第10話 玲瓏殿にて

侍従のようなうさぎに連れられて玲瓏殿れいろうでんの中へ入る。


板張りの床に正座をして待つ。


ホーラさんたちは僕たちの一歩後ろに控えている。


目の前の一段高くなったところの中央に座布団がひとつ。


その外側から内側にかけて白の面積が増える服を着た多くのうさぎたちが整列していた。


どこからともなくしゃんしゃんと鈴の音が聞こえてくる。


おさのおなーりー」


中央付近の襟の部分だけ黒い服のうさぎの声に合わせて、琵琶や、そう、琴のような知っている楽器の他に、あまり見たことがない楽器もいっせいに同じメロディーを奏で始めた。どこか少し懐かしく、少し寂しいメロディーを。


うさぎたちはいっせいに額づいた。


慌てて僕もそれに倣う。


いつまでこのままなんだろう。


目だけで何が起こっているのかを見る。


上手側の障子が開き、青い服の老うさぎを中心に、赤銅色しゃくどういろの服をきたうさぎが2人後ろをついて入ってきた。


そのまま中央まで進むと、青い服のうさぎが座布団へ。赤銅色の服の2人はその一歩後ろへ座った。


「皆の者、楽にせよ。ヴンシュよ。まずはよく無事に戻った。良いフリューゲルを見つけたようだな。精一杯励めよ」


その言葉にヴンシュさんが深々とお辞儀をした。


「して、憐惺といったか。よく、ヴンシュのフリューゲルとなってくれた。我ら月の民、そして地球の民のために精一杯励んでもらいたい。お主に月のうさぎとして活動するための名付けをせねばならぬ。名前は、本人の性格と夢から決めるのが定め。お主の後ろにいるホーラの名もそこから取っているのじゃ。お主の名はすでに決まっておる。お主があの夢を見た時点でな。お主の名は『タリオ』じゃ。これから、月のうさぎとして活動するときはそう名乗るのじゃぞ。」


それだけ言うと青い服のうさぎ、長はそのまま立ち上がって部屋を出ていった。

障子が閉まるのを見届けてから、部屋を出た。



来た道と同じ道を今度はホーラさんたちを先頭にして帰る。


タリオってどんな意味なんだろう。


「気になりますか?タリオとはどんな意味なのか」


どうしてそれがわかったんだろう。


「どうしてそれがわかるのか、と不思議に思っていますね。私はあなたのフリューゲルです。それくらいわかります。タリオの意味は『同害刑』や『同害報復』と言う意味です」


「なんだか、すごく物騒ですね」


「そりゃァ、おめェが物騒だからだ…ッテェ!叩くな、ホーラ!」


「叩かれて当然です。全く。いちいち口を挟んできますね。話を戻してもいいですか?同害報復や同害刑とだけ聞くと物騒に聞こえますが、要は目には目を、歯には歯をというものです。知っていますよね?」


「ハンムラビ法典ですよね?メソポタミア文明でしたっけ」


「さあ、そこまで詳しく知りませんが。名前には意味があります。地球では名前は両親からのプレゼントとも言われているようですからね」


「それじゃあ、僕の名前の意味って…」


「それはまだ内緒です。時が来たらお教えします。とりあえず、帰りますよ」


「帰るってどこへ?」

「地球に決まってるじゃないですか。帰りたくないのならそのままここにいてもいいですよ」


「すみませんすみません、ごめんなさい。帰りたいです。帰らせてください。できれば今すぐに」


「帰るのは簡単です。もうあなたは月の一員として認められましたから。さあ、私の手を握ってください。飛んで帰りますよ」


言われたまま、手を握る。ん?飛んで帰る?どういうことだ?なんだか、まずい気がする。


「ヴンシュさん、飛んで帰るってえぇ〜」


ヴンシュさんに質問しようとした瞬間、目の前の景色が一気に自分に向かって押し寄せてきた。


そこからの記憶はない。

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