第17話 初クエスト1
冒険者ギルドで冒険者プレートを貰った私達は、早速Dランクに上がるためのクエストを受ける事にした。
Eランクのままだと王都以外の町には行けないのだから、この町を脱出しようとしている私達には必要な事なのだ。
2階の部屋から出て1階に降りて行くとまた一斉に視線が絡みついてきたが、私の左手首にあるEランクの表示を見ると皆興味を失ったようだ。
受付カウンターの横に大きなボードがあり、そこにクエストが張り出されていた。
ボードは2つに分かれていて、1つが討伐クエスト用でもう1つがそれ以外になっていた。
私達は初めてなので無難なのを探していると、植物系素材採取という物があった。
これは王都の傍にある草原や森に自生している薬草の材料となる草等を採取してくる物で、収穫量に応じて報酬が支払われるらしい。
簡単なのは草原の方だが、これは他の人達も採取に行くので数を集めるのが大変そうだ。
「う~ん」
「お嬢、この猛毒草というのはどうです?」
私は言われた物をギルドの薬学本で調べてみた。
これは毒の沼地の傍に自生する草で、毒消し草の材料になるらしい。
西の森の奥地が自生地となっていたが、最初に依頼でそんな危険な所は無理だろう。
「却下」
「それではお嬢様、この魔素の実というのはどうですか?」
それはMPポーションの材料となる木の実だが、これまた魔物が居る森の中が自生地だった。
「ちょっと貴方達、最初の依頼はもっと簡単な物にするのよ。例えばこれ、ぬめり草ね。これだと南の丘陵で採取できるわ」
ぬめり草は茎の中にゼリー状の液体があり、この液体が血止めとばい菌が体内に入るのを防止する塗り薬の材料になるのだ。
一般的な薬で需要も高いから、幾らでも引き取ってもらえるそうだ。
「畏まりました」
「承知」
2人が同意したので、私はボードからぬめり草採取のクエストを剥がすとそれを受付に持っていった。
「これを受けたいと思います」
「畏まりました。ぬめり草は茎の部分が薬の材料になります。間違わずに採取してきてくださいね」
「分かりました」
冒険者ギルドの外に出ると入った時のような野次馬も無く、急ぎ足で去っていく人達が居るだけだった。
その人達も意図的に私達と視線を合わさないようにしているのが、その態度でありありと分かった。
やはりこの怪しげな黒マスクとゴーグルに反応しているのだろう。
私が逆の立場でも、こんな怪しげな奴とお近づきになろうとは思わない。
自分がヤバイ人間になった気分でちょっと落ち込んでいると、目の前に馬車が止まり馭者台からエイベルが手を振ってきた。
「お嬢、馬車をもってきましたぜ。早速南の丘陵に行きましょう」
そう言えば私の王都における行動範囲は王城と貴族街だけであり、王都の外に出た事は無かった。
そしてエイベルが乗ってきた馬車は、先程冒険者ギルドに乗り付けた物とは違っていて、幌が付いた荷馬車だった。
何故馬車が違うのか聞いてみたかったが、周りの目もあるので、ここは早々に出て行った方がよさそうだ。
乗り込むには後ろの荷台によじ登らなければならないが、それを見越したエミーリアがぴょんと飛び跳ねて荷台に乗って腰をかがめて私に手を差し出してきた。
「さ、お嬢様、お手を」
私は謝意を込めて微笑むと、エミーリアの手を取り荷台に乗り込んだ。
その姿は優雅さとはかけ離れていたが、今は冒険者ミズキなのだから問題なしとしましょう。
「では出発」
「了解です」
馬車の荷台には何やらシートを掛けた荷物が場所を占拠していたが、それでも座る分には十分だった。
そしてエイベルが必ず馬車を持ってくるのはもしかしたら、馬車の乗っている時に襲撃されて死亡するというゲーム補正が働いているのだろうかと勘繰っていた。
やがて馬車が南門に到着すると門の兵士から止まれと指示されたようで、馬車が止まった。
辺境伯家の紋章が入った馬車で東門を出る時は止められることが無かったので、これはちょっとした驚きだった。
「お前達は商人なのか?」
「いや、この格好を見れば分かるだろう?」
馬車の外では、エイベルが兵士の質問に答えになっていない受け答えをしていた。
すると他の兵士が馬車の幌から姿を現した。
東門の兵士は儀仗隊のような優雅な制服を着ているのだが、南門の兵士は鎧兜に両刃剣という完全武装をしていた。
「お前達、冒険者ならプレートを見せるんだ」
私は左手を前に突き出して、手首に巻いてある冒険者プレートを兵士に見せた。
兵士は手首に表示されている「E」というランクと冒険者ギルドの拠点を示すルフナという文字を確かめていた。
「なんだ、駆け出しか。高ランク冒険者のポーターの仕事でも請け負ったのか?」
「いえ、これから薬草採取のため南の丘陵に向かいます」
私がそう言うと、何故か話しかけてきた兵士が目を大きく見開いて驚いた顔をしていた。
それはあり得ない物を見たとでも言っている顔だった。
「そうかい。気を付けて行ってきな」
「はい、ありがとうございます」
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