第42話 王都ラッカム伯爵館
王都にあるラッカム伯爵家の執事デリック・モナハンは、先代の頃から仕えている老骨ながら王都に滅多に来ない旦那様に代わりこの伯爵館を切り盛りしていた。
旦那様であるラッカム伯爵は、領都である港湾都市アインバックで日々行われる外国船との貿易交渉が忙しく滅多に離れない。
多忙な旦那様がこの王都に屋敷を使う場合は、王家に呼ばれた時の宿泊施設としてだけだった。
そして彼のもう一つの任務が、王都での情報収集だった。
彼は難しい顔をした2人の男と、テーブルを挟んで最近発生した問題について話し合っていた。
それというのも、最近ラッカム家の名前を騙る詐欺師が現れ、あちこちで被害が発生しているからだ。
その詐欺師は行商人が使う幌付きの荷馬車に乗り、ガラクタを高価な舶来品やマジック・アイテムと称して、物の価値が分からない客に高値で売りつけていた。
その際ラッカム伯爵家ゆかりの商人だと言って相手を信用させるため、ガラクタを売りつけられた客がその事を周りに言いふらすので、信用を大きく傷つけてられているのだ。
その詐欺師の被害がこの王都でも発生したことから領地に居る旦那様に報告するため、詐欺師の情報や手口、被害に遭った町等の情報を集めていた。
「それでモナハン殿、王都で被害にあった方に直接お会いしたのでしょう? 詐欺師の正体について何か分かりましたか?」
モナハンにそう聞いてきたのは、正面のソファに座っている隊商の責任者であるアクランドだ。
彼は王国内で手広く商売を行っているラッカム伯爵家と関わりのある商人で、元は前々代領主の弟が始めた商会の直系だと聞いていた。
1年の大半を馬車での移動に費やす彼は、日に焼けた黒い顔をしていた。
「行商人に扮した3人組でした。荷馬車には幌がかかっていて、そこにラッカム伯爵家を現す天秤を模った家紋を付けていたそうです。勿論偽物ですが。そして丁寧な口調と馬車の家紋で相手を信用させ、直ぐに買わないと売り切れてしまうと言っては相手を焦らせ、冷静な判断を失わせるようです」
「なんと、それで売りつけているのはガラクタなのですね?」
「貴重なマジック・アイテムだと言っているそうですが、一度使うと魔素の補給にかなり時間を要すると言って直ぐには使わせないそうです。そしてお客様が実際に使ってみると何も起こらないのだとか」
「成程、それは確かにガラクタですね」
私は今回の調査報告書をまとめると、それをアクランドの前に差し出した。
「それではアクランド様、この事を旦那様に報告お願いします」
「ええ、分かりました。それにしても許せない連中ですね」
「ああ、居場所さえ分れば、俺が捕まえてやるんだが」
そう言ったのは、隊商の護衛隊長であるデイミアン・アップルガースだ。
彼は、元B級冒険者で旦那様がその実力を買って引き抜いたそうだ。
頬にある4本の古傷は魔物の爪に引っかかれた跡だと言われていた。
そこに扉をノックする音がして、直ぐに館の使用人が焦った表情で中に入って来た。
「モナハン様、大変でございます。王城の昼食会に呼ばれたイブリンお嬢様が、身柄を拘束されたそうです」
「何だと、それは確かな情報なのか?」
「はい、ここにイブリンお嬢様から渡されたメモがございます」
モナハンは使用人からひったくるようにメモを奪い取ると、書かれている内容を読み始めた。
元々王家から誘いがあったのは、学園の卒業パーティーで何か手違いがあったらしく、そのせいでイブリンお嬢様が被害に遭われたのでその慰問と聞いていた。
卒業パーティーから戻ってきたお嬢様が真っ青な顔で、領地に居る旦那様に至急手紙を送る必要があるからと、封書と便箋を用意するよう命じられた事から考えてもそれは推察された。
お嬢様を迎えに来た騎士にそれとなく話題を振ってみたところ、卒業パーティーでブレスコット辺境伯家の令嬢が何かやらかしたらしく、イブリンお嬢様はその被害者の一人だという事だった。
いくらお嬢様でもキャットファイトをするとは思えないし、王家が介入してくるとなると、第一王子絡みなのかもしれないと想像していた。
そのお嬢様から、王城に居るラッカム伯爵家のゆかりの者を経由してメモを渡してきたのだ。
「アクランド様、急いで旦那様にこのメモを渡してください」
「なんだ、緊急事態なのか?」
「ええ、一大事です」
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