第16話 レイラ

 俺たちは地下3階層を踏破すると、一旦は休息にした。

 迷宮の中は時間の感覚が無い。昼も夜も無いので、つい無理をしてしまう。

 だが、出発して12時間が経過したら、とにかく休息が必要だ。

 体が万全でないと、魔物との戦いで思わぬ隙を与えてしまうからだ。

《館》を設置すると、風呂に入り、食事をして休んだ。十分、睡眠をとって生気を養ったら、いよいよ王級魔物がはびこる地下4階層の攻略へと向かう。


 地下3階層では、ずいぶん多くの上級魔物を倒した。

 特に前から来る魔物を倒す前衛と、空中の魔物を倒す中衛の連携が上手く取れていた。静香と麗華の中衛が空を飛ぶ、鳥系と昆虫系の魔物を倒してくれたおかげで楽に攻略できた。

 魔物の素材を回収すると、けっこうな数の窟蝙蝠や魔蛾虫それに魔蠅の素材が手に入っていた。これで相当な数の《魔法の鞄》を作るだけの羽(翅)を手に入れるという姜栄一の依頼は達成できた。

 それに、前衛の3人も頑張ってくれたので、【智陽】や【迷宮の扉】付近で倒した上級魔物以上の魔石や素材が回収できた。

 今まで回収した上級魔力以上の魔石が千個近く回収できた。

 魔石の収穫としては十分だ。

 これだけの魔石が回収できれば、相当の数の鎧騎士が準備できる。そうすれば蔡辺境伯との戦いでも、役に立つはずだ。

 一歩一歩、着実に『復讐』に近づいているのが実感できる。あと、もう少しだ。

 

 だが、ここからは気を緩められない。

 地下4階層の王級魔物と、地下5階層の神級魔物と《迷宮の主》。

 俺にとっても、仲間にとってもこれからが本番だ。

 俺たちは、装備を再度確認すると、地下4階層に続く階段を降りていった。

 地下四階層に着くと、すぐにでも王級魔物が襲って来ると思ったが、魔物の気配は感じられなかった。

 少し拍子抜けだったが、気を緩めずにさらに前進した。

 だが、全く魔物が現れない。

(変だ・・・すでに2時間は歩いている。なんで魔物が現れない?)

 今まで歩いた距離を考えれば、地下4階層の3分の1を進んだくらいだろう。

 これだけ歩いて、一匹も魔物が現れないのが気持ちが悪い。


「おかしいわ。なんで、魔物が襲って来ないのかしら。」

 静香が周りを警戒しながら、首を傾げる。


「【迷宮の扉】付近では、王級魔物が20匹も出現したわ。もう、この迷宮の王級魔物は、迷宮の外に出尽くしたんじゃ無いかしら。」

 麗華が、楽観的な意見を口にした。


「そんなわけ無いでしょ、【迷宮の扉】に神級魔物が10匹も現れたのよ。迷宮の中にはその倍の神級魔物がいるはず。王級魔物は神級魔物の5倍はいるとして、少なくとも100匹はまだ、この迷宮の中にいるはずよ。」

 静香は、【迷宮の扉】から現れた神級魔物や王級魔物の数から逆算して、迷宮の中に潜んでいると思われる王級魔物の数を算出した。

 けっこう、的を射た計算だ。さすがは、知力890の能力値の持ち主だ。


「それじゃ、何で王級魔物が現れないのかしら。」

 麗華は、麗華で《火の迷宮》の王級魔物の数を考えていた。

 だが、彼女の情報は活性化前の《火の迷宮》の王級魔物の数だった。

 活性化前であれば、麗華が正しいのだろう。

 だが、虹色魔石の活性化の影響は神級魔物や王級魔物の数を激増させていた。

 それに、魔人族の王である獣魔王も、この迷宮の中に潜んでいる。

 今の《火の迷宮》はとても楽観視できる状況ではないのだが、それなら、なぜ、地下4階層に魔物が現れないのかは分からない。


「・・・・・・うっ。」

《索敵》魔法に反応した。

 けっこうな数の魔物と・・・。それに人の反応もあった。

 魔物は100匹以上、人間が20人はいると思う。


「《索敵》魔法に反応があった。前方500m先に100匹以上の魔物とそれと20人以上の人の反応がある。たぶん、交戦中だと思う。」

 《索敵》魔法の情報を皆に伝えていく。


「やっぱり、いたわね。魔物たちが。」

 静香が勝ち誇ったように薄い胸を張った。

 地下4階層には、まだけっこうな数の王級魔物が控えていた。

 魔物の数も、聖香が予想した数とほとんど一致している。


「それじゃ、行こうか、子雲。もしかしたら、昨日会った耳長族の女性もいるかも知れないよね。是非、彼女とは一度手合わせをしたいんだけど。」

 桜花は魔物との戦いより、エルフの女性との戦いに関心があるようだ。

 だが、手合わせは、エルフとではなく、魔物とにして欲しい。

 彼女は俺たちより先に進んでいたので、交戦に入っていてもおかしくない。ただ、彼女以外に、地下4階層に20人近い冒険者がもぐっていた方が不思議だった。

 彼女がいれば、俺たちの出番はないかも知れない。

 そうすると、王級魔石を全てエルフに持っていかれるが、冒険者の世界では戦っている獲物(魔物)を横から奪うのはルール違反だ。ここは黙って見ているしかない。


「魔物と魔石は、エルフの冒険者に持っていかれるかも知れないが、彼女の戦いには興味があるな。それに、彼女が強いと言っても、王級魔物が100匹近いからな。何があるか分からない。近くの20人の冒険者がどういう奴らかにもよるが・・・。」

 ここで、ジッとしていも仕方がない。エルフの戦いを見物する感覚で先を急いだ。


 * * *


「なぜ、こんな状況になっているんだ。」

 獣魔王である黒姫は頭を抱えていた。

 虹の王を倒す為に、この中央の広場に地下4階層の全ての王級魔物を集めて待ち伏せしていたのだ。

 ここに、地下4階層の全ての王級魔物と地下5階層の全ての神級魔物を集め。

 更に人質まで用意した。

 全ての手札をぶつけて、虹の王を倒すつもりでいた。

 

「な、なんなのよ、あのエルフは。たった一人のくせに。」

 黒姫は、呻き声を上げている。

 たった一人のエルフがこの地下4階層の広場を通った事により、作戦が大きく狂ってしまった。

 始めは一人のエルフがこの広場に近づいたので、ゴミを片付ける感覚で、王級魔物の鬼小鬼(キングゴブリン)や魔犀鬼、魔熊鬼にエルフの始末を命じた。

 すると、瞬殺で3匹の魔物が殺られてしまった。

 エルフが《瞬歩》で鬼小鬼の近くに移動すると、小剣で鬼小鬼の首を落としてしまったのだ。それから、あっという間に魔犀鬼、魔熊鬼も殺られてしまった。

 魔物たちは、反応できずに首を落とされた。


 いくら何でも100匹近い王級魔物を一人で相手にするのは無理だろうと高を括っていたら、既に30匹近い魔物が狩られてしまった。

 全く、本当に作戦の全てが思う通りに進まない。呪われているとしか思えないくらいに予想の斜め上を行く。


「ああぁぁぁ、なんであんなに強いエルフが現れるかな・・・。本当に呪われているわ、私。それに、あのエルフの武器はミスリルのようだし。全然、疲れは見せないし、勢いが衰えないじゃない。」

 人間どもが使う武器は、性能が良くない。

 鉄か、せいぜい特級魔物の素材で作った武器なので、直ぐに刃毀れして砕けてしまう。

 武器を失った冒険者など、魔物たちの恰好の餌だ。

 その点、魔力伝導率の高いミスリルの武器を持たれると面倒だ。魔力が続く限り、刃毀れどころか、武器の硬さと切れ味は変わらない。

 問題は魔力が続くかどうかぐらいだが、あのエルフは全然疲れも、魔力が落ちる処も見せない。

 魔力量が多く、高価なミスリルの武器を持ったエルフが現れるとか有り得ない。


(なんでこんな面倒な相手が、私の前に現れるかな。ああぁぁ、本当に呪われている。魔人族の魔王である私を呪うとは・・・)

 嘆いても仕方がない。

 このままでは、こちらが消耗するだけだ。虹の王と戦う前に、こちらの戦力が消耗するとは笑い話にもならない。


 仕方がない、これ以上の消費を避ける為に私は奥の手を使う事にした。

 私は、エルフに向かって叫ぶ。

「お~い、エルフ。こっちには、人質がいる。それ以上、抵抗すると、ここに居る人間を一人ずつ殺しますよ。」


「・・・・・・。」

 エルフは返事もせずに、黙々と魔物を殺し続けている。

 全く、私の言葉に反応する気配すらない。

 それに、あのエルフ、忌々しいことに魔法の手数が多い。

《瞬歩》だけでなく、《神速》、《風魔法》や《飛翔》などの魔法も使う。

 魔力量が多いだけでも厄介なのに、魔力階級も神級魔力の威力で、魔法の手数も多い。既に30匹の魔物を倒して、一向に魔法の力が落ちない。

(あの魔物、もしかして、虹の王の眷属か・・・?いや、まだ虹の王は覚醒していない処か、力に目覚めたばかりだ。それに、あのエルフは虹の王と別行動をしている。思い過ごしだろう。ならば、なぜ、ここにあのようなエルフが現れるんだ!)


 私は様子を見ながら、エルフを観察していた。

 人質の話をしても、全く反応が無いので、もう一度警告を与える。

「エルフ。黙っているという事は、私の命令を無視するという事かしら。残念だわ。それでは、人質を殺すわよ。あなたの所為で、人が死ぬのよ。」


「・・・・・・。」

 エルフには全く動揺も、変化も見られない。

 黒姫が命令を下すと、小鬼(ゴブリン)が槍で木に縛られた聖騎士の腹を突いた。

 その場で、神級魔力の聖騎士が1人、命を落とした。

 だが、エルフは聖騎士が殺される姿に見向きもしないで、魔物を倒し続ける。

 既に、40匹の魔物の首が落とされている。


「一人で40匹の王級魔物を倒すとは化け物ね。」

 しかも、人質も効かないとは厄介だ。

 まぁ、エルフにとって人間が死のうと関係無いのかもしれない。

 だが、せっかく用意した人質だ。もう一度大きな声で、エルフに叫びかけた。

「エルフ。あなた、血も涙もないのかしら。もう一度言うわ、魔物を殺すのを止めなさい。止めないと、人間を殺すわよ。」


「・・・・・・。」

 やっぱり、エルフから反応は無かった。

 再び、小鬼(ゴブリン)に人質を殺す様に命じる。


 小鬼(ゴブリン)が、槍を人質に向けて刺し殺そうとすると、岩陰から人が動いた。

 赤髪の聖騎士が、槍を持った小鬼(ゴブリン)を殺した。

 そして、他の小鬼(ゴブリン)にも剣で斬りかかった。

「なんでこんな所で、あの赤髪の聖騎士が現れるのよ。よけいに訳が分からなくなってきたじゃない。あああぁぁぁ・・・もう、人質は全員殺しなさい。」

 エルフの出現で、人質作戦が失敗したと黒姫は判断した。

 それに、赤髪の聖騎士が人質の救出に入った。

 「助けるのか、見放すのかどちらにしてよ!」と叫びたかったが、エルフに無視されると思って言葉に出すのを堪えた。ただ、このままだと人質が救出されてしまうので、小鬼(ゴブリン)たちに人質を殺すように命じた。


「ぐわぁぁぁ・・・。」

 槍で刺された騎士の断末魔が響く。

 何人もの騎士が槍で刺されて、命を失っていった。

 赤髪の聖騎士の活躍で半数近くの人質は救出したが、半数の騎士や教団の信者が命を失った。

 ちなみに、緑聖人も命を失わずに済んだ。

 騎士のほとんどが足を失っているので、後から捕まった教団の信者が生きている騎士を抱えて岩陰まで逃げた。


「あああぁぁ、本当に訳が分からないわね。天蛇、エルフをやってしまいなさい。」

 人質が逃げられてイライラするが、エルフには人質は通用しない。

 ここは、人質はあきらめて正攻法でエルフを倒す方法に切り替え、神級魔物の天蛇にエルフを襲わせた。

 天蛇は尻尾を振り上げると、エルフに向かって叩き潰すようにぶつけた。

 エルフは《瞬歩》で尻尾の攻撃を避けた。


 そのまま、天蛇の頭の上に移動すると、ミスリルの小剣で頭を突き刺した。

 ――カキン。

 ミスリルの小剣は天蛇の頭を捕らえたが、皮の結界で守られた天蛇を傷つける事は出来ずに弾かれてしまった。

「・・・・・・・つぅ。」

 エルフは、初めて小さな声を発した。

 皮の結界を勢いよく叩いた所為で、腕が痺れて思わず声が出てしまった。

 エルフが腕を押さえていると、天蛇は間髪いれずに尻尾で攻撃をしてくる。

 尻尾がエルフを捕らえたと思ったが、空を斬った。

《瞬歩》でエルフは姿を消していた。

 天蛇は、土魔法の土槍で地面からと、空中の尻尾の両方からエルフを挟撃する。

 エルフは《瞬歩》と《神速》それに《飛翔》を使って、悉く天蛇の攻撃を避けた。

 エルフは魔法の手数の多さで天蛇の攻撃を避けきるが、天蛇もまた《皮の結界》で全てのエルフの攻撃を避けきった。

 このままでは、埒が明かない。


「仕方が無いわね。次のカードを切るしかないわね。」

 黒姫は半月のような笑みを浮かべていた。


 * * *


 冒険者と魔物の戦いは拮抗しているようだ。

 《索敵》魔法で調べた戦いの状況は、次々に魔物の反応が消えていく。

 30匹近い魔物の反応が消えた。

 だが、人の反応も半分は消えていった20人近い人の反応が、今では10人くらいに減っている。

 その内、人の方に変化が生じた。

 一人の人間の反応を残して、他の冒険者の反応が魔物から遠のき始めたのだ。

(・・・逃げたか。冒険者の方が耐えられなくなったか。)

 ただ、おかしなことに、冒険者が逃げても魔物の反応が減っていく速度は変わらなかった。

「・・・そういう事か。」

 魔物が減り続けているのは、あのエルフが一人で魔物を倒しているからだろう。

 桜花と同等の力があれば、この戦果もおかしくない。

 そして、逃げ出した他の冒険者たちは仲間が死んでいき、戦線を持ちこたえられずに逃げ出したんだろう。

 とにかく、戦闘が行われている現場に向かうのが先決だ。


「なにが、そういう事なのよ。」

 静香が戦闘現場の状況が気になって尋ねた。


「いや、冒険者が二手に分かれた。一人の冒険者だけが戦場に残って魔物と戦っている。他の冒険者は逃げ出した。たぶん、一人で戦っているのが、昨日のエルフだろう。他の連中は王級魔物との戦いに耐えられなくて逃げ出したんだと思う。もうそろそろ、逃げてくる連中が見えてくる頃だ。」


「なに、その逃げてくる冒険者って。耳長族を一人を残して、逃げるなんて、冒険者の風上にも置けないわね。」

 静香がエルフを置いて逃げる冒険者に憤(いきどお)っている。

 だが、仲間を半分殺られれば、逃げるのは仕方がない。たぶん、あのエルフが逃げなかっただけだろう。

 まぁ、あれだけの数の王級魔物に襲われれば、逃げだすのが普通だ。俺たちと、あのエルフの力が特別なのだ。


(それにしても、一人で30匹・・・いや、既に40匹近くのようだ。それだけの数の王級魔物を一人で倒すあのエルフ、一般的には化け物クラスの強さだ。なんとか仲間に引き入れたい。)

 だが、昨日の静香とのやり取りを思い出すと、説得は難しそうだ。

 あの静香が全く憑(と)りつく隙がなかった。無口で、こちらの話を聞かない。これでは交渉のしようがない。

 まぁ、あのエルフの事は後で考えよう。

 今は戦いに専念した方がよさそうだ。

 

「そろそろ、逃げてくる冒険者が見えるぞ。」


 俺が合図をすると、静香が宝具の《千里眼》を鞄から出した。

 逃げてくる冒険者の様子を《千里眼》で見ながら仲間に伝え始めた。

「あちゃ・・・あれは酷いわね。逃げてくる冒険者の半数が足を失っているわ。あの足じゃ、歩けないわ。あれじゃ、逃げるのも仕方が無いわ。それにしても、あの冒険者は変ね・・・うん?いや、あれ、冒険者じゃ無いわ。・・・うわぁ、目が汚(けが)れるわ。あれ、緑聖人じゃない。というか、あいつら教団の連中じゃない。」

 静香が悲鳴のような声をあげた。

「はは~ん、奴ら魔物にやられたようね。いい気味だわ、積年の恨みを晴らすチャンス。あのにっくき、緑聖人の息の根を止めてやるわ。」

 物騒なことまで言い始めた。


「まぁ、まぁ、聖女王。ここは穏便に。とにかく、慶之様は姿を隠してください。そうそう、さっそく透明化の魔法を使ってみてください。それと、聖女王はフードで顔を隠して、けっしてしゃべらないでください。それと麗華殿と紫雲殿、2人で適当に教団の連中を追い払ってください。」

 公明が的確な指示をだし始めた。

 さすがは俺たちの中で一番知力が高い軍師だ。

 俺たちの仲間は、能力は優れてはいるのだが常識が乏しいというか、少し変わった人が多いので、まともな意見を言う公明がもの凄く優秀に見えた。


「分かったわ。教団を追い払えば良いのね。私に任せて。」

 麗華が大きな胸を叩いて、引き受けた。


「私も手伝いますよ、姉上。」

 紫雲も、快く引き受けた。この2人なら大丈夫だろう。


 暫くすると、前方からボロボロの一団が近づいて来た。

 先頭を走る緑聖人が話しかけてきた。

「貴殿たちは、これから先は王級魔物がうじゃうじゃいるぞ。悪い事は言わないから、ここから撤退した方が良いぞ。」

 彼は常識的な忠告を行ってくれた。

 透明化魔法を発動している俺には、全く気付いていないようだ。


「ああ、これは緑聖人。酷いあり様だな。」

 趙家軍の軍服姿の麗華が応えた。


「あっ、これは趙麗華将軍。将軍、自らが迷宮探索ですか。」

 緑聖人は直ぐに麗華に気がついたようだ。

《火の迷宮》を管理している趙家軍に、教団も挨拶に出向いたようで、お互いに面識があったようだ。


「そうです。再び《迷宮の扉》付近で大瀑布が発生しましたので偵察にきたのです。大瀑布は壊滅させましたが。これで2度目。あまりにも大瀑布が頻繁に起こるので、それで、探索に向かうのです。」


「ああ、やっぱりあれは大瀑布だったのですか。突然、たくさんの魔物が迷宮の中を移動し始めましたので、もしやとは思ったのですが。我らは、洞窟に隠れていたので被害はありませんでしたが。」

 緑聖人は、冒険者たちが大瀑布の壊滅に協力したと聞いて、興味深そうに趙兄弟を覗いた4人を見回す。4人ともフードを深く被っているので顔が見えない。


「それで、どうしたのですか。その状態は。」

 走ってきたのは教団の聖騎士や信者が10名。

 半数は足を失って、信者たちに背負われて運ばれている。


「まぁ、いろいろありまして・・・それより、趙麗華将軍。この先は危ないです。王級魔物が100匹ほどいます。この地下4階層の王級魔物があの場所に集まっています。早く逃げた方が良いですよ。」

 緑聖人は、趙姉弟に撤退するように助言した。


「ご助言ありがとうございます。ですが、このまま前進します。行ける処まで迷宮の先まで進みます。教団の方は早くお逃げください。」

 麗華は美しい顔でニコッと笑って告げる。


 そこに、後方から赤聖人が走ってきた。

「緑聖人、こんな所で何をしている。早く、この場を去らないと、魔物が追って来るぞ。今は、耳長族が殿(しんがり)を務めているが・・・。とにかく、早く行ってくれ。」

 そう言うと、緑聖人の進行を促した。


「これは、赤聖人。」

 声を掛けたのは、今度は紫雲だ。


「ああ、こんな処に何故、趙紫雲将軍がいるんだ。早く、趙紫雲将軍も撤退した方が良い。ここにも、王級魔物の大群が襲ってくる。緑聖人、早く、早く進んでくれ。」

 赤聖人と言えば、大きな体で、聖騎士の甲冑に身を包み。

 多くの教団の聖騎士を従える将軍として風格があった。

 だが、目の前にいる赤聖人は目が引き攣り、以前の風貌は消えていた。多くの仲間を失い、よっぽどの地獄を見たのかもしれない。一昨日の自分もきっと今の赤聖人と同じだった。そして、もし、姉上を失っていたら、もっと取り乱していただろう。

「それと、趙紫雲将軍。前方にいる魔物は普通と違うぞ。魔物が何者かに統率されている。人質まで取る。神級魔力や王級魔力の聖騎士が半分以上やられた・・・。趙紫雲将軍も逃げた方が良い。」

 緑聖人や他の信者たちもこの場を去って行く。


「赤聖人。忠告ありがとうございます。取り敢えず迷宮の奥に進みます。まずいと思ったら徹底しますので。忠告は有難いのですが、我が趙家はこの《火の迷宮》から逃げられません。ですので、この調査は出来る処まで行います。」


「そうか、趙家には趙家の事情があるのだな。ただ、貴殿のような若い者は死ぬなよ。まだ、死ぬには早すぎる。そこの麗華将軍も同じだ。とにかく、無理はしないで、危ないと思ったら逃げてるんだぞ。」

 そう言うと、赤聖人は迷宮の出口に向かって走って行った。

 赤聖人が走り去ると、その場に教団の者はいなくなった。


「急ぐぞ、エルフに魔石と素材は全て持っていかれそうだ。」

 エルフが、もの凄い勢いで王級魔物を倒している。

 頭の中で、《索敵》魔法で探知した魔物の反応がどんどん消えていく。


「やるね、さすがは耳長族の戦士。僕の分も残してもらいたいけど。早く行こう、子雲。」

 桜花は走り出した。

 静香も経験値を稼ぎたいのか、呑気に構えてはいられず走り出した。

 釣られて、美麗も、麗華と紫雲も走り出した。


 地下4階層の中央の広場に着くと、そこには一人のエルフが戦っていた。

 周りには、40匹近くの王級魔物の死骸が転がっている。

「このままだと、一人で倒しちゃいそうね。」

 静香が悔しい口調でつぶやいた。

 冒険者のルール上、他の冒険者が戦っている魔物を横取りするのは厳禁だ。


「・・・・・・、僕が参戦したら、ダメかな。」

 桜花は、店にならぶお菓子を見つめる子供のような表情で、耳長族・・・もといエルフの戦いを見ている。


「戦っている冒険者の獲物(魔物)を奪うのはNGね。、戦っている冒険者の助けに入るのならOKだけど。判断するのは、私たちではなく、あの耳長族の方よ。まぁ、今の状況を見ていると微妙な所ね。」

 エルフを見ると、今度は神級魔物の天蛇と戦っている。

 神級魔物相手に互角の戦いだ。決して助けに入る状況ではなかった。


「やるね。あの耳長族の戦士。《瞬歩》に《神速》、それに《飛翔》。僕より圧倒的に魔法の手札が多いよ。子雲並みじゃないか。それに、あの小剣、きっとミスリルだよ。天蛇の《皮の結界》を破るのは無理そうだけど。それでも、良い剣だ。」

 桜花はエルフの戦いを食い入るように見ている。


「桜花、あんた、勝手に参戦しちゃダメよ。冒険者は、冒険者の流儀を守らないとね。最近、ルールが守らない冒険者が多いのよね。」

 静香が、厳しく桜花に言った。


「おお~い。耳長族くん。僕も参戦して良いかな。君と天蛇の戦いには手を出さないから、周りの王級魔物と戦いたいんだけど。」

 桜花が大声で叫んだ。


「・・・・・・。」

 何も反応は返ってこない。


「それじゃ、参入したらダメだったら、『ダメ』って言って。何も答えが無かったら、参入するからね。無言はOKと見做すよ・・・。」


「・・・・・・・。」

 エルフからは何も反応が無かった。

 中央の広場ではでエルフと天蛇が激しく戦っている。

 《神速》と《瞬歩》を使うエルフの動きは早すぎて、普通の人には目で追えていないが、俺たちの仲間はエルフの動きを目でとらえている。

 圧倒的にエルフが攻勢なのだが、とにかく《皮の結界》は硬い。あの結界を破れずに、天蛇は無傷で膠着状態であった。

 とても、桜花の質問に答えられる状況では無いと思うが・・・。


「じゃ、行くね。」

 10秒待って、何も答えが無いのを確認すると、桜花は動いていた。

 ちょっと強引な参戦の仕方と思うが、エルフが『ダメ』と言わないので・・・というか、エルフは天蛇との戦いでそれどころじゃないので。

 とにかく、桜花は《神速》魔法を発動させて、天蛇とエルフの戦いを傍観している王級魔物めがけて襲い掛かった。

「良いね、やっぱり。体を動かすのは気持ちいいよ。特に魔物と戦うのは。」

 王級魔力の猿の魔物の猿魔を一刀で首を落とした。

 猿魔では、まだ《精神》魔法は使えない。

 あの魔法を使うには、神級魔力への昇華が必要だ。神級魔力の猿鬼に昇華しないと、猿の魔物でも、《精神》魔法は使えない。

《精神》結界に苦しめられた桜花だが、結界さえなければ桜花の敵ではない。

 猿の魔物は速さと風魔法を武器にするが、《神速》魔法と風の属性を持つ桜花が相手では相性が悪すぎた。


「私も、負けていられないわね。」

 どさくさに紛れて、聖香も参戦していた。

 静香は魔弾砲を右手に持って、魔物に照準を合わせる。

 魔弾銃では将級魔物の皮しか貫通できない。

 王級魔物となると、魔弾砲の出番だ。

 狙うのは、犬の王級魔物の魔犬鬼。

 2足歩行で剣を持っている。硬い甲冑を着て、天蛇と戦っている耳長族への参戦を狙っていたが、エルフの動きがあまりにも早く見守る状況が続いていた。

 そんな魔犬鬼の額に照準を合わせると、引き金を引いた。

「はい、一匹目。」

 静香が放った魔弾砲の砲弾は、魔犬鬼の額(ひたい)を見事に貫通した。

 額から緑の血が溢れだして、魔犬鬼はその場に崩れ落ちた。

「はい、次、行くわよ。」

 静香は直ぐに魔弾砲に魔力を充填するのであった。


「いました。魔牛鬼を見つけましたわ。」

 美麗は王級魔物の牛の魔物、魔牛鬼を発見していた。

 魔牛鬼が斧を両手に持って、2足歩行で歩いている処を見つけた。

 牛の魔物は皮が硬く、2本の角と斧で攻撃してくる。土魔法を使う厄介な魔物ではある。しかも発見したのは3匹だった。

「3匹ですか、宿敵の魔牛鬼、今度こそは・・・。」

 今まで美麗は、魔牛鬼と戦うのに苦手意識を持っていた。なぜなら、魔牛鬼の皮が硬くて、今までの槍ではすぐに砕けてしまったからであった。

 しかも相手は3匹もいる。

 普通なら、美麗が同じ王級魔力でも不利な状況と思われた。

 だが、美麗は、この日を待ち望んでいた。

「おにく・・・じゃなくて魔石をいただきますわ。」

 (今のわたくしには、この魔槍がありますわ。やっと、この日が来ました。)

 魔牛鬼のその素材は幻の食材と言われるS級の高級食材でもある。以前、倒した魔牛獣よりも2ランクも上の高級・・・ではなく魔力階級が上の魔物であった。

 美麗は魔槍を構える。

 彼女の感覚が獲物を狩る狼のように研ぎ澄まされていく。

「・・・・・そこだ。」

 美麗は振り返りざまに魔槍で横から薙いだ。

 後ろから襲い掛かる魔牛鬼が、真っ二つに切断される。

 腰から2つに斬り裂かれていた。あの堅い魔牛鬼の皮は何の役にも立っていない。

 胴体を失った腰から下が、緑の血を噴き出しながら地面に倒れた。

 美麗の攻撃はそこで終わっていない。

 続け座ざまに、2mの魔槍を3倍の大きさに拡大させた。

 そのまま、拡大した魔槍を振り回す。

 他の2匹の魔牛鬼は、美麗の槍の長さで間合いを測っていた。

 それが、魔槍が拡大した為、今まであった間合いが突然無くなってしまった。

「ぐぎゃ・・・。」

 2匹の魔牛鬼が、円を描くような一振りで2匹とも足が切断された。

 ドサッ――、ドサッ――。

 2匹の魔物が地面に倒れる音がした。

「凄いわ、この魔槍。全く、刃毀れが無いわね。それに切れ味も良いわ。これで、今日の晩御飯のお肉はゲット・・・、まぁ、私としたことが浮かれ過ぎましたわ。」

 美麗は、無言で顔だけがニヤニヤしながら、3匹の魔牛鬼の魔石とSランクの高級素材の肉を回収するのであった。


 * * *


「まずいわね。虹の王の仲間まで現れちゃったわ。あああ、本当に最悪のタイミングだわ。本当に呪われているわね、私。」

 黒姫は、なぜか策が上手くいかない状況に文句を言いながら、召喚魔法で魔物たちを呼びだしていた。

 召喚魔法の魔法陣から姿を現したのは、神級魔物たちである。

 当初は、地下5階層の神級魔物を数匹呼び寄せて、エルフを倒すつもりだった。

 天蛇だけでは、倒せそうもないので他の神級魔物を呼び寄せていた。

 それが、虹の王の仲間が現れたので、策をどうするか悩んでいた所だ。

 虹の王の仲間が現れたという事は、虹の王も近くにいるに違いない。

 ここで、数匹の神級魔物を召喚してエルフにぶつけても、虹の王が参入してくるのは目に見えている。

 数匹の神級魔物を虹の王にぶつけて、果たして虹の王を倒せるのか・・・・。

 黒姫は頭を悩ませていた。


「こうなったら、この迷宮の神級魔物の全てを集めて一斉に虹の王を攻撃さえるか。その方が、虹の王も倒す確率が上がる。少なくとも一匹ごとに個別に攻撃させるよりは各段に勝てる確率が上がる。ただ、問題は、魔魂の消費よね・・・。」

 地下5階層で、一体一体の神級魔物が虹の王と戦っても、倒すのは難しい。

 この迷宮の神級魔物は残り20匹。

 その神級魔物の全てと王級魔物の生き残りを全部一気に虹の王にぶつける。

 それなら、きっと虹の王を倒せるはずだ。

 虹の王はまだ目覚めて浅い。魔力も戦力も整っていない今がチャンスだ。

 黒姫は、ここで全ての神級魔物を虹の王にぶつけるか悩んでいた。


「あの脳筋がもう少し賢ければ、確実に虹の王を倒せるし、私も無駄な魔魂の出費をしなくて済んだのに。本当にイライラするわ。」

 地下5階層で、《迷宮の主》である魔龍が神級魔物を従えて戦えば、虹の王をもっと簡単に倒せる。それに、黒姫も《魔物使役》や《召喚》の魔王スキルで魔魂を消費しなくて済んだ。

 だが、黒姫が『あの脳筋』と呼ぶ《迷宮の主》はバトルジャンキーだった。戦いに対するこだわりは強く、複数の魔物と群れて戦うのは嫌がる性格だった。

 そもそも迷宮の主に、神級魔物を束ねる意思は持っていなかった。


 そうすると、せっかくの神級魔力が一匹ごとに倒されたら、駒の無駄遣いになると黒姫は悩んでいたのだ。

 ただ、ここで黒姫が《魔物使役》と《召喚》の魔王スキルを使うと2万人分の魔魂を消費しないといけない。2万人分の魔魂の消費はあまりにも大きすぎた。

 そこで悩んでいたのだが、覚悟を決めた。

「この迷宮の全ての神級魔物を召喚するわ。そして、虹の王にぶつけるわ。」

この迷宮の中で、複数の魔物が一斉に攻撃ができるほど広い場所は、地下5階層の《迷宮の主》の間か、この地下4階層の中央しかない。《迷宮の主》が神級魔物との共闘を拒否する以上、戦いの場所はこの地下4階層の中央しかない。

 ここに20匹の神級魔物を召喚することにした。


 召喚の魔法陣から次々に神級魔物が現れる。

「あら、火鳳凰も召喚に応じてくれたようね。」

 火鳳凰が現れると、急激に周りの気温が上昇し始めた。

 呼び寄せた神級魔物の中で最強の力を持つのが火鳳凰だ。

 召喚の魔法陣から現れると、洞窟の上空を飛んでいる。

 他にも、天虎や、神蜘蛛、王亀などの強力な神級魔物が勢ぞろいした。

「ああ・・・全く、嫌になっちゃうわ。これで私の魔魂のストックも尽きたし。伯龍に魔魂を補填してもらわないと割に合わないわ・・・。まぁ、それは後の話として、それじゃ、頼むわよ、あなた達。魔神様の為、虹の王を倒して頂戴。」

 黒姫の言葉で、神級魔物たちは動き出した。


 * * *


「あの耳長族、ずいぶんやるわね。」

 静香が引き金を引くと、また一匹、王級魔物が地面に倒れた。

 魔小鬼(ゴブリン)の眉間に魔弾砲で貫通して、そこから緑の血が溢れていた。


「そうだね。たしかに、強いよね。」

 桜花は、王級魔物の魔犀鬼の首を刎ねていた。

 バシッ――と刀を振って、刃についた血を拭(ぬぐ)っていた。


 エルフと天蛇の戦いはエルフが優勢に戦いを進めていた。

 天蛇の2つの目は、既にエルフが持つミスリルの小剣によってえぐられていた。

 失明した状態で天蛇は暴れまくっていたが、疲れで勢いも収まってきた。

 後は、目があった場所を攻撃すれば倒せるだろう。

 あの場所なら、《皮の結界》で覆われていなので、天蛇も守れない。

「自分なら、そうする」と思いながら桜花はエルフの攻撃をチラチラと見ていた。


 すると、空気が変わった。

(な、なんだ、この威圧は)

 嫌な気配が桜花を襲った。

 こちらに向かって、もの凄い魔力を放つ魔物がやってくるのを感じる。

 急激に温度が上がっていく。

 体は熱いのに、冷たい汗が額から流れる。

 とてつもなく大きな恐怖が、近づいてくるのを桜花は感じていた。


「あ、あれは・・・・どうなってんのよ。」

 静香は《千里眼》を取り出して、魔力を感じる方角を見つめる。

 洞窟の中を、空をかける狼・・・神級魔物の天狼。

 高い天井に糸を垂らしながら進む大きな蜘蛛・・・神級魔物の神蜘蛛。

 硬い甲羅で覆われた巨体の亀・・・神級魔物の王亀。

 体を膨らませながら毒を振りまく蛙・・・毒蛙。

 他にも、たくさんの神級魔物が空から、地上からこちらに向かって来る。

 特に一番大きな魔力を感じるのは、炎を体中から放つ鳥・・・火鳳凰。

 不死の魔物、火属性魔物の最高峰と言われる超レアな魔物。

 その、火鳳凰まで・・・。


「ちょっと、桜花、美麗、それに麗華と紫雲。一旦引くわよ。この状況はちょっとヤバいわよ。一旦引いて、態勢を立て直すわ。」

 静香がみんなに声をかける。


「静香。あなたは一旦みんなと引いて。私は、あの耳長族の戦士の処に行くわ。」

 エルフは桜花の考えた通り、潰した目に小刀を何度も突きさし天蛇を倒していた。

 倒した天蛇から魔石を回収して、《空間収納》の中に放り込んでいた。

 たくさんの神級魔物の気配をエルフも感じ取っているようだが、戦いを止めようとしていない。


「そこの耳長族のお姉さん・・・・。」

「あの、そこの魔石を回収しているお姉さん・・・。」

「ちょっと、僕の話に答えてくれないかな。神級魔物がたくさん来ているの分かっているよね。一旦退いて、僕たちと合流して戦わないかい?」

 何度も、桜花がエルフに話しかける。

 

「・・・・・・・。」

 だが、エルフは答えようとせず、無言で魔石を回収し続けている。


「頼むよ。耳長族のお姉さん。答えてくれないかな。まさかあの数の神級魔物を相手に一人で戦う気じゃないよね。」


 すると、エルフがやっと口を開いた。

「私は、耳長族じゃない。それと、私は、エルフ族の仲間か、虹の王以外とは、一緒に戦わない。私に構うな。私は強い。お前こそ、危険だ。早く逃げろ。」

 エルフは話し終わると、天蛇の魔石や素材の回収が終わったようで振り返った。


「やっと、普通に話してくれたね。君はエルフ族なんだね。僕は姜桜花。君が強いのは知っているよ。でも、無理はダメだ。相手の戦力を無視して戦うのは、蛮勇だからね。どうしても、戦うと言うなら、一緒に僕も戦うよ。」


「・・・・・・勝手にしろ。」

 エルフはそう言うと、こちらに向かってくる神級魔物の天狼の前に《瞬歩》で移動した。

 ミスリルの小剣を、天狼の頭の上から振り下ろす。

 ――カキン。

《物理》結界が小剣を弾いた。天狼の爪がエルフを襲う。

 素早く《瞬歩》で移動した先には、大鬼(オーガ)が待ち構えていた。大鬼(オーガ)の斧がエルフの頭を掠める。《神速》魔法で何とか避けたが、両腕に持った斧が次々に襲って来る。

 すると、後ろから天熊の爪の攻撃も加わる。前後からの攻撃に晒され、エルフの《神速》でも攻撃を避けるのが精一杯だ。

 《瞬歩》の動きは神級魔力を持った者であれば目で追えてしまう。神級魔物たちには、エルフの動きに対応しながら戦っていた。


 再び、別の場所に移ろうと《瞬歩》で移動場所を探すが、周りは他の魔物に囲まれている。王亀(おうき)、犀王、闇蜥蜴(やみとかげ)、猪突王、毒蛙(どくあ)などの神級魔物がひしめいていて、《瞬歩》で移動できる視界が見えない。

《瞬歩》は目で見た先に移動する。周りを囲む神級魔物の密度が濃すぎて、魔物以外の場所が目に入らないのだ。

 それでも、魔物たちの隙間から小さな場所を見つけると、そこに移動した。

 だが、その瞬間、今度は空中から天蝙蝠の電波の攻撃が耳を突く。

 思わず耳を塞ぐと、今度は魔鷹禿(まようとく)の爪が空から襲ってきた。

 素早く避けたが、息をつく暇すら与えない連鎖攻撃に、さすがのエルフも疲れを隠せない。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 肩で息をしながら、周りを見回す。


「うっ。」

 エルフの背中に痛みが走った。

 振り向くと、後ろには誰もいない。気配もなければ魔物もいない。

 ただ、透明な空間から鋭利な刃物が、灰色の外套の上から肩を貫いている。

 外套が赤く染まっている。

「・・・闇蜥蜴か。」

 エルフは肩を押さえてうずくまった。

 痛みだけでなく痺れで気を失いそうになる。

「痺れ薬か・・・。」

 肩を貫いていた刃物が、巻き取られるように元の場所に戻っていく。刃物から全身を痺れさす麻薬のような薬が抽出されたに違いない。

 刃物が戻った先に、透明化の魔法から闇蜥蜴が姿を現した。

 肩を貫いたのは鋭利な刃物は闇蜥蜴の舌のようだ。


 痺れ薬が効いたのを確認した闇蜥蜴は、エルフに止めを刺す為に姿を現したようだ。

 闇蜥蜴の両腕の外側に鎌のような刃物が生えている。

 その刃物でエルフの首を斬り落とすつもりだ。

 肩を押さえて跪くエルフに闇蜥蜴が近づいていきた。


 エルフは闇蜥蜴を睨みつけてうずくまっている。

「・・・こんな処で、殺られる訳にはいかない。なんとしても、私は、虹の王を見つける。そして、眷属になる。それで島を救われる。こんな処で・・・。」

 痺れ薬のおかげで意識が失いそうになるのを、エルフは必死につなぎ留めている。

 今ここで意識を失ったら、確実に死ぬ。

 闇蜥蜴がエルフの前で、トドメを刺す為に腕を振り上げた。


 ――ポトン。

 首が落ちた音がした。

 落ちた首はエルフのモノではなく、闇蜥蜴の首だった。

 そこには、緑の外套を着た冒険者が、虹色の魔力色で輝くミスリルの刀で闇蜥蜴の首を斬り落としていた。

 首を失った胴体が地面に倒れる。


「大丈夫か・・・」

 闇蜥蜴を倒したのは緑の冒険者だった。

 助けたエルフに声が聞かけたが、エルフはそのまま意識を失ってしまった。

「まぁ、大丈夫じゃ、無さそうだな。」

 冒険者はエルフを抱きかかえる。

 後ろに、黒の外套を着た冒険者が姿を現した。

「悪い、桜花。このエルフを頼む。静香に治癒魔法で治療をさせてやってくれ。それと、これは解毒剤だ。蜥蜴の毒は痺れる程度で、大した毒性は無いが目が覚めて体調が悪そうだったら、飲ませてやってくれ。」


「分かったよ。それで、子雲、君はどうするつもりなのかな。」


「俺か、俺はここの神級魔物を倒してから後を追うよ。」

 残り19匹の魔物に目を向ける。


「一人で大丈夫なのかい。」


「ああ、たぶん大丈夫だ。援護は不要だ。周りに仲間がいると戦いに気が散る。」

 正直、この数の神級魔物を相手に、仲間に気を遣っている余裕はなさそうだ。


「そうか、それじゃ、僕がここにいると子雲の負担になりそうだね。この耳長族、じゃなくてエルフの女性をつれて戻っているから。必ず神級魔物を倒してくれよ。」

 桜花はそう言うと、《神速》魔法を発動して姿を消した。


 * * *


 エルフが闇蜥蜴に殺されそうになっていたので助けた。

 闇蜥蜴の透明化は、姿だけでなく気配も消す魔法だ。

 将に初見殺しの魔法。

 あの魔法で近づかれたら、普通の冒険者なら対処のしようがない。

 あのエルフですら、あの魔法からは逃げられなかった。

 エルフは静香の処に運んでもらうように桜花に頼んだ。静香の治癒魔法なら傷は治るだろう。それに、闇蜥蜴の痺れ薬はあくまで敵を痺れさせて動きを弱らせる為のモノだ。死ぬことはあるまい。


「まずは、一匹だ。」

 闇蜥蜴の魔石と素材を回収する。

 この数の神級魔物を相手に受け身は悪手だ。

 囲まれる前に、一匹ずつ個別撃破していくのが唯一の攻撃手法だろう。

 まずは、猿鬼に狙いを定める。

 他の魔物と距離が離れた場所にいた猿鬼をターゲットに絞った。

《瞬歩》で猿鬼の後方に姿に移動した。

 移動した直後に、ミスリルの刀を横薙ぎに振るった。

 ――ボトッ。

 猿鬼の首が、地面に落ちた。

 簡単い猿鬼の首を落とすことができた。

 猿鬼は《精神》魔法を俺に向かってかけようとしていたが、虹色魔力の俺に《精神》魔法が効かない。それで、《神速》魔法に切り替えようとした寸前に、猿鬼の首を落とした。

 速度では、魔物の中で猿鬼が一番早い。

 曲者の動きを警戒したまずは猿鬼を倒した。


「これで、2匹」

 猿鬼の魔石を回収する間もなく、王虎と天狼の爪が交互に襲ってきた。

《神速》を発動すると、爪の攻撃がゆっくりと動くように見えた。王虎と天狼の交互の攻撃を避けながら、攻撃の隙を探す。

 今度は、こちらの番と思い、刀で王虎を切断しようとした。

 王虎が慌てて、《物理》結界を張る。

 ――パキン

 王虎の《物理》結界が大きな音をだして、砕けた。

 結界を砕い刀は、そのまま王虎の足を斬り落とした。

 足を失った王虎が、前につんのめるように頭から地面に滑り込んでいく。

 その隙を逃さず、王虎の首を落とした。


 天狼は、一匹になっても爪と牙それに《炎の咆哮》でしぶとく攻撃してきた。

 だが、一匹だけになると、こちらの刀の攻撃が全て天狼一匹に注がれる。《神速》の動きに対応しきれずに隙が生じる。

 その隙を逃さなかった。

 王虎と同じように足を斬り落とした後に、首を落とした。

「これで、4匹」


 ここで、一旦、魔物たちから距離をとって状況を見る。

 次の狙いは、天熊だ。

 狙ったのは、天熊が魔物の屯している場所から一番離れた場所に居たからだ。

 天熊の結界は、《威圧》の結界。

《威圧》で、相手に恐怖を与え行動を抑圧して防御する結界だ。

 俺は《瞬歩》で天熊のすぐ近くに移動した。

 天熊は突然現れた俺を見て、天熊は直ぐに《威圧》の結界を張った。

 だが、残念なことに《威圧》の結界は俺には効かない。

 精神系の魔法である《威圧》《精神》魔法の類(たぐい)は虹色魔力が無効化(レジスト)してしまう。

 きっと、精神系魔法は魔力階級が上の者に対して魔法が効かないのかも知れない。

 天熊は《瞬歩》で突然に現れた所を、横薙ぎに振るわれた刀で首を落とされた。

 なぜ、《威圧》の結界が効かないと、いった驚いた表情の首が地面に落ちる。

「はい、5匹目」


 《瞬歩》を使って、囲まれないように、上手く一対一の状況に持ち込んで、神級魔物を倒していった。

 エルフが《瞬歩》の魔法を使っても、囲まれてしまったのは、相手を瞬時に倒せなかったからだ。せっかく一対一の状況に持ち込んでも、その神級魔物との戦いに時間をかけては、他の魔物が集まって来て結局は囲まれてしまう。

 だが、俺は、囲まれる前に確実に敵を倒す。

 それで魔物は、俺を包囲することが出来ない。

 《瞬歩》で上手く使って、絶えず一対一の状況を作り出して戦う事ができた。

 倒したら距離を置いて冷静に魔物を観察する、そして、《瞬歩》で近づいて個別撃破で魔物を倒す。これを続けて、魔物の数を確実に減らしていった。


「これで、10匹」

 地面に転がったのは大鬼(オーガ)の首だ。

 これで、やっと半数の神級魔物を倒した。

 大鬼は、《盾の結界》で防御しながら、《怪力》魔法でもの凄い威力で斧を振って攻撃してきた。

 この《怪力》魔法は、身体強化魔法の上位の魔法だ。

 この魔法を発動している間は、腕力や脚力など全ての筋力の力が無敵化することができる。発動時間は短いが、山を殴れば、山が吹き飛ぶくらいの威力になる。

 当然、《怪力》魔法の魔法もしっかり盗ませてもらっている。

 斧が掠っただけでも、吹き飛ばされそうな斧の攻撃を避けながら、なんとか隙を作って《盾の結界》の隙をついて首を落とした。


 だが、まだ半分だ。油断はできない。

 残った半数の魔物には曲者が多い、特に火鳳凰が油断できない。

 その後も何匹かの魔物を倒した。

 だいぶん神級魔物の数が減っていた。

 残りは後3匹。・・・だが、その3匹は強敵ばかりが残っていた。

 天蜘蛛、王亀、火鳳凰。

 魔力能力値700以上の魔力を持つ人間や魔物を一括りに神級魔力持ちと呼ぶ。

 だが、神級魔力を持った魔物や人間でも、実は魔力の力には差があった。

 能力値が700以上が神級魔物になるが、700台の能力値の魔物と、800台の能力値の魔物では、当然に800台の能力値を持った魔物が強い。

 そして、この3匹の魔物は能力値が800以上ある。

 その中で火鳳凰は能力値が900台の魔力を持っている。

 今まで倒した魔物より、この3匹は格上の魔物ということになる。

 敢えて、能力値の高い魔物を後に残した。能力値の高い魔物と戦う前に、数を減らしたかったからだ。いよいよ、この3匹と戦わなければならない。


「次は、天蜘蛛だな。」

 地下4階層の中央の広場の天井から下に太い糸を垂らしている。

 その太い糸に吊るされているのが天蜘蛛だ。

 天井から吊るされて、先ほどから仲間の魔物が戦いをただ眺めているだけで、一向に自分から動こうとはしない。

 残りが3匹になった所で、赤い目を光らせた。

 周りには、眷属の子蜘蛛がなん千匹、いやなん万匹も蠢(うごめ)いている。


「これは、気持ち悪いな。」

 天蜘蛛を囲むようにひしめき合う子蜘蛛を見ると、気持ち悪くて気分が萎える。

 チラっと、火鳳凰と王亀の方に目を向けると、2匹とも動く気配はない。

 まぁ、火鳳凰が動けば、天蜘蛛の糸が焼き切れてしまうので、静観するつもりだろう。

 火属性魔法が使えたら、俺も火攻めで倒したいと考えていた。

 無いモノは仕方がない、いつも通りに《瞬歩》で鬼蜘蛛に近づくと、ミスリルの刀を振りおろした。

 ――グサッ。

 刀は蜘蛛を刺したが、天蜘蛛には届かなかった。

 子蜘蛛が立ちはだかって、刀が天蜘蛛に向かうのを邪魔した。

 邪魔するだけではなく、体中に群がって、小蜘蛛の尻で毒を刺してくる。


 毒の魔法は、神級魔物の毒蛙と戦った時、《毒の結界》の魔法陣を転写して、既に魔法を盗んでいる。

《毒の結界》は、体中から毒を噴き出して、敵に近づかせない結界だ。

 だが、毒は毒蛙の《毒の結界》の魔法は、体から分泌される毒を強力にする魔法と、自分自身に毒を無効化する魔法の2つの魔法があった。

 どうも、本来の毒は自分には効かないように免疫を体の中に持っている。

 だが、毒蛙から放たれる毒は魔法によって更に即効性のある猛毒に変わる。体の免疫だけでは対処できない程の毒なので、無効化の魔法が必要になるのだ。

 おかげで、《毒の無効化》魔法を手に入れられた。


 毒は《毒の無効化》魔法で無効化したが、無数の子蜘蛛が向かってくるのは辟易した。

 倒しても、倒しても子蜘蛛が現れる。いくら倒しても、キリがない。

「これが、《子蜘蛛の結界》か。」

 一旦、《瞬歩》で天蜘蛛から離れて、態勢を立て直す。

 何万匹の子蜘蛛を一匹ごとに相手にしていたら、いつまで経っても天蜘蛛には辿り着けない。だが、《子蜘蛛の結界》の突破は簡単ではない。

 あの結界を突破するイメージが湧かないが、やるしかない。


 俺は再び、《瞬歩》で天蜘蛛のすぐ近くまで移動した。

 無数の子蜘蛛が行く手を阻むように、すぐに群がってきた。

 ミスリルの刀に魔力を籠めて子蜘蛛を斬りまくる。百匹は余裕で斬り倒したが、天蜘蛛の姿は全然見えない。

 湧くように襲って来る子蜘蛛の勢いが収まる気配は無い。

「はぁ、はぁ、はぁ。さすがに、疲れる。」

 肩で息をしながら、倒した子蜘蛛を見回した。

 5百匹は倒したが、まだまだ子蜘蛛は溢れるように湧いてくる。これ以上相手にしても、天蜘蛛まで届きそうもない。

 このまま戦っても埒が明かないと思った俺は、もう一度、天蜘蛛から、《瞬歩》で離をとる。


「はぁ、はぁ、はぁ、それにしても、面倒な奴らだ。」

 どうしたモノかと、子蜘蛛たちを見て考えた。

 焼き払うのが一番速そうだが、火属性魔法は使えないし・・・。

(俺が使える魔法の手札で、子蜘蛛たちを一掃できる魔法は無いか・・・あれを使ってみるか。)

 俺は、《子蜘蛛の結界》への対処を考えて、三度、《瞬歩》で天蜘蛛に近づいた。

 案の定、俺に向かって子蜘蛛が群がってくる。

「・・・《威圧》」

 大鬼(オーガ)の《威圧の結界》を発動した。

 すると、子蜘蛛たちが、《威圧》の魔法の範囲から距離をとり始めた。

 《威圧》は精神魔法の一種で、相手に恐怖を植え付けて戦えないようにする。

 この魔法が、魔物である子蜘蛛の本能に上手く作用したようだ。子蜘蛛の魔物の本能に訴えかけて、恐怖で俺に向かってこれないようにした。

 (道ができた・・・。)

 《威圧》魔法が発動した方向の子蜘蛛が後ずさって、道が開けたのだ。

 その道を走って行くと、天蜘蛛の真下に出た。


「やっと、結界を突破できた。」

 天蜘蛛の《子蜘蛛の結界》を《威圧の結界》で破った。

 俺の目と、天蜘蛛の無数の目があった。

 お互いに睨み合う。

 天蜘蛛に止めを刺そうと、《飛翔》魔法で天蜘蛛を目がけて飛び立った。

 その瞬間・・・。

 宙に上がった体が、いきなりもの凄い勢いで地面に叩きつけられた。

「うっ・・・・。」

 痛みで悲鳴が出る。


(・・・これは、《重力》魔法。)

 天蜘蛛には、まだ手札が残っていたようだ。

 結界を破った先に、《重力》魔法のような強力な魔法が残っているとは思っていなかった。

「くそっ、」

 せっかく《子蜘蛛の結界》を破ったが、このままだと、また子蜘蛛に囲まれる。

(どうする・・・)

 必死に重力に逆らって顔を上げる。

 そして、頭の上に浮かんでいる天蜘蛛を睨みつけた。

「・・・、その手があるか。」

 ニヤリと薄笑いを浮かべた。

 俺は頭の中に新たな魔法陣を浮かべて、魔法を発動した。

 ――《重力》魔法。

 俺が発動した魔法は、天蜘蛛の魔法の《重力》魔法。天蜘蛛の姿を見上げた時に、《重力》魔法の魔法陣が目に入ったのだ。

 天蜘蛛の体が、勢いよく天井に向かって引っ張られていく。

 ――ドタン。

 大きな音が響くと、天蜘蛛が天井に押し付けられた状態で動けなくなっている。

 すると、俺にかけた天蜘蛛の魔法が解けた。

 立ち上がると、天蜘蛛に向かって《飛翔》で飛んだ。

 刀を天蜘蛛に向けて、そのまま突っ込む。

 天蜘蛛と天井を一緒に串刺しにする。

 天蜘蛛の目が、赤から白に変わっていく。

「これで、残り2匹。」

 重力魔法を解除すると、天蜘蛛の大きな巨体が地面に落下していった。


 残りは、火鳳凰と王亀。

 今まで20匹いた神級魔物が2匹までに減っていた。

「王亀、魔物の中で一番硬い甲羅で防御、《甲羅》の結界か。」

 近づくと、口から氷の槍を吐き出した。

 前世のテレビで見た怪獣映画の・・・ガ〇〇のようだ。

 とっさに、《虹色結界》を張って回避する。

 氷の槍が、《虹色結界》にぶつかると、衝撃で砕けていった。

 この程度の攻撃なら、《虹色結界》はビクともしない。氷の槍を押し切って、そのまま王亀に近づいていく。目の前まで近づくと、王亀は首と手足を甲羅の中にしまい込んだ。

 俺は、王亀の背中に跳び乗ってミスリルの刀で甲羅に斬り付ける。

 だが、さすがは最強の《甲羅》の結界、甲羅はビクともしない。

 魔力伝導の高いミスリルの素材に、最強の魔力の虹色魔力をまとわせた刀でもヒビ一つ入らない。この刀は、この世界で一番硬いアダマンタイトの希少素材の剣より硬く頑丈なはずだ。その刀でも《甲羅》の結界はビクともしない。


「まったく、子蜘蛛の大群に次は、絶対に砕けない甲羅とか・・・神級魔物の結界はどれも面倒だ。どうやって、この甲羅を破れば良いんだ。」

 ミスリルの刀でガンガン甲羅を叩くが、甲羅はビクともしないし、王亀は首も手足も甲羅の中に隠したきりで、出てこない。

 まったく、お手上げだ。

 王亀も甲羅の中に隠れたきりで、こちらに向かって攻撃する気配は全くない。

 ただ、ジッとして嵐が過ぎ去るのを待っているようだ。

 氷の槍で攻撃するには、顔を甲羅から出さなければならない。

 攻撃にさえ移ってくれれば、倒す隙は生まれるが、一切動こうとしない。

(たしか、麗華の刀や甲冑は、この王亀の素材で作っていたはず・・・。ということは、姜馬は以前、この王亀と戦って倒したはずだが。)

 姜馬に王亀の倒し方を聞いとけば良かったと後悔する。

 だが、今はこの王亀をどうやって倒すかは分からない。あの甲羅に潜られた王亀を倒す手段は思い浮かばない。

 しばらく考えた挙句・・・・。

「王亀は放置だ。」

 考えた結果、王亀は放置する事に決めた。

 甲羅に籠った王亀を倒す術はなく、一旦あきらめるしかなかった。


「先に、火鳳凰だ。」

《飛翔》で飛び上がると、《空歩》で足場を作って、その上で火鳳凰を睨みつける。

 火鳳凰も、こちらに視線を動かした。

 歩鳳凰に近づくと、当たりの温度が急激に熱くなる。火鳳凰が《火の結界》魔法の展開を始めたのだろう。

 今まで、他の魔物の戦いを見ていたが、いよいよ自分の番が来たかと言わんばかりに、戦闘態勢に入ったようだ。

『虹の王よ。』

 突然、念話で俺に語り掛けた。

「だれだ、お前か、火鳳凰、念話の声の主(ぬし)は。」


『そうだ、虹の王よ。私は火鳳凰。この場は引いてくれぬか。お主が、この《火の迷宮》から引けば、儂はお主を追わん。この世界のモノではない、お主は、この世界に介入するべきではない。』


 俺は、火鳳凰の念話を聞いて考えた。

 火鳳凰や王亀と戦わなくて良いなら、それに越したことが無いが、虹色魔石だけは回収しないと、姜馬が許さない。それに、大瀑布が再び起こるのも困る。

「火鳳凰、迷宮魔石をこちらに渡して、二度とこの迷宮の魔物が《迷宮の扉》から出ないのであれば、俺たちはこの迷宮から去っても良いんだが。」


 俺の答えの内容を、少し考えて火鳳凰は答えた。

『・・・虹色魔石はあきらめろ。あれは赤龍が手放さない。迷宮の魔物が、この迷宮から出ないようにするのは考えよう。それで、手をひいてくれ。』


「なぜ、虹色魔石を渡さないのだ。俺も、虹色魔石が必要だ。戦いを止めるのは、やぶさかでは無いが、虹色魔石は譲れない。」


『赤龍は、虹色魔石は虹色魔石を手放さない。あいつは、千年前からそういう男だ。魔神への忠義心が篤い。私は、赤龍に義理があって、この迷宮を守るのに手を貸している。虹の王と、魔神との戦いには千年前から不干渉を貫くつもりだ。だから、虹の王がここで引いてくれれば、私は戦うつもりは無い。』


「悪いが、俺も虹色魔石を諦めるつもりは無い。」


『そうか・・・残念だ。』

 火鳳凰が悲しそうな声の念話が聞こえると、周りの温度が更に上がった。

 汗が直ぐに蒸発する温度だ。

(熱い・・・、とにかく熱い。氷でも出して温度を下げれば良いが、5属性魔法は俺には使えない。・・・このままでは、俺が蒸発してしまうな。)

 何かしなくてはと思い、自分の使える魔法を思い浮かべる。

 この迷宮に来るまでは、姜馬から教わった12の魔法しか使えなかったが、この迷宮で神級魔物から7つの魔法を盗んで、19の魔法が使えるようになっていた。

 とりあえず魔力を無力化する《絶対領域》の結界を展開した。

 すると、結界の中だけ、温度が急激に低くなった。


『《絶対領域》の結界か・・・既に魔法を奪う力を得ていたか。嫌な魔法を使う。』

 火鳳凰が警戒する声が念話で聞こえる。

《絶対領域》は魔法を無力化する結界。

 火鳳凰の炎も魔法によるモノなのか、《絶対領域》の中では無力化されて、温度が低くなっていた。

『これはどうかな。』

 今度は、火鳳凰が口から強力な炎を吐き出した。

 猛烈な炎が俺に向かって襲って来る。

 慌てて避けたが、炎は地上の王亀の甲羅にかすった。

 王亀の甲羅の下の方が掠った程度だが、その掠った部分の甲羅が消滅していた。

「あの甲羅を消滅させる炎か・・・凄い威力だな。」

 俺は焦った。

 虹色魔力をまとった刀でもヒビ一つ入らなかった甲羅が、砕けるのではなく消滅してしまった。

 王亀の動きが止まっている。

 今の一撃で、絶命したようだ。


 まさか、火鳳凰は、自分の攻撃が王亀を倒すと思っていなかったようだ。

『ああ・・・、なんと王亀に当たるとは。申し訳ないことをした。だが、虹の王よ。これで、分かっただろう。全てを消滅させる《神炎(しんえん)》の威力が。《絶対領域》の結界ごと消滅させる力があるかも知れんぞ。ここで、黙って引いてくれないか。』

 

 火鳳凰の念話を聞いて、俺は少しの間、考え込んだ。

(確かに、あの《神炎》はマズいな。あれが、《絶対領域》の結界に当たったら、《絶対領域》が《神炎》の魔法を無効化するか。《神炎》は《絶対領域》を消滅させるか。どっちに転ぶか分からん。あの《神炎》はヤバい。取り敢えず、ここは引くか・・・。)

 動かなくなった王亀を見て、心が揺らいだ。


(ダメだ・・・ここで日和ったら。こんな所で逃げるようなら、『復讐』は・・・、蔡辺境伯を倒すなど出来る訳が無い。逃げない。そう、逃げられないんだ。)

 俺は、覚悟を新たにした。

「火鳳凰、悪いが、ここは引けない。虹色魔石を諦めるつもりはない。」


《瞬歩》で火鳳凰の目の前に移動した。

 火鳳凰と目が合うと、奴は魔力を籠めながら口を開いた。

 だが、俺の方が一歩早かった。

 ミスリルの刀が火鳳凰の首を捕らえていた。《神炎》が口から放たれる前に、刀を横薙ぎに振り切った。

 ――ポトン・・・。

 ——・・・ドン。

 首と、少ししてから、胴体が地面に落ちる音がした。

「や、やったか。」

 (あの火鳳凰を倒したか。)

 神級魔物でも、上位の魔力を持つ秘火鳳凰、今まで戦った魔物の中で一番強かった。

 その強敵がこうも簡単に殺られるのか?

 俺の頭に疑問が生じた。


「これは・・・」

 素材を回収しようと、火鳳凰の遺体に目をやると、信じられない光景が目に入ってきた。

 火鳳凰の首から、体が再生し始めたのだ。

 赤い目が光り、眩しくてよく見えないが、体が膨れ上がっていくのが分かる。

 間違いなく、体が再生している。

(・・・これが不死の力か・・・。)

 火鳳凰の不死の力。

 火鳳凰の血を飲むと不死の命を手に入れられる伝説があった。作り話とも思っていたが、不死の力は本物のようだ。

 光が少しずつ収まる。

 そこにはさっきまで戦っていた火鳳凰が元の姿に戻っていた。


『中々、やるな。さすがは、虹の王。私を倒すとは・・・まぁ、ここまで戦えば、赤龍への義理は果たしたと言えるな。私も、力を使い過ぎたようだ。ここは、私が一旦引こう。』

 火鳳凰は念話で告げると、迷宮の中を飛び立っていった。

 方角的には、地上に向かっている。


 「あああ・・・いっちゃった。・・・でも、素材はあるから良いか。」

 俺は、火鳳凰が飛んでいく姿を見て、少し焦っていた。

 火鳳凰は伝説級の素材だからだ。

 俺は、火鳳凰の胴体の方が地面に落ちたままだったので、慌てて《魔法の鞄》にしまい込んだ。血の一滴でもこぼしたら勿体ない。

 火鳳凰は姜馬ですら見た事の無い、本当に存在するかの伝説の魔物だった。

 迷信とも、伝説とも思われていた。

 魔物の血は魔法陣を描くインクとして使われる。

 その中でも、火鳳凰の血で描かれた火属性の魔法陣は、火属性の力を最大限までに引き上げると言われている。

 それだけではない。火鳳凰の血で作られた回復薬はいかなる傷を治すとか、また、火鳳凰の血を飲めば不死でいられるとか、火鳳凰の血は伝説級の素材だ。

 その伝説の素材が世の中にでたら、火鳳凰の血一滴で、金貨10枚に匹敵する価値と言われている。

 血だけでなく、爪や羽、皮なども高級な素材だ。

 当然、魔石の威力も神級魔物の中でも強い魔力を発揮する。

 この素材を【姜氏の里】に持って帰ったら、姜平香が狂喜するのが目に浮かぶ。


 まぁ、とにかく、神級魔物20匹を倒しきったと思った。

 最後に火鳳凰が復活とかふざけるな!とも思ったが、やられ方があっけなかったので、火鳳凰も《迷宮の主》に義理があると言っていたから、この場を治めるのに落し処を探していたのかもしれない。

 とにかく、神級魔物との戦いは終わった。正直、俺もさすがに疲れた。

 その後、地面に座り込んだ。

「ああ、マジで疲れた・・・。」

 神級魔物20匹の相手をさせられて、思わず愚痴ってしまうのであった。


 * * *


「お疲れさん・・・。みんなご苦労さま、大収穫だね。」

 俺が《館》の中に戻ると、静香が元気に迎えてくれた。

 既に、地下4階層の攻略は終わり、俺たちは《館》を設置して、休息に入っていた。

 今日は神級魔物との戦いで疲れていたが、魔石と魔物の素材の回収を行って、今戻った所だ。

 王級魔物は、桜花と美麗それに趙姉弟(きょうだい)で片付けた。もう、地下4階層の魔物は粗方攻略済だ。

 静香は、隣で横たわっているエルフの看病でお留守番だったようだ。

 彼女が治癒魔法をかけ続けたおかげで、エルフの肩の傷はほぼ完治したようだ。怪我は治ったが、まだ眠ったままだった。

「それで、王級魔物百匹分と神級魔物20匹分の魔物はどうだった?」

 静香は、魔石と素材の収穫を気にしていたようだ。


「ああ、火鳳凰には逃げられが、後は全て倒したぞ。」


「ええ、火鳳凰を逃がしちゃったの。あの素材を楽しみにしていたのに。」

 静香はがっくりしている。


「静香の属性は、《聖》と《土》だろ。火属性の火鳳凰は関係ないよな。」

 火鳳凰の素材は血や爪も羽も全てが高級素材だが、基本的には火属性の魔法に恩恵を宿すので、《聖》属性と《土》属性魔法を使う静香には、あまり効果が期待できない。


「確かに、火属性は私には関係なわよ。私が関心あるのは、火鳳凰の《血》よ。不死の力を与えるという《血》よ。」


「一応、火鳳凰の体は回収したから、血や魔石は回収したけど。止めた方が良いんじゃないか。それはあくまで言い伝えというか、伝説だよな。魔物の血を飲むとか、俺は嫌だな。」

 確かに、火鳳凰は首から復活した不死鳥だ。

 火鳳凰の復活したのは、魔法か、特殊体質か、血の力か、は分からない。

 だが、あまり決めつけて、魔物の血を飲むのはお勧めしない。


「それは、そうね。確かに、あの緑の血を飲むのは気色悪いわね。まぁ、それでも火鳳凰の血と素材が入ったのは大きいわね。特に、火鳳凰の魔石は火属性の使い手が鎧に使ったら、強力な鎧ができるわよ。きっと、平香が喜ぶわ。」

 静香も、火鳳凰の素材からイメージするのは、平香が喜ぶ姿であった。


「それはそうと、エルフの女性の容態はどうだ?」


「大丈夫よ。外傷は私の治癒魔法で完治したし、毒も痺れ系のモノだったから、時間が経てば痺れも無くなるわ。」

 神級魔物との戦いがあったので、エルフの治療は静香に任せていた。毒も気になったが、痺れ系の毒で、命に関係する毒で無くて良かった。

 闇蜥蜴の毒は、獲物を痺れさせるのが目的だ。痺れて動けなくなった獲物を殺して食べる為のもので致死性は無かった。

「そうか、それは良かった。それじゃ、俺は風呂でも入って来る。疲れたし、魔物の返り血も相当浴びたからな。」

 そう言って、俺は紫雲や公明たちを誘って風呂に入った。

《館》の風呂は大きいが、一つしか無いので、今日は男性陣が先に入る。

 ゆっくり風呂に浸かって、疲れをとった。

 風呂から出て居間に戻ると、エルフが目を覚ましていた。


 「虹の王・・」

 エルフは俺の顔を見るとつぶやいた。


「虹の王とは、俺の事か?」

 火鳳凰も、俺の事を虹の王と呼んでいた。

 エルフの視線は俺を向いているので間違いなさそうだ。

 俺の問いに答えずに、ジッと俺の顔を見ている。

「もう、体は大丈夫なのか。」


 エルフは、コクリと頷いた。


「そうか。良かった。俺は虹の王じゃない。楊慶之と言う。楊公爵家の三男だ。君はエルフだろ、名前は何というんだ。」


「私は、ハイエルフの女王、メーテルの娘のライラの子、レイラ。あなたは、虹の王ではないのか。」


「俺か、俺はさっきも言ったか、楊慶之。さっきも、魔物の火鳳凰が俺の事をその名で呼んでいたが・・・。俺は虹の王じゃない。」


「違うわよ、慶之。虹の王は呼称よ、呼称。虹色魔力を使う人を虹の王と呼ぶのよ。千年前の始祖が、虹色魔力を使う王だったからね。魔神や魔人族からそう呼ばれたのよ。大聖国の王家の本に書いてあったわ。」

 横でレイラに治癒魔法をかけていた静香が教えてくれた。


「そうなのか、俺は王では無いが、虹色魔力の使い手だ。答えになっているかどうか分からないが、あとはレイラの方で勝手に解釈してくれればいい。」

 姜馬が、虹色魔力を使えた者は今まで異世界人しかいなかったと言っていた。

 実際には姜馬も俺も異世界人だ。そして、姜馬が言うには、千年前の始祖も異世界人だったらしい。

 この三人と、岳光輝しか、虹色魔力を使える者は知らない。

 岳光輝が異世界人かは知らないが、他の3人は異世界人だった。

 魔力の能力値が千を超えれば、虹色魔力の力が得られるらしいが、この千年間で能力値を上げて虹色魔力を使えた者は教団の記録ではいなかったと姜馬が言っていた。

 レイラが言う虹の王の一人は千年前の始祖で間違いないが、今の世界の虹の王となると、俺と岳光輝の二人のうち一人。もしくは二人ともか・・・。


 レイラは俺の話を聞いて、何か考え事をしているようだ。

「それで、レイラはどうするんだ。レイラが倒した魔物の魔石や素材は俺たちが回収しておいた。体が大丈夫なら、魔石と素材を持って、この迷宮を出るか。この迷宮には、あとは《迷宮の主》しかいないぞ。」


「・・・楊慶之。お前が、虹の王か。虹の王と違うのか見極める。」


「見極める?俺を・・・。」


「そう、楊慶之。お前をだ。虹の王は、虹色魔力を使う。だが、この国の王に虹色魔力の力を持つ者はいないと聞いている。なら、虹色魔力を持つ者が王になる。だから、見極める。お前に王になる器があるか。」

 レイラは俺の目を見て話した。


「そうか、見極めるか・・・。それでどうやって見極めるんだ。俺が王になるとは思えんから見極めても無駄だと思うが。」


「楊慶之と行動を共にする。もし、虹の王でなければ、私は楊慶之の元を去る。もし、虹の王と分かれば、眷属になる。そして、我らのエルフの住む島を守る力を得る。それが、女王、メーテル様が私に与えられた私の使命だ。」


「そ、そうか。眷属とか、島を守るとか、使命とか良く分からないが、レイラも大変そうなのは良く分かった。」


「ちょ、ちょっと待ってよ。それって、レイラも仲間になるってこと。」

 静香が話に割り込んできた。


「仲間?違う、私は楊慶之を見極めるだけだ。」

 レイラが首を傾げる。


「でも、それは行動を一緒にするという事でしょ。私は反対よ。」

 静香は、厳しい口調で言った。


「そうか、でもレイラは強いぞ。仲間なら頼もしいが。」


「ダメよ。だって、この耳長族・・・じゃなかったエルフは只見極める為に付いてくるわけでしょ、仲間じゃないわ。それに、エルフというか、耳長族は千年前にこの世界から姿を消した伝説の一族よ。本当に一緒に行動して大丈夫なの。それに、これ以上、慶之の周りに女性が増えると困るのよね。」

 静香はレイラの大きな胸を睨みながら、レイラが一緒に行動するのに反対した。

 この世界では、確かにエルフの話は聞いた事はない。

 魔人族や獣人族、小人族(ドワーフ)は別の大陸や島に住んでいると子供の頃から聞かされていた。中には、この大陸で暮らしている獣人族や小人族もいる。

 ただ、小妖精(エルフ)は聞いた事が聞いた事が無い。おとぎ話でも、耳長族の話を出てくるくらいだ。


「俺は、別に一緒に来るのは構わないが。ただし、一緒にいる間は、仲間であるのが条件だ。去る時は言ってもらえれば構わないけど。レイラは強い、神級の魔力は持っている。戦力としても桜花と同等の力くらいだ。仲間なら頼もしいと思うが。」

 レイラの能力値を《認識》魔法で見ようとしたが、《認識》魔法が無効化(レジスト)されて見えなかった。だが、武力の能力値は桜花に近い力、魔力能力値は静香や桜花を上回る力であるのは間違いない。


「仲間・・・。」

 レイラは首を傾げる。


「僕は、別に良いよ。強い者が仲間になるのは大歓迎だ。稽古の相手になってくれると嬉しいな。」

 桜花は、仲間になるだけの力をレイラが持っていると認めていたようだ。


「私は、別に賛成でも、反対でもありません。別に、その女性がいなくても、私が子雲を守ります。ただ、子雲が仲間に加えるというのを反対はしません。」

 麗華は中立の意見のようだ。


「わたくしもどちらでも良いですわ。私自身も、慶之殿の仲間になるかどうかは、慶之殿がこの《迷宮の主》を倒すかどうかにかかっていますから。この場で意見を言う立場では無いですわ。」

 美麗も中立だ。


「私は賛成です。戦力は多い方が良い。桜花殿と同等の戦力であれば大歓迎です。小妖精(エルフ)という一族にも興味深いですし。」

 公明も賛成の意見だ。


「それじゃ、聖香が反対で、3人が賛成。2人がどちらでも良い。結果は、賛成多数で仲間に加えるで良いな。後は、レイラが俺たちと一緒に行動する間、仲間でいることに同意するかどうかだが。どうだ、レイラ、行動を共にする間、俺たちの仲間になるか。」

 静香は仕方が舞いという顔をしている。正直、そんなに反対にこだわっていなかったようだ。鍾離梅は美麗の従者枠なので投票に参加していない。


「仲間・・・分かった。楊慶之の仲間になる。ただし、楊慶之が虹の王でないと分かったら、仲間ではなくなる。それで、良い。」

 少しの間、考えた素振りをしていたレイラが答えた。

 これで、新たな仲間が一人増えた。

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