第1話 8月13日

不思議な夢を見た。思い出そうとしても思い出せない夢を。


その夢を最初に見てからもう4ヶ月になる。高校に入って4ヶ月。


4ヶ月前から始めた一人暮らしにも慣れてきた頃だった。


ねぶた祭りも終わり、静かになった新町通りを駅に向かって1人で歩く。


家は反対方向。


ただの散歩。


電車が来るまでの暇つぶし。


友達は多いほうじゃない。


部活動加入率が100%を超えると言われる高校に入り、周りに流されてなんとなく入った放送委員会にはあまり馴染めていない、と思う。


駅に入り、定期が切れていることを思いだして、慌てて切符を買う。


電車の壁面に大きくキャラクターが描かれた青い列車の1両目の2番目のドアの左側。


そこが僕、林憐惺の指定席だ。


7時28分。


老人からジャージに身を包んだ高校生、大きなスーツケースを持った旅行客を乗せた列車は動き出す。


揺られること6分、たったの1駅。


1両目の1番前のドアで切符を渡し、駅へ降り立つ。


階段を降りて横断歩道を渡って10分ほど直進。テニスコートを通り過ぎ青々とした木々がおいしぎる脇を抜けたその先。


僕の通う高校が見えてくる。


野球部の掛け声や弓道部の矢を射る音を聞きながら校舎に入って階段を登る。


教室について忘れた数学のワークを取り出す。それをカバンに押し込み、放送室へ向かう。


3階の端。職員室の近く。


そこが僕らの部室。


ドアノブに手をかけるが扉は開かない。そうして、初めて今日が放送委員会のお盆休みであることを思い出した。


今来た道をとぼとぼ帰る。次の電車は8時4分。あと10分ほど。


駅のホームで1人電車を待つ。


「あっついなあ」


口からこぼれ落ちた言葉に反応してくれたのは蝉だけだった。


『下り列車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください』


女の人の声でアナウンスがかかる。電光掲示板を見て、あと2分で電車が来ることを知る。


そして、今日がペルセウス座流星群を1番見ることができる日だとも。


「──流れ星が消える前に3回願い事を言うと願いが叶うのよ。そしてね満月のお月様にお願いするとね、次の満月には叶うのよ。」


もう、4ヶ月あっていない母の声が聞こえたような気がした。幼い頃の僕は本気で祈ったものだ。


今はもうほとんどやっていない。


今日は、月が見えないかもしれない。でも、今日は今日だけは願いを込めて祈ろう。


そんな小さな決意と共に、僕は電車に乗り込んだ。

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