第65話 詐欺師を追って
ブリューは隊商を全速力で走らせていた。
そのおかげで私の乗っている馬車も、かなり揺れて気持ち悪くなってきていた。
犯罪現場に急行したいのは分かるが、こんなに急いで馬車に積んである商品は傷まないのか心配になるレベルである。
だが、隊商はそんなことお構いなしに疾走しており、間もなく詐欺師が出たというフーガスという町に到着した。
私達の隊商はかなり規模が大きいので、幌に描かれたラッカム伯爵家を示す天秤を見て町の人達が集まってきていた。
その野次馬の中から一人の男が抜け出して来ると、隊商の馬車の前まで来て大声で文句を言い出した。
どうやらこの男性は詐欺にあった被害者のようで、おかげで探す手間は省けたようだ。
「おい、この嘘つき商人共、今度はどんなガラクタを売り付けにやって来たんだ?」
物凄い剣幕で怒る男性にブリューが何とか宥めようとしているが、全く話を聞いてくれないらしい。
直ぐに諦めたブリューは、私を手招きしていた。
え、私が相手をするの?
だが、このままでは埒が明かないのも確かなので、仕方がない何とかしてみましょうか
私はエミーリアを伴ってブリューと怒っている男の所に行くと、ブリューが後はよろしくと言ってさっさと逃げてしまった。
ちょっと、経緯の説明くらいしてよと思ったが、目を三角にして怒っている男性を宥める方が先のようだ。
だが、これだけ怒っている人に話しかけても聞いてくれそうも無いので、暫くは聞き役に回っていた。
すると次第にトーンが弱まってきた。
それはそうだろう、目の前で若い女の子が2人困った顔をしているのだから。
だが、理由は違ったようだ。
「おい、聞いているのか?」
えっと、これは拙い、ここら辺でちょっと提案をする必要がありますね。
「申し訳ございません。被害に遭われた額は隊商で保障させていただきます。それと貴方を騙した詐欺師の人相とか何処に行ったとかの情報を頂けませんか?」
私が先に被害額を補償すると明確に言ったのが良かったようで、男性の怒りも随分収まってきたようだ。
「ほう、そうか。分かればいいんだ。分かればな」
ちょっと、そこで安心しないで情報を下さい。
私は同じ質問をもう一度すると、ようやく詐欺師についての情報を貰うことが出来た。
詐欺師は3人組で商人の服装だったが、野良作業で日焼けした農民に見えたそうだ。
そして話しぶりも商人のような駆け引きも無かったそうだ。
そんな怪しげな連中に引っかかるのもどうかと思うのだが、高価なマジック・アイテムをかなりの安値で売っていたので思わず買ってしまったんだとか。
まあ、荷馬車の幌に明らかにラッカム伯爵家を象徴する天秤の紋章が入っていたら、信用してしまうわね。
そしてその詐欺師達はさらに西に向かったそうだ。
補償の件はブリューに手配してもらい、私達も詐欺師を追って西に向かうことになった。
そして次の町でも詐欺師に騙された被害者が居て、詐欺師は西に向かったと教えて貰った。
そんな事を何度か繰り返してとある町に到着した頃には、既に目の前には雄大なタバチュール山脈が姿を現していた。
あの山脈の向う側に、懐かしのブレスコット辺境伯領があるのだ。
この町でも隊商の馬車を見て被害者がやって来たので、宥めながら情報を貰うと、詐欺師達は南に向かったと言われた。
そこで私はちょっとした違和感を感じた。
それというのもここまで隊商は、かなりのハイペースで進んできたのだ。
いい加減詐欺師の姿が見えてもおかしくはないのに、全くその気配が無いのだ。
流石におかしいと気づいた私は、詐欺に遭ったという男性を問い正してみることにした。
「ちょっと、それ本当なんでしょうね?」
私がきつく言うと被害にあったという男性は一瞬ぽかんとした顔になったが、みるみる顔が真っ赤になっていった。
「な、何を言っているんだ。これだから女って奴は嫌いなんだ」
そうは言っているが明らかに挙動がおかしかった。
目があちこちに泳いでいるし、汗もかいているのだ。
そして手足がぷるぷると震えだしていた。
明らかにおかしい。
そこで私はエイベルに一つ頷くと、エイベルは心得てますといった感じで被害者という男性の後ろに回ると、そっと耳元で何か囁いた。
するとその男性は「ひえええ」と言ってその場で蹲ると頭を抱えて、謝罪を口にしだしたのだ。
「か、勘弁してくれ。お、俺は、ただ、金を貰っただけなんだ」
ついにゲロったわね。
あらやだ、私ったらお下品な言葉を使ってしまいましたわ。おほほほ。
「あの男の嘘を見抜くとは、流石ですお嬢様。どうやらこの下種野郎は金を貰って嘘を言っていたようですね」
あ、やっぱりそうなんだ。
すると私達は、ずっと騙されていたという事?
そう思うとだんだん怒りが湧いてくるのが分かった。
「ちょっと、貴方。誰からお金を貰ったか言いなさい。さも・・・」
おっといけない、今は冒険者ミズキでした。
思わずお父様に言いつけますと言いそうになっていたわね。
だが、哀れな男にはそれで十分だったようで、金を貰った男の事をぺらぺら話してくれた。
しかし、この男は目の前の金に目が眩んで、相手の顔をしっかり見ていなかったようだ。
今回はとんだ骨折り損のくたびれ儲けだった。
ブリューは手にした帽子を地面に叩きつけて地団駄踏んでいたが、私も同じ行動をしていたのには全く気が付いていなかった。
そして私達が悔しがっていると、ブリューがここまで来てしまったら先にレドモント子爵領の領都シュネッケに寄ってから行こうと言い出した。
なんでもラッカム伯爵からレドモント子爵に渡す手紙を預かっているのだとか。
私もまんまと騙されたという気恥ずかしさがあったので、それを誤魔化すためその案に同意していた。
そしてスクリヴン伯爵領で出会ったあの少年の事を思い出していた。
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