第23話 【曹陽】の戦い①

 城郭都市【曹陽】の城門前


 その日は早朝から、たくさんの人が【曹陽】の南門の前に集まっていた。

 これらの人たちは燕荊軻の処刑を見に南門にやってきた。

 旧申家領の人たちが最後に荊軻に会いたいと足を運んでここまでやってきた。

 その人たちも、南門の前にある処刑場の中には入れない。

 処刑場の中心には、十字の木に縛られた荊軻がいた。

 その荊軻と処刑場を囲むように、一つ目の柵が設置されている。

 一つ目の柵の中には、鎧騎士がいた。

 そして、一つ目の柵を囲むように、円の外側にも柵が設置されている。

 2重の柵が円を描くように設置されているのだ。

 外側の柵の周りには一定の間隔で曹家兵が配置され警備をしている。その兵士の数は一万人であった。

 領民たちは、その兵士の警備の外から荊軻を見守っていた。どの民の表情も悲しそうな目をしている。

 

 処刑場のすぐ近くには、処刑が見えるように大きな演壇が設置されていた。

 演壇からは木の棒に吊らされた燕荊軻の姿が良く見える。

 本当なら荊軻を囲む鎧騎士が邪魔で見えないのだが、演壇の方角だけ視界を遮らないように鎧騎士がどかされている。

 その演壇の上で、曹伯爵が椅子に座って満足そうに集まった人の群れを見ていた。

「けっこうの数の人が集まったな、岑将軍。」


「はい、伯爵。わざわざ見せしめの舞台を作った甲斐があります。」

 岑将軍も集まった領民の数には満足していた。


「これで、儂の恐ろしさがこの地に民に伝わり、儂に逆らう者も減ると良いが。」


「御意。」

 曹伯爵が手に持った陶器を口につける。

 中に入った酒をちびちびと口に含んでいた。


「せっかく、趙嘩照に荊軻の処刑を一緒に見ようと誘ったのだが、断られてしまった。商売が忙しいそうだ。」


「そうですか。彼女は荊軻の処刑にはご執心のようでしたが。」

岑将軍の言い方がは、少し嫌味のような口調だった。

筆頭将軍の岑将軍が伯爵の横で、伯爵の警備を確認していた。


「岑将軍、それでこの処刑場の警備は大丈夫か。」

 曹伯爵は手に持った器に入った酒に口をつける。


「はい、抜かりはありません。伯爵様。荊軻の周りには300騎の鎧騎士を配置しております。伯爵の警備も、10名近い魔法使いが交代で結界を張っております。それに警護の兵も精鋭を抜かりなく厳重に配置してあります。」


「そうか、それは安心だ。それで羅家や、魏家は動きそうか。」


「はい、密偵の報告では、羅家は南西、魏家は南東に隠れています。」


「逃げられるようなヘマは無いだろうな。」


「はい、南西と南東にそれぞれ1万の兵を奴らの後方に潜ませました。特に逃げ道は塞いでおります。羅家軍はたかが3千人、それに魏家軍は2千、併せて5千人の戦力です。前方から処刑場の鎧騎士300騎と歩兵1万。後方は歩兵2万。挟まれて終わりです。この荊軻の処刑が完了した所で前方の鎧騎士と歩兵を動かします。」

 岑将軍は嬉しそうに説明した。


「それで、あっちの方も大丈夫か。」


「はい、伯爵様。万事、問題なく処理しました。」


「それは頼もしい。これで、荊軻の処刑を堪能できる。それにしても・・・まぁ、今は良いな。この処刑が終わってから色々やる事が増えた。そろそろ、荊軻の処刑を始めるとするか、岑将軍。」

 曹伯爵は、器の中の酒を一気に飲み干した。


「わかりました。伯爵。それでは、私は処刑場の方へ行ってまいります。後は、ゆっくりと荊軻の処刑をご覧ください。」

 岑将軍は頭を下げると、曹伯爵の側から離れていった。

 伯爵が、傍で控えている侍従長に目配せをすると、侍従長が魔法兵に声を掛けた。

 すると、伯爵の周りに張ってある結界が消える。

 岑将軍は結界が消えると、演壇から降りて処刑場に向かって行った。

 魔法兵は、岑将軍が離れると、頑丈な結界を張り直した。

 警備は万全である。

 そして、いよいよ荊軻将軍の公開処刑が始まろうとしていた。


 *

「兄者、曹家軍の鎧騎士が本当に裏切るのであるか。」

 羅漢中が兄の羅元景に心配そうに尋ねた。


「ああ、そうだ、羅漢中。そう范令と名乗る男が言っていたからな。」

 羅兄弟は羅家軍2千人を連れて、曹家の領都【曹陽】までやってきていた。

 【曹陽】に来た目的は、燕荊軻を救出する為だ。

 ここで荊軻を見殺しにしたら、曹家領内の民の信用を失うのは明らかだ。それに元景は、この荊軻の処刑で何かが起きると思っていた。


「兄者、あんな男を信じるのか。あいつは蔡辺境伯の手下だぞ。それに、曹家の鎧騎士が裏切ると言っていたが、そんな夢みたいな話を信じるなんて兄者らしくないのである。」

 羅漢中は、羅家を滅ぼした蔡辺境伯の配下の言葉を信じていなかった。


「まぁ、そう言うな。俺は蔡辺境伯を信じたんじゃない。俺は自分の直勘を信じたんだ。范令はあの女狐、趙嘩照も仲間だと言っていた。あの女狐の動きには俺も気になっていた。あの女狐が絡むなら、曹家の鎧騎士が裏切る可能性は十分にある。」

 羅元景は、伯爵の居城の中に、間者を潜入させていた。

 その間者から、曹家の内情はおおよそ報告を受けている。

 その報告から、趙嘩照という女がおかしいと思い始めた。

 それは、曹伯爵があの女狐が接触してから、曹家がおかしくなり始めたからだ。

 纏まった数の鎧騎士を用意したり、居城を建て直すように仕向けたのもあの女狐だ。伯爵に大きな借金までさせて、領民を奴隷として捕まえるように仕向けた。


 今の曹家の危うさの原因は、あの女狐の仕掛けと言っても過言ではない。

 ただ、分からないのは、あの女狐は蔡辺境伯の手の者であるのに、なぜ寄子の曹家を危うくするかという事だ。自分の寄子を危うくする目的が分からない。

 だが、蔡辺境伯の配下の范令が曹伯爵を潰そうとしている事で、あの女狐がやはり曹家を危うくしたと考えていたのは正しかったと確信できた。

 蔡辺境伯が曹伯爵を潰そうとしている理由は嘘かったが、それは問題ではない。あの女狐が曹家を潰すつもりで動いていたことが重要だ。

 あの女狐が曹家を潰すつもりなら、騎士ごと手配した鎧騎士も怪しい。


 そうすると、范令が言っていた鎧騎士が裏切るという言葉で全てが繋がった。

 それで、この男の策に乗ってみるのは面白いと直感的に思ったのだ。

 羅元景は自分の直感は当たると信じている。


「まぁ、兄者がそう言うなら、俺は構わないのである。」

 弟の羅漢中は范令を信じてはいないが、荊軻を救いたかったので特に文句も言わなかった。


「ああ、安心しろ。俺の直感は当たるからな。」

 元景は、自分の直感を信じて范令の話に乗る事にしたのだ。


 范令に会った後に、楊慶之にも会った。

 死んだと思っていた彼が羅家の砦に姿を現したのだ。

 元景は楊慶之を知っていた。

 寄り親の楊公爵家の三男で、何度か会ったことがあったからだ。

 久しぶりに会って彼と昔の話で懐かしんでいると、元景は違和感を持った。


 (楊慶之はこんな男だったか?)

 話の内容は彼に間違いない、声も顔も本人のものだ。

 だが、何かが違う。話していて昔の楊慶之とは思えない。

 昔の彼は、魔力を持たない文官志望で、控えめで地味な印象の少年だった。

 それが、今話している彼は自信に満ちて、綺麗な女性を5人も連れている。

 しかも、自分が蔡辺境伯を倒すので仲間になれと強く進めてくる。荊軻将軍も自分の手で救い出すと豪語しているのだ。


 昔の彼は、できもしない嘘を吐く男では無かった。

 目の前の男は本当に楊慶之なのか。本物だとして、何が彼を変えてしまったんだ。

 元景は彼と話して、がっかりした。

 何が目的でこんな夢のような虚言を吐いているのかは分からない。

 だが、彼は蔡辺境伯を倒すとか、荊軻将軍を救い出すと豪語しても、聞いてる方は興ざめだ。そんな無謀な話を延々と話されても現実味が無いのである。

 そして、元景の直感が囁いた。

 『この男はダメだ。』

 とにかく、彼の話は聞くだけ聞いて回答は避けた。

 彼は砦から去って行ったが、昔の慶之を知っている元景にとって、彼との面談は不愉快だったようだ。


 そして范令の言葉に従って、羅家は荊軻を救いに兵を出した。

 楊慶之の申出は検討する必要も無いと、切り捨てたのであった。

「兄者の直感はあまり当たらないと思うが、荊軻将軍を救出するのに異存はない。早く暴れたいのである。」


「まだ出るな。本当に曹家の鎧騎士が裏切りかを確認しないとな。もし、曹家の鎧騎士が裏切らなかったら、俺たちは全滅だぞ。逃げ道は塞がれているからな。」

 索敵の兵が、後方の曹家軍1万の歩兵の動きは掴んでいる。

 これも想定の範囲内だ。自分が曹伯爵でも同じ手を打つ。

 ただ、さすがの曹伯爵も自軍の鎧騎士が裏切るとは考えが及んでいないはず。あの女狐が仕込んだ兵が裏切れば、形勢は一気にこちらに傾く。

 賭けだが、戦いの勝敗はゲームのようなモノだ。

 お互いにカードを伏せて騙し合う。どちらのカードが強烈で、相手のカードを読み切るかの勝負。完全に勝てる戦いなど無い。

 羅元景は、范令が話したカードの方が曹伯爵の持っているカードより強いと思ったから、この范令の作戦に乗ったのである。


 羅元景は大商国への亡命も考えていた。

 大商国の張公爵から、羅兄弟を受け入れると内諾を得ている。

 だが、待遇は張公爵家の陪臣。

 貴族ではない。配下の兵までの受入れてもらう事は出来ない。

 今まで羅家を支えてきた兵たちを切り捨てる事は出来ないと、元景はこの戦場に勝負をかけたのだ。


「おっ、兄者。処刑場の鎧騎士が動きはじめたぞ。そろそろ処刑が始まるのである。」

 羅漢中は神級魔力を持っている。

 その魔力を目に集中させて、遠くの処刑場を見ていた。


「そうか。処刑が始まるか。」

 羅元景は目を細めるが、ここからだと2つの円の柵が邪魔をして、柵の内側の処刑場までは見えなかった。


 そろそろだ。そろそろ女狐が手配した鎧騎士が裏切るタイミングだ。

 このタイミングを逃すと、荊軻将軍の処刑が行われてしまう。

 今なら、皆が警戒将軍に集中しているので、鎧騎士の裏切りに気がつかない。

「漢中、それで曹家の鎧騎士の中で、裏切る鎧騎士はいるか。」


「・・・いや、そんな鎧騎士は見えないのである。兄者。」


(おかしい。そろそろのはずだが・・・。)

 元景は焦り始めた。

「漢中、まだ動きは見えないか。」


「ああ、見えないな。10騎の鎧騎士が魔弾銃を持って、荊軻将軍の前に並んだのしか見えないのである。」

 鎧騎士の魔弾銃による銃殺がそろそろ始まろうとしている。


「元景様、歩兵が後方の南からこちらに向かってきます。」

 突然、索敵を行っていた兵が報告にやってきた。


 (まずい・・・もう、後から曹家軍が現れたか・・・ずいぶん早すぎる。)

 南西の後方から囲むように曹家軍1万が近づいていると報告は受けている。

 だが、羅家軍に追いつくには、半刻(2時間)はあると読んでいた。もう現れたとは、予想を大きく超える速度だ。

「その兵は曹家軍。」


「いえ、曹家軍ではありません。どこの兵か分かりませんが、まともに甲冑も付けていないような兵です。・・・その数は約3千。【曹陽】に向かって進軍中。」


「甲冑も付けていない兵だと。」

 曹家の兵が甲冑を付けていないわけが無い。

 野盗のたぐいか、もしくは領民が反乱を起こしたのか・・・。どちらにせよ、甲冑も付けないで【曹陽】に向かうのは自殺行為としか考えられない。


「はい、旗も持っていません。・・・たぶん、申家軍の兵です。まともな装備は持っていませんが、申家軍と思われる傷んだ甲冑をつけている兵が数名います。」

 索敵の兵が、あまり自信が無いように報告した。


「申家軍だと!?」


「はい、申家軍を女性の将が率いています。」

 確か、申家軍の兵は奴隷兵として捕まっていたはず。

(そうか、范令が、申家軍の兵を逃がしたのか・・・。)

 蔡辺境伯が本気をだせば、それくらい簡単なのだろう。

 申家も蔡辺境伯に降ったか・・・。

(好きでは無いが、やはり蔡辺境伯に仕えるのが正しいのか。)

 彼は、きっとこの大陳国を奪うつもりだ。

 それには優秀な部下が必要だ。

 そして、彼は実力主義でもある。

 神級魔力の弟と、知略の俺が降れば、きっと彼は受け入れるに違いない。

 一族の仇に降るのに思う所はあるが、羅家を残し、部下を守る為には好き嫌いで仕える主は決めるわけにはいかない。

 まずは、申家軍に先陣を切らせて、曹家軍とぶつけるつもりか・・・。

 申家軍は荊軻を救う為なら躊躇わずに突撃するはずだ。


「女の将か・・・。もしかしたら、趙嘩照かもしれんが。まぁ、それはどうでもいい。申家軍の後ろに続くぞ。タイミングを見て出る。」

 申家の後ろにつけば、その分こちらの被害は減る。

 彼らには悪いが、ここは戦場だ。被害を抑えるように動くのは当然である。

 それに、のんびりしてたら、後方から曹家の兵士1万がやってくる。


「元景様、申家軍が通過しました。」 


「よし、それじゃ、俺たちも行くか。」

 元景は羅家軍に進軍を命じたのであった。


 * * *

「全軍、私の後に続きなさい。」


「「「「「うおおおお!!!!!」」」」」

 珪西は馬上から、大声で兵に命令を下すと、兵士の力強い声が返ってくる。

 士気が異様に高い。

 彼女に続く兵は、范令が奴隷収容所から解放した申家軍3千だ。

【奴隷の首輪】も首から外してある。

 収容所の看守から奪った鍵で、全員分の首輪は外したのだ。

 どの兵も窮地に追い込まれたような表情をしながら走っている。

 すでに命を捨てる覚悟はできているようだ。

 収容所から逃げ出したばかりで、甲冑どころか碌な武器も持っていない兵もたくさんいた。

 それでも、彼らの目は活き活きとしている。

 彼ら一人ひとりにとって、燕荊軻は英雄であり、最後の希望なのだ。

 その荊軻を、殺させないという想いが全軍に浸透しているのだ。


 そして、珪西も迷いはない。

 唯一、心に突き刺さるのは楊慶之を裏切った事だけだ。

 珪西は、『蔡辺境伯の配下のいう事を聞くな』という慶之との約束を破って、范令と手を組む道を選んだ。

 だが、珪西は後悔していない。

 彼女は、荊軻を救い出すことに全てを捧げている。

 その可能性が少しでも高い方と手を組む。

 それが罠で捨て石にされようと、荊軻さえ救えればそれで良いのだ。

 自分の命を犠牲にしても、荊軻を助ける。それが彼女の想いであった。

 そして今、荊軻の元に向かって走っているのだ。


「珪西様。曹家軍の兵が見えました。領民が処刑場に群れて我らの進行の邪魔をしていますが、どう致しますか。」

 副官の梁玉景が馬を近づけて聞いてきた。

 処刑場を囲むように2つの円の柵が建てられており、その外側の円の周りには見物に来た民衆が群がっていた。


「玉景、華将軍に領民に道を開けさせるように伝えてください。」

 華将軍は、荊軻の副官をしていた将軍だ。

 荊軻が信頼して、何かと頼みにしていた将軍である。

 将軍としての貫禄もあり、緊急時の対応も十分できる男であった。

 本来なら、彼がこの軍を率いるのが相応しい。珪西が何度も懇願をしたが、自分は荊軻を救えなかったと言って、巌と首を縦に振らず、珪西の下に付いている。


「はっ。分かりました。」

 玉景は珪西の命を受けると、華将軍の元に馬を走らせた。


 その後、一頭の騎馬が申家軍の中から前に突出して出てきた。

 速度を上げて、処刑場を囲む領民の群れの近くに馬は進めて行く。

 華将軍が、民の群れに大声で訴えかけた。

「私は、夏全武。我らは申家軍の将兵だ。これから燕荊軻将軍を救いに行く。荊軻将軍の事を助けたいと思う民は道を開けよ!」

 大声が響くと、民が左右に動き始めた。

 処刑場に向かう一本の道が開いていく。

「かたじけない。私は荊軻将軍を救い出す。待っていてくれ!」


「「「「「荊軻様を・・・お願いします。」」」」」

 今度は民衆が、華将軍に向かって祈った。

 華将軍は民衆に手を上げて答えると、騎馬に乗って申家軍の中に戻っていく。

 

 珪西は馬を走らせながら華将軍を見ていた。

 あっという間に、荊軻将軍の元まで進む道が開けている。

 (さすがは、華将軍。ありがとうございます。)

 本来なら、馬を走らせ華将軍に礼を述べたい所であるが、この場は心の中で礼を言うに留めておく。今は一秒でも早く荊軻の元にたどり着きたい。

 珪西は華将軍に礼を言いながら、騎馬に鞭を入れるのであった。


 * * *

「おかしいわ。」

 趙嘩照は、曹家軍に潜りこませた騎士に合図を何度も送っていた。

 だが、騎士からの返信が何も無い。

 そろそろ、騎士たちが動く頃合なのだが、一向に動く気配がないのだ。

 嘩照たちは、処刑の見物にきている民衆に紛れていた。

 曹伯爵に処刑を一緒に見ようと誘われたが、これから自分が送り込んだ鎧騎士が裏切る手はずになっている。

 その時、嘩照がその場にいたら、さすがにまずい。

 曹伯爵にその場で間違いなく殺される。

 商売だと適当に理由を付けて辞退したのであった。


「どうした、趙嘩照。早く騎士に反旗を翻させろ!これ以上、時間が過ぎると荊軻将軍の処刑が執行されるぞ。」

 范令が嘩照を急かす。

 既に、申家軍の3千の兵が曹家軍に突入を開始していた。

 曹家軍は申家軍に関心を奪われている。ここで紛れ込んでいる蔡家軍の騎士が裏切れば、相手の意表を突く奇襲ができる。

 それに、早く動かないと、荊軻の処刑は執行されてしまうのだ。

 荊軻は蔡辺境伯が配下に欲しがる人物である。死なせる訳にはいかない。

 最悪、配下に出来なくても仕方がないと言われているが、それでは范令の評価が下がる。それに、今までの努力が無駄になってしまう。


「それが、おかしいのよ。合図は出しているんだけど。反応が無いのよ。」


「なに、何を寝言みたいな事を言っているんだ。この状況を分かっているのか。早くしないと荊軻の処刑は始まるぞ。」

 范令は、処刑場を囲む内側の円の中で鎧騎士が動くのを見て焦っていた。

 本当に、そろそろ処刑が始まろうとしている。


「分かっているわよ、そんなの。合図を送っているよ。それなのに動かないのよ。あ~ん、どうなっているのよ、まったく。」

 送り込んだ騎士には鏡で光を送ったら、裏切りを始めるように言ってある。

 送り込んだ騎士は200人。その騎士全員が合図は知っている。それなのに、騎士たちは動かない。

 念の為、3度も、4度も同じ仕草を繰り返しているが、結果は同じであった。


「おい、何を言っているんだ。それじゃ、馬鹿息子を動かせ。」

 范令は相変わらず、曹伯爵の息子の曹圭鎮を馬鹿息子と呼んでいる。

 曹圭鎮がクーデターを起こせば、そこに注意が向けられるはず。そうすれば、荊軻の処刑が遅らせるはずだ。


「それが、坊やとの連絡も取れないのよ。」

 趙嘩照は、いつにもなく不安そうな声になっていた。


「なに!?連絡が取れないだと。それは、どういうことだ。」


「分からないわよ。ただ、この前に申家軍の攻略が失敗した件で伯爵に呼ばれていると言っていたわ。」


「裏切ったんじゃないのか。それか、曹伯爵に何か感付かれたか。」


「それは無いわ。私の魅了は完璧よ。それに、坊やは私の送り込んだ鎧騎士の件は知らないわよ。」


「だが、それは甘いじゃないか、嘩照。あの坊やが鎧騎士の件は知らなくても、あの坊やのクーデターが伯爵にバレれば、伯爵はお前を疑う。そして、お前が送り込んだ鎧や騎士も怪しいと思うはずだぞ。それがきっかけで、伯爵が私たちの作戦に気づいたかもしれん。」


「そ、そんな事が有り得ないわよ。私の策は完璧なのよ。そんな・・・伯爵ごときに気取られるなんて、あり得ない、有り得ない、あり得ない、有り得ないわ。」

 嘩照が意地になって范令の考えを否定する。

 もし、范令が言った事が本当であれば、今までの策は全て無駄になる。

 無駄になっただけでなく、蔡家の鎧騎士を曹伯爵に奪われる。

 適正な代金は貰っているが、鎧騎士は金を払えば手に入る状況ではない。

 あの鎧騎士は、蔡家軍の借りモノだ。

 趙嘩照の策の一環で、蔡辺境伯の蔡家軍から借りて、曹家軍に送り込んだ。

 だから、曹家が支払った代金は全て趙嘩照の懐に入るようになっていた。曹伯爵からもらった金は全部、趙嘩照のモノであった。

 当然、この蔡辺境伯の許可を得て進めている策だが、失敗すれば大きな被害を蔡家軍に与えてしまう。

 下手をすれば、失った鎧騎士200騎分を弁償しなければならない。

 曹伯爵から代金を全額回収できていない以上、それでは赤字になってしまう。

 趙嘩照は現実逃避で別の世界に入ったように、一人でぶつぶつ呟いている。


「おい、嘩照。目を覚ませ。お前が送った鎧騎士が動かない以上、策は曹伯爵に露見したと考えた方がいい。今回の策は失敗だ。だが、まだあきらめる訳にはいかない。何か状況を挽回する方法は無いのか。」

 范令の言う通り、このままでは今までの苦労が泡になる大失敗だ。

 それに、失敗いただけでなく、曹家の統治が健全化してしまう。

 このまま作戦が失敗すれば、懸案だった旧南3家は全て討伐される。それに、荊軻の公開処刑を執行すれば民も大人しくなる。挙句の果てに不穏分子の息子の圭鎮まで潰せるわけだ。今まで曹伯爵を苦しめていた懸案事項が全て解決してしまうのだ。

 これでは、曹伯爵が統治を良くする為に動いたようなものだ。


「そんな良い手なんて、ないわ。」

 趙嘩照は地面に跪いた。


「それじゃ、話にならない。なんとか考えろ!この状況を挽回する手を。」

 范令は声を荒げて、趙嘩照を励ました。


「そんな良い手がある訳ないじゃない。200騎の鎧騎士が動かなきゃ、全てがパアよ。この作戦は失敗したのよ。」

 彼女は泣きそうな声で喚いていた。

 確かに、曹家軍を叩く力は趙嘩照の送り込んだ鎧騎士しかなかったのだ。

 それが動かなければ、この策は全て機能しない事は彼女が一番分かっていた。

 趙嘩照は、ただ茫然と、荊軻の公開処刑を眺めるしか無いのであった。


 * * *


「本当に危なかった、あの手紙が無かったら、曹家は滅んでいたな。」

 曹伯爵は器の酒に口を付けながら、独り言をつぶやいている。

「まさか、趙嘩照が儂を嵌めようとしていたとは・・・。」

 口につけていた器の酒を一気に飲み干した。

 趙嘩照が連れて来た騎士は、全て牢屋にぶち込んである。


 手紙が儂の手に届いたのは昨日の夜だ。

 誰かが、寝室の儂の机の上に手紙を置いたのだ。

 誰が置いたのかは分からない。

 何者かが深夜に儂の寝室に侵入して置いたのだ。

 誰にも気づかれずに、何者かが儂の寝室に忍び込んだと考えると背筋が凍る思いだ。それは、手紙を置いた相手がいつもで儂を殺せる事を意味していた。


 不気味な手紙を恐る恐る見ると。

 書かれていた内容は2つ。

 一つは、蔡辺境伯が曹家を潰そうとしており、その実行犯が趙嘩照である事。そして、彼女が手配した鎧騎士は反乱を起こす手はずになっている事。

 もう一つは、息子の圭鎮は趙嘩照に魅了されており、クーデターを起こす事。

 どちらも、燕荊軻の処刑の日に決行されると書いてあった。

 始めは、蔡辺境伯を曹家を潰そうとしている事や趙嘩照が儂を裏切っている事が信じられなかった。何者かの仕込んだ策略と思ったくらいだ。

 だが、手紙を置いた相手はいつでも儂を殺せる手練れ。

 これだけの情報を持っていてもおかしくない。それに、儂と敵対する相手なら、こんなまどろこしい事をせずに、寝室に侵入した際に儂を殺せば良い。


 それに、一つ気になる事があった。

 趙嘩照を燕荊軻の公開処刑に招待すると、あんなに楽しみだったのに、商売で来られないと返事を貰っていたことだ。

(怪しい・・。)

 気になって、岑将軍に趙嘩照が連れて来た騎士を調べさせた。

 騎士を数人呼んで脅したのだ。命の安全と引き換えに情報を吐くように大袈裟に脅すと、なんと数人の騎士が吐いた。

 しかも、その騎士の証言は手紙の内容と一致していたのだ。

 慌てて、嘩照が曹家に連れてきた騎士全員を捕まえた。


 次に息子の圭鎮を部屋に呼んだ。

 圭鎮を呼ぶ際には、『申家軍の残党の砦の攻略失敗の説明をせよ』と命じた。

 息子は何の警戒せずに、儂の部屋にやってきた。

 そこで、儂はかまをかけて『趙嘩照とクーデターの計画を進めていたのか?』と話すと、圭鎮の顔色が急に変わった。

 顔が真っ青になって、その場で土下座を始めたのだ。

 我が子ながら、利口では無いと思っていたが、これほどの馬鹿だったとは思わなかった。

 圭鎮は部屋に潜ませていた兵に連れて行かせ、牢屋に閉じ込めた。

 奴の配下も全員捕まえた。


 ただ、李剣星だけは捕まえられなかった。

 申家の残党の砦を攻略に向かわせた際に、敵に捕まったという報告を受けていたが、こうなってくると李剣星の動きも怪しい。

 彼は別動隊で、圭鎮の指示で動いているのかもしれない。

 王級魔力の李剣星は、荊軻や主力の兵士を失った申家軍に捕まるはずが無い。

 剣星は曹家軍の筆頭将軍から左遷させられたのをきっと恨んでいたに違いない。そう言えば、奴を息子の専属隊に左遷させるように提案したのも、趙嘩照だった。

 すると、李剣星が率いる別動隊がどこかに潜んでいるかもしれない。

 とにかく、油断はできない。

 李剣星が動くとしたら、この荊軻の処刑が一番可能性が高い。

 

 それにしても本当に危なかった。

 もし、あの手紙が我が家に投げ込まれなければ、趙嘩照にしてやられた。

 たぶん、自分は反乱軍に殺されていたか、生き残っても曹家は貴族としては終わっていた。

 さすがに息子のクーデターや反乱、それに旧勢力の軍勢に敗北したら統治能力無しと見做され領地と爵位が没収されていただろう。


 それにしても、蔡辺境伯が本気で寄子の曹家を潰そうとしていたとは・・・。きっと、本気で王位の簒奪に動くつもりなのだろう。

 荊軻の処刑の後の対処が大変だ。

 (まずは、王国宰相の弟に報告して、次は、秦伯爵を味方に引き入れよう。秦伯爵も、蔡辺境伯の王位簒奪には警戒感を持っていたし、確か、あの家も趙嘩照から鎧を購入していたはずだ。きっと、情報を共有すれば・・・・)

 相手は、蔡辺境伯だ。

 下手に騒ぎ立てると、力押しでこちらがやられる。

 秦伯爵家や趙伯爵家も味方につけて、王国軍も動かしてやっと互角だ。

 それに、蔡辺境伯には、『不敗将軍』の2つ名を持つ鄭任将軍を始め、神級魔力の騎士を6人も擁している蔡家7将軍が控えている。

 鎧騎士や兵の数だけ揃えても、まだ不安だ。なんとか、勝てる確率を上げて行かなければならない。

 (他国を味方につけるか・・・。大魏国辺りは、逆に危ないか。大成国なら面白いかも知れないが。)

 どちらにしても、この処刑が終わったらの話だ。

 だが、これで、曹家と蔡辺境伯は水面下で完全に敵対関係になってしまった。


「曹伯爵、大変です。」


「どうした。」

 せっかく考えが纏まりかけている処で、伝令兵が声を上げた。


「奴隷兵が逃げ出しました。そして、この処刑場に向かって来ています。」


「奴隷兵?申家軍の兵か。数はどれくらいだ。」

 今いる奴隷兵は、申家軍の兵士しかいない。

 逃がしたのは趙嘩照か。もしくは圭鎮の別動隊の李剣星か。

 どちらにせよ、申家軍の奴隷兵を逃がす話は手紙には書いてなかった。


「はい、申家軍です。数は3千が南から攻め込んできています。」


「そうか・・・至急、岑将軍に伝令を送れ。」

 まぁ、誰が解放したかは分からないが、歩兵3千人ていどなら大局に影響はない。

 既に、処刑場には曹家軍の歩兵1万人、南東と南西からそれぞれ1万人。

 合計3万人の味方の歩兵が、羅家と魏家の5千人の反乱兵を取り囲むんでいる。

 5千人が8千人に増えても、こちらは3万人。負けるはずが無い。


「申家も、羅家や魏家と一緒に壊滅させろと伝えるのだ!奴隷兵として捕まえるのが難しいなら殺しても良い。」


「はっ。」

 跪いていた伝令兵は、立ち上がって部屋を出ようとした。


「伝令兵、待て。それと、岑将軍、そろそろ荊軻の処刑を始めろと伝えよ。」


「分かりました。」

 伝令兵は振り向いて、首肯すると部屋を出ていった。


「いよいよ、始まるか。」

 申家軍3千を脱獄させて、処刑場に侵攻させてたのは間違いなく趙嘩照だろう。実行は李剣星かも知れないが、指示を出しているのは彼女だ。

 まったく、抜け目のない女だ。

 反乱軍が3千人増えようと、大した影響ではない。

 だが、嫌な予感がする。それは、あの手紙には申家軍の脱獄の件が記載されていなかったことだ。

(もしかしたら、趙嘩照の・・・いや、女狐の策はまだあるのか。いや、偶々、その情報は手紙を書いた者が知らなかったのかも知れない。どちらにせよ、まだ、趙嘩照が油断はできん。早く、荊軻の処刑を終わらせてしまおう。)

 先の方で、木に吊るされた荊軻を見つめるのであった。


 * * *

「珪西様。前方に曹家軍の兵と衝突しました。」

 梁玉景が前方を指差して叫んでいる。

 前方では、曹家軍が柵の前で道をふさいでいる。

 その曹家軍が魔弾銃を構えて、申家軍が射程距離内に入るのを待ち構えていた。

 申家軍が射程距離の中に入ると、魔弾銃の一斉射撃が行われた。

 碌な甲冑や盾を持たない申家軍の兵が倒されていく。


「華将軍。あの曹家軍の兵を散らすことはできますか。」

 私は並列して馬を走らせる華将軍に、前方の兵の撃破を頼んだ。

 あの兵の先にある柵を越えれば、処刑場が見える。

 そこには荊軻様の姿があるはずだ。

(あともう少しで、荊軻様に会える。)


「正直、難しいです。こちらは、まともな武器や甲冑をもたない兵ばかり。それに、朝から走りっぱなしで疲労も蓄積しています。ですが、珪西様の命なら、命を賭してやり遂げましょう。」

 華将軍の目は、死ぬ覚悟をした者の目であった。

 命じたら、彼は死を恐れずに敵中に突進して意地でも道を作るつもりだろう。

 華将軍に『死んでくれ』と言っているのようなものである。


「・・・すみません。華将軍、この償いはあの世でします。ですから、曹家軍を散らして、柵を越える道を作ってください。」

 『死んでくれ』と言うのと同じと分かっていても、私は華将軍に命じた。

(本当にすみません。) 

 華将軍に心の中で何度も謝りながら。

 馬上で私は剣を抜いた。


「分かりました。私の後に続いてください。」

 そう言うと、華将軍が盾を前面に出して騎馬に鞭を打った。

 曹家軍に向かって一騎で突進する。

 魔弾銃で騎馬が倒されても、地面に投げ出されても直ぐに立ち上がった。

 大きな盾だけは手から離さず、曹家軍に向かっていく。

 そして、曹家軍の兵に近づくと、剣を鞘から抜いて兵を斬り付けた。

 混戦になれば、魔弾銃は使えない。

 陣が崩れた。後ろから、申家軍の兵士が続く、華将軍が倒した曹家兵の武器や甲冑を奪いながら、申家軍の兵も戦っている。


「我儘を言ってすみません。ですが、今度は、私が荊軻将軍を助けなければならないのです。死ぬ時は、一緒に死にたいのです。ありがとうござます。華将軍。」

 私は華将軍に心の中で頭を下げた。

 そう、私は今まで荊軻様に救われてばかりだったのだ。

 その恩を少しも返せていない。

 それに私はまた一人になるのは嫌だ。もう、あの頃のような一人の生活に戻りたくない。あの頃に戻るくらいなら、あの人と一緒に死にたい。

 私は、騎馬で華将軍が作ってくれた道を進んで行く。

 そう、あの日の事を思い出しながら、ただ無心に鞭を振るうのであった。


 あの日は、申子爵様の使者が私の家に手紙を届けに来た日だった。

 使者は私に手紙を渡した。

 私は、どうせ、父宛の手紙であろうと思い手紙を預かった。

 今、父は隣国の大商国への遠征に従軍している。

 父が戻ったら渡せば良いと思って預かった。


「違います、穆珪西殿。それは、あなた宛の手紙です。」

 使者はそう言った。

 確かに手紙の宛名が『穆珪西殿』と私の名前になっていた。

 私宛に、何の手紙か使者に尋ねると、使者の方は「私はただ子爵様から手紙を届けるように申し付かっただけです。中身は分りません」と言って帰ってしまった。


 私は首を傾げながら、家に入って手紙を開いた。

 その手紙の中身に目にした瞬間、私の時間が止まった。

 そして、その場に座り込んでしまった。

(なにかの間違いだ・・・。)

(この手紙は嘘だ。そんなはずはない。)

(子爵様が、私をからかっているに違いない。)

 いろいろな思いが、私の頭の中をかけ巡った。

 血の気が引いた。

 そして恐ろしくなった。その後・・・目から涙が出てきた。

 次から、次へと涙が出てきて止まらなかった。

 しばらく手紙を見ていると、この手紙の内容は事実なのだろうと理解し始めた。


『名臣、穆泗水。忠臣、穆珪臣。大商軍の兵ならびに魔物を倒し。申子爵を守りて、死海の森の北にて死す・・・。』

 と、その手紙に書かれていた。


(父と・・・兄が死んだなんて信じられるはずが無い。)

 目から涙が止まらない。

 父と兄が死んだ・・・。

 周りの景色がぼんやり感じ、その後、私は意識を失ってしまった。


 数日後、申子爵様が戦場から申家領に戻ってきた。

 だが、一緒に戻った申家軍には、父の姿も・・・、兄の姿も・・・無かった。

 子爵様と戻ってきた兵は、出陣の時の10分の1以下に減っていた。

 3千人近い兵が、数十人までに減っている。

 たくさんの人が、今回の戦争で死んだ。

 国や貴族は領土や人を奪い合って殺し合う。

 そして父も兄も軍人で、戦いで人を殺し、もしくは殺される仕事についていた。

 だから、こんな日が来てもおかしく無いのだが、今まで考えた事も無かった。


 申家軍が戻ってきた翌日に、荊軻が家にやって来た。

 私は彼の事は知っていた。

 父が良く彼を家に招いていたからだ。

 彼は平民の出で軍では孤立していた。

 いつも彼は一人でいるので、休日になると父が良く家に招いたのだ。

 なぜか、父は彼を可愛がっていた。

 彼を家に呼ぶと、剣の稽古をしてあげていた。

 兄も付き合わされて、彼と一緒に打込稽古をしていた。

 兄は厳しい人で後輩に厳しかったが、なぜか彼には優しかった。

 彼も兄に懐いていたようで、剣術の型や戦術などを良く聞いていた。

 なぜか分からないが、とにかく父も、兄も彼の事を可愛がっていた。

 私も彼の事は嫌いではなかった。

 彼は私の家に来た時、いつも私が作った料理を『美味しい』と言って、おかわりをして美味しいそうに食べていたからだ。

 別に好きだったわけではない。ただ、私の料理を美味しそうに食べる人。ただそれだけだ。ただそれだけだが、彼への印象は悪くなかった。


 その彼が、申家軍が戦場から戻った翌日に家に来た。

 父の位牌と、兄の遺骨に供養を上げに来た。

 父の遺体は見つからなかった。

 鬼餓狼に倒された鎧は見つかったが、騎士のほとんどが見つからなかった。鬼餓狼に食べられたらしいとは聞いている。

 兄の遺体は見つかったが、鬼餓狼に鎧ごと潰されて遺体は原型は留めていなかったと聞いている。私の手には届けられたのは遺骨だけだった。


 彼は家に来ると、紙にくるまった髪の毛を私に渡した。

 兄の遺髪だった。

 潰れた鎧の中で、探しだしてきたモノと言っていた。

 骨以外で、唯一の兄の遺品だった。

 彼は、父の位牌と兄の遺骨の前に座った。

 そして、暫くの間、目を閉じて手を合わせていた。四半刻(約一時間)の間、ずっと目を閉じて動かなかった。

 ただ、閉じた目からは、涙だけがこぼれていた。

 そして気が済んだのか、彼は目を開けて挨拶をして帰って行った。


 その日から、度々、彼は家にやって来た。

 ただ、家に来たても決して家の中には入らない。

 玄関で何か変わった事が無いかを聞くと、『美味しそうな食べ物を見つけたので。』とか『遠征のお土産です。』とか言って、食べ物や土産を置いて帰って行った。

 こちらから話をしても、彼は口下手なのか、中々会話が続かない。

 というか、私がお礼を言って、会話が終わってしまうのだ。

 ほんの5分で彼はいつも帰って行った。

 彼はいつも軍服で家に来ては、買ってきた食べ物やお土産を置いて帰って行った。


 一度、なぜ、私の家に来るのか聞いた事がある。

 その時、彼が答えたのは、「珪臣どのとの最後の会話が『妹を頼む』という言葉でした。だから伺わせて頂いています。もし嫌なら、言ってください。」

 兄の最後の言葉が私の事だと聞いて、涙が出てきた。

 兄は私に対して過干渉で、男の人が近寄るのを阻止するような人だった。

 その時は、過干渉な兄をウザいと思ったが、今は違う。それだけ、私の事を大事に思ってくれていたと感謝の気持ちで一杯だ。そして、最後に口にした言葉も私の事だったと聞いて、兄らしいと思い、泣き出してしまった。

 彼は、私が兄を思い出して涙を流していると、暫くの間、黙って門で見守って待っていてくれた。そして、私が彼に気づくと、頭を下げて帰って行くのであった。


 そんな彼は、申家軍が帰還すると将軍になった。

 それも、父の地位を継いで申家軍の筆頭将軍になっていた。

 20代で申家軍のトップの地位に立つのは異例なようで、今まで無い快挙であったようだ。しかも平民出身の将軍など今までにいない。

 彼が一気に軍のトップまで昇格した理由は、王級魔物の鬼餓狼を倒したからだ。

 彼は申家領だけでなく、長南江以南では『英雄』と呼ばれていた。

 父と兄を殺した鬼餓狼を倒してくれたことは、私にとっても嬉しかった。

 今回の戦いで、多くの兵が死んだ。そのほとんどが、鬼餓狼に殺されていた。

 その死んだ兵たちの遺族が彼を称えた。後で知ったのだが、楊家や王国も彼の功績を称えたようだ。

 民への敗北の印象を薄める為に、国にとって英雄が必要だったらしい。その英雄が彼だったらしい。そんな英雄が筆頭将軍になるのは当たり前だった。

 若くして申家軍のトップになった彼は、奢ることは無かった。

 口数は少ないが、意見を話す時は、しっかりとした見識を見せるらしい。きっと父や兄が家に連れてきて指導した賜物なのだろう。

 今の彼を見れば、父も兄も喜ぶだろう。

 申子爵も彼には一目置いていると聞いていた。


 荊軻将軍の噂は私にも入ってきた。

 家の侍女が、良く町の噂話を聞いて来て私に話すのだ。それに、同年代の陪臣の娘の話も私の耳に入って来る。

 私にとって彼は、父や兄の弟子のような存在なので、弟子が褒められると、師匠の娘としては嬉しい。


 初めは、彼が筆頭将軍になっても、申家の陪臣たちは平民出の若造と彼を見下していたようだ。それが、今は一目置かれる存在になっているようだ。

 中には、自分の娘の縁談を持ち込むような名門の陪臣もいるらしい。

 これらは、同年代の女友達から聞いた話だ。

 父や兄の弟子である彼が評価されるのは嬉しい。ただ、彼に見合いの話が出ているのは何だか嬉しくない。

 別に彼が誰と結婚しようと彼の自由なのだが、少しもやもやする。


 友人が言うには、彼は優良物件のようだ。

 若くして筆頭将軍の地位について、大陳国の中で『英雄』と称賛されている。その上、独身でうるさい実家の姑などのコブも付いていないからだ。

 平民出身の件はこの際、関係ないらしい。陪臣家にとって若くして筆頭将軍というだけで、平民出身の件はチャラなようだ。


 彼に比べて、私は両親や兄を失って後ろ盾も無く、なんの取柄も無い。

 当然、私の縁談を取り持つ人など誰もいない。

 私はたぶん、一生独身で過ごしていくのかもしれない。

 でも、それでも良いと思っていた。

 父と兄を失った私は、2人を想いながら静かに暮らすのも悪くないと思っている。

 一人は寂しいが、仕方がない。

 これが、一族の全ての者を失った私の宿命なのだとあきらめるしかないのだ。


 そんな私に、申子爵様から手紙が来た。

 これが子爵様からの2度目の手紙だ。

 一度目の子爵様からの手紙が酷かった所為か、子爵様からの手紙には悪い印象しかない。

 手紙の内容は、子爵様の居城へくるようと私を招集する手紙であった。

 子爵様の招集されるような事で、思い当たる事は無い。子爵様の手紙は悪い印象しか無いので、正直行きたくないが、申子爵家領に住む者として領主の命令には逆らえない。行くしか何のだが・・・ああ、嫌だ。行きたくない。

 いつも、玄関に現れる彼に、申子爵様が私を居城に呼び出す理由を聞いてみたが、「知らない。」と言って、礼をすると帰って行った。


 仕方がなく、覚悟を決めた私は、指定された日に子爵様の居城に行った。

 すると、子爵様の部屋に通された。

 そして暫くすると、現れたのは奥様であった。子爵の奥様だ。

 どうも、奥様が私を呼んだらしい。

 しかも奥様の口から話が出たのは、なんと縁談の話だ。

 当然、私の縁談である。


 縁談の相手は、燕荊軻殿だ。


 私はどう反応して良いか分からなかった。

 そこで、なぜ、荊軻殿との縁談を奥様から出たのか聞いた。

 すると、奥様は申子爵に頼まれたらしい。


 もう少し詳しく聞くと、どうも子爵の元に陪臣家から荊軻殿への縁談の話が殺到しているらしい。

 陪臣家自らが、相手に縁談を申し込んで断られると、お互いに禍根が残る。

 それで子爵様を通じて、荊軻殿との縁談を打診するのが普通らしい。

 そして、申子爵様に打診する陪臣が多いらしいのだ。

 そこで、子爵様は荊軻殿を呼び出して、縁談が殺到している事を話したそうだ。

 すると案の定、朴念仁の荊軻殿は子爵様の話をきっぱりと断ったらしい。

 ただダメだったと陪臣たちに答えるのはマズいので、荊軻殿に縁談を断る理由を聞いた。

 すると、荊軻殿は『一生をかけて守らねばならない女性がいる』と答えたそうだ。詳しく、申子爵が聞くと、珪臣との最後の約束であると話したそうだ。

 珪臣は申子爵にとって、自分を守る為に死んだ忠臣である。

 その忠臣との約束を守るという荊軻の気持ちに感動した申爵様がこの縁談の話を奥様に頼んだのであった。

 当然、縁談の相手は私である。

 奥様も、申子爵様の話を聞いて感動したそうだ。

 そして、死んだ忠臣の最後の願いを叶えたいという想いで、この縁談の話を引き受けたと言っていた。


 兄との最後の約束の話は彼から聞いて、知っていた。

 だが、本当に彼が一生を捧げるつもりで考えているとは思ってもいなかった。

 彼は真面目な男なので、兄に頼まれて、可哀そうな私を気にかけてくれている程度にしか思ったいなかったのだ。

 彼は若くして申家軍のトップになり、時の人だ。

 私より条件の良い家からの縁談もたくさん来ている。

 そんな彼が、『妹を頼む』と兄に言われて、本当に『自分の一生かける』とは思っていなかった。

 

 でも嬉しかった。

 彼の気持ちも、兄の気持ちも、嬉しかった。

 そして、何より、これで一人では無くなるのが嬉しかった。

 私は寂しかったのだ。

 父と兄を失った私は一人になってしまった。

 彼が気にかけていてくれていたが、それでも一人だと思っていた。

 でも、本当は一人で無かったと思うと涙が出てきた。


 そして、私は燕荊軻の妻になった。


 だから、今度は、私が彼を救う。

 今度は私が荊軻様を救う番なのだ。私の命を引き換えにしても彼を救い出す。

 絶対に、彼を一人で死なせない。

 死ぬなら、私は彼と一緒に死ぬ。

 だから、絶対に荊軻様を救い出す。たとえ、蔡辺境伯に利用されようとも。

 それが、私の生き様なのだ。


 * * *

 処刑場   燕荊軻


(ああ、眩しいな・・・これは、陽の光か。それに、辺りがずいぶん騒がしい。ああ、ここは地下牢じゃないんだ。そう言えば、処刑が近いと牢番が言っていた。そうか、今日が処刑の日か。それにしても、力が入らない・・・それに疲れた。)

 荊軻の体は傷だらけで、いくつか骨も折れ、体が思うように動かない。

 やっとのことで、首を上げて左右を見回した。

 左右には、けっこうな数の鎧騎士が並んでいた。


(ええっと、ここは、どこだ・・・。)

 顔を上げると、久しぶりの太陽がまぶしかった。

 どうも、城外のようだ。

 遠くに演壇が見える。

 誰かが、こちらを見ているが、遠すぎて分からない。

 目に魔力を籠めて、演壇の上の人物を見ようとするが、手に嵌められている魔封石の手錠の所為(せい)で、魔力が上手く操作できない。

 それでも、魔力を目に集中すると、手足の魔封石から離れている目だからなのか、少しずつ目の魔力操作ができるようになった。

 それで、やっと演壇の上に座っている人物が、曹伯爵だと分かった。


(やっぱり、ここは処刑場か。ということは、俺はいよいよ死ぬな。)

 荊軻は、死ぬのは覚悟していた。

 それが、今日というだけだ。

 もう彼は疲れていた。李剣星に脱獄の意思を聞かれた時も、部下や領民を救う自信が無かった彼は、断った。

 最後の未練も、李剣星に託した。

 李剣星が約束を果たせるかは分からない。だが、彼なら約束を果たそうと動くはずだ。もし、彼が動いてダメなら仕方がない。できる事はやってくれたはずだ。

 きっと、あの世では、申子爵、穆将軍、穆珪臣などが待っている。彼らと会うのは久しぶりだ。


 私を睨みつけている男がいた。

 軍服からすると、彼が曹家軍の筆頭将軍だろう。

 李剣星は筆頭将軍を首になったと言っていたから、きっと彼が李剣星の後釜のなのだろう。

 私と目が合うと、その将軍はニヤリと笑った。


「これから、燕荊軻の処刑を始める。」

 ――ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。

 その男の声に併せて、銅鑼が高く鳴り響いた。

 すると、喧騒だった周り音が消え、急に辺りは静かになった。

 処刑の周りの観衆の視線が、一斉にこちらに向いたのが分かる。


「魔法兵、前に出ろ!」

 その男が大声で叫ぶと、今度は10名くらいの魔法兵が自分の前に並んだ。

 手には、各々、魔弾銃を持っている。

 どうも、私は銃殺で死ぬようだ。

 まぁ、死ぬのは同じなので特に気にしない。

 将軍らしき男は、私の罪状を読み始めた。

 ほとんどの罪状がでっち上げや、曹家に都合のよい解釈であった。

 曹家にとって、この処刑は領民への見せしめだ。

 自分たちの正義を高らかと宣言して、私を貶めることに意義がある。

 だから、この罪状が正しいか、間違っているかはどうでも良い。曹家の正義を民衆に伝えることに意義があるのであろう。


 将軍らしき男が罪状を読んでいる間、南の方にざわめきが聞こえた。

 ここから離れているので、微かにしか聞こえないが、剣がぶつかる音がする。

 将軍らしき男が罪状を読み終えると、伝令兵が彼に近づいて何かを伝えていた。

 彼は伝令からの報告に頷いて、演壇の上の曹伯爵の方を振り返った。

 伯爵が椅子から立ち上がると、右手を上に挙げた。


「それでは、魔法兵。銃を構えろ!」

 その声に反応して、10人の魔法兵の視線が私に向けられた。

 そして、魔弾銃を構えて照準を合わせ始めた。

 照準を合わせると言っても、ずいぶん距離が近い。

 この距離なら、まず外すことはないだろう。


「まだ、撃つな。」

 大声で叫んで、また、演壇の上にいる曹伯爵の方を見る。

 なにか合図を待っているような視線だ。


 南の方から聞こえる剣がぶつかる音や兵の叫び声が聞こえる。先ほどより、近づいているのか、小さな音が聞こえるようになった。

(荊軻様・・・・)

 微かだが珪西の声が聞こえたような気がした。

 もしかしたら、珪西がこの処刑場に来ているのかもしれない。

 李剣星に託した言葉が彼女に伝わっていても、彼女なら私の言葉を無視してこの場に駆け付ける。彼女はそういう女性だった。


 演壇の上の伯爵が上に挙げた右手を地面に平行に降ろした。

 すると、将軍らしき男が右手を大きく上げた。


 いよいよだ。私は覚悟を決めて、顔目を閉じた。

(珪西、すまない。先にあの世で待っている。だが、私が待っているのは、お婆さんになった珪西だ。決して、急いで来るなよ。ゆっくりで良いからな・・・)

 心の中で、珪西に詫びた。


 将軍らしき男は、高く掲げた右手を水平におろした。

「撃て。」

 命令に反応して、魔法兵が一斉に魔弾銃の引き金を引いた。

 ――ダダダッ・・・・。

 10人の魔法兵による一斉射撃が行われた。゙

 凄まじい銃声の音に、観衆は思わず両手で耳を覆って目を閉じた。


「撃ち方やめーい。」

 将軍の男の声で、魔法兵の射撃を止まった。

 銃声が止まると、辺り一帯に静けさがただよった。全く何も音がしない。

 観衆たちは、自分の耳を覆っていた手を顔から離す。


 * * *


 申家軍は、華将軍が先陣を切って、曹家軍に向かって突進した。

 馬は既に失っている。曹家軍の兵から奪った槍で、敵の兵を突いたり、投げ飛ばしたりして道を作りながら進んで行く。

 申家軍の半数が負傷を負って、戦線を離脱している。

 たぶん、死んではいない。曹家兵は、申家軍の兵を生け捕りにして奴隷兵にするつもりだ。

 敵の魔弾銃の威力も気絶させる程度の『小』に抑えているはずだ。

 盾や甲冑を持たない申家軍の兵は、魔弾銃の良い標的になってしまった。

 それで申家軍の兵の士気は落ちてはいない。

 華将軍がとりついて、乱戦になった曹家軍の陣に向かって突進していた。

 乱戦だと、敵も味方にあたりので魔弾銃が使えないからだ。


 羅家軍も動いた。

 乱戦になっている曹家軍の陣にむかって突進していく。

 処刑場への侵攻を遮るように布陣していた曹家軍の穴が広がっていく。


「死にたく無ければ、そこを、どくのである!」

 羅漢中が大声を挙げて、戦場を駆け巡る。

 大きな盾と蛇矛を持って、曹家軍の中を走り回る。

 羅漢中が一振りすると、多くの曹家兵が吹き飛ばされた。彼の行く手を妨げられるような兵は曹家軍にいない。

 羅家軍は装備もしっかりして、士気も高い。

 羅漢中から逃げ惑う曹家兵を、彼の後ろから倒していくのが彼らの必勝の戦法のようだ。

 処刑場を囲む曹家軍と申家軍と羅家軍の連合軍の戦いは、連合軍に有利に傾き始めていた。

 だが、全体的には圧倒的な不利な状況は変わらない。

 後方の南東および南西から包み込むように進軍してくる曹家軍2万がいるからだ。


「羅元景様、南東の曹家軍1万の兵が魏家軍とぶつかりました。」

 伝令兵の声が聞こえた。


「そうか・・・。」

 魏家軍は南東に兵を駐屯させて動いていなかった。

 対して、羅家軍は初め南西に兵を駐屯させたが、申家軍の突撃に呼応して兵を北に進めている。

 その場を動かなかった魏家軍が北上してきた曹家軍と衝突したのである。

 魏家軍が動かないのは、曹家軍の鎧騎士が動かない所為だろう。

 羅家軍もそうだが、蔡辺境伯が曹家軍の鎧騎士を裏切らせると聞いて、この戦いに参戦している。曹家軍の鎧騎士が裏切らなければ、自分たちの勝ち目が無い。


(なぜ、曹家軍の鎧騎士は動かない・・・。奴らが動かなければ、うちの羅家軍も全滅だ。くそ、蔡辺境伯の力を期待した俺の勘が外れたか・・・。)

 羅元景が視線を動かすのは、前方の曹家軍の鎧騎士の動きである。

 あの范令という男を信じたわけではない。

 自分の勘が信じたのだ。自分の勘は、そろそろ趙嘩照、いや女狐が送り込んだ鎧騎士が動き出すはずだと言っている。

 残念だが、曹家軍からそんな気配は一切感じられなかった。

 女狐の送り込んだ鎧騎士が裏切らなければ、前方から鎧騎士。後方から歩兵1万人。その両方の曹家軍により、羅家軍は押しつぶされてしまう。

 羅漢中のおかげで、今は優勢に戦っているが、それも長くは持たない。

 前方の鎧騎士が処刑が終わり動き始めたら、こちらは全滅だ。


(早くしろ。そろそろ・・、時間が無いぞ。)

 元景は焦るが、前方の曹家軍の鎧騎士に動く気配は見られない。

 視線を南西に移すと、後方から遠くに土煙が見え始めている。敵の歩兵に違いない。こちらを囲い込むように後方から来た敵が追いついたようだ。

(拙いな・・・もう、時間は無い。)

 その時だ。


 ――ダダダダダダッ・・・・・・


 魔弾銃の連射の音が、処刑場の方で轟いた。

(なに、もう処刑が始まってしまったのか・・・。荊軻は死んだのか・・・。)

(終わった・・・。何もかも・・・)

 元景はがっくりと肩を落とすのであった。

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