第49話 本当の黒幕2
あの話って何ですか?
私はお爺ちゃんがこの後何をする気か分からなかったが、それが禄でもない事であることは分かっていた。
まずはアレが何なのか情報が必要だった。
今は冒険者ミズキなので、ぶっきらぼうな口調に変える事にした。
「ちょっと、伯爵。あれが何なのか説明して」
「そんな暇は無い、直ぐに逃げるんだ」
そんな事言われても、唯一の出口にあのマッスルお爺ちゃんが陣取っているのよ。
無理に決まっているでしょう。
「貴方の目は節穴なの?」
私が非難すると、伯爵は出口を見て毒づいていた。
「ああ、畜生、ならあれが元に戻るまで時間稼ぎをするんだ。さもないと皆殺しにされるぞ」
時間が無い事は十分分かっていたので、皆を集めるとマジック・アイテムを起動させた。
すると私達が集まった個所に、目に見えない空間障壁が出来上がっていた。
これは野営で使っている「安眠空間」の魔法だ。
これのおかげで私は、ハンモックで快眠を送ることが出来ているのだ。
するとマッスルお爺ちゃんが、出来上がった空間障壁に向けて殴る蹴るの攻撃を仕掛けてきた。
その度にドン、ドシン、ガタンという音がして空間が揺さぶられていた。
気のせいかその度に「ピキッ」とか「ピシッ」という音が聞えてくるようだ。
その音に不安を感じたのは伯爵も同じだったようだ。
「おい、この結界はどの位持つのだ? あれはそんなに長い時間持たないはずだ。それまで持ちこたえられるか?」
さて、どうなんでしょう?
これはあのAランク冒険者アビーさんが生み出した結界魔法だと、店員さんは言っていましたね。
それに冒険者ギルドで解説してくれた冒険者の話が本当なら、ドラゴンのブレスにも耐えられるはずですけど?
マッスルお爺ちゃんの攻撃は更に激しさを増してきているが、その度に嫌な音が聞えて来て神経を逆なでしていた。
私の目の前に置かれているマジック・アイテムは、高級料理店のテーブルに置いてあるような銀製の調味料入れに似ていて、中には燃料となる魔石が入っているのだ。
この魔石から供給された魔力で結界を維持しているのだが、先程からマジック・アイテムを包んでいる淡い光が結界に攻撃を加えられるたびに揺れて、徐々に弱まっているような気がしていた。
気のせいであって欲しいのだが、これは結界維持に大量の魔力を消費して急速に残量が減っている事を意味しているようだ。
これが持たなかったら過大広告をした店員と冒険者を、J〇ROに告げ口しなければなりませんね。
この世界にあるのかどうかは知りませんが。
「それは神のみぞ知るという事ね」
「なんだそれは」
それにしても何もできずに攻撃を受け続けているとだんだんと気が滅入ってくるようで、結界が壊れて皆が殴り殺されてしまう光景とか不吉な事をついつい考えてしまっていた。
いけない。
これは別の事を考えなくては。
そもそもあのお爺ちゃんは何者なの?
「伯爵、あの爺さんは何者なの?」
伯爵は一瞬私の顔を見てから何やら記憶を探るように顔を顰めていたが、ぽつぽつと話し始めた。
「確か、錬金術師だとか言っていたな」
それは物質を金に変えるとか言う人達のことでしょうか。
そう言えば研究室には錬金釜のような物がありましたね。
「確か、あいつは、最初私に良い特産品があると言ってきたのだ。領地を潤すには丁度良い品だといってな」
「それは?」
「ああ、香料だよ。おかげで我が領は潤った。すると次に不老不死の薬を作りたいと言ってきたのだ」
ああ、その部分は確か町の商人さんから聞きましたね。
「それでそれにかかる費用を考えたら、我が領ではとても負担出来ないので断ったのだ。それからの記憶が全く無いがな」
成程ね、解呪のロザリオが反応したという事は、その時に呪いを掛けられたのだろう。
そんな事を話していると、結界の前方で警戒していた冒険者が声を掛けてきた。
「あんたら、敵に動きがあるようだぜ」
そう言われてマッスルお爺ちゃんを見ると、体中からオーラのようなものが抜け出しているように見えた。
だが、それはオーラではなく、先程伯爵が言っていた命玉の効果が切れてきたようだった。
マッスルお爺ちゃんは体が縮み、背中が丸まってきてシワシワお爺ちゃんに戻ったようだ。
なんとか結界が持ったようだと思った瞬間、バチンという音と共に結界が消滅した。
結界を作っていたマジック・アイテムを見ると既に光が消えていた。
どうやら燃料切れになったようね。
階段の傍に倒れているお爺ちゃんは、元のシワシワになって転がっていた。
「馬鹿な奴らじゃ。不老不死は人間の永遠の夢だというのに・・・」
確かにそうかもしれないけど。
そのために犠牲となる平民の命はどうでもいいというの?
「お嬢、離れて」
エイベルのその声ではっとすると、お爺ちゃんの体から黒い靄のようなものが立ち上り体を纏い始めた。
それはお爺ちゃんが復活しそうな感じで、とても不安にさせた。
そこでスクリヴン伯爵を正気に戻せたマジック・アイテムを取り出すと、お爺ちゃんの体に押し付けた。
「ぎゃあぁぁぁぁ」
お爺ちゃんが断末魔の悲鳴を上げると、纏っていた黒い靄が吹き飛んだ。
どうやら体も一緒に消滅したようでローブだけが残っていた。
だが、そのローブがもぞもぞと動きだした。
なんてしつこいお爺ちゃんなの。
私達が武器を向けて警戒していると、ローブの中からひょっこり顔を出したのは10歳位の黒髪の少年だった。
え、誰ですか?
少年は周りをキョロキョロ見回していたが、知らない場所に知らない人達に囲まれて怯えているようだ。
ここは私が、この少年を安心させてあげる必要がありますね。
「少年、ここはスクリヴン伯爵の館です。多分貴方は、悪魔に憑依されていたんだと思いますよ」
するとかわいい顔に目を大きく見開いてプルプル震えていた少年は、とんでもない事を口にしていた。
「やったぁ、召喚に成功したんだ」
ちょっと、それだとあの老人を呼んだのは、貴方という事になりますよ?
君のせいでこちらは大変な思いをしていたのだから、ここはお説教をした方がこの子の今後のためですよね?
「ちょっと、私たちは君が召喚した悪魔のような老人に殺されるところだったんですよ。少しは反省しなさい」
私がそう言うと少年は「え?」みたいな顔をしていて、全く反省の色がみえなかった。
そこで今までの事を話して聞かせる事にした。
まだ善悪が分からない年齢だとしても、魔法が使えるのだから事の善悪を理解させないと、また同じ過ちを繰り返してしまうでしょう。
そうして次第に事態が理解できてくると、その顔から先程までの能天気な表情は消え、次第に焦りだしてきたようだ。
「という訳で、こちらにいる冒険者さんが吸命虫の苗床にされそうになった・・・」
少年の目から涙が零れ落ちると、今度はこちらが子供を虐めているという罪悪感が沸きあがってきた。
ああ、駄目、そんな子犬のような目で見つめられたら、私・・・
も、もう反省したようだから、このくらいで許してあげてもいいんじゃないかしら?
「分かってくれたのね。これからは悪戯したら駄目なんだからね」
そう言って私が少年の頭を撫で始めると、それを見たスクリヴン伯爵や冒険者の3人それにエイベルとエミーリアが私に変わり、次々と少年に説教を始めた。
周りの大人から攻められ続けた少年は、何とか逃げ道を見つけると私のところまで逃げてきて、足にしがみついた。
そして上目遣いに目に涙を一杯に溜めてプルプル震えていた。
「お姉ちゃん、僕、怖いよう」
くはっ、こ、これは効きますわね。
思わずしゃがみこむと、少年を抱きしめていた。
「大丈夫よ。誰も虐めたりしないからね」
私がそう言うと、これ以上説教をする人は居なくなり、場所を変えて今後の事を相談することになった。
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