第72話 ガイドブックでの予習
ガイドブック!
そんな便利な物があるなら勿論買いますとも。
私が購入する意向を示すと、職員は抽斗を開けて中の物を調べているようだった。
「あれ? 在庫がないぞ」
え、何でこのタイミング?
「それは困るんですが、何とかなりませんか?」
「そう言われてもなあ。次の入荷を待ってもらうしかないなあ」
そう言うと男性職員は頭を掻いて困った顔をしていた。
いや、困っているのは私の方なんですけど。
すると後ろから声をかけられた。
「ああ、それなら俺が持っているのをあげるよ。丁度この町を出て行こうと思っていたところなんだ」
そう言った男性冒険者は帽子を被った大男で、初めて見るはずなのにどこか見た事がある気がした。
だが、王都で初めて依頼を受けた時、怪我をした冒険者に治癒ポーションを無償で譲ろうとして断られたことを思い出していた。
そうだ、冒険者は無償での施しには必ず裏があると疑えと教えて貰ったのだ。
「良いんですか? だけど、それを理由に何か要求して来ないですよね?」
「え? いや、そんな事はしないよ。だけど、そうだな。そう思うなら銅貨2枚で売ってあげるよ。それなら安心だろう?」
ふむ、それならあの時の冒険者も薬草と交換をしたのだ。
これならいいだろう。
「ではそれでお願いします」
私達は銅貨2枚でツォップ洞窟のガイドブックを手に入れると、冒険者ギルドを後にした。
「ミズキ、この後はどうするのですか?」
「まずガイドブックに目を通しておきましょう。それから不足分があったら必要な物を買いに行くことにしましょう」
それというのも、保存食は隊商から譲り受けていたので買う必要は無かったからだ。
冒険者ギルドの傍には冒険者が買い物をするのに便利なように、保存食の店、武器・防具店、治癒やMPポーションを売る店等が揃っていた。
そして、冒険者が打ち合わせをするために利用する酒場や、カフェも当然傍にあるのだ。
私達はカフェに方に入ると、そこでガイドブックをチェックすることにした。
カフェはとても明るく女性向けの内装をしていたが、客は僅かで、その客も男性客だった。
そう言えば、この町に来てからまだ女性の姿を見ていないような気がしますね。
私達が空いている席に座ると注文を聞きにやって来たのは、やはり男性従業員だった。
「いらっしゃいませ。ご注文は何にいたしますか?」
そう話しかけた男性店員は、私とエミーリアを交互に見やっては何やら値踏みしているような感じがして、少し不快に感じた。
私達がお茶とお菓子を注文すると、何か裏があるような笑みを浮かべて戻っていった。
それにしても店の雰囲気や品揃えからして女性客が居ない事に違和感を覚えたが、今はそれよりもガイドブックの方が気になったので、出されたお茶とお菓子を頂きながらツォップ洞窟の事を調べる事にした。
ガイドブックと呼ばれているがこれは装丁された本ではなく、1枚紙が折りたたんであるだけだった。
そしてこれは前の持ち主に相当使い込まれていたようで、折り目がヨレていて書いてあることが見えなくなっている点や、一部補修の跡や書き込みが入ってはいるが、全体的に見ればまあ使えるだろう。
中古品に新品の品質を求めるわけにはいかないのだ。
表面には第1層と第2層のマップと、そこで取れる素材と出現する魔物について書かれていた。
そして裏面には第3層と第4層があり、タバチュール山脈の向う側に抜ける道は第4層にあるようだ。
第1層に魔物は出現せず、小さな虫がいるだけとなっていて、ガイドブックにも直ぐに第2層に降りる場所までの最短ルートが記載されていた。
そして第2層は、ギルドの職員も言っていたように魔物が出現しそれを求めて多くの冒険者が仕事場所に選んでいるのだろう、紙面の75%を使っていた。
メタル百足の外殻、洞窟ワームの糸、鎧蜥蜴の皮の素材は色々な材料になるので高価で買い取ってもらえるのだ。
第3層は、燃える土や毒の泉、熱い間欠泉等が有り、地脈モグラの肉や火炎蜥蜴の皮も素材として高く売れるらしい。
ただ浮遊クラゲを切ると、腐食性の液体が吹き出すから注意が必要と書いてあった。
第3層から第4層へ降りる通路は直ぐ傍にあって、第3層は中を歩き回る必要はなさそうだった。
そして第4層は、強い魔物が居るので注意が必要らしい。
だがガイドブックには、それらに遭遇せずに反対側に行けるルートが記載されていた。
それと第4層には緊急通報が届かない場所があるとも書いてあるが、その場所はガイドブックに斜線で印がつけてあるので分かりやすかった。
本当に参考になるガイドブックだ。
これで銅貨2枚とは安い買い物だった。
これなら後は、魔物用の武器をちょっと買えばいいだろう。
私もエミーリアも短剣しか持っていないので今の装備ではちょっと不安だし、エイベルの剣も長いので洞窟の中で使うには不便そうだ。
その短剣にしても王都でゴブリン相手に使ったのが最後だったので、もしかしたら錆びているかもしれないのだ。
武器の話をするとエミーリアもエイベルも同意したので、この後は武器屋を覗いてみる事になった。
そして残っている菓子を食べ、お茶を飲み干したところで、カフェの入口が騒々しくなってきた。
何事だろうと周囲を見回すと、そこには武装した兵士達がいきなりカフェになだれ込んできたところだった。
「お前達はよそ者だな?」
え、よそ者ですけど、それが何か?
「よそ者は子爵様に挨拶が必要なんだ。同行してもらうぞ」
そう言うと、私とエミーリアの腕を掴んで強引に引っ張り上げられた。
だがエイベルの事は無視しているようだった。
私がその事を言うと、男には興味がないそうだ。
え、どういう事?
エイベルが暴れそうになったので、それを制するとエイベルに宿で待っているように指示した。
子爵に挨拶する程度なら直ぐに済むだろうと思ったからだ。
私とエミーリアはそのまま兵士達に連行され、カフェを出るとそのまま馬車に乗せられた。
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