第5話 月へ向かって

ヴンシュと名乗る鳥が再び僕の前に現れたのはそれから1週間後のことだった。開けていた窓から部屋に入り、机の上に止まっていた。


「遅くなってしまい、申し訳ありません。少し、上との調整に時間がかかってしまいました。前置きはこれくらいにして、本題に入らせていただきます。本日、月に行っていただきます。これは決定事項なので変更はできません。よろしいですね?」


「はい?」


「ですから、本日月に行っていただきます」


「はい?」


「ですから…」


「あ、ちょっとストップで。いいですいいです。説明はもう十分すぎるくらい聞きました。いや、そうではなくてですね、今、月に行くとおっしゃいました?月ですか?本当に?あの、宇宙にある月ですか?」


「はい、その月の認識であっていると思います。何が不都合なことでもありましたか?」


「いや、その、月ですよ。そりゃ、今の時代はお金さえ払えばいけるかもしれないですけど、ロケットで飛んでいくんですよ。しかも、途中で、不具合があって宇宙空間を漂い続けるとか、そもそも発射してすぐ爆発するとかあったら嫌ですよ。流石に、まだ死にたくないです」


「ああ、その心配をしていたんですね。大丈夫です。問題ありません。こちらには、月と簡単に行き来できるように通路が開かれているのです」


「通路?じゃあ、誰でも行きたいときに月に行けるじゃないですか」


「いえ、その道を通るには上の許可が必要です。こちらがその許可証です。さあ、行きますよ」


「え、いやちょっと待ってくださいよ」


なんて言う僕の抗議の声も聞かず、ヴンシュさんは机の上から床へと降りた。


「失礼しますよ」


そう言った次の瞬間、体が溶けるように輪郭がぼんやりとし始め、気がついたら茶髪イケメンが目の前にいた。


「…誰?」


「私の名前はヴンシュ。最初にそう言ったではありませんか。本日は街に出ますからね。鳥が喋っていたら怪しく思われてしまうでしょう?」


怪しいと思われてる自覚はあったんだ…。


「さあ、行きますよ」


そう言って茶髪イケメン改ヴンシュさんは意気揚々と2階から飛び降りた。

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