第50話 本当の黒幕3
私達が助けた冒険者達も緊急通報の内容について確認したいと言われたので、ついでに相談することになった。
研究室を出た私達は伯爵に案内されて本館に入ると、そこで待機していた2名のメイドに浴場に案内された。
浴場には私の他に先程の女性冒険者が居た。
その女性冒険者はマーリーンと言う名前らしい。
あの2人の男性と一緒に「飾り紐」と言う名の冒険者チームを組んでいるそうだ。
チーム名の「飾り紐」は、彼女が髪留めとして使っているクリーム色のリボンから連想して付けたとのこと。
そしてそのクリーム色のリボンは、マーリーンの兄で同じ冒険者であるマルコム兄さんから冒険者になった時にお祝いとして贈られたそうだ。
身内に冒険者が居ると、自分も同じ職業に就くのは良くある事なのだとか。
他の2人も同じ村出身で、金髪碧眼の魔法使いがマイルズという名前で、どうやらマーリーンの彼氏のようだった。
異世界のお風呂の中で恋バナが聞けるなんてと思っていると、どうやら2人の関係をマルコム兄さんが認めてくれないらしい。
何でもマイルズは家が近くの所謂幼馴染なのだそうで、小さい頃から良く知っているからかどうしても欠点が見えてしまい、それを兄が嫌がっているんだとか。
そして最後の1人がジェイラスという黒髪の剣士で、最初にコロンバの町にやって来た時門番に声を掛けていた剣士の男だ。
浴場で汚れを落としてさっぱりすると、伯爵様との会食の前に着替え用に部屋に案内された。
王都から脱出する時に平民用の服しか持ってきていなかったが、今は冒険者ミズキなのだから問題は無いだろう。
でも比較的マシに見えるワンピースを着る事にした。
マーリーンは何も迷う事も無く、冒険者の恰好になっていた。
研究室では服が無かったが、捨てられてはいなかったようで何よりである。
準備が整ったところでメイドが呼びに来たので、部屋を出て食堂に向かった。
スクリヴン伯爵の本館1階にある食堂に案内されると、そこは広い空間になっていて通路側の壁にかかっている肖像画は歴代のスクリヴン伯爵なのだろう、皆正装をして帽子をかぶった姿は誇らしげな表情をしていた。
窓側には装飾を施された大きな窓枠があったが、それらは採光をしっかり取り込めるように工夫されていた。
中央に鎮座した楕円形のテーブルには繊細な刺繍を施したテーブルクロスがかかっていて、その上には飾りを施した燭台が置かれていた。
そして部屋の隅には給仕係が並び、私達が席に着くのを待っていた。
エミーリアと男性陣は既に席に着いていて、スクリヴン伯爵は楕円形テーブルの丁度先端部分にあたる最奥の場所にニコニコ顔で座っており、私達が入ってくると立ち上がって歓迎してくれた。
「よく参ったな。さあ、気軽に座ってくれ」
今の私は冒険者であって貴族令嬢ではないのだ。
どこに座っても良いわよねと思っていると、椅子から立ち上がったエミーリアにニコニコ顔で伯爵の隣の席まで案内されてしまった。
仕方がない。
ここは私が伯爵のお相手をすることにしましょう。
すると男達の間に座っていたあの少年が立ち上がり、私の所に駆けてくると隣の席に座ったのだ。
そして私の方を見上げて、ととてもかわいらしい笑顔を向けてきたので思わずほっこりしてしまった。
「お姉ちゃん、一緒に食べよう」
そう言って私が拒否するんじゃないかと心配そうに顔色を窺ってくる姿は、とても愛らしくて守ってあげたいと思ってしまった。
あれ、私ってそんな趣味があったのかしら?
「いいわよ」
私がそう返事をすると、すかさずエイベルがやって来て椅子に座った少年のわきの下に手を入れると、そのままひょいと持ち上げた。
「騙されちゃいけませんぜ。こいつはこんな成をしてますが、20歳を超えた立派な男です」
「え?」
すると今度はエミーリアが加勢してきた。
「そうですよ。このインキュバスは魔法の影響かなにかで若返っていますが、中身はれっきとした男です。近寄ると危険です」
「え、え?」
私が混乱していると少年が涙目で訴えてきた。
「え~僕は、幼気な少年だよぅ、ね、お姉ちゃん」
「き、気持ち悪い声を出すんじゃない。虫唾が走るだろう」
「これは魅了の魔法に違いありませんわ。ミズキ、気を付けて」
え、という事はこの少年は悪魔で、見た目が幼いだけで、私はこの少年に魅了の魔法をかけられているという事ですか?
「ええ~、僕は人間だよぅ。お姉ちゃん信じてよぅ」
「えっと・・・」
「おい、ミズキが優しいからって誑かすんじゃない。全く油断も隙も無い野郎だぜ」
「そうよ、さっさと、このインキュバスを遠ざけますわよ」
「おう」
私がショックを受けていると、エイベルとエミーリアが少年を私から遠ざけていた。
どうやら私がお風呂に入っている間に、この少年の尋問が行われていたようだ。
そしてこの少年は、レドモント子爵家の子息バイロン・ディック・レドモントだそうだ。
そして信じられないことにあの少年は、マリアン・モイラ・レドモント様のお兄さんだというのだ。
それを聞いて、私は強いショックを受けていた。
今も食堂の末席で焼き菓子を美味しそうにほおばっている姿は、どう見てもかわいい少年にしか見えないのだ。
「え? マリアン様の弟君じゃないの?」
「違います」
そこで相手がレドモント子爵家の関係者なら、こんなぞんざいな扱いでいいのだろうかと思ったが、スクリヴン伯爵によると犯罪者だから問題ないそうだ。
伯爵は、この少年の行為にひどく怒っていた。
まあ今まで呪いを掛けられ、少年に言われるまま不老不死の薬を作らされていたのだ。
そして本人がおかしくなったせいで夫人や子供達が実家に戻ってしまったのでは、それも仕方がないのだろう。
それでも、この少年があの悪魔に憑依されて自我を失っていた事を酌量して、レドモント子爵に損害額を請求するだけで済ませてあげるらしい。
スクリヴン伯爵もそれほど悪い人ではないようで一安心だった。
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