ガソリンスタンド併設のカフェにて

@ku-ro-usagi

読み切り

大学の

学校の行き帰りにあるチェーン店のカフェでバイトしてる

学校と住んでる部屋の真ん中くらいの位置でちょうど良くてね

大学も郊外にあるから普段は原付で雨の日はバスで通ってる

街道沿いにあるガソリンスタンドに併設されてるカフェ

あれね

一限ない日は

朝一の鍵開け開店シフトに入ってそれから学校行ってる

常連の人も何人かいるんだけど

殆んど出勤前の珈琲のみのテイクアウトが多かったから

朝はほぼワンオペでも問題なかった

そのうちの一人Gさん

多分アラサー?位の長身だけど凄く痩せてる男の人

私のシフトの月曜日、水曜日、金曜、土曜日に

必ず朝か

仕事が営業らしくて

夕方前にやってくると珈琲をテイクアウトする人なんだけど

趣味がね

パチンコかパチスロらしいんだ

それは別にいいんだけど(興味ないから)

いつ頃からか

「今日はどこのパチンコ店に行くか」

を私に伝えてくるようになったんだ

土曜日は日曜日に予定している店の場所までも伝えてくるんだよ

初めは場所だけだったのに

最近は行く予定の時間までもわざわざ教えてくれる

日曜日は朝から並ぶんだって

私にはさ

至極微塵も全く必要ない情報だから、ただ愛想笑いしてると

「日曜日はあそこの店舗にお笑いの○○が来ますよ」

とかね

更にいらない情報を乗せて教えてくれる

「そうなんですねー」

って流しても

火曜日木曜日は必死で耐えて行かない様に我慢しているから褒めて欲しいみたいな事を言ってきて

それはもう普通に気持ち悪くて

ただただ愛想笑いで誤魔化してた

だって聞くまで

「ご注文は?」

って何度言っても答えてくれないんだよ

おかしいよね

でも

その私の愛想笑いが相手に

Gさんにどう伝わっていたのか知らないけど

段々ね


月曜日

「今日は○○の○○店に行くんです」

「そうなんですねー」

(なんか最近知ってる地域の名前が増えてきてる気がする)

水曜日

「今日は✕✕の□□店に行くんです」

「そうなんですねー」

(私の住んでる最寄駅の隣の駅前だ)

金曜日

「今日は△△の△△店に行くんです」

「そうなんですねー」

(私がよく行ってるスーパーの隣の店舗だ)

土曜日

「日曜日は□✕の△○店に行くんです」

「……そうなんですねー」

(私の住んでるアパートの一番近くの店舗だ)

って段々私の部屋に近づいてきててさ

(え?いや、ちょっとおかしくない?)

内心でだらだら冷や汗掻いてたら


「日曜日、朝から一緒に並びませんか!?」


立ったまま一瞬意識が飛んだよ

あと絶対並ばないし

あと凄い怖いし

今もうん泣きそう

偶然じゃないでしょう

絶対もう部屋まで知られてる

しかも結構以前から知られてるっぽいよね

え、どうする?

オーナー呼ぶ?

ダメだ、あれゲーマーだからまだ家で寝てるな、役に立たないクソオーナーと呪詛りつつ現実逃避してたら

Gの後ろから

カランッカランッ

って自動ドアじゃない重い扉の鈴が鳴ってね

女性のお客様が入ってきた

珍しく車じゃないお客様だから気付かなかったよ

「いらっしゃいませー!」

「ご注文どうぞー!本日のオススメはブレンドになりまーす!」

「こちらへどうぞー!」

って声張り上げてさ

結局Gさんの誘いは聞こえないふりして助かった

あぁGさんには

「いつものですねー!」

って珈琲出してチケット出させた


一応オーナーには伝えた

朝一やらヘルプやらで入ってくれる私は

自分で言うのも何だけど便利だからね

でも思ったよりオーナーは深刻な顔して

ちょっとしばらくは一緒に

朝一は特に店に居るよと言ってくれて安心してたんだけどね


日曜日の朝

部屋のチャイムが鳴って

「朝から誰……?」

とのろのろベッドから降りてインターフォンの画面見たら

カメラの向こうにGさんが立ってた

休日なのにいつもと同じシャツとネクタイ姿で

「……」

なんか笑ってるし

(え?なんで?これ、え?警察呼んでいい案件?ダメ?)

私、返事なんかしなかったよね、なのになんでOKだと思ってんの?

あと薄々は分かってたけどやっぱりなんで私の部屋を知ってるの?

そういやGさん通勤も仕事も営業車だもんね

尾けてた?

いつから?

学校も知られてるよね?

え、本当に何これどうしようと

カメラ切るのも怖くて音声なしで震えながら目が離せないでいたら

いつの間にかじっと無表情になってこちらを見ていたGさん

視線が動き始めたと思ったら

チラチラを腕時計を気にし始めた

どうやらパチ屋の開店時間と私を待つかで気持ちがせめぎ合っているらしい

いいぞいいぞ

私はGさんのパチンコ愛を応援する

なんか早く行かないといい席取れないんでしょ?

朝一に並ぶその順番でその日が決まるんでしょ?

知らないけどさ

(だからもう何でもいいからお願い早く行って早く行って早く行って早く行け!)

本気で拝んでたら

Gさんは

それでもこちらをチラチラ振り返りながら歩いてカメラから消えた


私は

安堵する共に

その場にへたり込んでしばらく動けなかった

それでその日は

逃げるように大学の友達の部屋に避難して泊らせて貰った


オーナーには電話して事情を話しておいた

それでも月曜日には

友達の部屋からガススタ併設カフェへ向かったんだよ

そしたら

「あぁおはよう」

ってオーナーが先に来て鍵開けてた

朝の開店準備しながらオーナーが教えてくれたのは

あの人

Gさんね

もうね

実はだいぶよくない所、何て言うんだっけ?闇金?みたいな所からも凄い借金してたみたいで

当然返せてなくて

日曜日に行った先のパチンコ屋で借りてた人達に待ち伏せさせれていたんだって

Gさんは車から降りて行列に並ぼうとしてたんだけど

借金取りに声掛けられて

乗ってきた車に戻って逃げようとしたら

そのGさんの車の前にも借金取りの人が立ってたみたいで

そこのパチンコ屋

国道沿いで

Gさんは駐車場から飛び出して

そのまま歩道を走ってたけど追いかけてくる借金取りの人を見て

車道に飛び出して

走ってきたファミリーカーに跳ね飛ばされた

それで跳ね飛ばされて落ちた先の対向車に更に轢かれたって

うん

運転していた人達が一番気の毒な結果に終わった

営業車だと思ってたのはあの人の自家用車で

仕事は営業なんかじゃなくて自称パチプロだったらしい


オーナーは

「だからね

安心しろなんては軽くは言えないけど

その

物理的に何か危害を加えられる事はなくなったからね……」

と下手くそに慰めてくれたし

本当にしばらくは深夜のゲームを自粛して

朝は一緒に開店準備してくれていた


でも


朝でも夕方でも私がふと一人になると

どこからともなく

Gさんらしきものが現れては

「……凸凹店に行くんです」

「……凸凹店に行くんです」

と告げては消える


凸凹店は

私の住んでる場所から車で5分位の場所


しかもそこ1年前に潰れてとうに廃墟


多分Gさんのお気に入りの店だったんだろうね


でもそんなの何でもいいから早く成仏してください

気持ち悪いので

その執着心も

そのズタボロに轢かれたまんまの見た目も

どちらもね


気持ち悪いの







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガソリンスタンド併設のカフェにて @ku-ro-usagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ