだもろぼの鋼鉄は普通の金属とは違って、かんだもちょうごうきんと言う特殊な金属でね、それを作れるのは月面にある、さみだれろぼっと研究所の……」


「あ、先生、これはなんでしょう」


「おや、銀の円盤を見つけたのかい。おお、これも神具の一種だよ。〝しーでー〟というんだ」


「〝しーでー〟……どう使うんです?これ」


「これはね、鏡として使用されたんだ。太陽の光を反射して、祈祷場に置かれた神像ふぃぎゅあに光を集めるんだ」


「さぞ神々しい光景だったでしょうね」


「あと、カラス避けに使われていたという文献も残っている」


「人類の天敵である魔物、カラスから護ってもらうための儀式に使われたんですね」


「そうだとも。表を見てごらん。そこには信仰されていた神の名前と、祈祷のまじないが書かれているだろう」


「あ、ありますね。神の名前は……羽仁衣はにいエルナ……」


「それはおそらく、ぶいちゅーばーの神の名前だね」


「あと〝せーらーふくをはなさないで〟と書かれていますが……これがまじないの文なのでしょうか」


「そうだとも。祈祷の際には、その言葉を皆で唱えて神に祈りを捧げていたんだ」


「せーらーふくをはなさないで……とは、どういう意味なんでしょうね」


「解らないな。今はもう失われた文明だからね。我々には、一部の遺構にかろうじて残された文字を読み取って解析するしかないからね」


「せーらーふくをはなさないで……ですか」


「せーらーふくをはなさないで……だね」


 私は考古学者。


 今もこうして、二千年前に滅びた古代国家の遺跡を調べて、古の時代に思いを馳せている。

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