第14話 趙麗華

 『趙伯爵軍』 趙麗華 【火の迷宮】


「麗華将軍。第4陣が持ちません。魔物に破られます。」

 伝令兵が跪いて、私に報告をおこなった。


「柵を守る守備兵に第5陣に下がるように言いなさい。紫雲も下がるように指示をだしなさい。」

 私は、目の前の防衛柵に群がって来る魔物を鉄鞭で倒すと、部下に第5陣に下がるように命令を下した。

 第5陣は趙家軍の最後の防衛線だ。

 こうも簡単に第4陣まで潰されるとは、魔物の数と力を見誤っていた。

 既に、2千匹近い魔物を倒したはずだ。だが、その倒した魔物の死体が、塹壕の堀を埋めてしまっている。

 まさか、2千匹を超える数の魔物が《迷宮の扉》から現れるとは思っていなかった。千人近い趙家軍の兵も、今は3百人くらいに減っている。

 こちらは、万全な防衛網と鍛え込んだ優秀な兵で立ち向かったが、消耗戦になったら歯が立たない。塹壕は埋められ、趙家軍の兵は削られ、魔物の数に押し負けるのは目に見えている。


 神級魔力を持つ弟の趙紫雲の活躍しているが、彼の武器がもたない。

 上級魔物相手を2,3匹を相手にすると、上級魔物の特級魔物の素材で作った槍でも槍先が砕けてしまうのだ。

 それで、10本の槍を地面に突き刺して戦っている。

 槍を地面に突き刺すのは、替えの槍を用意する為だ。

 槍が砕ける度に、地面に突き刺した槍を引き抜いて、新たな槍で戦っている。

 地面に突き刺さった槍は、既に残りは3本しかない。

 紫雲が一人で、二,三十匹の特級魔物を倒している。だが、それも、そろそろ限界だ。体力的にも、魔力的にも、武器的にも消費が激しい。


 だから、紫雲に第5陣に下がるように命じたのだが、本人は不服なのか、わざわざ私の傍まで不平を言いにやって来た。

「麗華姉上。私が殿(しんがり)を務めます。姉上が先に下がってください。」

 思った通り、紫雲は私の命令に従おうとしない。


「紫雲、司令官の命令は絶対ですよ。私が、この軍の司令官として命じます。早く、第5陣に退きなさい。何度も言うけど、これは命令よ。」


「姉上、それはおかしいです。司令官が打たれたら、我が軍の負けです。我らは負けたくありません。ですから、司令官に先に引いて頂くよう具申しているのです。そういことで司令官である姉上が先に第5陣に下がってください。」


「麗華将軍、紫雲将軍の言う通りです。司令官は先に第5陣に退き、そこで全体の指揮をお願いします。」

 副官の劉も紫雲に同調する。紫雲も簡単には引き下がらないので、私は仕方がなく、第5陣に下がることにした。

 ただ、ここまで下がると、もう趙家軍には後が無い。

 それにしても、魔物の数の多さも驚いたが、上級魔物数にも驚いた。

 正直、魔物の数を読み間違えた。

 趙家軍の兵の数も、防衛陣の規模もとても足りなかった。

 さすがは活性化した『火の迷宮』。


 (紫雲も限界だ。そろそろ、全軍の撤退を考えねば・・・)

 第5陣に下がると、劉副官を呼んだ。

「それで、冒険者と教団に要請した援軍はどうなっていますか。」


「はい。麗華将軍。冒険者の方は、援軍を出すと。ただし、この町の民を無事に逃がす為に動くと申しています。そして、教団の方は、主力の聖騎士が迷宮の中に潜っており、援軍は出せないとの事です。」

 劉副官は教団が援軍をださない事に憤慨しているようだった。


「そうですか。冒険者の方は向こうの言う通り、町の民を無事に逃す様に誘導させなさい。教団の方は、期待はしていなかったので構わないわ。」

「それで、趙家の領都にも、報告は行ったかしら。」


「はい、伝写鳩を5匹飛ばしました。」

 同じ手紙を5匹の鳩に運ばせるのは、途中で鷹や鳶などに襲われるからだ。

 5匹も送れば、一匹は無事に目的を果たすだろうと、保険をかけている。


「それで良いわ。でも、趙家軍の援軍は、時間が掛かるわね。きっと、それまでにここは持たないかもしれないが、少しは時間を稼ぐしかないわ。」


「相手の魔物の数が多すぎます。すでに2千匹の魔物を倒しました。これは、趙家軍の総司令部が《火の迷宮》の魔物の力を読み違えたの原因です。趙麗華将軍と趙紫雲将軍の2人が居らっしゃるから、まだ持っていますが、普通でしたら、とっくに全滅していますよ。」

 劉副官が悔しそうに言った。


「まぁ、確かに紫雲の力は大きいわね。紫雲がいなければ、とっくに全滅しているわ。」

 神級魔力の弟の紫雲の奮闘でなんとか持っているが、その紫雲も限界に近い。今のうちに、趙家軍を撤退させないとタイミングを失ってしまう。


「はい。ですが麗華様のお力も大きいですよ。この防衛陣の構築と、魔物との戦いでの采配がなければ戦線は維持できませんでしたから。」


「そんなに褒めても、負けは負けよ。そろそろ、この第5陣にも魔物がやってくるわ。この第5陣が私の死に場所のようね。」

 私は、この戦いで責任者として死ぬつもりだ。

 元々、この世界に未練はなかった。

 何としても、紫雲や一人でも多くの味方を生き延びさせる為にも、私は死を覚悟していた。


 暫くすると、紫雲が第4陣を放棄して、第5陣に退いて来た。

「姉上、第4陣は放棄しました。上手く、味方も最終ラインの第5陣まで退けたようです。なんとしても、この陣で魔物の侵攻を防ぎましょう。」

 紫雲も手に持つ槍は2本に減っていた。

 兵士が持つ普通の鉄の槍や剣では下級魔物としか戦えない。上級魔物が相手では直ぐに砕けてしまう。希少鉱物のアダマンタイトかミスリル、もしくは上級魔力以上の魔物の素材で作った武器でしか、上級魔物は相手にならない。

 特級魔物の素材の武器は鉄の武器よりは良いが、上級魔物相手だと力不足はいがめない。ただ、今はその武器に頼るしかない。

 この2本の特級魔物の素材の槍があるうちに撤退しなければ・・・。趙家軍も、弟の紫雲もここで全滅するしかない。引き際が肝心だ。

 それと、敵の動きに対して一つ気になる事もある。

「紫雲、少し休んで。休憩が終わったら、全軍撤退よ。」


「姉上、撤退ですか。まだ、戦えますよ、私は。」


「無理は禁物よ。もう、槍は2本しかないじゃない。それに、魔物の動きも変なのよね。前から思っていたんだけど。」


「何が変なのですか。」

 紫雲が首を傾けて、尋ねた。


「いえ、魔物が何者かに統率されている気がするのよ。」


「魔物が統率されている?魔物に司令官がいるという訳ですか。」


「そうよ、さっきからおかしいのよ。こちらが撤退して次の陣に下がると。奴らは、まず、下級魔物に新たな陣を攻撃させるわ。そして死んだ魔物で塹壕を埋めさせて、柵を壊させる。こちらの陣を潰してから、上級魔物が攻撃に参加してくるのよ。まるで、誰かが指揮をして下級魔物を捨て駒にしているようじゃない。」


「・・・確かに、奴らの動きを見ていると、そうですね。魔物に命令系統があって、統率者が、上級魔物や下級魔物に命令を出している気がします。魔物たちが統率者の命令で動いている。・・・でも、それが本当なら、魔物の軍隊ですよ。」

 紫雲は目を細めて前線を見ている。


「まぁ、そう言うことになるわね。現に、この第5陣の塹壕も下級魔物の死体で埋まっていくわ。」

 向かって来る下級魔物を柵の中から、趙家軍の兵士が槍で刺し殺すと、魔物たちはその死体を塹壕に放り投げていた。

 死んだ仲間で塹壕を埋めるのは、不気味な景色だ。


 紫雲は注意深く、魔物が防衛網を攻撃するのを見つめている。

 既に、数か所の塹壕は埋まって、柵も引き抜かれていた。

 趙家軍の兵士が下級魔物相手に善戦して、なんとか陣が保っているが、塹壕も埋められ、柵も破壊されて、もうこの第5陣もあまり持ちそうにない。

 それだけ、魔物の攻撃が組織的で効率的とも言える。

「本当ですね。ずいぶん、陣を突破するのが早いと思ったら、指揮系統が存在していたとは・・・。下級魔物と、上級魔物の使い分けが確かに絶妙です。嫌な所で、上級魔物が現れて、兵士が倒されています。この魔物たちはやはり少し変ですね。」


「そういう訳だから、紫雲。あなたは、残っている兵を連れて、この事も、趙家軍の援軍に伝えて。父上が援軍を送ってくると思うけど、この戦線には間に合わないわ。あなたは、残った兵を率いて一旦退くのよ。それで、援軍と合流してから魔物を追い駆けて。援軍には鎧騎士も含まれていると思うから、戦力を整えて戦うのよ。鎧騎士なしでは、この数の魔物が相手は太刀打ちできないわ・・・。鎧騎士があっても分からないけど。」

 鎧騎士の戦力も加われば、将級魔物や特級魔物の相手でも戦える。紫雲なら王級魔物が相手でも戦える。だが、神級魔物は分からないが。


「それで、当然、姉上も退却するのですよね。一緒に行きましょう。」


「私は、この軍の責任者よ。ここに残って、時間を稼ぐわ。誰かが殿(しんがり)を務めないと、背中を魔物に見せながら兵が逃げることになるわ。そうすれば、こちらの被害はもっと拡大する。それに、私がこの敗戦の責任を取らないといけなし。」


「責任?姉上が責任を取らなければいけない状況なんて無いですよ。姉上は、この戦力で十分な戦果を出しました。もし、責任をとるとしたら、この戦力で我々を《火の迷宮》に送り出した首脳部の奴らですよ。」


 「紫雲、首脳部は、伯爵の父上や長兄の赤雲兄上のことになるわ。父上や兄上に責任を取らせるわけにはいかないのよ。それに、あの人がいないこの世界に未練は無いし。紫雲も分かっているでしょ、だから早く兵を連れて撤退して頂戴。」

 千人いた趙家軍の兵が、今では3百人を切っていた。そして、確実に兵は減り続けている。早く、動かないと手遅れになる。


「嫌です。姉上が撤退しないのなら、私もここで殿として残ります。」

 紫雲は頭(かぶり)を振った。


「それじゃ、誰が残った兵を率いるの。それに、紫雲。あなたは、今の趙家に必要な人材よ。趙家が危険な状況は分かっているでしょ。この難局を乗り切るには、あなたの力が必要なの。だから、子供みたいな事は言わないで、命令に従って。」

 今の趙家は、蔡辺境伯に圧力に晒(さら)されている状況だ。

 蘭辺境伯家、楊公爵家が滅亡した。

 次に邪魔なのは、趙伯爵家。

 蔡辺境伯が大陳国の王家を退け、自身がこの国を手中に収めるつもりなのは、大陳国の貴族のほとんどが感じている。

 そして、大陳国の貴族として、皆が危機意識を持っていた。危機意識は持っているが、何もできない。逆に蔡辺境伯の威圧を感じていた。

 ついこの前も、非常に危なかった。

 あと一歩で趙家は取り潰しになる寸前だった。

 もし、『火の迷宮』の魔物が、【智陽】の人々を数万人も殺していたら、間違いなく責任を取らされていた。蔡辺境伯は、ここぞとばかりに趙家の取り潰しを目論んだはずだ。

 信じられないが、4人の冒険者が3千匹の魔物を撃退して事なきを得たが、本当にあと一歩で危ない所であったのだ。

 この厳しい状況で、神級魔力を持つ紫雲の力は、今の趙家に絶対必要であった。


「姉上、それは姉上も同じですよ。世の中では、姉上もけっこう評価されているようですよ。知っていますか、『趙家3桀』という言葉を。」

 趙家3傑は、武の趙紫雲、智の趙青雲、用兵の趙麗華のことを意味する言葉であったが、麗華はその言葉を否定していた。


「紫雲、あなたまでそんな事を言っているの。面白がって、言っている無責任な言葉よ。それより、紫雲。早く、残った兵を引き連れて退却して頂戴。もう時間がないの。すぐに、上級魔物が現れるわ。」


「姉上、何度言っても同じです。私は姉上を置いて逃げません。私は姉上より強いんですよ。姉上こそ、残った兵を率いて撤退してください。私が時間を稼ぎます。」


「それじゃ、ダメなのよ。紫雲。それじゃ、あなたも、兵士たちも助からないわ。一生のお願い。早く撤退して。」

 趙麗華は頭を下げた。


「嫌です。姉上の願いでも、これだけは聞けません。」

 紫雲は2本の槍を持って、趙家軍の兵が戦っている柵に向かってしまった。


「紫雲・・・・・・。」

 残された私は覚悟を決めた。

 紫雲は私が生きている以上は撤退しない。

 なら、私がこの戦場で死ねば、紫雲もあきらめて撤退するはず。

 私に、生に対する未練はない。あの人のいないこの世界は灰色にしか見えない。


「劉副官、劉副官は居ますか。」

 私は副官を呼んだ。


「ははっ、麗華将軍。なんでしょうか。」

 劉副官が跪いた。


「直ぐに、兵を率いて撤退してください。この陣を放棄します。殿には私と紫雲将軍が残ります。劉副官が味方の兵を纏めて、丘の上の避難場所まで一旦撤退。それから領都【趙陽】から派遣される援軍と合流。合流後は、援軍の指揮官に指示に従ってください。分かりましたか。」


「麗華将軍と紫雲将軍の2人を残して、撤退などできません。我らも最後の一人になるまで戦います。」

 劉副官は跪いたまま、麗華を仰ぎ見た。


「全滅は無意味です。それよりも一人でも多くの戦力を趙家の為に残すのが私たちの役目。私と紫雲将軍は殿として、あなた方が撤退する時間を稼ぎます。あなた方の撤退を確認したら、私も紫雲も下がるので安心してください。それより、時間がありません。上級魔物がやってくる前に、早く撤退してください。」


「分かりました。麗華将軍。」

 命令と言われ、渋々劉副官は頷くと本陣を去って行った。


 私は劉副官が本陣から出ていくのを見届けると、腰に2本の剣と鉄鞭を腰に佩いた。それぞれ、特級魔物の素材で作った武器だ。

 そして、手には魔弾銃を持った。

「やっと、あなたの所に行く時が来たわ。待っていてね。」

 小声でつぶやくと、私は本陣から戦場に向かった。


 * * *


「あら、予想外ね。下級魔物とはいえ、こんな処で2千匹を失うなんて。」

 獣魔王である黒姫は、《火の迷宮》の丘の上から魔物たちと趙家軍の戦いを眺めていた。

 倒された2千匹の魔物が塹壕の堀を埋めていた。

 魔物たちに、下級魔物の死骸を塹壕の堀に放り込むように命じたのは黒姫だったが、趙家軍がここまで粘るとは彼女にとっては予想外だった。


「それに、なんなのよ。まさか、趙紫雲が《火の迷宮》に現れるとか聞いていないわよ。伯龍から趙紫雲は味方に引き入れろと言われていたのよね。」

 黒姫が、蔡白龍——蔡辺境伯からの受けた命令は2つ。

 一つは、趙家を滅ぼす為の攪乱工作。

 もう一つは、この大陳国に9人しかいない神級魔力の持ち主である趙紫雲を白龍の家来にするように説得することだ。神級魔力の騎士は、強力な戦力であった。伯龍はこの国を獲った後に、強力な騎士が必要になる。


 そこで黒姫は、《魔物使役》という魔王スキルを使って、大瀑布を起こし【智陽】を襲撃させた。同時に、手駒の『黒鴉』を使って城門を中から開けさせる。

 内側から開いた城門をくぐって、3千の魔物が【智陽】に流れ込んだ。

 策は、計画通り上手くいっていた。

 あとは、【智陽】の多くの民が魔物たちに喰い殺され、《火の迷宮》の管理者である趙伯爵は責任を取り、趙伯爵領のはく奪をちらつかせる。

 まぁ、落し処としては、趙伯爵領の領土半分と、趙紫雲を白龍の部下に差し出させる所になる筈だった。

 それが、なんとよりにもよって、虹の王に邪魔をされたのだ。

 なんで、こんな所に虹の王と眷属たちがいるのかと思ったが、【智陽】の都市(まち)に虹の王たちがいたのだ。


【智陽】に到着した時には、すでに虹の王は《火の迷宮》に向かった後だった。

 その情報を聞いた私は、『まずい!』と直感的に思った。

(《火の迷宮》へ行くのは、そこに虹色魔石があるからだ。虹の王が魔石を狙っている。なんとしても、止めなければ!虹の王が魔石を手にしたら、益々覚醒に近づいていく。魔神様が目覚める前に、虹の王を覚醒させるわけにはいかない。)

 虹の王を妨害する為に、あまり使いたくない《魔物使役》の魔王スキルを再び使った。魔王スキルを使うと、魔王の力の根源である魔魂を消費するので、頻繁に使いたくなかった。

 だが、今はそんな出し惜しみは言っていられない。

 虹の王を足止めして、何としても虹色魔石が奴の手に渡るのを阻止しなければならない。

 そこで、私は、再び魔物たちを《火の迷宮》を扉の外に出るよう《魔物使役》で、魔物たちに命じた。

 そこに趙家軍が邪魔に入ったのだ。これは計算外だった。今回は、いろいろな事が邪魔に入り思った通りに進まない。

 とにかく、出て来たモノは仕方がない。


 趙家軍を撤退させるように仕向けるしかない。

「早く逃げなさいよ、趙紫雲。あなたのその軟弱な武器じゃ、上級魔物は厳しいわよ。虹の王が《火の迷宮》に来る前に、奴らに魔物をぶつけないといけないの。間者の『黒鴉』から合図が来る前に魔物を行かせるわ。逃げないなら、伯龍には悪いけど、趙紫雲はあきらめるわよ。虹色魔石を虹の王に渡さない方を優先するわ。」

 黒姫は、黒描が率いる『黒鴉』が壊滅しているとは夢にも思っていなかった。

 だから虹の王が、この《火の迷宮》の扉に来ているとは思っていなかった。

 彼女は、魔物に趙家の陣を潰させて、趙家軍が逃げるように誘導したかったのだが、想像以上に趙家軍が善戦し、時間の経過に焦りを感じていた。


 しばらく経って、やっと黒姫の思惑通りに趙家軍が撤退を始めた。

 だが、趙紫雲ともう一人の将軍の2人だけが陣に残っている。

「ああぁ~。もう我慢の限界だわ。趙紫雲は面白そうだけど、なんて馬鹿なのかしら。早く逃げれば良いのに・・・、馬鹿は嫌いなのよね。」

 黒姫の目が鋭くなる。

「今回は、神級魔物や王級魔物の数も【智陽】の時より多く呼び寄せたわ。魔魂2万よ。2万の魔魂を使ったからには・・・なんとしても、虹の王をここで喰い止めるわよ。伯龍には悪いけど、趙紫雲もここで殺すわ。」

 彼女が《魔物使役》の魔王スキル発動には魔魂が必要であった。

 その魔魂とは人間の魂。彼女が手に入れた魔魂1つで一匹の下級魔物しか使役できる。だが、神級魔物を一匹を使役するのは千の魔魂が必要であった。

 彼女がいう魔魂2万の数は、【智陽】の時の1.5倍の魔魂の数で、それだけ多くの神級魔物や王級魔物を呼び寄せていた。

 黒姫はニヤリと半月のような笑いをすると、念話で上級魔力の魔物たちに戦闘の命令を出すのであった。


 * * *


 戦場では、紫雲が一人で戦っていた。

 既に、下級魔物はいない。

 そこに居るのは、百匹以上の上級魔物。そいつらが紫雲をとり囲んでいる。ほとんどが特級魔物だが、中にはワンランク上の将級魔物も見られた。

 そして、まだ次々と上級魔物が《迷宮の扉》からこっちの世界に出てくる。

 王級魔物の姿も見え始めた。

 その内、神級魔物も現れるであろう。


 紫雲は、焦りと恐怖を感じながら、目の前の魔物を相手に戦っていた。

 槍の槍先が砕けるとただの棒になった槍だったモノを投げ捨てる。そして、最後に地面に刺さった槍を握りしめると、次の魔物に向き合っていた。


「タイミングを誤ったわ。もっと、早く私が死ねば、紫雲は逃げたはずなのに。」

 つい戦いに夢中になった私は馬鹿な自分を後悔した。

 もう、紫雲を救えない。

 次々に扉から現れる魔物を見て唖然とした。

 紫雲は、最後の槍で戦っている相手に苦戦していた。

 今、戦っているのは魔犀獣だ。魔犀獣は皮が硬い。あの魔物が相手では槍が砕けて、槍が魔犀獣の皮を貫けない。皮と皮の付け目や、皮がない目を槍で狙うが、中々槍が入らない。

 槍の腕前は紫雲の力が圧倒的に上だが、皮に阻まれ攻撃が効かないのだ。

 どんなに、武術の腕が優れていても攻撃が効かなければ相手を倒せない。

 それでも、首の同じ場所を何度も突いて、なんとか魔犀獣一匹を倒していた。

 だが、一匹の魔犀獣を倒した時だけで、最後の槍もボロボロだ。紫雲の疲労も頂点に達しているように見えた。


 そこに今度は、犬の特級魔物の魔犬獣が、紫雲に向かって牙を向けて跳び込んできた。

「避けて。」

 ――ビシィ

 声と一緒に鉄鞭を振るった。鉄と特級魔物の皮で強化した鞭だ。

 鉄鞭が魔犬獣の首に絡みつくと、私は思いっきり引き寄せて剣で魔犬獣の首を斬り落とした。


「ハァ、ハァ、ハァ、あ、ありがとうございます。姉上。」

 紫雲は肩で息をしながら、私の方を振り返る。

 だいぶん、体力と気力を消費しているようで、今にも倒れそうだ。


「早く、撤退しなさい、紫雲。もう、味方の撤退時間は十分に稼いだわ。私も撤退するから、一緒に引くわよ。」

 紫雲に近寄って、撤退を命じた。

 もう、紫雲は既にボロボロだ。

 相手が下級魔物と上級魔物とで全然違う。下級の魔物相手なら容易に倒せるが、上級魔物になると消費する魔力や体力が大きく削られる。少し油断するとこちらが殺られる。それだけ、神経もすり減らされるのだ。

 紫雲の周りには、10匹くらいの特級魔物が倒れていた。それだけでも凄い成果だが、彼の周りには、まだ100匹近い上級魔物が囲んでいる。


「分かりました。・・・ですが、私はもう無理かもしれません。姉上だけでも撤退してください。」

 紫雲は、槍先が欠けた槍を杖代わりにして体を支えている。

 回復薬を飲んで、体の傷は回復しても、魔力と気力までは回復しない。

 魔物の囲まれた状況では、一人が包囲網の活路を開いて、もう一人が逃げるしかない。

 いや、これだけの上級魔物が相手では、活路を開く事すら難しい。


「紫雲。あなたも知っているでしょ、私は死を拒みません。だから、私の事は構わずにあなたが撤退しなさい。」

 私は右手に剣と左手に鉄鞭を持って、一番包囲の浅い東に向かって走った。難しいのは分かっているが、私が活路を作るしかない。

 鼬(いたち)の姿をした魔物や、猪の姿をした特級魔物が身構えている。

 鼬の姿をした魔鼬獣は、両手に鎌を持って2足歩行で私を襲ってきた。

 私は擦れ違う寸前で体を捻(ひね)った。

 擦れ違いざまに、魔鼬獣の右手の鎌を剣で受け止め、もう一方の左手の鋭い鎌が頭の上を掠(かす)めていく。擦れ違いざまに振り返えって、鉄鞭を魔鼬獣に投げつける。

 ――ヒュー

 鉄鞭はしなる音を鳴らしながら、魔鼬獣の首に巻き付いた。

「キューーーー。」

 魔鼬獣も所詮は魔物。武術の鍛錬などしていない。こちらの攻撃に反応できずに鉄鞭に首を獲られてもがいている。

 私が、魔鼬獣に止めを刺そうとすると、今度は魔著獣が襲って来る。

 4足歩行で、地面を蹴りながら猛突進で向かって来る。

 素早く、魔鼬獣の首を剣で刎ねると、すばやくその場を離れた。

 魔猪獣の突進を避けると、直ぐに向きを変えて、こちらに向かって突進してくる。

 今度は、落ち着いて突進を魔猪獣に向かって身構えた。

 そして、擦れ違う寸前に私は上に跳んで突進を避け、頭の上から剣を突き刺す。

 ――カキン

 大きな音を立てて、剣は魔猪獣の頭を叩くと、魔著獣は地面に倒れた。

 剣は魔猪獣の頭に突き刺さらずに折れていた。

 剣で突き刺したのではなく、叩いて気絶したようだ。だが、この一撃で私の剣は砕けていた。

 魔鼬獣は皮が硬くなかったので、首を割くことが出来たが、魔猪獣の頭はそうはいかなかった。

 だが、これで2匹の特級魔物は倒し、一匹は気絶している。地面に、魔犬獣、魔鼬獣、魔猪獣の3匹が転がっていた。ただ、まだ3匹でこの程度では、包囲の突破口すら作れない。


「まだまだよ。」

 私は、壊れた剣を投げ捨てて、右手にはもう一本の剣、左手に鉄鞭を握った。

 そして、一匹でも多くの魔物を死への道連れにするつもりで走った。

 私は失う者(ひと)はすでにいない。

 紫雲だけは助けたかったが、既にその希望すらも捨てた。今は全ての欲を捨て、ただ一匹でも多く、魔物を倒すだけに集中している。

 一心不乱に走ると、目の前に狼の魔物の姿が現れた。


「・・・この魔物は格違う。」

 魔力や覇気が、この狼の魔物が醸し出す力が。

 今までの特級魔物とは比べ物にならない。私は走るのを止めて身構えた。

「餓狼鬼(がろうき)・・・。」

 この魔物の魔力は私と同等の魔力、王級魔物の餓狼鬼に違いない。

 戦えない敵では無いが、特級魔物の素材の剣と鉄鞭では刃が立たない。

 特級魔物の素材の剣では、王級魔物の首の皮は斬れない。


「私の死に際に丁度良いわ。あなたに私の命をあげるわ。でも、ただであげるわけにはいかないけど。」

 趙麗華は、餓狼鬼との間合いに視線を払った。

 餓狼鬼の足が近づくと、鉄鞭をしならせて足を狙って打ち据えようとする。

 すると、餓狼鬼は足を引っ込めた。

 暫く、間合いの駆け引きを行っていると、先に動いたのは餓狼鬼の方だった。

 4本の足で、地面を蹴って一気に間合いを縮めてきた。

 方向を変えてフェイントをかけても、そのまま追って来る。

 爪が顔面を掠めていく。

 餓狼鬼の攻撃を凌ぐのが精一杯でとても反撃の機会は無かった。やっとのことで、隙を見つけて鉄鞭で攻撃を行ったが、簡単に鉄鞭は引き裂いてしまう。

 あの爪、そして牙に私の武器では敵わない。

 そして、残る武器は一本の剣のみ。

 しかも、この剣では、あの餓狼鬼の皮には届かない。

 打つ手がない。

 私にできる事は、ここでこの餓狼鬼と戦って、死ぬことだけだ。

 逃げるのも、だいぶん疲れてきた。


「次の一撃で決めるわ。」

 唯一、私の剣が餓狼鬼を傷つけられる所は・・・奴の目しかない。

 餓狼鬼の目を睨みつけて、剣を構えたままで地面を蹴った。


 餓狼鬼もこちらに睨んで、地面を蹴った。

 お互いの間合いに入った瞬間、餓狼鬼が横に体をずらす。

 一瞬で餓狼鬼の姿が視線から消えた。

 私が餓狼鬼の目を狙っているのを察知したのかもしれない。

 次に目に映ったのは鋭い爪だった。横から餓狼鬼の爪が私に向かってきたのだ。

(避けられない。)

 とっさに、右腕を出して、餓狼鬼の攻撃から自分の顔を庇った。

「痛っ・・・・・・。」

 激しい痛みが右腕から感じる。

 気づくと、右腕が無くなっていた。

 少し先に目をやると、剣を握った腕が地面に落ちていた。

 左手で、右腕があった肘を押さえて、そのまま地面に膝をついていた。

(もう、だめだ・・・。剣も、剣を握る腕も私にはない。)

 戦う術を失った私は死を覚悟した。


 膝をついたまま、目を閉じた。


 ――ボトン。

 何かが落ちる音がした。

 いつまで経っても、餓狼鬼が襲い掛かっている反応は無かった。

 恐怖に堪えきれずに、恐る恐る目を開くと。

 地面に餓狼鬼の首が転がっていた。


 ハッとして、周りを見回すと、緑の外套を着た冒険者の背が目に入った。

 冒険者は地面で横になっている餓狼鬼の魔石と素材を《魔法の袋》に回収している。

(いったい、何が起きたの・・・。)

 自分が死んだと思ったら、倒されたのは餓狼鬼の方だった。

 何が起きたのかさっぱり分からない。


 とにかく頭の中を整理する必要があるようだ。

(餓狼鬼を倒したのは目の前の冒険者・・・、魔物は王級魔力の餓狼鬼は。そんな魔物を一刀で倒せる人が・・・いや、そんな武器を持った人がいるの・・・。)

 とにかく礼を言おうと、背中を向て魔石を素材を回収している冒険者に近づいた。

「あ、あの、ありがとうございます。この餓狼鬼はあなたが倒し・・・・・。」

「あっ、悪い。この魔石と素材はもらっとくから。それと右腕をだして。」

「えっ・・・。」

(あの声・・・。)

 冒険者の人は私の話を遮って、腕を出すように言った。

 その声は、聞き覚えのある懐かしい声だった。

 同じ声色だった。

 私にとって、とても大事な人の声と同じ声を聞いて、呆然と固まってしまった。

「早く、怪我した腕を出して。」

「は、はい。右ですか。」

「そうだ、右だ。」

 催促の声で我に返り、腕を失った右の肘を出すと、緑の冒険者は顔を隠すようにフードを深く被り直した。

 そして、自分の手を私の右腕にかざした。

 冒険者の掌(てのひら)から、私の腕に虹色の暖かい魔法色の魔力が注がれた。

「あ、あの・・・あったかい・・です。」

 懐かしい暖かさだ。この暖かさから思い出されるのは、あの人しかいない。

 右腕の肘から、腕がニュキニョキと竹の子のように生えてくる。気づくと、他の傷も治っている。

 (・・・こんな高度な治癒魔法は見たことが無い。)

「凄い、治癒魔法ですね。ありがとうございます。あの、お名前を伺ってもよろしいで・・・。」

「それじゃ。」

 冒険者の人は、また私の声を遮って、『瞬歩』の魔法で消えていた。

(あの人なの?でも、なぜ、魔法を・・・)


 * * *


 紫雲たちは、上級魔物たちの群れに包囲されていた。

 姉の麗華が包囲網の突破口を開こうと、包囲をしている魔物に向かっていった。

 だが、特級魔物を3匹倒した処で、王級魔物の餓狼鬼に阻まれ苦戦をしている。

 さすがの姉も王級魔物が相手では分が悪い。助けに行きたいが、槍だった棒を支えに立っているのがやっとの私では無理だった。今の私には、そんな魔力も体力も無かった。

 なんとか、特級魔物の攻撃を避けるので精一杯で、なんとか攻撃を凌いでいた。

 早さも、攻撃を見極める力もこちらが上なので、攻撃を回避して、ただ時間が稼いでいるに過ぎない。槍だった棒しかないので反撃なんてできるわけがない。このままでは、体力も魔力も尽きかけて、そろそろヤバそうだ。


「あら、趙紫雲ですわね。何を逃げ回っているのですか。」

 突然、聞いた事がある声がしたと思って振り返ると、紺の外套を着た冒険者が、魔犀獣の首を槍で一刀両断にしていた。

(なに者だ。あの皮の硬い魔犀獣を一刀両断とは・・・アダマンタイトの槍か。)

 紫雲は信じられない光景に目にして驚いていた。

 自分はこれでも、神級魔力を持つ大陸でも上位の槍使いと自負していた。武術の腕も槍では並ぶ者がいないと自負している。その俺が、倒せなかった魔犀鬼の首をいとも簡単に斬り落としたのだ。

 (あの堅い魔犀獣の首を・・・。)

「誰だ・・・俺の名を呼ぶのは。」


「あら、私の声を忘れたのですか。槍の勝負で何度か、あなたに苦渋を嘗めさせられた虞美麗ですわ。助けに来てあげましたよ。趙紫雲さん。」

 被っていたフードを取ると、半仮面の勝ち誇った表情の顔がそこにあった。

「あ、あの虞美麗殿か・・・。本当にあの美麗か、見ない間に腕を上げたのか。」

 趙紫雲は美麗のことを知っていた。

 ただ、彼の知っていた美麗は、ここまで強くはなかった。

 美麗と趙紫雲は《大陳三槍》と呼ばれる槍の名手で、大陳国の中で上位3人に入る屈指の槍使いと称えられていた。

 2人はなんどか試合等で顔を合わせてお互いに知っていた。

 ただ、その試合の戦歴の全ては、美麗が趙紫雲に敗北を喫していたのであった。

 だから、これほどの強さを持つ美麗に趙紫雲は正直驚いていた。美麗は、魔物に追われていた趙紫雲を助けたので、どや顔である。

 もう少し、美麗は助けた趙紫雲をからかいたい気分だったが、今はそれ処では無い。次から次へと魔物が押し寄せてくる。


 しかも、美麗の目に留まったのは魔物は王級魔物の魔牛鬼。

 その素材は、幻の高級肉として名高く、Sランクと評価される肉だ。

 食べられる魔物の肉は高級素材とランクされる場合が多い。普通の獣の肉より、魔力を多く浴びている肉が柔らかく、油が乗っている。

 その中でも、牛系の魔物は人気が高い。魔力階級が高くなればなるほど、肉の美味しさもよくなり、人気も上がる。そして、王級魔力の魔牛鬼はSにランクされる高級牛であった。


 趙紫雲をからかっている処ではなかった。

「趙紫雲。早く逃げなさい。後はわたくしに任せてください。」

 美麗は、上から目線で趙紫雲に逃げるように告げると、倒した魔犀獣を《魔法の鞄》にしまい込む。

 そして、王級魔物の魔牛鬼に向かって行った。

 魔牛鬼は、一直線で突進して両手に持つ斧と頭の角で相手を倒す戦闘スタイルだ。対して、美麗は何度か魔牛鬼の突進を避けると、最後はすれ違いざまに槍の一突きで、魔牛鬼の首を斬り落とした。

 あの皮の堅い魔牛鬼の首を、たった一突きだ。


 趙紫雲は呆然として、戦いを見守っていた。

「凄い、あの美麗殿はあそこまで強くなっていたのか。」

 美麗の戦いを見ていた紫雲は、今まで美麗を侮っていた自分が恥ずかしくなった。

 戦場で魔物を倒しているのは美麗だけじゃない。


「美麗、それと趙紫雲。あなた達、頭を下げなさい」

 魔弾銃を手にした紫の外套を着た冒険者が2人に声を掛けた。

 女性の声だ。

 何が始まるのか目線を移すと、その冒険者は魔物に向けて魔弾銃を撃ち始めた。

 ――ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン。

 特級魔物たちに向かって、その冒険者は魔弾銃を連射していく。

 不思議な事に、魔弾銃ごときの魔弾では皮を貫く事ができないはずの特級魔物や将級魔物たちが、皮を貫かれ倒れていく。

「悪いわね。それじゃ、遠慮なく頂くわよ。」

 紫の外套を着た冒険者は、2百近くもいた特級魔物を連射で倒してしまった。


 紫雲は、自分の目を疑った。

 普通、魔弾銃で倒せるのは、下級魔物までである。

 それが、目の前で魔弾銃の連射で、上級魔物が倒されていったのである。

 一瞬で、自分を囲んでいた包囲網が消えてしまっていた。

「な、何なんだ、あの冒険者は・・・、あの冒険者も美麗の仲間か。」

 残るのは、王級魔物と皮の堅い一部の将級魔物だけになっていった。


「こんなもんね。後の堅いのは任せたわ。桜花、美麗。私は神級魔物を狙うわ。」

 魔弾銃を持った冒険者は魔弾銃を鞄にしまうと、今度は大きな魔弾砲を取り出していた。


「任せてよ!後の魔物は僕が頂くよ。もう、静香は休んでいて良いから。」

 現れたのは、黒いフード付きの外套を被った冒険者。もの凄い速さで、一斉射撃に耐えた魔物に向かって走って行く。

 両手に刀を持っている。

(刀か・・・。それに、早い。)

 神級魔力を持つ趙紫雲の目を以ってして、やっと目で追えるくらいの速さだ。

 それに刀とは珍しい。この国で刀を武器に使う騎士は少ない。あのような細い刀身で魔物を斬ろうとすると折れてしまうからだ。

 しかも、残っている魔物は王級魔物か、将級でも皮の堅い魔物だ。

 あの細い刃で貫ける魔物を貫けるとは思えない。

 黒い外套の冒険者が、魔犀将と擦れ違うと、魔犀将の首が転がっていた。

(なんだ、あの刀は、魔刀か。刀が赤く輝いている。将級魔物の魔犀将の硬い首の皮が、あんな細い武器で・・・。)

 転がった魔犀将の首の切れ味は見事であった。


 黒い外套の女の動きは止まらない。神級魔力を持つ自分の目でも、追うのがやっとの速度で次々に魔物に向かって行く。

 大きな百足の王級魔物の鬼百足の足が冒険者を潰そうとすると、足が冒険者に触れる前に百足の首が胴体と離れていた。

 そして、大きな蛙の魔物の魔蛙鬼が口を開けて毒を吐く前に首が斬られて、斬られた首から毒が溢れていた。

 熊の魔熊鬼、カマキリの魔蟷螂、ゴブリンの魔小鬼などの王級魔物が自分の戦いをさせてもらえず、黒の外套の冒険者と擦れ違った時には首が斬り落とされていた。

 いや、早いだけじゃない。この刀の技は本物だ。

 そして、これだけの数の魔物を斬っても、刀は切れ味が落ちる事は無かった。

 刀は赤い魔力色に覆われ得ている。

(す、すごい・・・。なに者なんだ、この冒険者たちは。)

 気づくと、美麗と2人の冒険者の3人が王級魔物も圧倒していた。

 一人は魔弾砲を持った紫の外套を着た冒険者、もう一人は刀を持った黒の外套を着た冒険者。それに美麗の3人で、3百匹に近かった上級魔物を全て倒してしまっていた。

 自分が死にそうになりながら、特級魔物を倒すのがやっとだったのに、20匹近い王級魔物に、将級魔物も百匹近くいた。

 特に、黒の外套を着た女の強さは尋常では無かった。

 同じ、神級魔力の自分でも、とても太刀打ちはできない刀の技に目を奪われた。


「はぁぁぁぁ、終わった、終わった。桜花、美麗。2人とも魔石と素材の回収を忘れないでね。」

 紫の外套を着た女冒険者が、大声で2人に声を掛けた。

「分かっているよ」「分かりましたわ。」

 2人とも大人しく、地面に転がった魔物の死骸から魔石を抜いて、素材を《魔法の鞄》の中に放り投げていた。

 紫の外套を着た冒険者も死んだ魔物の死骸に小剣で傷をつけると、そこに手を突っ込んで魔石を取り出していた。


 私は、暫くの間、3人の冒険者の戦いに唖然としていた。

 きっと、この3人が【智陽】を大瀑布から救った冒険者だろう。

 ――次元が違う。

 自分と同レベルと思っていた虞美麗ですら、自分の遥か上をいく武力を発揮していた。魔力階級の問題ではない。

 武術の腕と、武器の力が明らかに美麗の方が上だった。

 それが実力に現れ、戦果が大人と子供ほどの違いがあった。強いと思っていた自分が恥ずかしいと思う位の力の差を見せつけられた。


 少し落ち着いて、気を取り直して周りを見回す。

 辺り一面に転がっている魔物の残骸に先に、姉の麗華の姿を見つけた。

「あ・・・姉上・・・。」

 趙紫雲は、思わず声を上げた。

「姉上、姉上、姉上!ご無事でしたか。」

 その瞬間、体が動いていた。まるで今までの疲れが嘘のようだ。

 姉の元に向かって駆けだしていた。


 姉は私に気がつくと、「はっ」とした表情でにこやかにほほ笑んだ。

「紫雲。あなたも、無事だったのですか。良かったです。」

「姉上こそ、ご無事で、良かったです。」

 自然と涙がこぼれていた。


「紫雲、あなたは知りませんか。緑色の外套を着た冒険者を。探しているのですが、見つからないのです。」


「紫色の外套を着た者ですか・・・。」

 美麗は紺、あとは紫と黒の外套だった。緑色の外套を着た者は目にしていない。

 この戦場ではなく、別の場所にいるのだろうか。

 少し、姉上の感じが変だ。

「見ませんが。姉上、その者がどうかしたのですか。」


「いえ、その・・・間違いありません。その人が、あの人なのです。」

(姉上は何を言っているんだ。なんだか変だ。いつもの姉上ではない。なにがあったんだ・・・)


「どうしたんですか、姉上。その人とか、あの人とは誰なのですか。」

 今は戦場だ。早くいつもの姉上に戻ってもらわなければならない。そして、部下の元へ早く撤退しなければならない。姉の混乱に付き合うのは、撤退した後だ。


「うっ・・・。」

(これは、・・・この大きな魔力は。)

 突然、大きな魔力を《迷宮の扉》の方に感じた。

 この魔力は。神級クラスの魔物が現れたに違いない。

(遅かったか・・・。)

 姉上はまだ、いつもの姉上に戻っていない。周りを見回して何かを探している。

 こうなると姉上はダメだ。梃子でも動かない。だからと言って置いていくわけにもいかない。

 惨めだが、とても自分の力では神級魔物の相手はできない。


 こうなったら、あの3人に頼るしかない。

 3人の冒険者を見ると、3人とも《迷宮の扉》の魔物の気配に気づいたようだ。

 それぞれが自分の得物を持って身構えている。


《迷宮の扉》から出てきたのは、王虎、天狼、天熊、犀王、大鬼、牛魔王、猿鬼、闇蜥蜴、百足王、獅子王の神級魔力が10匹も並んでいる。

 獅子王を中心に10匹の神級魔力が並んで姿に、威厳すら感じる。

 こんな10匹の神級魔物が暴れたら、一つや二つの都市の壊滅ではすまない。長南江以南の大陳国が・・・いや、大陳国が滅ぶかもしれない。それほどの規模の魔物の数だ。

「なぜ、こんな魔物が・・・。」

 趙紫雲は言葉を失った。信じられない数の神級魔物だ。

 数だけでなく、魔力も相当の力を感じる。

 この魔物が、《火の迷宮》から解き放たれて国中を荒らし回ったら、間違いなく趙家は取り潰される。

 いや、趙家だけの問題ではない。

 この国が滅んでしまう。


「どうしたの、紫雲。なぜ、神級魔物が、こんなにたくさん・・・。」

 これだけの数の神級魔物の魔力を感じて、さすがに姉上も正気を戻した。

 だが、紫雲の力では何も出来ない。

 美麗を除く、冒険者の2人がやる気満々だ。


「まず、私の魔弾砲で王虎を殺るや。」

 紫の冒険者が、魔弾砲の照準を神級魔物に合わせた。

「行くわ。」と言って引き金を引く。

 強烈な魔力を感じる砲弾が王虎に向かって放たれた。

 ――ズカーン

 王虎の《物理》結界に着弾したが、結界はビクともしない。

「やっぱりダメね。私の魔弾砲でも神級魔物の結界は無理だわ。」


「う~ん。10匹か~、さすがに、僕でも厳しいかな。」

 黒の冒険者も王虎の結界を見て、さすがに厳しいようだ。


「当たり前ですよ。一匹でも難しいですから。」

 美麗は初めから、神級魔物の相手に戦うつもりはないようだ。


 すると、王虎が動いた。

 3人の冒険者に向かって勢いよく突進してくる。

 3人はスッと、その場から跳躍して離れる。

 だが、ただ離れるのではなく、まずは、紫の冒険者が至近距離で魔弾砲を撃つ。

 王虎が直ぐに《物理》結界を張って、魔弾砲の砲弾を弾いた。そして、直ぐに攻撃に転じる。紫の冒険者に向かって大きな鋭い爪を立てて襲い掛かった。

 すると、後ろから、黒の冒険者が王虎に向かって刀で襲い掛かる。

 目で追えない速さで、王虎の間合いに入ると、首を狙って刀を突き立てる。

 王虎は反応するのがやっとで、体をねじって何とか避けた。

 その間に、紫の冒険者が魔弾砲を持って、別の位置に移動している。そこから、王虎に向かって照準を合わせて引き金を引いた。

 無理な体制で、黒の冒険者の刀の攻撃を避けて、着地した場所に魔弾砲の砲弾が飛んできたのだ。回避の結界が間に合わずに、王虎に砲撃が着弾した。

 王虎は大きく後方に吹き飛ばされると、片足を失っていた。


「やりますね、姉上。あの2人の冒険者は。」

 戦いに見とれていた私は、思わず2人の戦いを褒めた。


 姉の麗華も頷いている。

「そうね。悪くない連携ね。2人とも神級魔力の騎士のようね。しかも、相当な強者。きっと、あそこの3人が【智陽】を救った冒険者に間違いないわ・・・というか、なんで、あそこに虞美麗がいるのよ。あの娘(こ)は、今頃、雷家領にいるはずでしょ。」

 じっと、3人を観察していた姉上も美麗に気づいたようだ。

 そう言えば、姉上は子供の頃、王都の虞美麗の家に良く遊びに行っていた。

 美麗のことを姉は気にかけていた。だが、蔡辺境伯が楊家を滅ぼした方が姉にとって喪失感が大きくて、美麗まで気が回っていなかったようだ。


 足を失った王虎は、《物理》結界を展開した。

 結界を張られると、3人は手が出せない。後は止(とど)めを刺すだけという処で、まんまと王虎を逃がしてしまう。

 これが、中々神級魔物を倒せない理由だ。

 神級魔物が攻めてくる時は、カウンター狙いの攻撃のチャンスもあるが、一旦結界を張られると、破ることが出来ない。

 結局追い込んでも、守りに入られたら最後は逃げられてしまう。

「桜花、このままじゃ、王虎に逃げられるちゃうわよ。何とかしなさいよ。」


「何を言っているんだ、静香は。できるならとっくにやっているよ。出来ないから困っているんだろ。」


「仕方が無いわね。やっぱり、10匹の神級魔物は無理ね。全て、初撃で倒すとか無理よ。後は慶之に頼むしかないわね。」

 黒の冒険者は、紫の冒険者の名を静香と呼んでいた。

 その静香という名の冒険者が、別の冒険者の名を口にしていた。


「弟子に頼るのは悔しいけど、これ以上被害がでるのはまずいね。」

 そして、桜花と呼ばれた冒険者も同意している。

 相当の刀術の力量を持った桜花という冒険者、そして相当の魔力量と強力な魔弾銃と魔弾砲を持った聖香という冒険者。

 その2人を上回る冒険者とは、どんな人物なのか。

 今まで絶望しかなかった状況から、光明の光が見えて来た。期待に胸を膨らませていると、緑の外套を着た冒険者が姿を現した。

 (・・・あれは、さっき姉上が探していた冒険者か?)


「桜花、静香。もう、良いのか。2人が神級魔物は任せろと言うから、黙って見てたけど。俺が神級魔物を倒しても良いのか。」

 緑の冒険者の声は男だった。今まで3人が女だったので、4人目も女と勝手に思ってしまっていた。

 緑の冒険者の男はこちらに気づくと、フードを前に引っ張って深く被り直した。顔は見せたくないようだ、あの冒険者は素性を隠したいのだろう。

 

 後ろを振り向くと、姉上がその外套の冒険者を見つめていた。

 ジッと、視線が緑の冒険者に釘付けになっている。

「どうしたんですか、姉上。」

 あまりに真剣な表情で固まっているので、思わず声を掛けると。


「えっ、な、何でもないわ。あの緑の外套を着た冒険者が、さっき鬼餓狼から私を助けてくれたのよ。それで、気になっているだけよ。」

 少し慌てた素振りで、姉上は自分の世界からこっちに戻ってきた。

 それにしても、あの冒険者も王級魔物の鬼餓狼を倒す力があるなら、さっきの3人と同等以上の力を持っているのは間違いなさそうだ。

(ただ、姉上が、やはり変だ・・・、助けてもらったのは分かるが、表情が真剣過ぎる。いつも軍を指揮する姉上ならば、誰かに助けてもらったくらいで、このような表情はしない。それに何だか、姉上の顔が赤い。熱でもあるのか、それとも緊張を強いられて熱でも出たか。)


 私が姉上の心配をしていると、緑の冒険者が動いていた。

 桜花という冒険者と同じくらいの速度で動いた。

 普通の人が見たら、目で見えない速さだ。あの速さは『神速』魔法だろう。やはり、桜花という冒険者と同程度の実力があると見て良さそうだ。

 そのまま結界を張った王虎に向かって、刀を振るおうとしている。

 (神級魔物の《物理》結界に挑むとは、学習効果がないのか。)

 さっき、2人の冒険者の仲間が、《物理》結界に攻撃を弾かれたばかりだ。

 少し、期待が裏切られた気がした。

 ――ガチャン

 砕けると音がすると、王虎の張っていた結界が砕けた。

(そんな・・・馬鹿な。神級魔物の《物理》結界が砕けるだと・・・。)

 目の前で起きた出来事に、「そんな事があるのか・・・。」と私は体が震えた。

 緑の冒険者は、虹色の魔力色に覆われた刀で結界を砕くと、そのまま王虎の首を斬り落としていた。

 一瞬だ。ただの一刀で、何人もの神級魔力の騎士でも倒せない神級魔物の首を落としたのだ。

 何事も無かったように、地面に落ちた王虎の首を拾い上げて鞄の中にしまい込んだ。まるで、木から林檎を落とす様に、簡単に魔物の首を落としてしまった。そして、地面に落ちた林檎を拾うように、神級魔物の王虎の首を拾い上げた。

 まるで、夢でも見ているようだった。


 だが、これは夢ではない。

 今の一刀で空気が変わった。

 現に神級魔物たちから猛烈な殺気と魔力を感じる。

「グルルルル・・・」「ガアウ、ガアウ・・・」「キィ、キィ、キィ・・」・・・・。

 王虎の結界が砕かれ、王虎の首が落ちると、神級魔物たちが唸り声を上げた。

 獅子王を除く8匹の神級魔物が一斉に動き出した。

「まずいな、神級魔物が本気になった。いくら、《物理》結界を砕く力があっても、一人で8匹の神級魔物の相手は無謀だ。命がいくらあって足りやしない。」


「紫雲、あの人を、助けに行くわ。」

 姉上は真剣な表情で、剣を拾った。

 切り落とされた自分の右手が握ったままになっている剣だ。

 姉上は、剣から右手を剥がして投げ捨てた。

 そして、新たに生えた右手で剣を握り直す。

 なんともシュールな光景だが、そんな事は無視して、私は姉上の腕を掴んだ。


「姉上、お止めください。相手は神級魔物8匹。それが一斉に襲い掛かってきているのです。姉上があの場に行っても、邪魔になるだけです。いくら何でも、あの冒険者も逃げるでしょう。さっき《神速》魔法を使っていましたから、十分逃げられる力は持っています。きっと、大丈夫です。」


「本当に、大丈夫なの。」

 いつもの姉と少し違う。

 将軍や姉の顔ではなく、なんというか・・・どう表現して良いか分からないが、いつもと違う。将軍でも、姉でもない、なんというか女性らしさを感じる雰囲気だ。


 そんなことは、今はどうでも良い。とにかく姉を止めなければならない。

「大丈夫かどうかは分かりませんが、姉上が今あの場に行けば、あの冒険者が無事に撤退できる確率が小さくなるのは確かです。姉上を守る必要が発生ますから。あの冒険者にとって重荷です。」


「そうですか、私が重荷ですか・・・。それでは、止めます。そんなに弱かあったのですね。私は・・・ずっと、あの方の為に、力を求めてきたのですが。」


「姉上、何をいっているか分かりませんが、とにかく、あの冒険者の戦いをここで静観しましょう。そして、あの冒険者が逃げたら、私たちも撤退します。」


 8匹の魔物の中から、狼の魔物の天狼、熊の魔物の天熊と犀の魔物の犀王の3匹が緑の冒険者に向けて突進する。

 天狼も、天熊も、そして犀王も4本の足で地面を蹴って力強く走る。

 その後ろから、2足歩行の鬼の大鬼(オーガ)と牛の牛魔王に猿の猿鬼、それに蜥蜴の闇蜥蜴の4匹、最後に体の大きい百足王が続いた。

 この攻撃は冒険者にとってキツイ。一匹ごとの個別撃破ならまだ戦いようがあるが、3匹と、4匹、最後の1匹と3回に分かれているとはいえ、8匹の魔物が一斉攻撃に近い。


 もし、自分が8匹の神級魔物の攻撃を受けるのなら、一旦撤退するのが良策だ。

 無理に受けるより、撤退しながら魔物の足並みを崩す。

 そして、足並みが崩れた所で一匹ごと倒すのが最善の策だ。

 ただし、一匹を倒すのに時間が掛かれば、結局は他の魔物に追いつかれて足並みが揃ってしまう。あの魔物たちを倒すのであれば、魔物の足並みを崩しながら、そして短時間で魔物と倒すという厳しい条件をクリアしなければならない。

 下級魔物相手なら可能化もしれないが、神級魔物を相手にとても無理fだ。

 

 どう動くか見ていると。

 冒険者は姿を消した・・・。

(目で追えない速さの《神速》魔法で後ろに下がったか・・・いや、神級魔力の私が冒険者の動きを見失うわけが無い。すると、やはり消えた・・・。《瞬歩》か。)

 早く動くのと、消えるのでは魔法の種類が違うし、対処も違う。

 早く動くのは、時間魔法の《神速》魔法。相手の速度に反応するしかない。

 消えたなら、空間魔法の《瞬歩》魔法と考えるのが妥当だ。この場合は、相手の目線で移動先を予測して対処する。《瞬歩》は見た場所に移転するからだ。

 今回の場合は、きっと、《瞬歩》で移動したに違いない。

 どこに逃げたか、周りを探ると、移転先は天狼の頭の上だった。

 移転が完了した瞬間に、刀で天狼の首を斬り落とした。

 空中から現れて地面に落下する勢いを利用して、天狼の首を斬って殺した。

 上手く着地すると、すぐ横の犀王に刀を振り上げる。


 犀王は突然、横を走っていた天狼の首が落ちるのを見ると、咄嗟に《皮の結界》を展開した。魔力を硬い皮に流し込むと、普通に硬い犀王の皮がアダマンタイトの希少鉱物を超える硬さになる。

 この《皮の結界》は皮の硬さが、どんなモノでも絶対貫けない硬さになる。

 犀王が《皮の結界》を張ったら無敵だ。どんな武器でも貫く事はできない。

 だが、緑の冒険者はそんな常識を無視して、地面すれすれの下から《皮の結界》に向けて刀を振り上げた。

 ――スパッ。

 アダマンタイトより硬いはずの犀王の《皮の結界》が見事に切断された。

 割れたでも、砕けたでもなく、皮が綺麗に鋭利な刀によって斬られたのだ。

 犀王の足の膝辺りから、腰に掛けて真っ二つに斬られた。

 《皮の結界》を発動した状態の皮に、敵の武器が通るとは思っていない。何が起きたか分からず、無表情のまま上半身ごと地面に崩れ落ちた。

 辺り一面に緑の血が飛び散っている。


 そして、最後の天熊は、横で犀王が崩れると、直ぐに皮の結界を張った。

 それと同時に、冒険者に向けて、大きな爪で襲い掛かった。

 緑の冒険者の頭上に、天熊の大きな爪が振り下ろされる。と思ったが。その前に爪ごと天熊の腕が斬り落とされていた。

 天熊の爪の攻撃は片腕だけでなかった。斬り落とされた反対側の腕の爪も襲ってきた。だが、冒険者は上手くその爪を避けて、避ける瞬間、片方の腕も斬り落としていた。

 天熊の両腕から緑の血が溢れだしていた。

 さすがの天熊も両腕を失っては次の戦闘には入れない。失って手を見て混乱している処を冒険者が首を落とした。

 あっという間に、3匹の神級魔物が倒され地面に横たわっていた。

 (あの緑の冒険者は強い。引くと思ったが、引かずに前に攻めた。倒せる算段があったからだ・・・強すぎる。冒険者の仲間の神級魔力の2人も強かった。たぶん、私では、あの2人の冒険者にも刃が立たない。だが、緑の冒険者はもっと強い。)

 気づくと、一人で神級魔物を4匹も倒していた。

 (何者なんだ・・・あの冒険者は。)

 そんな冒険者・・・人間は聞いた事も無い。近い教団の魔導士なら40年前に居たと聞いた事があるが、その魔導士に匹敵するのではなかろうか。


 私が緑の冒険者の戦いぶりに驚いていると、緑の冒険者は一旦、残りの魔物と《瞬歩》を使って距離を取っていた。

 次は、どんな攻撃をする期待していると、再び《瞬歩》で大鬼の背中に現れると、振りかざした刀でそのまま大鬼(オーガ)の首を落とした。

 大鬼(オーガ)の首が地面につく音がする前に、冒険者は牛魔王の後ろに《瞬歩》で移動している。背後に現れた瞬間、刀を横に薙(な)いで牛魔王の首を落としていた。

 ボトン・・・・・・ボトン。

 大鬼(オーガ)の首が地面に落ちて、すぐに牛魔王の首も地面に落ちた。

 あの速さは《神速》魔法を使っている。

 《神速》魔法を使いながら、《瞬歩》模倣も使って、速度で圧倒する攻撃だ。神級魔物の皮を斬り裂く威力は《身体強化》魔法も使っているかも知れない。

 3つの魔法を同時展開している。

(本当に、何者なんだ。あれは人間離れした力だ。)

 8匹を同時に相手にするのは無理だと思っていたが、《神速》それに《瞬歩》《身体強化》の合計3つの魔法と、神級魔物の結界を軽々砕く虹色の魔力色をまとうあの刀。気づくと、8匹の神級魔物は倒されていた。

 残りの神級魔物も獅子王が一体だけであった。


 獅子王も、内容は分からないが、結界を張っているの間違いない。

 周りを赤い魔力色の結界が覆っているように見える。

 10匹いた魔物の中で、この獅子王が群れの首領であろう。それだけ強い魔物であるという事は、結界も相当の力を持っているはずだ。


「気をつけて、慶之。獅子王の結界は《絶対領域》よ。」

 静香という冒険者が緑の冒険者に向かって叫んだ。

 (《絶対領域》・・・聞いた事がない結界だ。それに、先ほども呼んでいたが、あの緑の冒険者の名は慶之というらしい。似たような名を聞いたことがある。)

 自分が知っている人物と同一人物か確認しようとするが、フードが深すぎて顔が見えない。


 冒険者の方が、先に動いた。

《神速》魔法を使って、目で見えない速さで獅子王に近づいた。

 神級魔力を持った私の目なら彼の動きは追える。

 彼は、虹色の魔力色を帯びた剣を持って、獅子王の結界に近づいた。

 そして、何の抵抗もなく、赤く光る獅子王の結界の中に入って行った。

 本当に、何の抵抗も受けることなく、結界を破ったようだ。あんな脆(もろ)い結界が、結界の役割を果たしているのかと疑うくらいの脆さだ。


(・・・!?なにか、おかしい。)

 冒険者の動きが、急に遅くなった。

 あの動きは普通の人と同じ速さではないか。それだけじゃない。今まで、虹色に光っていた刀から光が消えている。

 冒険者は立ち止まると、今来た道を戻り始めた。

(なにが起こったんだ、急に)

 すると、今度は獅子王が動き始めた。冒険者に向かって走り出す。

 今まで9匹の神級魔物を屠(ほふ)って、圧倒的な強さを見せていた冒険者が魔物に追われて逃げている。

 いったい何が起きた・・・、今までと立場が逆転している。

 考えられるのは、あの結界だが。


「私が助けに行くわ。」

 後ろで見ていた姉上が、冒険者が逃げる姿を心配そうに見つけている。

 剣を持って、獅子王に向かって走り始めようとした。

「姉上、無駄です。私たちが神級魔物の獅子王を相手になどできません。行っても、ただの邪魔にしかなりません。」

 私は慌てて、姉を追い駆けると腕を掴んで行くのを止めた。

「でも、あの人が・・・、子雲がまた、私の前からいなくなってしまう。」

 目が真っ赤になって、涙も流している。

 そして、何かに憑りつかれたように目が血走っている。いつもの姉として余裕を持って理知的に私を導いてくれる姉とは別人だ。

(あの冒険者が、姉上の・・・あの楊慶之なのか。いや、楊慶之は死んだはず。父上が、そう言っていた。もしや、生きていたのか。でも、楊慶之は魔力が無いはず。あの冒険者は私より力を持った魔力を放っている。やはり違うはず。なのに、姉上がこうも取り乱すとは、やはり本物か。)

 姉上の言葉に私も戸惑ったが、とにかく今は姉上が向かうのを止めるのが先決だ。

「姉上、しっかりしてください。」

 やっとの思いで、姉が進むのを止めた。


 再び、冒険者と獅子王の戦いに目を向けると。

 静香と呼ばれていた冒険者が、逃げる冒険者を援護する為か、獅子王に向かって魔弾砲を放っていた。

 だが、砲弾は、獅子王の赤色の結界に触れると消えてしまった。

 黒の桜花と呼ばれた冒険者も、仲間の冒険者が逃げるのを援護する為に、獅子王に向かって目に負えない速さで向かって行く。

 だが、先ほどの冒険者と同じように獅子王の結界の領域に入ると、《神速》の魔法は解けてしまったのか、動きが普通の人間の物になった。


「あの獅子王の結界は、魔力を消滅させるではないでしょうか。」

 さっき、砲弾が結界に触れると消滅してしまった。

 あの結界の領域に入ると、《神速》魔法も消えてしまっている。

 慶之と呼ばれた冒険者の刀から、魔力色も消えた。

 これらの3つ現象から考えられるのは、魔力が消滅したという事だ。

 獅子王の結界は、魔力を消滅させる結界としか考えられない。


「紫雲、そんな結界があるのですか。」


「いえ、私も知りません。ですが、今までの戦いを見ているとそうしか考えられません。」


「でも、なぜ、子雲が魔力を使って戦っているのでしょうか?あの人は魔力が無かったはずですが。」

 姉上は、あの緑の冒険者が元婚約者の楊慶之だと思っているようだ。

 仲間は、『慶之』と呼んでいたので気にはなっていたが、楊慶之は死んだと聞かされている。こんな所にいるはずが無い。


「姉上、楊慶之殿は【楊都】の籠城戦で死にました。父上がそう言ったではありませんか。それを姉上は、あの冒険者が、姉上の許嫁の楊慶之殿と言われるのですか。」


「紫雲、私があの人を間違えると思っているのですか?」


(・・・姉上は完璧な人だが、昔から、《あの人》が絡むと狂気じみた動きを見せた。確かに、姉上があの人を間違えるはずはないのだが・・・。)

 そう、姉上は頭も良く、努力家で、皆に優しい。理想の女性だ。

 ただ、唯一の欠点は《あの人》・・・楊慶之が絡むと、怖いぐらいに人が変わるのだ。楊慶之が絡むと、視界が一気に狭まるのである。

「いえ、確かに姉上が間違えるはずはありません。失言でした。ですが、楊慶之殿が魔力を持っているのは確かです。それも、私をも上回る強力な魔力です。」


「そうですか、《あの人》に魔力が発現したのですか。それは良い事です。きっと、あの人の努力が報われたに違いありません。ですが、なぜ、美麗があの人と一緒にいるのでしょうか。他にも2人も女性の冒険者も一緒にいるようですが。」


「姉上、今はそれよりも、慶之殿が苦戦をしているのです。魔力を封じられたら、どんなに強い騎士でも、神級魔物相手では相手になりません。」


「そ、そうでした。それで、どうすれば良いのでしょうか。」

 姉はオロオロし始めた。魔力が使えないのであれば、我々でも歯が立たない事を説明して、なんとか姉をこの場に踏みとどまらせた。


「今は、戦況を見守りましょう。きっと、慶之殿は撤退を選ぶはず。結界の外では魔力が普通に使えるはずですから、結界の外に出てしまえば良いのです。私たちも、そのタイミングでこの場から逃げましょう。」

 とにかく、魔力が使えないのであれば、ここは一旦撤退だ。姉上にそう言うと視線を戦場に移した。


 慶之殿は既に獅子王の結界を出ていた。

 獅子王は、桜花と呼ばれた冒険者を追っている。桜花は相当の武人のようで、魔法が使えなくても、自身の身体能力だけで獅子王の攻撃を避けていた。だが、桜花殿からの攻撃は無理の様で、逃げ回るだけだ。

 だが、ここで桜花殿が稼いでいる時間は大きい。

 慶之殿が結界の外に出る時間が稼げた。これで撤退は可能なはずだ。一旦、態勢を立て直すのでが、この局面では一番妥当な戦略だろう。


 だが、慶之殿は、獅子王の結界の外に出ても逃げなかった。逃げずに、何やら虹色に光る結界を展開し始めた。

「虹色に光る結界?・・・《物理》結界か、何か。だが、物理結界では、獅子王の魔力を消滅させる結界に勝てない。魔力を消滅させられたら、結界も消滅してしまう。今は、物理結界を展開するより、一旦引いて態勢を立て直すべきだ。」

 慶之殿は無謀にも《物理》結界を展開した。

 そして、そのまま獅子王の結界に向かって行く。

 このまま、結界同士が衝突すれば、《物理》結界が、魔力を無効化する《絶対領域》によって消滅されるのは明らかだ。いくら慶之殿の魔力が強くても、魔力が消滅してしまったら意味が無い。

 私の心配が慶之殿に伝わる事はなく、いつの間にか戦いは進んでる。

 赤の結界と、虹色の結界。

 2つの結界同士が衝突しようとしていた。

 このまま衝突すれば、《物理》結界が浸食されるのは明らかだが、だが、今の私には何もできない。ただ、見ているしかなかった。


「・・・・・・。」

 私と姉上が息を飲んで戦いを見守っていると。

 思った通り、片方の結界が浸食されていく。

 だが、予想に反して、浸食された結界は。

 赤の結界だった。

 獅子王が自分の結界が浸食されているのを見て、後ろに下がり始めた。

 慶之殿は、構わず虹色の結界を展開したまま前進する。

「ガウゥ」

 焦りが見えたのか、獅子王が口を開くと、咆哮と一緒に炎を吐きだした。

 獅子の形をした炎が咆哮と交わり、《炎の咆哮》として炎を大きくなりながら、慶之殿に向かって放たれた。

 大きな《炎の咆哮》が虹色の結界に触れる。


 すると、《炎の咆哮》がいきなり消えた。消滅して炎が姿を消してしまった。

 「な、何が起きたんだ。・・・これは。」

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 獅子王は、その後も、何度も《炎の咆哮》を吐き出して慶之殿を攻撃するが、その全ての咆哮が、虹色の結界に接触すると消えてしまった。

 まるで、虹色の光の獅子王の《絶対領域》の結界を見ているようだ。

 獅子王は自分の結界が消滅していき、《炎の咆哮》も効かないのが分かると、後退する速度を速めていく。


(獅子王は逃げるつもりか。)

 私がそう思うほぼ同じタイミングで、慶之殿も動いた。

 虹色に輝く結界を展開したまま、《神速》魔法で獅子王に近づいた。

 ――ボトン。

 気づくと、獅子王の首が墜ちていた。


 慶之殿が獅子王を倒した。

「それにしても、慶之殿の虹色に光る結界は、獅子王の結界と同じ効果を持っていた。そう、魔力を無効化する結界だった。なぜ、慶之殿が獅子王と同じ結界の魔法を使えたんだ?」

 獅子王と同じ結界魔法を発動して、獅子王のの結界を消滅させてしまった。

 本当にそんな事ができるのか。

 魔法は本来、魔力に目覚めた時や、魔力階級が昇華した時に与えられるモノ。人や魔物が使っている魔法を自分のモノにできるはずが無い。

 さっぱり私には分らなかった。

 ただ、明らかなのは、これで私たちは《火の迷宮》の大瀑布から救われたということだ。

 私たちだけではない。

 趙家領が。いや長南江以南。そして、この大陳国が。

 10匹の神級魔物に、多くの人が殺される未来から救われたのだ

 やはり、この4人が【智陽】の人々を大瀑布から救った冒険者に違いない。

 趙伯爵家は2度もこの人たちに救われた。


 (礼を言わなければならない。)

 私は、獅子王の魔石と素材を拾っている慶之殿へと歩いて行こうとすると。

 そこには、すでに姉上が立っていた。

「子雲・・・・」

 姉上は、緑の外套を着た慶之殿に向かって。

 ささやくような小さな声で、その名を呼んでいた。


 * * *


「ああああああああ!な、なんでこんな事になるのよ。獅子王までやられるなんて予想外だわ。虹の王は、まだ覚醒していないはず。それどころか、力に目覚めたばかりじゃない。それなのに、簡単に獅子王の《絶対領域》の魔法を盗んで、自分のモノにするなんて、本当に訳が分からないわ。」

 黒姫は唇を嚙んでいた。

 正直、虹の王を甘く見ていた。

 千年前の虹の王は、力に目覚めたばかりの時は、力を使いこなせていなかった。

 だから、今の虹の王も同じと思っていた。それが、虹色魔石がこの世界に墜ちて1年も経たないのに、あの力を使いこなしているとは想定外だった。

 あの力とは、魔物の《魔法を盗む力》。

 それは、魔物の魔法陣を頭の中に転写して、自分の魔法に変える力だ。

 虹の王が、あの力を使えると知っていたら、神級魔物10匹をぶつけたのは悪手だった。魔法を使う魔物と戦えば戦うほど、虹の王も強くなっていくからだ。

 だが、虹の王が迷宮に潜るのであれば、いつかは衝突する。結果は同じだったかもしれない。

 「それにしても、『黒鴉』たちはなぜ、虹の王が《火の迷宮》に近づいたのに報告しなかったのかしら。全く、神級魔物も、『黒鴉』たちも使えないわ。」

 神級魔物を虹の王にぶつけたのは、虹の王を潰させるつもりなのだが、せめて、虹色魔石を《火の迷宮》から持ち出す為の時間稼ぎの為でもあった。

 迷宮の主が、虹色魔石を離さないのだ。

 迷宮の主は、千年前から復活した火の属性の主。魔の七龍の一匹だ。

 七龍は私たち、魔王と同等に扱われているので、私の言う事など聞きやしない。

 だが、虹色魔石だけは、虹の王に渡すわけにはいかない。なんとか、迷宮の主を説得して、この迷宮から虹色魔石を持ち出して隠してしまおうと思っていた。

 そうすれば、仮に迷宮の主が虹の王に敗北しても魔石を失う事は無い。


「本当に、『黒鴉』たちは何をしていたのかしら・・・。」

 今に至っても、何の連絡もない。


「まさか、『黒鴉』が虹の王に潰された!?私が時間をかけて育ててきた獣人族の間者の『黒鴉』が・・・。いや、そんなはずは無い。あの娘には、見つかったら逃げろと言っておいたわ。」

 だが、間者の『黒鴉』から今まで何も連絡がないのは有り得ない。死んでも任務を全うするように育ててきたのは、私自身だ。

 そもそも、私には魔人族の部下はたくさんいるが、聖大陸で動くには魔人族は目立ちすぎる。魔神様の復活に備え、聖大陸で動ける部下が必要だった。

 そこで、他の部族を部下にする事にした。

 魔物は、《魔物使役》の魔王スキルで使役は出来るが、魔魂を消費するし、頭が悪いので部下としては使えない。

 私が目を付けたのは獣人族であった。

 そこで、私は獣人族が住む獣大陸に出向き、強そうな獣人族を捕まえて部下にした。決してモフモフを堪能したかったわけではない。

 

 私は獣人族を部下にすると、この獣人族を間者に育てる事にした。

 聖大陸で魔神様の復活の為に動くには情報が必要だ。

 そこで、私の目や耳となって情報を集める間者を作る事にしたのだ。

 だが、獣人族を間者にするのは一つ問題がった。

 身体能力が優秀なのだが、なにせ頭が弱い。

 それで時間をかけ、獣人族どもに忠誠心と間者としての知識、能力、感性を与え、間者として鍛えた。

 相当の月日をかけて、少しずつ獣人族の間者を増やしてきた。

 既に間者としての能力は、この大陸でも5本指に入るほどに育っていた。

 

(許さないわ。虹の王。私のモフモフを・・・じゃない、大事な手駒の間者を。)

 ここまで大事に育ててきた私の獣人族の間者を半数近く潰しやがった。

 優秀な間者は中々育たない。

 それを一気に30人も潰されたのは正直痛い。

 だが、今は間者の復讐は後回しだ。

 とにかく、火の迷宮の主は頭が固い。

 虹色魔石を私に託すことは無いだろう。

 それえであれば、《火の迷宮》で虹の王を潰すか。

 でも、潰せる戦力があるのか・・・。

 とにかく、神級魔物が一匹ごと、虹の王に個別撃破されるのは避けねばならない。

 虹の王の力が、どこまであるのかも測りかねる。

《火の迷宮》でどうやって迎え撃つか。

 頭が痛い。

 とにかく、虹色魔石だけは守らないと。私は確固たる決意で《火の迷宮》の扉をくぐるのであった。

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