第46話 昔映画で見たアレ

 エミーリアとエイベルは、冒険者プレートの振動を頼りに救助が必要な冒険者の行方を探っていた。


 振動の方向でこの建物に地下室がある事は分かったのだが、その入口が分からないのだ。


 そこで2人は辺境伯様が自分の娘の身の安全のために造った隠し部屋や秘密通路の仕組みを思い出し、床のすり減り具合を調べたり、頻繁に触られている置物や家具を探し始めた。


 そして通路の先、行き止まりになっているデットスペースに飾ってある大きな絵画があった。


 その場所は影になっていて常に暗く、絵を飾るには不向きな場所だった。


 そこでエミーリアは冒険者ギルドの前で野次馬に振りかけた白い粉を取り出すと、そっとその絵画に吹きかけていた。


 白い粉は手に付いた油に付着するので、絵画の下側に手で触れた跡がくっきりと浮かび上がっていた。


 その手の跡に手を当てて押してみると、カチリという金属音が聞えてきた。


 すると絵画があった横の壁が突然内側に開いていた。


 +++++


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」


 私は何とか呼吸を整えようと、肺の中に酸素を取り込もうとしていた。


 今まで床に倒れているお爺ちゃんと、狭い部屋の中でテーブルを挟んで追っかけっこをしていたのだ。


 最初いきなり傍に来た時は何をするのかと思ったが、そのまま押し倒してきた時は驚きだった。


 まさか、あの雄を惑わす香りが、こんな老人にも効果があるとは思わなかった。


 だが、直ぐにむき出しの太ももを触られた時は、思わず悲鳴を上げそうになった。


 ここで悲鳴を上げると2人は助けに来てくれるが、そうするとあの冒険者を捜索できなくなるのだ。


 ここは何としても、このお爺ちゃんが眠るまで時間を稼ぐ必要があったのだ。


 私の足に絡みついてくるお爺ちゃんを何とか振り解くと、何とか捕まらないように逃げ出したのだ。


 やっと眠りの香炉が効いて、目の前で眠り込んでいる老人を縛り上げようかどうしようかで悩んでいると、エミーリアが地下に降りる階段を見つけたと言って戻ってきたのだ。


 そして私が事情を話して拘束しようか悩んでいるというと、目からハイライトが消えたエミーリアが手慣れた手つきで老人を椅子に縛り付けていった。


 そのぞんさいな扱い方は、相手が老人だろうが全く容赦が無いようだった。



 石で出来た階段の壁に手を付けると、とてもひんやりとした感触だった。


 私達は地下に降りる階段を、一歩また一歩と慎重に降りているところだった。


 そして薄暗さも手伝って、なんだかホラー映画の一場面のように感じていた。


 階段を降りる度にカツンと足音が響くのも、ますますホラー感を増幅していた。


 そしてホラー映画だと、こういったシチュエーションではお約束の暗闇から突然何かが飛び出してくるのだ。


 そうこんな感じで。


 黒ものがぬっと私の前に・・・


 突然飛び出してきた黒い何かに、私の心臓は跳ね上がった。


「きゃっ」

「お嬢、可愛らしい声を上げてどうしたんで? それよりもこっちに例の3人組が居ましたぜ」


 おい、お前かっ。


 私は、早鐘を打つ心臓が収まるのを待ちながら、突然現れて驚かせたエイベルを蹴飛ばしてやろうかと考えていた。


 ああ、段々と私が残虐女と言われたクレメンタインに似てくるようだわ。


 きっとクレメンタインも、こんな感じで残虐女になっていったのだろう。


 階段を降りて行くとそこにはひんやりと冷たそうな石の部屋で、さまざまな実験道具が所狭しと置いてあった。


 そして中央に置かれた石棺のようなテーブルの上には、裸にされた男女3人が拘束されていた。


 その3人は意識があって私と目が合った。


「やっぱりあんたら冒険者だったんだな。早く、これを外してくれ」

「助かったよ。このままだとおかしな虫を口の中に入れられそうだったんだ」

「おかしな領主と頭の変なジジイに実験体にさせられたんだよ」


 3人を拘束している拘束具は、頑丈な金属製で破壊するのは難しそうだった。


 だが、この拘束具には鍵穴があった。


 鍵穴があるという事は、あのマジック・アイテムが使えそうね。


 マジック・バッグの中から耳かき型のマジック・アイテムを取り出し、その先を鍵穴の中に差し込むと淡い光が周囲に広がった。


 そしてカチリと音がして、鍵が解除された。


 助けられた3人から事情を聞くと、伯爵に招かれて館に行ったところ、そこで出された食事を食べてから後の記憶が無いのだとか。


 気が付くとここに拘束されていて一度だけ伯爵と老魔導士がやってくると、これから起こる事を教えてくれたそうだ。


 それにより自分達が不老不死の薬を作るための実験体にされる事を知り、このままでは殺されると思って緊急通報を発報したそうだ。


 冒険者達の服や持ち物がこの部屋には無かったので、私達が使っているローブを貸してあげた。


 裸でローブだけ着ていると何だが危ない人みたいだが、それは言わないでおくことにした。


 そしてここを脱出しようと振り向くと、そこにはまるで幽霊のような男が立っていた。


「あっ」


 私達が驚いて棒立ちになっているところで、その男が一喝してきた。


「誰だ、お前達は? これはどういう状況だ? オーダムを眠らせて拘束したのはお前達か?」


 質問の多いその男は、黒髪をポマードで撫でつけたような髪型をして、太くて切れ長の眉、赤い瞳に色白の顔それに口からは牙が突き出していた。


 そして黒いチョッキに黒ズボン、黒いマントを羽織っていた。


 その姿は、昔映画で見たあの男にそっくりだった。


「ドラキュラ伯爵」

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