第49話 修羅場

カウンター前に座りながら、私は思わず自分の腕を擦った。


今感じている寒気が、エアコンの温度を誤って下げたためなのか、それとも目の前の二人の少女が原因なのか、区別がつかない。常に私と共にある直感が、今、警鐘を鳴らしている。


不思議だ。寒さを感じるのに、背中には汗をかいている。対峙している二人の少女を落ち着いたふりをして見ているが、今の私には声をかける勇気も失われていた。


先に動いたのはリコシェだった。


「知ってるよ、あんたのこと。雪野アリスね?世界に名を轟かせるスノーランス様がこの店に来るなんて、本当に驚きだわ。」


「あなたこそ。ここにいることが驚きだわ、リコシェ。あなたのことはちょっと聞いてるわ。逮捕リストに名前がある。こんなに堂々と現れて、魔法省に連れて行かれる準備でもしてるの?」


二人の間に短い沈默が生まれた。しかし次の瞬間、リコシェのリボルバーが雪野の眉間を指し、雪野の手には突然白い槍が現れ、リコシェの首を狙っていた。


リコシェは口を歪め、鋭い犬歯を見せた。


「よく言うね、この駄犬。その表情から全てが分かるわ。あんた、私の戦友を自分のものと思って、彼女の前でカッコつけたいんでしょ?はっ。カッコつけるどころか、すぐに恥ずかしくて地面に顔を伏せさせてあげるわ。」


雪野はこれまで見たことのない、般若はんにゃのような表情を見せた。


「あなたこそ、発情したメス猫。サヨさんを抱きついて匂いを付けたいの?本当に品がない。品がない奴は再教育が必要。あなたがどれだけ抵抗できるか、興味深い。」


突然空気が静まり返った。戦闘態勢を保ちながら、二人の少女は紫と青の目で互いを睨みつけていた。二人の間には見えないが徐々に張り詰めた線が現れ、その線が切れそうになると感じた私は急いで手を叩いた。


「そ、そういえばっ。」


彼女たちの視線が私に向けられると、私は戦々恐々せんせんきょうきょうと言った。


「この前美味しい羊羹を手に入れたんだけど、二人とも少し食べてみない?」


「『食べたい。』」


二人の声が完璧に重なった。私は額の汗を拭いた。


「食べたければ、中に入ってきなさい。そして、武器をしまって。店のものを壊したら、私も怒るからね。」


二人は渋々武器を下ろした。


「命拾いしたな、駄犬。」


「あなたこそ。メス猫。」


「店内での喧嘩も禁止。大声を出さないで。」


私は急いでQが以前買ってきた羊羹をテーブルに並べ、二人は黙って座った。雪野は自分の前に置かれた羊羹を見てから、リコシェの皿をチラリと見て、ドヤ顔を浮かべた。


「…何?その腹立たしい表情は?」


リコシェはフォークを止め、再び歯を食いしばりながら雪野を睨み返した。雪野は胸を張り、自信に満ちた微笑を浮かべた。


「サヨさんが私にくれた羊羹の方が大きいのよ。彼女は私の方が好きなのね。」


「は?そんなわけないだろ。発情期の馬鹿犬め。明らかにあたしの方が大きい。」


「私の方が大きいわ。あなたのは一角が欠けてるもの。」


「あんたの目が腐ってるのか?明らかにあんたの方が一角欠けてる。」


こんな些細なことで争い始めた二人を見て、私は頭が痛くなった。二人をどうやって黙らせようかと考えていると、ドアが開く音が再び聞こえた。


「い、いらっしゃいませ。」


「ただいま。」


買い物袋を提げたQがのんびりと入ってきた。


「おお?今日はにぎやかだね。二人もお客さんがいるなんて。」


私はQに助けを求める視線を送ったが、その鈍感な奴は全く気付かない。ただテーブルへと歩いていった。


「何を美味しそうに食べてるの?私も食べたい......っ?」


Qの目が驚きで大きくなった。彼女の表情を見て、私は良くない予感がした。


「これ、もしかして私が買った限定販売の羊羹?」


Qは急いで冷蔵庫れいぞうこのそばへ駆け寄り、中を確認した後、絶望の表情を浮かべた。


「食べられちゃった!私、まだ食べてないのに!」


床に座り込んで、Qはしょぼくれて泣き始めた。テーブルから二人の非難の視線を感じつつ、私は無力感むりょくかんに満ちて顔を両手で覆い、つぶやいた。


「この混乱、一体どうすればいいんだろう。」

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