第7話 月の上
目を開けると砂漠のような地面に黄色い花がぽつりぽつり咲いていた。あたりを見回しても、誰もいない。枯れ木が1つ今にも折れそうなほど頼りなさげに立っている。隣を見ると着物のような服を着たうさぎがいる。
「ここは…?このうさぎは…?」
「全員、無事に着いたようだな」
後ろから声がして振り向くと、肩に僕の隣のうさぎと同じような服を着たうさぎを乗せたホーラさんがきた。
「ホーラさん!ヴンシュさんがいないんです。代わりにこのうさぎさんがいて…。ホーラさんの肩にもうさぎさんがいますよね?なんなんですかそれ?無事ってどういうことなんですか⁉︎」
「落ち着きなさい、憐惺。あなたの隣にいるうさぎ、それが私ヴンシュの本当の姿です。ホーラさんの肩に乗っているのはタクトですよ。月にはうさぎが住んでいると教えたでしょう」
月にうさぎが住んでいると言われても、本当にうさぎがいるとは思わないだろうなんて文句のひとつでも言いたいところだけど、こんなに堂々と言われたら、文句を言うことができなくなって、僕は口をパクパクさせることしかできなくなった。
うさぎのヴンシュさんは、僕の頭の上によじ登るとそのまま、
「さあ、長に挨拶に行きましょう」
と言い、ホーラさんたちを先頭に僕らは砂漠の中を歩いた。
時々、乾いた風が砂を巻き上げ僕らを襲う。見渡す限りの砂漠。道らしき道もない。どこまで行っても同じ景色が続く。本当にこの道で合っているのかとホーラさんに聞こうとした時、目の前に急に門と塀が現れた。
「ついたぞ。ここが月の街の入り口だ」
「長かったあ‥。ようやく入れるんですね」
そのまま門に近づき扉を開こうとする僕を、ホーラさんが止めた。
「まて。私らが入るのはここではないぞ。よく見ろ。小さな扉があるだろう。あそこを潜るんだ」
扉なんてどこにもないじゃないかなんて思いながらホーラさんが指差した方を見ると、人1人がギリギリ入れそうなサイズの正方形の扉があった。
「え、あんな小さなところから入るんですか?四つん這いでも入れるかどうか…。大きい方から通った方がいいんじゃないですか?」
「つべこべ言うんじゃない。いいから、行くぞ」
そう言ってホーラさんはスタスタ歩いて行くと、そのまま四つん這いになって小さな扉をくぐってしまった。
「嘘でしょ…」
「ほら、憐惺。あなたの番ですよ。さっさと行きましょう。ホーラさんたちと離れると大変です」
絶対ヴンシュさんだって道を知ってるくせに、僕を急かしてくる。しょうがない。
扉の前に来ると、本当にギリギリで突っかかってしまうのではないかとヒヤヒヤした。無事潜り終えると、ホーラさんが待っていた。
「初めてだから、困惑するのも無理はない」
「ホーラさん、どうしてあの大きな門を潜ってはいけないんですか?」
「その説明は私がします。憐惺。あの門をくぐることが許されたのは死者だけなのです。」
「死者だけ?」
「はい。あの門の名は『ステルベン』。あの門を潜ったものは死者として、生者の国に帰ることはできません。これは変えることのできない定め。だから、憐惺もあの門だけは通ろうとしてはいけませんよ」
「まァ、オレもコイツもこの門を通ったことがあんだけどなァ」
え?
「タクト、その話はいま関係ありません。さっさと、長のところへ行きますよ」
何がなんだかわからないけど、ようやく月の国の最初の街に入ることができたみたいだ。
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