第48話 本当の黒幕1

 やれやれ、どうやらこれで解決したようだと人心地付いていると、再び声が聞えてきた。


「やれやれ、余計な事をしてくれたようじゃな」


 うん、私以外にもやれやれと言うこの御仁は?


 声の主を探すと、そこにはあの猫背のお爺ちゃんが立っていた。


 眠りの香炉で眠らせてエミーリアが椅子に縛り付けていたはずなのに、何故ここに居るのだろうと思ったところで、伯爵が私の思考の邪魔をしてきた。


「お前はオーダム、何故お前がここにいる? 私はお前の提案を断ったはずだぞ」

「おや、伯爵も元に戻ってしもうたか。これは口封じが必要じゃな」


 そう言うと懐から掌サイズの茶色の玉を取り出すと、それを掲げていた。


「大地の抱擁」


 お爺ちゃんがそう言うと茶色の玉が光り、突然体が重くなり地面に押し付けられていた。


 た、確かに地面を抱きしめているような恰好になっているが、何か違うような気がしていた。


 どうせ抱き締めるならイケメン、いや、何でもないわ。


 だが、お爺ちゃんの魔法で強い重力で押し付けられた体は全く動かなかった。


 これは非常にまずい事態だった。


「お前達全員を、儂の大事な実験体にしてやるぞ。感謝するんじゃな」


 それを聞いた3人の冒険者から、相手を罵倒する言葉や悲鳴に似た助けを求める声が聞えてきた。


 そうだあの3人は実験体の意味を知っているのだ。


 更に困った事に私はお爺ちゃんとは逆方向を見て固まっているので、お爺ちゃんが何をしているのかが分からないのだ。


 だが、そこはエミーリアだ。


 お爺ちゃんが何をしているのか実況してくれた。


 それによると一度階段を上って何か壺のような物を持ってくると、蓋を開けて何やらもぞもぞ動く物を取り出しているそうだ。


 それを聞いた冒険者が悲鳴を上げながら、「吸命虫だ」「アレを口に入れられる」と補足してくれた。


 だが、私は不思議に思っていた。


 何故私達は動けないのに、お爺ちゃんは動き回れるのだろうと。


 そう考えると、この術は私達個人にかけられていて、空間にかけられてはいないという事だ。


 私に傍にお爺ちゃんの足音が聞えてくると、上の方から声が降りかかってきた。


「まずはお前からじゃ。光栄に思うのじゃよ」


 私の視界の中にお爺ちゃんのシワシワの手が現れると、そこに黒もぞもぞとしたものが摘ままれていた。


 それが私の口に近づいてくると、エミーリアとエイベルから悲鳴や罵倒やらが聞えてきた。


 そこで私は頭に浮かんだ疑問を実験してみる事にした。


 そうお爺ちゃんのシワシワの手に噛みついたのだ。


「ぎやぁぁぁぁ。こ、このあばずれがぁ」


 すると急に体が軽くなって動けるようになった。


 どうやら私が噛んだ事で一体化したお爺ちゃんに重力魔法が影響を及ぼしたようで、まずいと感じて術を解除したようだ。


 私が直ぐに起き上がると、お爺ちゃんを押しのけていた。


 その時、茶色の玉が零れ落ちた。


 私がそれに手を伸ばすと、お爺ちゃんが私の体を押しのけて奪われまいと抵抗してきた。


 私も負けじと相手の体を尻で押しのけてやると、抗議の声が聞えてきた。


「こ、このはしたない女め、お前のような女には一生男が寄り付かんぞ」


 ええ、ええ、そうでしょうとも、つい先日も婚約破棄をされましたとも。


 それよりも今は、お爺ちゃんに付き合っている暇は無いのよ。


 お爺ちゃんの手を叩いて脇に押しやると、ようやく茶色の玉を手にすることが出来た。


 その玉を石壁に向けて投げつけたが、その玉は期待に反して「カチン」と音を立てて壁にぶつかるとそのまま、砕ける事も無く弾き返ってきた。


「あっ」


 玉が弾き返ってきた先には、お爺ちゃんがいたのだ。


 私は何とか邪魔をしようとしたのだが、位置関係が悪く間に合いそうも無かった。


 その時、こちらを振り返った顔にはこちらをあざけるような笑みが浮かんでいた。


 だが、その顔は直ぐに驚愕に変わっていた。


 そう私が屈み込んだお爺ちゃんの尻を蹴飛ばしたのだ。


 お爺ちゃんは顔面から床に激突するとうめき声を上げていた。


 それを見ていたエイベルやエミーリアからは賞賛の声が、3人の冒険者からは驚きの声が聞えて来るようだった。


 私は皆を床に押し付ける原因となっているその玉を手に取ると、一瞬だけお爺ちゃんの姿を見てから、その玉を力いっぱい石の床に叩きつけていた。


「ガシャン」


 茶色の玉は派手な音と共に砕け散り、破片がそこら中にばら撒かれた。


 どうやら勝負はついたようだ。


 術が解けて他の人達が動けるようになった事で、彼我の戦力差が1対7となり劣勢を感じたお爺ちゃんは階段口まで後退していった。


 そこで私は指を突き付けると、降伏勧告を行った。


「負けを認めなさい。もう貴方に勝ち目はないわよ」


 するとお爺ちゃんはニヤリを笑ったのだ。


 まさか、まだ何か隠し玉があるとでもいうの?


 すると、懐から飴玉のような物を取り出してそれを口に含んでいた。


 それを見た伯爵が声を上げていた。


「あれは命玉」


 え、それは何ですか?

 

 すると今まで背骨が曲がっていた背筋がピンと伸び、皺だらけだった皮膚には艶が戻っていた。


 そして体はがっしりした物に変化していたのだ。


 そう、シワシワお爺ちゃんが、まるでボディビルダーのようなマッスルお爺ちゃんに変わったのだ。


 その姿はまさにシュワちゃんだった。


 それを見たスクリヴン伯爵は、驚愕の表情を浮かべていた。


「信じられん。あの話は本当だったのか・・・」


 あの話って何ですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る