第12話 藍公明

 「それにしても、桜花もやるわね。神級魔物を倒すなんて。」

 静香は、桜花が神級魔物を倒したことを素直に褒めていた。

 その桜花は俺の膝の上で横になって意識を失っている。猿鬼を倒すと、そのまま意識を失って倒れるところを俺が支えた。体中が傷だらけだったので、また治癒魔法で俺が治療をしている。特に左右の太ももは立ち上がれないくらいの傷だった。


「それで、慶之、桜花の魔力レベルはどれくらい上がったのよ。あなたの『認識』魔法なら、桜花の能力値も分かるんでしょ。」


【桜花の能力値】

武力レベル 925(上昇+5)

知力レベル 220

魅力レベル 420

魔力レベル 835(上昇+15)


 「そうだな、桜花の魔力レベルは15も上がっているな。神級魔物を倒したのが大きいんじゃないか。」

 魔力レベルが800台になると、レベルも上がり辛くなる。特級魔物を倒したくらいじゃレベルは上がらない。強い魔物を倒さないと能力レベルを上げる経験値は上がらなかった。


 「ふ~ん、そう、この【智陽】の戦いだけで15も上がったんだ・・・良いわね。それで私は、私はどう。王級魔物の魔犀鬼を一匹、倒したのよ。少しは上がっているハズなんだけど・・・どうかな?」

 期待を込めた表情で俺に尋ねて来た。

 

「ああ、良いよ。今見るから少し待ってくれ・・・・。」


【静香の能力値】

武力レベル 120(上昇+10)

知力レベル 890

魅力レベル 915

魔力レベル 840(上昇+10)


 「・・・静香もけっこう経験値を稼いでいるぞ。魔力能力は上がっている。今回の戦いで魔力レベル10は上がっているな。」


「微妙ね。10も上がって悪くはないんだけど・・・まぁそんな所よね~。桜花は神級魔物を倒したんだから、負けは仕方がないわね。私も神級魔物を倒せば、もっと経験値が稼げるんだけどな~。魔力レベルの数値が800台に入ってからは特級階級の魔物ぐらいじゃ、ぜんぜん上がらなくなっちゃったのよね。」

 静香が悔しがっていると、美麗が面白そうに聞いてきた。


 「慶之殿、慶之殿。私の能力値はどうでしょうか。能力値など測ってもらったことないんですが。槍が壊れるので、今までは魔物と戦うのは避けていましたし。でも今回、この槍のおかげでけっこうな数の特級や将級の魔物を倒しましたわ。特に魔牛獣なんか、美味しそう・・・じゃなくて、魔石を獲る為に頑張りましたのよ。」


 「それじゃ、美麗の能力値も見るよ・・・・」


【美麗の能力値】

魔力階級  王級

武力レベル 860(上昇+10)

知力レベル 580

魅力レベル 630

魔力レベル 660(上昇+10)


 「そうだな、美麗の魔力の能力値も10上がっているよ。将級魔物と特級魔物だけを倒してレベルが10上がれば上出来だ。まだ、レベル600台だからレベルの上がりも良いぞ。後レベル40で神級魔力になれるな。『火の迷宮』に潜ってもっと経験値を積めば、昇華も十分あるな。」

 王級魔力と神級魔力では周りの感じ方が全然違う。神級が近づいていると聞いて、嬉しそうな表情をしている。だが、実際は、神級魔力の中でもレベル差が300もあるので、同じ神級魔力でも、魔力の強さは全然違う。

 それに、武力も10上がるのは大きい。今まで武器を気にして戦えなかったのが、今回の戦いで思う存分戦えたので、武力も上がったのだろう。


 「えええ、神級魔力への昇華ですか・・・今まで考えてもいなかったですわ。昇格なんて私には無縁と思っていましたから。これも、この槍のおかげです。頑張って、『火の迷宮』で昇華を目指しますわ。」

 美麗は自分の能力値を聞いてやる気をだしていた。


 「それにしても、なんで桜花が慶之の膝の上で幸せそうに寝ているのよ。なんか、羨まし・・・じゃなくて、早くここを出発しないと面倒になるわよ。」

 俺の膝の上で寝ているのに、嬉しそうな表情で治療を受けている桜花を見て、静香が文句を言い始めた。


 「これは治療中だからな、仕方が無いな。それより、何が面倒になるんだ。」


 「ちょっと、なにか嫌な予感がしているのよ。・・・だって、おかしいでしょ。あんなにたくさんの魔物が襲ってきたのに、城門が中から開くとか。あり得ないわ。それに、慶之が倒した猿鬼が言っていた言葉よ。」


 「そう言えば、魔物が獣魔王と名乗っていた者の命令で大瀑布を起こしたと言っていたな。本当か、眉唾物だけど。」

 魔物を思うように操れるというのが、信じられない。そんな力があれば、簡単に一つの国が滅ぼすことも可能だ。


 「そうよ、この大瀑布は獣魔王の命令で引き起こしたと言っていたわ。きっと西門を開けたのも獣魔王が絡んでいるわ。何の為に、この【智陽】を魔物たちに襲わせたか分からないけど、嫌な感じがするのよね。だって、私たちは獣魔王が【智陽】を壊滅させるのを邪魔したわけでしょ。逆恨みしてくるんじゃないのかしら。」


 「確かに、その可能性があるな。でも、魔王って、魔人族の王なんだろう。この国に攻めてくるつもりなのか、魔人族が。」


 「それは無理でしょ、できるなら、もうやっているわよ。きっと魔神が復活するまで魔神はこの大陸に攻めてこれないんじゃないかしら。今まで、魔神とか、予言とか眉唾物で信じていなかったけど、なんだか、繋げっている気がするのよね。とにかく、ここからは早く離れた方が良いわ。・・・・それと・・・そろそろ良いかな。はい、はい。桜花も狸寝入りは終わりにして起きて頂戴。」

 静香がパンパンと手を叩くと。

 俺の膝で寝ていた桜花が、むくっと目を開いた。


 「な~んだ。気付いていたのか。もうちょっと、子雲の膝で休んでいたかったけど。たまには、怪我をするのも良いよね。」

 体を起こすと、桜花は悪びれずに残念がった。


 「桜花、あんたね~。全く、猿鬼ごときにやられて、2回も治療を受けるなんて情けないわよ。あんた慶之の治療を受けようと思ってワザと負傷したんじゃないの。」

 静香は、なんだか不機嫌そうに桜花を挑発した。


 「・・・まぁ、そうだね。子雲の治療はすごく良かったから。子雲の魔力を浴びると、暖かくて、なんだか幸せな気分になるんだよね。まぁ、これは治療を受けていない静香に分からないけど。また、猿鬼と戦って治療してもらおうかな~。」

 いつもの凛々しい桜花と雰囲気がなんだか違う。

 一体、どうしたんだと慶之が思うほど、桜花は浮かれている感じだった。


 静香の顔は引き攣っている。

 「桜花、あんたね・・・。なに、ダレているのよ。次、あなたが怪我をしたら、私の治癒魔法で治療をするわ。そう、桜花だけでなくて、このパーティーの仲間が怪我をしたら、最高の治癒魔法の使い手である私が治療するわ。いいわね。」

 幸せそうな桜花を見て、悔しそうに静香がそう宣言した。


 「なにそれ・・・それは静香の横暴でしょ。まぁ、私は二度とこんな怪我はしないから、静香の治療を受ける事は無いと思うわ。それい、子雲に甘えたのは冗談よ、冗談。でも、子雲の治癒魔法は本当に良かったけどね。」

 桜花は嬉しそうに立ち上がった。


 「まぁ、そろそろ良いかな・・・。桜花も目を覚ましたし、魔石も素材も回収した。とにかく、この【智陽】を出よう。」

 俺が、皆に声をかけた。


* * *


 桜花が膝からいなくなったので、俺は立ち上がった。

 「待ってくださーい。」

 すると、誰かが呼ぶ声がした。

 仲間に緊張が走った。獣魔王の配下だと警戒したのだ。

 声の主に視線を向けると、静香が男の正体に気がついた。

 「あっ、さっくの食堂にいた旅人じゃない。私たちを呼んでいる男は、食堂でチンピラに絡まれていた男よ。・・・もしかして、あの男が、この騒ぎの黒幕?」

 静香は手で廂(ひさし)を作って、こちらに向かって来る男を見てつぶやいた。


 俺達の所まで走ってきた男が、俺たちの間合いに入ると、桜花は刀の柄に手をかけ、美麗は魔槍に手をかけた。2人とも男が変な仕草をしたら、直ぐにでも止(とど)めをさせるように身構えている。


 「ハァ、ハァ、ハァ、す・・・、すみません。待ってください。」

 男は息を切らしながら肩で呼吸をしている。

 「わ、私を仲間に・・・いえ、そちらの緑の外套の方の家臣にしてください。」

 男は慶之の前で膝をついた。そして、右手の拳(こぶし)を左の掌(てのひら)で覆って、両手を高く上げる。

 これは、家臣が主君に行う臣下の礼だ。


 周りの仲間は何が起きているのか理解できなかった。

 静香は疑わしい者を見るような目で男を観察する。

 「はぁぁぁぁ、あなた何を言っているのかな?私たちは冒険者よ。あなたは見るからに、神官・・・それとも、文官じゃないかしら。どう見ても、冒険者の仲間には見えないんだけど。仲間になる相手を間違えているんじゃないの。」


 「いえ、間違えていません。私は真剣です。そこの緑の外套を被った方の臣下になる為に、ずっと旅を続けてきました。」

 男は跪いたまま、慶之を見上げて真剣な瞳で訴えた。


 「はぁ・・・・・?」

 静香は『どうすうるの?あなたが何とかしなさい』といった表情で訴える。

 とにかく、この男は怪しい。

 西門を開けた獣魔王の手の者の可能性も高いし、もしかしたら、蔡家や雷家の手の者かもしれない。

 かっこうも静香の言う通り不自然だし、タイミングも怪しい。何者か分からない以上、ここは丁重にお断りするのがリーダーとして正しい判断だ。

 「悪いが、仲間にして欲しいという願いは断らせてもらう。」

 有能な人材を探しているが、敵かもしれない怪しい男を仲間にするつもりは無い。


 「待ってください。私が怪しい人物かどうかを疑っているのではないでしょうか。私は自分で言うのもおかしいですが、怪しい者ではありません。」


 静香が呆れた顔で口を挟んできた。

 「あなたね・・・、『自分で言うのもおかしいですが、怪しい者ではありません』と聞いて、そうね、あなたは疑わしくないわねと思う人はいないわよ。まずは、素性を名乗りなさい。素性を。そうでないと判断がつかないわ。」


 「失礼しました。聖王女様の言う通りです。さすがは、大聖国の元女王様。私は七光聖教の『藍一門』で、藍公明と申します。虹色魔力を持つ方の家臣になる為に、聖陸中を周っていた者です。そして、やっと主君となる主を見つけたのです。」

 七光聖教と聞いて、慶之は別の意味で警戒した。

 修行の旅に出る前に、姜馬から『始祖の予言』の話や教団を虹色魔力を使う者を仲間にしようとするから気をつけろと言われている。

 更に、静香はよっぽど教団が嫌いなのか、道中で教団の悪事ばかり聞かされていたので、教団についてだいたい知っていた。


 それに、俺自身が宗教を警戒している。

 俺は前世で歴史を学んだ。

 中世の宗教は、『カノッサの屈辱』では教皇が俗世の王をあざけ笑い。『十字軍』では、神の名のもとに百年近い聖戦で多くの人を殺した。宗教の権力者たちは自分は安全な場所で、権勢を誇る為に、神の名の元で人を殺し合わせる。

 無宗教の日本に生まれた俺は宗教に対して忌避感を持っていた。

 神を敬うなら勝手に敬ってくれ。これが俺の宗教に対する考えだ。この世界の七光聖教に対しても同じだ。俺に関わらないで、勝手に予言でもなんでもやってくれれば良いと思っている。


 意外にも、教団嫌いの静香が公明のことを関心を持った目でみている。

 「へぇ~、『藍一門』の藍公明ね。ふ~ん。さすがは、教団の情報を司る一門ね。私の素性も分かっているようね。それで、なぜ、慶之が虹色魔力を持っていると分かったのかしら。」

 教団と聞いて、静香は拒否反応を示すと思っていた。


 「はい、たまたま、虎の魔物・・・王虎と緑の外套の御仁が戦うのを目にしました。その時やっと探していた御仁を見つけたのです。私はやっと、虹色魔力を持った覇者に出会う事ができました。荷物運びでも、雑用でもなんでもします。是非、お仲間に、いえ、家臣にしてください。」

 この男・・藍公明と名乗った男は、俺が王虎と戦う所を偶然見ていたらしい。


 「別に荷物持ちには困っていないわ。それに雑用もね。それで、あなたが慶之に接してきた目的は教団の差し金じゃないのかしら。」

 静香は会話の主導権を押さえつつ、知的に話を進めている。いつもの残念さは微塵も感じられない。出来る女王モードの静香だ。


 「いいえ。私は教団の意向で虹色魔力の持ち主である使徒様・・・いえ、慶之様を探していたわけではありません。私個人の主を探しております。」


 「あなたの主ね・・・それが、『藍の一門』で言う覇者って奴なの?」


 「さすがは、聖女王様。我が一門も事をよくご存じです。我が一門の初代の藍聖人が始祖様から賜った言葉、『使徒を覇者たらしめん』を一番の教えとしております。ですので、私は教団の目的に興味はありません。私は、虹色魔力を持つ者を主として、主をこの大陸の覇者にする事が願いでございます。」

 藍公明が慶之の前で跪いたまま、頭を下げた。


 目の前で跪いている藍公明に関心は無かった。

 「・・・藍公明は『大陸制覇』が最終目的というが、俺は関心が無いな。俺にとって重要なのは『復讐』だ。俺は、教団や藍公明の意向に従うつもりはないんだ。他を当たってくれ。」


 「待ってください。私は主に・・・いえ慶之様に『大陸制覇』を強要するつもりはありません。ただ、時代が慶之様を大陸制覇に導くはずです。・・・少し言葉を変えますと、虹色魔石や慶之様がこの世界に現れたように、慶之様には波乱万丈な人生が待っているはず。その中で、私は軍師として主である慶之様の苦難を解決します。それが、最後は覇者の道に繋がるはずです。決して、慶之様の意に沿わない振る舞いは致しません。なにとぞ臣下にしてください。」

 藍公明は、ひたすら頭を下げて自分を臣下にしてくれるように願った。


 慶之が悩んでいると、静香が自分の意見を話した。

 「慶之。この藍公明が蔡辺境伯を倒すのに役立つのは私が保証するわ。私も教団と相当やりあったから知っているけど、『藍の一門』は相当変わっているのよね。知略は当然、優れているけど、教団への忠誠心が薄いのよ。それに、藍公明。この男は使えるわ。『神才』の2つ名を持つ秀才よ。あなたの『認識』魔法で確認してみたら分かるはずだけど。」


 「そうか、静香がそこまで言うなら、『認識』魔法で見て見るが・・・」


【藍公明の能力値】

魔力階級   将級魔力

武力レベル  420

知力レベル  970

魅力レベル  620

魔力レベル  830

称号     神才


 たしかに凄い。知力レベル970は正直驚いた。

 俺も知力レベル940だが。俺の場合は前世の知識が能力値を嵩上げしている。それに神童と呼ばれていた記憶力や計算力という特殊能力もあった。

 公明の場合、前世の知識や特殊能力はなし、それで俺を上回る知力は本物だ。

 『神才』の2つ名や静香が役に立つと言うのも嘘ではなさそうだ。


 「確かに、もの凄い知力だ。正直、想像以上の数値だよ。この数値が軍略に関しての知力であれば、軍師としては相当の力を持つのも頷ける。」

 確かに、この能力ならぜひ欲しい人材だ。


 「光栄です。聖女王。2つ名は大袈裟ですが、主君の覇道を成し遂げる為に、身命を賭す覚悟です。なにとぞ、臣下の末席にお加えください。」

 公明は、再び頭を下げて、臣下の礼を行った。


 「・・・静香、もう一度聞く。本当に後から教団が付いてくるとか何んだな。それに蔡辺境伯もだが・・・、本当に彼を信じて仲間に加えて大丈夫なのか。」

 くれぐれも教団には気をつけろと、姜馬から釘を刺されている。


 「大丈夫よ、慶之。藍公明という人物を信じるかどうか別として、『藍の一門』はちょっと変わっているけど。大丈夫なはず・・・、たぶん、姜馬様もそう言うはずよ。『藍一門』については、大丈夫じゃないかなと。それに、もし教団の紐が藍公明ついているなら、藍公明は教団に報告だけして、それこそ、聖人クラスの幹部が交渉にやってくるわよ。違うかしら、藍公明。」

 なんとなく静香の言葉の最後の歯切れは悪いが、静香が教団の良い面も悪い面も含め一番良く知っている。その静香が言うなら信じるしかない。


 「さすがは。聖女王。もし、私が教団の手の者なら、直ぐに教団に報告します。下手に慶之様に近づきません。慶之様の戦いはこの都市で多くの信者に見られています。ですが信者は誰一人、慶之様に近づきません。なぜなら、教団の指示なしでは動けない程、重要な事なのです。虹色魔力を持つ者との折衝は。」


 「そ、そうか。そんなに重いのか。使徒の存在って。」

 始祖の予言や、教団の使徒に対しての情報は事前に姜馬から聞かされていた。

 教団にとって、使徒が重要な人物であることも知っていたが、公明から話を聞いて、そんなに教団が俺に執着していると知ってちょっと怖くなった。


 「重いです。千年の間、千年の時間をかけて、この時の為に教団は準備をしてきました。そして、始祖の予言成就には、使徒様が不可欠なのです。教団にとっては、予言成就は教団の存在意義です。簡単にあきらめませんよ。」


 「そうなのか・・・。」

 皆の話を聞きながら、俺は公明を仲間にするかどうかを考えていた。

 (公明の知能はハンパない。この男は間違いなく使える。盲点だったが、武力重視で仲間を探していたが軍師も必要だ。いや、復讐の為には軍師の知力こそが必要だである。)

 俺は前世の知識や医学の知力が偏っているし、静香は政治や外交に知力が偏っているので、どんなに知力が高くてもそれでは戦いには役に立たない。


 俺は決めた。

「分かった。藍公明。仲間になって手を貸してくれ。改めて自己紹介する。俺は楊慶之、字は子雲。今は滅んだ楊公爵家の3男坊だ。よろしく頼む。それと、教団の方が脱退しておいてくれ。俺たちは教団と組む気はない。」

 右手を公明に差し出した。


 公明は跪いた姿勢から立ち上がって、俺の右手を掴んだ。

 そして、嬉しそうに笑うと、手を放して再び跪いた。

 「よろしくお願いいたします、慶之様。我、藍公明。身命を賭して、楊慶之様に忠誠を誓い覇業を成就させます。」

両手を高く上げ、右手の拳を左手で覆うと、本日3度目の臣下の礼を行った。

 「慶之様。まずは、直ぐにでも教団は脱退致します。」


 「ああ、頼む。姜馬と静香が煩いからな。それに教団は狂信すぎて少し怖いからな。」


「はい。速やかに。」


「公明。こちらこそ宜しく頼む。まずは仲間からだな。」

こうして、藍公明は俺たちの仲間になった。


* * *


 「黒描。どうい事なのかしら。もう、この【智陽】も陥落したと思ってやってきたら、なんで魔物の方が全滅しているのかしら。私に分かるように教えて頂戴。」

 黒ちりめんの長羽織をはおって、黒いズボンをはいた女性が、キセルから煙草の煙を吐き出しながら聞いている。

 黒装束を身にまとった間者・・・いかにも忍者の恰好だが、猫の獣人族の女間者が神妙に跪いている。


 「はい、獣魔王・・・いえ、失礼しました黒姫様。4人の冒険者が突然現れまして、我らが手配した魔物を倒しましたにゃ。」


 「私が集めた魔物たち全部を、たった4人で倒したというのですか・・・。黒描、あなた夢でも見ているんじゃないかしら。」

 黒姫と呼ばれた女性は、キセルを吹かしながら、【智陽】の中央に立つ塔の上から城内を見回す。

 その場所は、数時間前に静香が魔弾銃で魔物を退治していた塔の上だった。

 黒姫の視界には、魔物の緑の血がいたる所に散乱していた。

 魔物の死体は無かった。全て、冒険者たちに戦利品になっている。


 「黒姫様。顔はフードで隠して分かりませんでしたが、魔弾銃や刀、槍の使い手でしたにゃ。中には、結界を張る者もおりましたにゃ。」


 「七匹ですよ・・・。神級魔物が七匹。それに3千匹以上の魔物。それが、たった4人の冒険者に倒されたと言うのですか。」

 黒姫は悔しそうに唇をかんでいる。


 「倒されました神級魔物は、猿鬼三匹と王虎一匹の合計四匹ですにゃ。残りの猿鬼三匹は逃げましたにゃ。それに3千匹の魔物の魔石も素材も全て、冒険者が持っていた『魔法の鞄』に回収されるのを見ておりましたにゃ。嘘ではございませんにゃ。」


 「そうですか、神級魔物の四匹と3千匹の魔物が倒されたのですか・・・、実際に姿が見えない以上は信じるしかありませんね。しかも、相手の冒険者は『魔物の鞄』を持ち、結界を張るほどの強者・・・。それはそれで興味深いですね。相当の魔力持ちでしょうから。その冒険者を私の手駒に加えられれば、今回の損失は穴埋めできるわね。それで、その冒険者の魔力階級は神級だったのですか?」

 黒姫は、信じたくない事実から目を背けるほど愚かではない。

 信じ難い内容だが、黒描の報告と目の前の事実から納得するしか無かった。

 済んだ事より、その冒険者を手駒に加えられないかと思考を変えている。


 「はい、四人のうち二人は、赤の魔力色でしたから間違いなく神級だったにゃ。一人は王級にゃ。残りの一人は見たことの無い魔力色でしたにゃ。」


 「見たことが無い魔力色?何色ですか。」


 「はい、七つの色でしたにゃ。まるで虹のように光っていましたにゃ。」


 「虹色の魔力色・・・・、それは本当なの。本当にその者の魔力色は虹色に見えたの?」

 黒姫の目つきが変わった。するどい目つきで黒描を見る。


 「は、はい。黒姫様。間違いありませんにゃ。虹色でしたにゃ。」

 黒描は目をつぶり、思い出すように話した。


 「そうですか・・・虹色ですか。それでしたら、残念ですが手駒は無理ですね。必ず倒さなければなりません。そうですか・・・虹色の魔力色ですか、虹色ねぇ。」

 黒姫は考え込みながら、『虹色』と繰り返していた。

 「それで、その冒険者たちはどちらに向かったのかしら。」


 「はい、西へ。都市の者との話では『火の迷宮』に向かうと言っていましたにゃ。」


 「『火の迷宮』へ向かう・・・『火の迷宮』。良いわね、そちらなら戦力が揃うわね。迷宮の外に・・・なか・・・それに『迷宮の主』・・・。罠を張るか。でも、今から準備して間に合うかしら、とにかくやるしか無いわね。」

 暫く考え込んで、考えを纏めると、黒描に指示を出す。

 「あなたは、『黒鴉』の手元にいる間者の全てを連れて、冒険者を追いなさい。決して手を出してはダメよ。あなた達が敵う相手じゃないわ。あなた達は奴らが『火の迷宮』に近づいたら私に報告する事と、奴らの様子を探る事だけして頂戴。私は、『火の迷宮』で出迎えの準備をしてくるわ。良いわね。」


 「畏まりましたにゃ。黒姫様。」

 黒描はそう言うと姿を消していた。


 「それにしても、虹色魔力の持ち主が現れるとは・・・運が良いのか、悪いのか。でも、相手の手の内を探るには良いチャンスだわ。まだ、魔神様の復活には時間が掛かるから、少しでも邪魔をした方が良いだろうし。」

 黒姫はニヤリと笑うと、塔の上から姿を消していた。


* * *


 「結構荒らされているな。この辺りは。」

 西から魔物が来た道を、戻る形で俺たちは『火の迷宮』に向かって歩いている。

 一帯を喰い散らかす様に荒らした先を見れば、あの魔物たちが『火の迷宮』から来たのは間違いなさそうだ。

 魔物に荒された廃墟になった村に立ち寄った。生存者がいないか探す為だ。生きている者が居たら、助けたい。

 だが、どの村にも人の気配は無かった。人の気配どころか、家畜や生き物の姿が全く見当たらない。魔物に食べられたのか、逃げたかどちらかのようだが、散乱している血の跡から前者の方が可能性が高かった。

 俺達は死臭の匂いが蔓延している村を、布で鼻を覆いながら生存者がいないか歩き回った。だが、あるのは血の跡と人骨ぐらいで、残念ながら生存者はいなかった。


 「静香。この辺りは趙家領か。」


 「そうね。この辺はもう趙家領よ。それにしても酷いわね。」


 「ああ。」

 どの家も、生き物の気配はなかった。

 壁についた血の跡や人骨が転がっているくらいだ。


 桜花も、顔をしかめている。

 「子雲。残念だけど、この村にも生存者はいないようだね。」


 「そうだな。残念だ。それにしても、獣魔王。何が目的で魔物を『火の迷宮』の外に出したかは分からないが、許せないな。」

 人骨しか残っていないが、人骨の数だけでも、数百人の人が死んだのが分かる。


 静香も村を見回っている。

 「まぁ、魔王の目的と言えば、魔神の復活の為しか考えられないわ。【王都】を魔物が襲った『魔物の乱』もそうだけど、ちょっと気になるのよね。」


 「何が、気になるんだ。」

 俺は不思議に思って静香に尋ねた。


 「【王都】。その前は確か【曲阜】。そして今度は【智陽】。獣魔王はなぜ、この3つの都市を狙ったのかしら。そして、この3つの都市の共通点は、どの都市も城門が中から開いていた。なぜ、3つの都市の全てが城門が中から開いていたか・・・。城門さえ閉まっていれば、【王都】も【曲阜】も何万人も魔物の犠牲にならなかった。この【智陽】もそうよ。偶々、私たちがいたから良いけど、本来なら何万人もの人の犠牲者が発生していたはずよ。」


 「確かに、何者かの手引き・・・人間の中に、魔人族とつるんでいる者がいるのか。いくら何でも信じられないが。」


 「そうね、私もそう思うわ。ただ、気になるだけよ。3つの都市の城門がなぜ、内側から開いたかがね。」

 静香の声は呟くようだった。


 隣を歩いていた公明が近づいて来た。

 「私も気になりますね。聖女王の考えが。あくまで仮定の話ですが、もし人の側に魔人族に協力する者がいて、この3つの大瀑布が同一犯であるなら、この3つの大瀑布で得をする人ですが、怪しいですね。」


「得をする人・・・そんなの蔡辺境伯ぐらいしか思い当たらないわね。」


 静香の言葉に俺は首を傾げた。

 「静香、ちょっと待ってくれ。確かに、【王都】やその途中の【曲阜】を魔物が襲来した『魔物の乱』で得をしたのは蔡辺境伯だが・・・。この【智陽】は関係ないんじゃないか。」


 「甘いわね、慶之。この【智陽】を『火の迷宮』の魔物が襲って一番困る人は誰かな。」


 「・・・分からないな。」

 慶之は暫く考えたが、思いつかずに公明の方を見た。


 「慶之様。それは趙伯爵です。」

 確かに、趙伯爵領にある『火の迷宮』の魔物が王家領の【智陽】に襲来して、たくさんの人を殺せば、迷宮を管理している趙伯爵の責任が問われる。


 「そして、趙伯爵が困ると得する人は・・・。」


 「なるほど・・・それは、・・・おっと、何かがこちらに向かっているな。」

 俺が静香の質問に答える前に、『索敵』魔法に何者かが引っ掛かった。


 「どうしたの。慶之。」


 慶之が目を閉じた。

 「索敵魔法に反応があった。・・・これは、けっこうな数の人だな。数十人の人間が、こちらに向かってくる。早いな、この速度は、旅人の速さでは無い。警戒した方が良さそうだ。」

 頭の中に周辺地図を浮かべて、意識と魔力を索敵に集中している。

 「人数は・・・二十、いや三十かな。」


 「私たちを追ってきたのかしら。もし、そうだとすると獣魔王の手下か・・・もしくは獣魔王に協力する者か・・・どちらにせよ、まずいわね。どうする、慶之。」

 静香が慶之の顔を見て判断を仰ぐ。


 「情報が欲しいな。必要に応じて戦うが。『火の迷宮』に行くのが俺たちの目的だ。ここで無駄な争いに巻き込まれたくは無いのが本音だが・・・。」


 「それは無理よ、慶之。私たちが【智陽】の魔物を殲滅したことで、相手は腹を立てているはずよ。相手にとっては、こっちから喧嘩を売ったも同然なんだから。私たちは既に巻き込まれているのよ。」


 (そうだな・・・静香の言う通りだ。俺たちは、既に巻き込まれている。)

 こちらの都合だけで物事を考えると、判断を間違えると静香は言いたいのだろう。

 「それじゃ、戦うつもりで相手に臨もう。獣魔王は【智陽】の民を大量に殺そうとした奴らだ。その協力者の仲間であっても許されないからな。ただ、一番は情報収集を優先。相手が攻撃を仕掛けて来たら迎撃する。それで、良いか静香。」


 「まぁ、良いわ。確かに情報を集めて判断する必要があるわ。情報が優先なのは理解したわ。でも、相手が戦うつもりなら、こちらも戦う。そのつもりで行くっていうことね。これで、方針は決まったわ。次は、軍師ちゃんの出番かしら。」


 静香は公明に話を振った。

 「はい、これからは私の出番ですね。幸い、相手はこちらが敵の動きに気がついているとは知りません。問題は、相手に『索敵』魔法を使える者がいるかです。こっちが相手の動きを知っているように。相手もこっちの動きを知っているかどうかで策は変わってきますからね。今回は、分からないので、相手はこちらの動きを知っていると考えて、策を練ります。」

 索敵魔法を使える魔法使いは極めて少ない。

 索敵魔法の魔法陣の術式が難しいので、この国で使える者は数人しかいないだろう。だが、この索敵魔法は間者にとって有効な魔法なので、この魔法を使える者はほとんどが間者だ。確か、半蔵もこの魔法を使える。

 公明が言うように、索敵魔法を使える間者が敵方に居ると考えるが正しい軍師の判断なのだろう。相手に索敵魔法の使い手がいなければ、別に困らない。

 今の判断だけでも、公明が優秀な軍師である事が伺える。

 

 公明は顎に手をやって、考えを纏めているようだ。

 「慶之様。索敵魔法が敵を認識する時、何に反応するのでしょうか。」

 

 「・・・そうだな、一番分かり易いのが魔力・・・後は、動きかな。俺も魔法は使っているが、何に反応するまでは考えてなかったな。」

 索敵魔法を頭に浮かべると、魔力の強い相手ほど鮮明に赤く光る。ただ、魔力が無い者も、索敵魔法に反応するので、魔力だけではなかった。


 「慶之様、それでは別の質問ですが。索敵魔法から探知できないようにする方法はありますか。」


 俺は首をひねった。

 「う~ん。探知できない物か・・・あんまり、考えた事がなかったな。確か、水の中の物や、土の中の物は探知できなかったが・・・。後は、距離が500mを超えると探知力が劣るくらいか・・・。」


 「そうですか。今の話で、良い策が思いつきました。」

 公明はそう言うと、作戦を説明し始めた。


* * *


 「おい、黒描。冒険者の気配が消えたコン。」

 索敵魔法が使える狐人族の間者が、この隊の隊長の猫人族の黒描に声をかけた。


 「なに、奴らの気配が消えた・・・それは、どういうことにゃ。」

 黒描は、周りの仲間に一旦止まるように命じた。

 この『黒鴉』は獣人族で構成されている間者だ。

 それも、獣魔王である黒姫が、長い年月をかけて育てた間者が『黒鴉』だ。

 情報収集、城内の攪乱、暗殺などを何でもやった。そして、『黒鴉』の仕事はほとんどが完璧だった。果たせなかった任務はほとんど無かった。

 この世界の間者で上位の力を持った間者だ。


 そして、黒姫は、今回の30人の『黒鴉』の間者を【智陽】に送り込んでいた。

 その責任者の隊長には、猫人族の黒描を据えている。

 彼女は若いが、経験も判断力、そして魔力も十分に備えており、『黒鴉』の中でも5本に入る幹部だ。

 黒描は入念に情報を調べ、【智陽】の攪乱に臨んだが結果は失敗に終わった。

 隊長の黒描は、自分が率いる部隊で失敗したのは残念だが、仕方が無いと割り切っている。彼女は客観的に状況を分析できた。それが若いながらも隊長に抜擢された彼女の強みでもある。

 失敗の原因はあの4人の冒険者の存在だ。

 あのレベルの冒険者の存在を前提に作戦を行うのは困難である。だから、この作戦の失敗は仕方が無いと割り切っていた。


 だが、新たに獣魔王様から与えられた命令は失敗するわけにはいかなかった。

 命令が、相手に見つからないように見張るだけで、見つかったら戦わずに逃げろとまで言われている。

 さすがに、こんな簡単な命令を失敗するわけにはいかなかった。

 それが、急に冒険者たちが探知魔法から気配を消したのだ。

 「探知魔法から気配が消えたというのは、どういうことにゃん。冒険者が死んだのかにゃ。」

 (・・・嫌な予感がする。)と黒描が思った。

 彼女の予感は良く当たる。直ぐに、状況把握に動いた。


 「いや、俺にも分からないコン。敵が一斉に探知魔法から気配を消すなんて一度も無かったコン。確かに、死ねば魔力が霧散して探知魔法から気配を消すが・・・正直、原因は分からねえコン。」

 狐人族の男は、頭を抱えてしまった。


 「どうする。黒描。俺たちはここで止まるか、前に進むグルルか。」

 虎人族の仲間が、黒描に指示を仰いだ。


 (私の嫌な予感は当たる。ここは一旦撤退すべきか・・・だが、ただ冒険者を見張るだけの命令すら果たせないのはいくら何でも酷すぎる。嫌な予感だけで撤退するわけにはいかないか・・・。)

 黒描は考えた末に、考えを決めた。

 まずは、冒険者が姿を消した所に行って、様子を探る事にした。

 冒険者たちが死んだとは考えずらい。もの凄い速さでどこかに向かったか。移転魔法で消えたことも考えられなくはない。ただ、移転魔法を使える魔法使いなど聞いた事がないので、可能性は極めて少ない。

 あとは狐人族の男の探知魔法が上手く作動しなくなったのも考えられる。

 一番可能性が高いのは、もの凄い速さで移動した事だ。

 冒険者の2人は猿鬼と戦う時に、目で追えない速さで動いていた。あの速さなら、狐人族が少しでも索敵魔法から気をそらしたら、気配が消えていることも十分に考えられる。

 

 とにかく、今は状況を確認するしかない。

 「用心して進もうにゃ。黒姫様の使命は冒険者たちの見張りにゃ。もし、発見されそうになったら直ぐに退却するにゃ。奴らと戦う必要はないにゃ。いいな、全速力で退避するにゃ。」


 「分かったグルル。黒描。今回は、お前が隊長だ。お前の指示に従うグルル。」

 幹部の一人である虎人族の男は大人しく頷いた。


 黒描は30人の仲間を5人ごと6つのチームに分けて、反応を消した場所を囲むように向かわせた。一つのちーみが、少しでも冒険者の気配を感じたら姿を見せずに、報告するように言ってある。

 自分も狐人族の男を加えたチームを従え、冒険者が反応を消した場所に向かった。

 反応が消えた場所は、森の中の木に囲まれた場所にあった。

 周りが木に囲まれているので、身体能力の高い獣人族にとっては隠れやすい。

 音を立てずに木の上を移動すれば、多少近づいても見つからない自信があった。  

 とにかく、冒険者たちがどうなったのか確認しなくてはならない。


 慎重に、木の上を飛びながら目的の場所に向かうと、やはり、そこには冒険者の姿は無かった。

 他のチームも囲むように、木の上から近づいくる予定になっている。たぶん、そちらにも冒険者たちは居ないだろう。

 「いったい、どこに行ったにゃ。」

 探索魔法を使う狐人族の男に、少し怒った口調で聞いた。


 「いくら探知魔法で探っても、分からないコン。気配は全く感じないコン。もう、ここに奴らは、いないコン。移転魔法か、もしくは何らかの手段で移動したとしか考えられないコン。」


 (やはり、逃げられたか・・・。)

 刀を持った冒険者の女と男の動きは早かった。それこそ、猿鬼の『神速』と同じ速さで動いていた。『神速』魔法で先を進んだと考えるのが妥当だろう。索敵魔法でも捕らえられないほどの早さとしか考えられない。

 「そうか・・・奴らは、きっと『神速』魔法を使ったにゃ。奴らは、既に探索魔法の探索範囲を超えて進んでいるに違いないにゃ。もっと先に進むにゃ。」

 黒描は、自分のチームの仲間に、散っている仲間を呼ぶように伝えた。


 「奇襲だコン。」

 狐人族の男が慌てた表情で悲鳴を上げた。

 「黒描。急に5つの魔力が現れたコン・・・。この魔力はヤバいコン。西側の虎人族の仲間を襲ったコン。冒険者たちが虎人族を奇襲をかけたコン。」

 狐人族の男は目を閉じて、頭の中の索敵魔法の状況図をみながら叫んでいる。


 「奇襲だと。奴らはどこ隠れていたにゃん。」

 (完全にやられた・・・。冒険者どもにこちらの動きを掴まれていたのか。)

 今は、後悔している時ではない。

 早く、手を打たなければ味方がやられてしまう。


 「西の虎人族の応援にいくにゃん。」

 同じチームの仲間に指示をだすと、木の上を跳びながら西に向かった。

 (だが、なぜ奴らは私たちが後を追い駆けていることが分かった。もしかして奴らにも探索魔法を使う者がいるのか・・・。もし、使い手がいたら。)

 黒描は、冒険者の力がどの程度のモノなのかを考えながら移動していた。

 獣魔王様が手を出すなと言ったほどの力を持つ者ならば、まだ何か手を打っているはず。このまま西に向かうのも誘き寄せられているかのしれない。

 黒描の中に不安が生じた。

 すると、そこには虎人族の黒虎が率いる5人が放置されていた。

 「おい、黒虎、大丈夫にゃぁか。」

 仲間の黒虎を見て、思わず叫んだ。

 5人は縄で縛られ、身動きできない状態になっていた。口にも猿ぐつわを嵌められて、モゴモゴ言って必死に何か伝えようとしている。

 だが、冒険者たちの姿が見えない。

 (きっと、見られている・・・。どこだ。)

 「おい、黒虎。今、助け・・・・」

 突然、後頭部に痛みが走った。

 薄れていく意識の中で、緑の外套を来た男の姿が見えた。

 「くそ、・・・」

 悔しさの呻(うめ)きを辛うじて上げると黒描は意識を失っていった。


* * *


 「これで全員か。公明。」

 鍾離梅や藍公明たちが、縛り上げた追っ手たちを一か所に集めていた。

 それにしても、全員が黒装束の服を着こんでおり、顔も黒の布で巻いてある。

 まるで忍者だ。半蔵も同じような恰好をしていたが、この異世界の間者は忍者姿の恰好がフォーマルのようだ。

 縄で縛られて気絶させられていた間者たちがモゾモゾと動き始めた。


 「離梅殿。起きた奴から顔の装束と猿ぐつわを外してくれないか。」


 「分かりました。慶之殿。」

 離梅が目が覚めた間者から顔を隠す黒の布を外すと、獣人族の顔が現れた。

 目が覚めた獣人族の全員から、猿ぐつわと、顔を隠す布を外した。

 たくさんの獣人族の顔が並ぶと、ここが異世界だとしみじみに思う。


 獣人を見て堪能していると、狐人族の男が声を上げた。

 「・・・お前たちは何者だコン。なぜ、俺の探索魔法から姿を消した。」

 彼の話では、やはり間者の中に索敵魔法の使い手がいたようだ。

 公明の読み通りであった。


 「それは、内緒だ。こちらの手を晒す必要もあるまい。」

 俺は、そう言って索敵魔法の使い手である狐人族の男の質問をはぐらかした。

 本当は、静香の土魔法で地面に身を潜めていた。上手く、追っ手が近づいた所で、奇襲を掛けたのだが、思いの外上手くいったのだ。そこまで丁寧に、敵に教えてやる必要は無い。


 「それでは、やっぱろ俺の探索魔法があるのを読まれていたのか・・・。」

 俺の説明に、狐の獣人は、悔しそうな目で俺を睨んでいた。


 今度は虎人族の男が、口を開いた。

 「そもそも、なぜ俺たちの尾行に気づいたグルル。距離はしっかりとっていたし、こっちが風下だった。匂いも気づけなかったはずグルル。お前たち値に気づかれる要素はなかったはずだグルル。」

 今にも、襲ってきそうな視線でこちらを睨みつけている。


 「まぁ、それも教えてやるほど、俺たちは優しくないな。」

 本当は、こちらも索敵魔法が使えたのだが、情報を聞き出す駆け引きの為、ここは黙っておく。


 「くそ・・・。人間ごときが、調子に乗りおって。」

 虎の獣人は、自分を縛る縄を噛みきりたいのか体中を動き回した。


 「まぁ、俺たちに捕獲されたんだ。お前らは敗者だ。質問の権利はない。権利があるのは俺たちだ。それでは、こちらも質問をさせてもらおうか。まず最初に、お前たちを俺たちに送ったのは誰だ。」


 「・・  ・・・・・・。」

 虎の獣人は黙って口を開かない。


 ――ビシィ。

 横で見ていた静香が、『魔法の鞄』からムチを取り出して、地面を叩いた。

 「だめね、慶之、甘いわよ。情報を吐かせるには拷問よ、拷問。こいつらは私が拷問して吐かせてやるわ。燃えるわね。」

 彼女の口が三日月のような形をしている。


 「おい、静香・・・・・・拷問は禁止だ。」

 ムチを持ってやる気満々の静香を見て、周りの仲間がドン引きしている。

 (拷問はダメだ。)

 この世界では当たり前だが、俺は暴力的なやり方を許すつもりはない。

綺麗ごとかもしれないが、権力を振りかざして、暴力や無慈悲なやり方で弱者をいたぶる奴らを倒すのが俺の正義だからだ。


 「えええ、ダメなの。つまんないわね。」


 「普通にダメだろ、静香。お前は・・・、そういうのが好きなのか?」


 「・・・ち、違うわよ。慶之。わ、私にそんな趣味あるわけないでしょ!この世界で間者を捕まえたら、拷問で吐かせるのが常識なのよ。いやね~、私が拷問が好きなわけ無いじゃない。はやく間者に吐かせる為に、仕方がなくよ、仕方がなく。ほほほほ。」

 静香は、素早くムチを鞄の中にしまっていた。


 横で公明が間者たちをじっと見ている。

 「慶之様、私が質問しても宜しいでしょうか。それと、鍾離梅殿。すみかせんが、目が覚めている獣人族の間者は全て、顔の布と猿ぐつわを外してもらって良いですか。」

 離梅は頷いて、間者の顔を隠す黒い布を剥し始めた。

 一人だけ、まだ目が覚めていない猫の獣人族がいたが、他は全員、布と猿ぐつわを外していた。

 公明は、手に持った藍の鉄扇を「パチン」と音を立てて閉じた。癖で何度も鉄扇を開けたり閉めたりして音を立てている。

 「それでは、伺います。あなた達の親玉は、獣魔王ですか。」


 「・・・・・・。」

 獣人族は黙って、誰も口を開こうとしない。。

 だが、布からさらけ出した彼らの顔の表情は、思いっきり焦っていた。


 「ほう~、どうも当たりのようですね。獣魔王があなた達の雇い主ですか。」

 公明が大きな声で、独り言のように話す。

 「魔物が来た方角から、あの魔物たちは『火の迷宮』の魔物ですよね、違いますか?そこの犬の獣人族の方、答えて頂けますか。」


 「・・・・・・知らないワン。」

 犬の獣人は答えない。

 だが、目は泳いで、落ち着かない。いかにも何かを隠している仕草だ。


 「『火の迷宮』から来たのでは無いようですね。」

 「・・・・・・・」

 公明がそう言うと、犬の獣人は、何も言わずにほっとした仕草をする。


 「いえ、やっぱり、『火の迷宮』から来た魔物ですか。」

 「・・・・・・違うワン。」

 すかさず公明が答えを翻すと、犬の獣人は慌てて答えを否定する。

 ただ、目が泳いでいる。

 「『火の迷宮』で確定のようですね。でもおかしいですね。なぜ、獣魔王は、わざわざ【智陽】を襲わせたのですかね。に近い。魔物に人間を襲わせるだけなら、他にもたくさんの都市(まち)がありますよね。趙家領には、『火の迷宮』に近い人口の多い都市が。それなのに、獣魔王は国王領の都市を魔物に襲わせた。なぜですかね。」


 「・・・・・・。」

 犬の獣人は目をつぶって、話そうとしない。


 「そうですか・・・答えてもらえませんか。あっ、分かりました。獣魔王の狙いは趙伯爵ですね。もし、趙家が管理する『火の迷宮』の魔物が、国王領の都市を襲って、領民を殺せば、趙伯爵が管理責任を問われますね。」


 「・・・・・・・」

 犬の獣人は黙ったままだが、閉めていた目を開いておろおろしている。

明らかに顔が焦っている。


 「どうも、趙伯爵までは当たりのようですね。ですが、なぜ、獣魔王が趙伯爵を困らせたいんでしょうか。趙伯爵が獣魔王の恨みを買っているのですかね・・・。もしくは、獣魔王の協力者が趙伯爵を困らせたいとかですかね・・・。」

 公明は『パチン』と音を鳴らして鉄扇を閉じた。

 「趙伯爵を困らせたい人ですか・・・分かりませんね。趙伯爵は人柄が良いので、あまり敵は居ないと聖女王が言っていましたし・・・。もしかして、蔡辺境伯でですかね・・・確かに蔡辺境伯は大陳国の王位を狙っているとか。当然、反対する大陳国の貴族は潰しておきたいでしょうから。違いますか。」


 「ち、違うワン。黒幕は蔡辺境伯では無いワン。」

 犬の獣人の表情は、さっきよりも更に焦った表情になっていく。

 額から汗が大量に流れ、泣きそうな顔だ。


 「そうですか、黒幕は蔡辺境伯ですか。やはり黒幕は居たんですね。魔王に協力する者が居るとは意外でした。しかも、それが蔡辺境伯ですか。貴重な情報ありがとうございます。黒幕が蔡辺境伯なら、【王都】を魔物たちに襲わせた『魔物の乱』も彼の仕業ですね。蔡辺境伯が獣魔王に襲わせたのですか。これで、今までの謎がはっきりしました。犬の獣人さん、どうも教えてくれてありがとうございます。」

 公明は、再び藍の鉄扇を閉じて、『パチン』を音を立てた。 


 「違うワン。俺はそんな事は言ってい無いワン。蔡辺境伯じゃ無いワン。」

 必死に犬の獣人は公明の言葉を否定する。


 「でも、あなたが、教えくれましたよね。私は協力者が居るのではと言いましたが、黒幕とは言っていません。あなたが『黒幕は蔡辺境伯では無い』と言いましたが、あなた方は蔡辺境伯を獣魔王の協力者ではなく黒幕と思っているのですか。」

 確かに、協力者と黒幕では微妙にニュアンスは違うが、それでここまで話を持っていくのも強引のような気がするが・・・。


 「ち、違うワン・・・・・・」

 仲間の獣人族が『もうしゃべるな!』という目で犬の獣人を睨みつけていた。

 どうも、公明の強引なこじつけが効いているようだ。獣人族の反応から、蔡辺境伯が獣魔王の黒幕であるのは正しいようだ。


 「それでは、違う獣人の方に伺いましょう。」

 そう言うと、公明は今度は猿の獣人の前に移動した。


 「な、何を聞いても、答えないキィ、キィ、キィ、キィ。」

 暴れていた猿の獣人は、目の前に公明が来ると暴れるのを止めて身構えている。


 「それでは、質問ですが、【智陽】の門を開けたのは、あなた達ですか。」


 「・・・・・・。」

 猿の獣人の表情は『なぜ、お前らがそれを知っている。』と言っているように驚いた表情になっていた。


 「そうですか。やはり、あなた方が【智陽】の門を開けたのですか・・・そうすると、【智陽】の中には内通者は居なさそうですね。」


 「違うキィ。我らは【智陽】の西門など開けていないキィ。」

 公明の説明を猿の獣人族が必死に否定した。

 だが、否定した猿の獣人の目も泳いでいる。獣人族は根が正直なのだろう。

 目がオロオロしている仕草も、愛嬌があって可愛い。

 そんな事はお構いなく、公明が獣人の言葉に斬り込んていく。


 「おかしいですね。私は『門』としか言っていませんが、あなたは『西門』とは言言いましたね。確かに、開いた門は西門です。やはり城門を開けたのはあなた達ですね。」


 「違うキィ、違うキィよ・・・。」

 公明の説明に、猿の獣人は泣きそうな声で否定する。

 周りの獣人の仲間からは、もう話すなという視線が猿の獣人に注がれる。


 公明は、今度は狼の獣人の前に立った。。

 「ですが、なぜ、獣魔王が蔡辺境伯などに手を貸すのかが謎ですね。蔡辺境伯が、魔神の復活に必要な何かを持っているのですかね。」


 「・・・・知らないグルル。」

 狼の獣人は、必死の形相で公明を睨みつける。

 その表情に、動揺も、焦りまない。


 「違いますか・・・。蔡辺境伯は魔神の復活に関係ないか。もしくは本当に知らないようですね。」


 「そうだ。我らはそんな事は知らないグルル。だが、何故、今回の儂が言った事が正しいと分かっ・・、いや、そのような考えに辿り着いたのだグルル。」

 狼の獣人は、情報を探られないように、言葉を選びながら質問をした。


 「そうですね、あなた方の言った事が正しいか、嘘かを知る事ができる理由ですか、それは魔法ですよ。私は、あなた方の心を読む魔法が使えるのですよ。」

 公明は嘘を言った。そんな魔法など本当はない。

 公明は状況から仮定を想定し、その仮定のストーリーを話しているに過ぎない。後は、獣人族の表情を読めば嘘か本当か分かるのだ。だが、そう答えると獣人族は表情を隠そうとするに違いない。

 魔法と言えば、嘘を言えば必ず分かるので正直に話すしかない。だから、公明は魔法と嘘を答えたのだ。


 公明の説明を聞いて、狼の獣人が仲間に聞こえるように大声で話した。

 「そうか。魔法か・・・心を読む魔法。ならば仕方がない。黒鴉様、後は頼みます。我らの無念を、なにとぞ、何卒、お晴らしてください・・・。」

 叫び終わると、狼の獣人が突然倒れた。

 口の中から血を吐き出している。

 狼の獣人が倒れたのが合図に、他の獣人も次々に地面に倒れていく。

 どの獣人も、口から血を流していた。


 「まずい。」

 俺は焦った。獣人たちは口の中に、毒を仕込んでいたのだ。

 捕まって拷問に会うくらいなら、死を選ぶ彼らは自害を始めたのだ。

 (まさか、自死するとは・・・。)

 獣人族たちが、情報を漏らすくらいなら死を選ぶなど思ってもいなかった。


 「離梅殿、公明。直ぐに自殺を止めさせてくれ。もし、まだ生きている獣人がいれば、口の中から毒を吐き出させるんだ。」

 俺は焦って、離梅と公明に命じた。

 治癒魔法は毒に効かない。吐き出させるしか救う方法は無かった。


 俺の指示に静香が不審な顔をする。

 「慶之。こいつらは、蔡辺境伯の間者よ。敵なのよ。なんで助けるのよ。」

 「そうです。敵の間者を潰しておくのは、戦いの常道。蔡辺境伯の目や耳を奪うチャンスです。これ以上、情報が取れないのであれば、むしろ殺すべきです。」 

 静香と公明が、獣人族の間者を助けようとする俺に反対した。

 確かにその通りだ。

 蔡辺境伯を倒すには、たくさんの蔡家の兵士を殺さなければならない。ここで、数人の敵の命を救っても偽善でしかない。それに、その救った者たちがたくさんの味方を殺すかもしれない。

 でも、俺は助けられるなら助けたいと条件反射で思ってしまったのだ。

 それに、縄で縛られている者を殺すのは嫌だった。戦場で斬り合うのは仕方がない。それで死ぬこともあるが、自由を奪った人を殺すのは虐殺と同じだ。

 甘いかもしれないが、これが俺のやり方だった。


 「そうだな、確かに公明の言う通り、ここで一人でも多くの間者を潰しておくのは今後の戦略上大事だ。俺が甘いのは分かっている。だが、これが俺のやり方だ。戦場で戦って相手を殺す。だが、縄で縛られた状態の人を殺したくはない。矛盾しているが、これが俺の考えだ。すまんが従って欲しい。」


 「・・・仕方が無いわね、慶之は本当に甘ちゃんなんだから。」

 静香は思う所があったようだが、黙って息のある獣人を探しはじめた。

 公明も静かに続いた。桜花や美麗、離梅も同じようにひとり一人の獣人族の生死を確認したが、息をしている獣人はほとんどいなかった。


 「息があるよ。」

 桜花が叫んだ。

 桜花が獣人族の口の中に手を突っ込んで、毒を吐き出させた。

 「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ。」

 吐き出したのは猫耳の猫獣人の女だった。

 飲んだ毒を吐き出させられて、むせていた。

 ついさっきまで意識を失っていた獣人だ。どのタイミングで毒を飲んだのか分からないが、飲むのが遅れたのかもしれない。

 とにかく、猫の獣人だけが息を吹き返したのだ。


 むせるのが落ち着くと、猫の獣人が桜花を睨みつけた。

 「何するにゃ、私は任務に失敗したにゃ、仲間と一緒に死ぬのを邪魔するんじゃ無いにゃ。死ぬにゃ、早く殺すにゃ。」

 口に含んでいた毒を吐き出されると、手足を縛られた状態では自死は出来ないし、死んだ仲間の仇も取れない。

 ただ必死に縄を解こうと、バタバタと足掻いていた。

 そんな猫の獣人を見て話しかけた。

 「俺はお前の仲間を29人も殺した。俺はお前にとって仲間の仇だ。お前も悔しいなら、仲間の復讐の為に生きろ。生き延びて俺を殺しに来い。」

 

 「ふぜけるんじゃ無いにゃ。なにが殺しに来いにゃ。カッコつけるんじゃないにゃ。言われなくても、仲間の仇は討つにゃ、必ず復讐をしてやるにゃ。」

 猫の獣人が手足を動かしながら、縄を解こうとやっきになっていた。


 「だったら、早く復讐に来い。」

 俺は、猫の獣人の腹に拳を打ち込んで、気絶させた。


 「・・・公明。この猫の獣人の縄を解いてやってくれ。」


 「よろしいんですか、慶之様。」


 「ああ、確かに俺は甘いのかもしれないな。・・・だが、出来ることなら、無駄な殺生はしたくない。俺の我儘だ。その代わり、殺さなければならない時は殺す。」

 

 公明が気絶して地面に寝転んだ猫の獣人を見てつぶやいた。

 「慶之様、何度も言いますが、蔡辺境伯の間者を始末することは無駄な殺生ではありません。蔡辺境伯を倒す為に必要な殺生です。蔡辺境伯の耳と目を奪う為に。」


 「そうだな・・・でも、もう29人は殺した。もう良いだろう。」


 「分かりました。確かに慶之様は甘いですね。でも、まぁ、慶之様は甘いくらいで良いのかもしれません。厳しい所は、私が引き受けますので。」


 「すまない・・・とにかく、縄を解いてやってくれ、公明。」


 「はい。」

 気絶している猫の獣人の女の縄を解いてやった。

 あとは目が覚めれば勝手に逃げるだろう。

 後味は悪かったが、立場は逆転していれば、俺達がやられていたかもしれない。

 これ以上、憐憫の情をかけていては、この世界では生きていけないのだ。

 そう考えて、俺達は西に向かって歩くのであった。


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