第11話 隠れ家へ1
エミーリアに着付けてもらった格好は継ぎ接ぎだらけのワンピースに、頭は特徴的な金髪を隠すためのスカーフを巻いた姿で、何処をどう見ても貴族令嬢には見えなかった。
そしてエミーリアも普段のメイド服ではなく私と同じような恰好になっていて、エイベルもヨレヨレの服に腰に前掛けを付けた姿は、御用聞きのためお得意さんを回る昭和の御用商人といった風体だった。
「貴方達もおかしな格好なのね」
「ふふ、お嬢様もなかなかですわ」
「お嬢の方が、よっぽど変ですぜ」
私はエイベルの発言にお尻への蹴りで応じてやった。
全くこの男は黙っていたらちょっといい男なのに、どうしてこう一言多いのだろうか。
これからラティマーさんが用意してくれた隠れ家に向かうのだが、様子を見に行った少年から、商館の入口を見張っている怪しげな人物が居るという報告があった。
恐らくはあのアビントン伯爵家の手の者で、私が出てくるのを見張っているのだろう。
館の庭に出るとそこには同じ外見をした馬車が2台用意されていて、1台は囮として先に出発して見張っている連中を引き付け、その後で私達の馬車が逆方向に行く手筈になっていた。
荷馬車には幌がついているので、前後から見られなければ私が乗っていることは気付かれないだろう。
エミーリアが荷台に上ると、私に手を貸して乗せてくれた。
そしてエイベルが御者台に座ると、囮馬車を運転する御者に手を挙げて挨拶していた。
囮馬車の御者はエイベルに返礼すると、そのまま出発していった。
ラティマーさんが私の乗る馬車にやって来て、最後の挨拶をしてくれた。
「クレメンタイン様、大丈夫だとは思いますが、気を付けて行ってくださいね」
「ええ、色々お世話になりました。ラティマーさんには父もきっと感謝していると思います」
「はっはっ、是非そうなって欲しいですな」
挨拶が終わると荷馬車がガクンと揺れ、ゆっくり走りだした。
私は荷台からラティマーさんに手を振った。
荷馬車が徐々に速度を上げて商会の門を出ると、周囲を見張っていてくれた少年も私に手を振ってくれた。
私たちが向かうのは平民達が住まう南地区なので、ラティマー商会から出て行くのを見られなければ第一王子派からうまく隠れる事ができるだろう。
馬車は荷物を運ぶ商人を偽装しているので目立たないようにゆっくりと移動していた。
私はその心地よい振動に少し眠くなっていた。
やることが無い私は荷馬車の乗せられている木樽を眺めていると、私の視線に気づいたエミーリアがその中身を教えてくれた。
それによるとこれらの木樽には、ラティマーさんが手配してくれた隠れ家で食べる食料や衣服等が入っているそうだ。
ラティマーさんには感謝しかなかった。
トコトコ馬車が進んでいると、突然エミーリアが床板をドンドンと2回踏みつけた。
一体なんだろうと思っていると、突然馬車が方向を変えたので私の体がぐらりと揺れ、エミーリアに体を支えられた。
突然乱暴な運転になったことでエイベルに文句を言おうとしたら、エミーリアからその理由を教えてくれた。
「お嬢様、追っ手です」
そう言われて後ろを見ると、そこには1台の馬車が一定の距離を開けて付いてきているようだった。
「第一王子? それともアビントン?」
「分かりませんが、先程から一定の距離を開けてこちらを付けてきているようです。本当に追っ手かどうか確かめてみましょう」
そういうとエミーリアは床をまた2回踏み付けると、馬車が曲がった。
どうやらエミーリアとエイベルの間では、特別な符牒が決めてあるようだ。
それでもついてくる馬車は一定の距離をとっているが、同じ道に入って来ていた。
「どうやら追っ手で間違いないようです。隠れ家まで連れて行くことはできませんから、ここはエイベルに頑張ってもらいましょう」
エミーリアはそういうと今度は床を3回踏み付けた。
すると馬車は路地に入り、速度を上げていた。
こんな乱暴な走りをしたら、直ぐに馬がバテて追い付かれてしまうんじゃないかと心配になった所で、突然馬車が急停止した。
私の体はまた宙を舞いそうになったところで、エミーリアに捕獲されていた。
馬車の急停車で真っ先に思い浮かぶのは、道をふさがれた事だろう。
すわ、新手かと馬車内に緊張が走った。
「エイベル、どうしたの?」
私が声をかけると、直ぐには返事が来なかった。
息をするのも忘れてじりじりしていると、やがて御者台のエイベルが返事をしてきた。
「えっと、事故りました」
「事故?」
「飛び出してきた男を跳ね飛ばしたようで」
「それは追っ手じゃないの?」
「ええっと、どうやらもっと拙いみたいで」
もっと拙いって何の事? もしや、殺しちゃったんじゃ。
治癒ポーションが入っている鞄を掴むと、荷台から降りて馬車の正面に回った。
そこで見たのは、男が壁際に置かれた木箱の山に頭から突っ込んでいる姿だった。
エイベルに命じて、その気の毒な男性を木箱の山から引っ張り出させた。
金色の髪をしたその男性のきれいな顔と肌、そしてその男は騎士団の制服を着ていた。
まさか、追っ手なの?
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